サエコとスグルは、『嘘の悪夢』を試み続けつつ連携した攻撃を行う。
スグルが投げナイフを飛ばし、コトハが一旦サエコから離れる。
その隙にサエコは嘘を発動しようとして…再び接近戦に持ち込まれ、防がれる。
そんな攻防が数回続いた後、スグルの投げナイフによる牽制が全く意味をなさなくなった。
(全てを紙一重でかわしてる!?どういうことだ・・・?)
スグルの攻撃だけではない。サエコがサバイバルナイフを使って攻めているが、
それを含めて全ての攻撃をコトハにかわされているのである。
(攻撃が当たらない!悪夢も発動できない!くっ・・・どうすればいいの!?)
とっておきの戦法、スグルの投げナイフを弾いて軌道修正する方法も試した。
しかし、悉く手の内を読まれたかのようにかわされ、カウンターを入れられた。
「な・・・どうして!?」
「簡単な事よ。何せ私には相手の『殺意』が見えるもの。」
「さ、殺意?」
「ええ。正確には悪意のある視線や気配に敏感なの。赤い紅い糸のように見えるから、読むのは簡単。」
「そ、そんな・・・!」
「気配を消そうとしたって無駄。悪意で分かるわ。そういうのには慣れてるの。」
静かに気配を断ち、音をたてないように死角へと回り込んでいたスグルだが、
放った投げナイフはあっさりと叩き落とされた。
「そうそう、誰かが言ってたわね…。命乞いのコツは狩りをする者を楽しませるか
納得のいく理由を述べること…まぁ、あなたに喋らせる訳にはいかないから、精々楽しませなさいよ。
そしたら見逃しちゃうかもよ?」
クスクス笑いながら言うコトハ。
(殺意が・・・読める!?一体どうしたらいいの?悪意が読める…悪意?)
ナイフの攻防の間に、ふとサエコは閃いた。ナイフをパッと離すと、体の力を抜いて手を振った。
バシィッ、と音が響く。
そう、丁度コトハの頬にビンタするような形になったのである。
「なっ・・・!?」
ビンタは止まらない。突然のことに驚くコトハ。
ついほんの数秒前まで殺意を放っていたはずの攻撃だが、
突然殺意を失ってしまった為に慌て、避けられなくなってしまったのである。
「悪意は無いわ。」
「唯単に気を散らすだけの攻撃。」
「どれだけの悪意を感じ続けたらそんな体質になるの?」
言っている間にもビンタは止まらない。コトハが態勢を整えようと動く前に、サエコがトドメを刺した。
「『お姉さんは起きてる。』」
コトハはその場にストンと倒れると、寝息をたて始めた。
3対1の構図になったからといって、ライフォンやヨシヒト達は簡単にリュウザを倒す事は出来なかった。
「さっきとは動きが違うアル!戦い方に無駄が無いネ!」
先のライフォンとの1対1とは違い、今度は連携攻撃が行える3対1。
しかし、その攻撃の隙をついてリュウザは様々なアクションを起こす。
連携攻撃を行う場合、必ず3人同時には攻撃が出来ない。特に攻撃距離や方法の違うこの三人では、
近距離で戦うライフォンを巻き込む可能性がある為にヨシヒトの4丁拳銃やサワコのムチは使えない。
立ち位置を避けてムチを振るったとしても、その瞬間は一旦巻き込まれないように退かなければならない。
ヨシヒトの銃弾がムチを切断してしまうとも限らない。
しかし大きな要因は、リュウザの身のこなし方にあった。
(常にライフォンが邪魔になるように戦う位置をずらしている・・・!)
