…人を、見ていた。
いつから見ていたのかは、分からない。
ただ、やることがなかったから、道を通るたくさんの人を見ていた。
…変な人たちばかり、だった。
目を細め、口の端を上げたり、口を大きく開けて話す、人。
目を吊り上げて、大声をあげる、人。
ぼろぼろと、目から水を流してキンキンする声をあげる、人。
これらの顔にも、名前があった気がするけど…忘れた。
「…変な顔」
…何で、あんな変な顔、するんだろう。
アオには、分からない。
ずっと見ていたら、分かるのかな。
分かっても、アオにはどうしようも、ないけど。
「アオちゃーん!」
人を見てたら、アオの名前が呼ばれた。
そっちを見ると、こっちに向かって走ってくる人がいる。
真っ赤な髪が、ゆらゆら揺れてる。
たしか…トキコ、だったっけ。そう呼ばれていた気がする。
「アオちゃん、何してんの?」
「…人、見てた」
「人?」
「うん。…人って、変な顔、だから」
ころころと、顔が変わる。
どうやって変えているのか、アオには分からない。
「トキコも…変な顔、するよね」
「え?嘘っ!?」
目を真ん丸くして、自分の顔をぺたぺた触っている。
…やっぱり、変な顔。
……ずっと見てたら、目が疲れてきた、かな。
今日は約束もあるし…もう帰ろうかな。
「アオちゃん?どこ行くの?」
「帰る。…お勉強、するから」
アオはときどき、お勉強をする。
ホウオウグループのための、お勉強。
どうしてそんなことするのか、アオには分からないけど…言われたことは、やらないと、ね。
明日もまた、人を見ようかな。
人はとても変だけど…けど、ずっと見てても、飽きないから。
最終更新:2011年08月21日 13:51