「いやー、ごめんねユウイ。一緒に帰ってもらっちゃって…」
「…ったく…今日だけだからな」
「あー、でも保健室行けば良かったかも。氏型さんやたまちゃんセンセーに会えたし」
「じゃあ行ってこいよ…」
あの「無差別連続殺人事件」の話を聞いた後のこと。
ビビりでヘタれな浅木旺花、通称おーちゃんはあまりの恐怖に一人では帰れなくなっていた。
もう高校二年生、しかも男子だと言うのに…情けない。
そんな彼と一緒に下校しているのは、ユウイ。
最初はオウカと一緒に下校することをこれでもかと言うほどに拒んでいた彼女だったが、オウカのあまりに酷い「不幸体質」のことを考えると放っておけなくなったらしい。
嫌そうに眉間に皺を寄せつつもオウカと共に帰路についていた。
今日は珍しくあの召喚獣「ピンク玉」はいないらしい。
(夜の様な少女…一体、誰なんだろう…)
ユウイはすたすたとオウカの前を歩きながら、数日前「
クロウ」という男から貰った紙をぎゅっと握りしめる。
リオトの言われるがままに「
ホウオウグループ」への入団を決めた彼女の心の中には、やはりまだ少し迷いというものがあった。
(そりゃそうだよなぁ…ギターとか弾く気ないのに軽音部とか入るのと同じなんだもんなぁ…今のアタシ)
クロウから放たれた言葉を思い出してユウイは深い溜め息をつく。
「ユウイ?」
「あ?」
「どうしたの、ガラにもなく大きな溜め息ついて。溜め息つくと幸せ逃げるよー、もっと楽に行こうよ、楽にさ」
「あぁ、そーね」
少なくともお前よりは幸せはある。
喉のあたりまでその言葉が出かかったがぐっと抑えるユウイ。
どうしてこいつは此処までへらへらとしていられるのだろう。
無意識ながらもクロウから手渡された紙をぐしゃぐしゃになるまで握り締めてしまっていた。
「そう言えば…おーちゃん」
「はいな」
「おーちゃんはさ、超能力とか…その類の物信じてるか?」
こつこつと二人分の足音だけが響いている空間の中で単刀直入にユウイは隣にいる彼に問いかけた。
彼、オウカは眼をぱちくりさせて驚いてこそいたものの、すぐにまた「にへら」と笑って頭の後ろで腕を組む。
「まぁ結構信じ…だぱんぷ!!」
「!?」
「っ!うわ!すみません!!」
先程のシリアスな空気は何処へやら。
ユウイの問いに答えようとしていたオウカは突如として突っ込んできた自転車により五メートル程先へと吹っ飛び、背中を電柱で強打した後、公園より飛来したおもちゃの飛行機に衝突された。
あまりの突然の出来事にユウイは絶句する。
オウカにぶつかってしまった背の高い男性は自転車を蹴飛ばすように降りて眼をぐるぐると回しているのではないかと思えるぐらいに慌ててオウカを起こしていた。
そんな男性の表情とは正反対にオウカは「いつものこといつものこと」
と、制服についた土を払いながら男性を落ち着かせる。
それでも心配なものは心配なのだろう。
男性は「お詫びをさせてください」と近くにある喫茶店を指差した。
最初こそ拒んでいたオウカだったが、あまりの男性の粘り強さに結局負けてしまった。
「…い、いいのになぁ、そんなの…。ま、いいか!じゃ、ユウイ!僕はこれで!」
「お、おう…」
先程、自転車にぶつかられたのがウソだったかのようにルンルンとしながら喫茶店へと向かっていくオウカ。
ユウイは引き攣った表情でオウカに手を振った後、拳を作って俯く。
…これから、どうしよう。
あの「クロウ」という男から教えてもらった「少女」の場所へと行くか…?
…いや、でも何が起こるかわかったもんじゃないし…。
やっぱりここは、リオトに相談するのが一番良い選択なのだろうか。
そう考えながら携帯を開き、電話帳のラ行のグループへとボタンを進めた。
(…いやいや!違うだろ!!)
「電話発信」の一歩手前でぶんぶんと首を横に振りだだだだ、と電源ボタンを連打して携帯を鞄にしまう。
そう、これはユウイ自身の問題なのだ。
いくらリオトが自分を「ホウオウグループ」に入れたからとはいえ、こんな時までリオトに頼ってはいられない。
思えば小さな頃からリオトに頼りっぱなしだった自分。
何かが起こればすぐリオトに縋りついていた自分。
(でももう…それじゃ駄目なんだ)
これは自分の問題。自分が決めることだ。
紙を再び握り締め大きく深呼吸をするとユウイは顔を上げ、家とは全く違う方向へと駆けだした。
自分の答えを見つける為に。
新入りの決意
最終更新:2011年08月28日 21:08