ヨシヒトの4丁拳銃の腕を以てしても、サワコの変化自在なムチを利用しても、
決定打を決める事が出来ない。
逆に、リュウザはライフォンを近接格闘で攻め続ける。
業を煮やしたヨシヒトがライフォンに怒鳴った。
「退いてください、ライフォン!」
4丁を構えると、ヨシヒトは全開で速射を始めた。
リュウザの顔色は変わらない。危ないなぁ、と呟く。
そして、リュウザには「スローモーション」が訪れた。
どろりと周りのスピードが遅くなり、視界が薄青く染まっていく。
(得意の4丁拳銃か、最低限の弾を叩き落とさなきゃな。)
空気の海をかき分けるように動くと、肩から吊るしたサブマシンガンを構える。
弾丸の軌道が見える程度にはスローモーションが発動しているため、その軌道に合わせて
リュウザもサブマシンガンを撃っていく。
使っている弾は同じ拳銃弾。弾の威力が相殺しその場に落ちるモノもあれば、
押し負けて兆弾するモノもあった。やがて、どちらともなく銃撃を止める。
リュウザの視界が元の色に戻った。
「馬鹿な…あれだけ弾をバラ撒いたのに、掠りもしてないだと!?」
「連射するならサブマシンガンかフルオートの拳銃を使えばいいのに、
どうしてアンタは拳銃を4丁も持つんだい?」
「くっ!」
再び4丁拳銃を構えようとするヨシヒトの前に、サワコが立った。
「今度は私よ!」
ムチを振るうと、とんでもない早さでリュウザにムチが襲いかかる。
達人の振るうムチは軌道を読むのが難しい。しかも今は1対1の全開状態。
「絶対に軌道を読むことはできないし、対処のしようもないハズ!」
リュウザの腕や顔が数か所斬り裂かれる。
だが、またしてもリュウザには「スローモーション」が訪れていた。
(どんなに早くても、所詮はムチ。銃弾ほど数が多い訳じゃない。
掻い潜ったら後は簡単だ。)
首元に伸びて来たムチを、空気をかき分けてかわす。リュウザはムチを掴む。
サワコの驚いた顔が見えた。
(さよなら、お姉さん。)
ムチを掴んだ手は皮膚が裂けて痛んだが、ぐいっと引っ張るとサワコの態勢が崩れた。
そこに弾丸を叩き込もうとして引き金に手を掛けたが、
「!?」
横槍が入った。
一旦退いたはずのライフォンである。死角から脇腹に入った飛び蹴りの痛みで、
「スローモーション」が終わり視界が再び元に戻る。
「ガハッ!?」
数歩たたらを踏む。その隙をヨシヒトとサワコは見逃さなかった。
銃声が響き、リュウザの足と腕にほぼ同時に穴が開く。
パイロキネシスによる炎がリュウザの銃を暴発する前に瞬時に溶かした。
「ぎっ!」
「手間を掛けさせてくれましたね。・・・武器はこれで持てないでしょう。
さぁ、我らの組長はどこですか!?」
無理矢理リュウザの胸元を無理矢理掴みあげ、壁に叩きつけた。
リュウザは薄く笑っていた。その事にヨシヒトは激昂する。
「貴方の傷のうち、太腿の一発は大きな血管を切っています。早く治療しないと生死にかかわりますよ?
・・・さっさと答えやがれ!」
「そう急くなよ。早死にするよ?」
ヨシヒトはハッとする。リュウザの目がまだ死んでいない。両手両足を撃ち抜かれたこの少年は・・・
そしてリュウザの裾から何かが落ちて、ゴンッという硬い金属の塊の音がした。
「手榴弾っ!?」
「アイヤー!」
間一髪、ライフォンが蹴飛ばしたおかげで木っ端微塵にされる事は無かった。
だが、衝撃波でスモークが晴れた。それだけでなく、仕切りとして置いてあった
その付近のアルミのパネルも吹き飛んだ。
リュウザはそこで気を失い、ライフォンとサワコも吹き飛ばされ、気を失ってしまった。
かろうじてヨシヒトだけは立ちあがる。
アスミはロッカーの中に閉じ込められながら、スリットを覗いて近くで戦うショウゴとアキトを見ていた。
否、見ていることしかできなかった。
手は拘束され、ロッカーは開かない。ギリィと奥歯を噛みしめるが、ガムテープで塞がれた口からは
外の喧騒に掻き消される程度の唸りしか出せない。
と、不意に爆発音がし、ずっとスモークが溜まっていたオフィスが晴れていく。
どうやら、誰かが風通しを良くしてしまったらしい。
晴れた視界からはヨシヒトやサエコ達が見えた。アキトの援護に回ろうとしていたが、
アキトがそれを制す。
「俺がこのバカを何とかするから早くアスミを!」
「だけどっ!」
「まだこの上の階には鬼英会の幹部がいるんだろ!?そいつらも何とかしなくちゃいけないんだ、
こんなところでグズグズする訳にゃいかねぇだろうがよ!さぁ、早く!」
「・・・分かりました、先に行ってますよ!」
ヨシヒトとサエコが走って横をすり抜ける。
「通ってもいいなんて言ったかよ!?」
ショウゴが左手で腰から抜いた改造モデルガンを向けようとするが、
「俺が言ったからいいんだよ!」
アキトが金属棒でモデルガンを叩き照準を狂わせる。
(私はここにいるのに・・・!アキト、皆、気付いて…!)
ガタガタとロッカーが揺れるが、誰も気付かない。
アキトは少し焦っていた。
(クソ、やっぱ強ぇ!)
金属棒を使い、右で咽元を突いてみる。ショウゴは右足を下げ体を横向きにずらしてかわし、
一本背負いを再び掛けようと腕を掴んでくる。
対してアキトは腰を下げてどっしりと構えると、掴まれた腕を逆に引っ張る。
引っ張った所で今度は左のパンチを喰らわそうとしたが、ショウゴがパッと手を離したため空振りする。
その空振りの隙を見計らい、ショウゴが今度はアキトの左手を掴むと捻りながらアキトの後ろに回り、
関節を極める。
激痛にアキトは顔を歪ませるが、これは実戦。タップ如きで相手は手加減をしてくれない。
後ろに回ったショウゴに対し、アキトは骨を折られる前に肘を使ってショウゴの腹を肘打ちする。
そして足を踏みつけ、拘束から逃れる。
すぐにショウゴと相対すると、今度はアキトが突進していった。
(柔道に足を攻撃する技は無かったハズだ!ならば足を・・・!)
途中で姿勢を低くすると、足を掴んで引き倒す為にタックルを仕掛けるアキト。
対してショウゴは腰を低く構え、片足を半歩下げてそれを受け止めた。
「何!?」
「柔道にもな、あるんだよその手の技が。最近は反則になっちまったけどよ!」
ショウゴはアキトの後襟を掴むと、地面に押し付けた。うつ伏せで動けないアキトの上に
ドスンと座ると、アキトの首に腕を入れようとする。
(絞められる!)
首を守るアキト。しかし、このままではじり貧だ。そう考え、焦りながら打開策を練っていた時である。
「てめぇらぁ!動くんじゃねえええぇぇぇぇぇぇ!」
何者かの奇声が響いた。
アキトの首を絞めようとしていたショウゴ。しかし、奇声に驚きそっちを向く。
周りの喧騒も瞬間、静寂に包まれる。
左の手首の無い、金髪を立てたホスト風の男が、手首の無い方の腕でアスミを抱え、銃口を突き付けていた。
「へ、へへへ、ふざけやがって、このやるぉぉぉぉぉぉ!俺の手はどこだ!
誰のせいでこうなった!テメェらのせいだ!ぶっ殺してやんよ、ぶっこるぉしてやんよぉぉぉぉぉ!!!」
その数秒前。
アスミが押し込まれていたロッカーに、何かがぶつかった。
思い切りロッカーの扉が歪んだため、扉から出る事が出来た。
ほっとしたのも束の間、扉にぶつかった男がアスミを見つけてしまったのだ。
その男は手が無かったが、拘束されていて抵抗が出来ないアスミは捕まってしまったのである。
恐ろしく鋭利な刃物で切られたらしいその手首からは、男の鼓動に合わせてぴゅっ、ぴゅっ、と血を噴き出し、
アスミの顔や服を汚した。
アキト達の方を見るが、アキトは組伏せられここから様子が見えない。
他の組員も、即座に何とかできる位置にいない。
その場にいる皆の動きが止まった。
ショウゴが無言でアキトの上から立ちあがった。
そして、アスミを撃ち殺そうとしている男に歩み寄る。
「へ、へへへふはははひひひ、ショウゴさんよぉ使わない手は無いだろぉぉぉぉ!?」
ショウゴの顔に感情は無い。
アキトはまだ様子が分からず、周りを見ながら恐る恐る立ち上がろうとしていた。
腰から鬼英会の紋が入った脇差を抜くと、拳銃を自分の方へ向けるように掴んで捻って使えなくさせ、
男の咽にゴキュッと刃を突き刺し壁へ串刺しにした。
立ち上がり、ようやく事態を呑みこむアキト。
アスミは、ショウゴの顔に激怒を見た。
その表情が見えていないアキトが問い詰める。
「どういう・・・事だ、どうして仲間を殺すんだショウゴ!」
「俺は組員に言った!出雲寺組長に指一本でも触れたら容赦しないと!
拘束された女の子に銃を突き付けて脅すようなクズ野郎は死んだ方がマシだ。
・・・それにどの道こいつは助からなかったよ、出血量も多いし腹を刺されてやがる。」
アキトを振り返る時には、元の表情に戻っていた。
(それにこいつはオジキ派の幹部だったはずだしな。俺の仲間なんかじゃねぇ。・・・敵なんだよ)
「アキト・・・続きだオラァァァァァァァ!」
「なっ・・・・上等だゴルァァァァァァァ!」
再び二人が戦い始める。それと同時に、他の組員達も再び戦い始める。
一方、階段を上りつつ各部屋を探していくヨシヒト。
拳銃を構えた数人の組員が飛び出してきたが、冷静に対処する。
3階で戦った銀髪浅黒肌の少年に比べれば、言っては悪いが雑魚ばかりだった。
しかも、下で戦っている組員に比べ装備も熟練度も貧弱。
これは合流したという最高顧問の連れてきた連中だろうと予測をたてる。
適当に片付けて、慎重に各部屋を見て回った。なぜか応接室にはガスコンロや鍋等があったが、
鬼英会幹部の姿は見つからなかった。そして最後に、社長室を開ける。
一見すると普通のオフィスの社長室のようだが、額に飾られた「鬼英会」の字と紋の入った旗が
普通の社長室ではない事を物語っていた。
最初は誰もいないかと思ったが、よくよく気配を探るとカタカタと震える音、押し殺した息の音が聞こえる。
部屋に隠れられそうな場所は、机くらいしかない。回り込んでみると、
その下に最高顧問である九鬼兵二が体を小さくして隠れていた。
この九鬼兵二の兄が九鬼兵一、鬼英会の総長である。
だが、その男はヨシヒトを見た途端命乞いをし始めた。
「たすけて・・・殺さないでくれ、死にたくない・・・」
(しかし最高顧問という肩書を持っているにしては情けない奴ですね。)
ちょっと思い付いたヨシヒトは、隠れている机に十数発撃ちこんで反応を見てみた。
すると、九鬼兵二は失禁し恐怖で勝手に失神してしまったのである。
これではアスミの居場所が聞けない。そうこうしているうちに、電話が入った。
アキトは一発逆転の為に上段回し蹴りを繰り出した。相手の意表を突く為にこういった大技を出す戦法も
あるのだが、今回は相手が悪かった。
柔道を基本とするショウゴに上段の蹴りは「掴んで投げて」と言っているようなものである。
ショウゴは冷静に懐へ潜り込むと、威力を殺し袖と襟を掴むと払い腰でブン投げた。
背中から落とされて呼吸が止まるアキトだが、それでショウゴは止まらない。
マウントポジションをとると、アキトに拳を打ちおろし始める。
アキトもガードをするが、次々と振り下ろされる拳全てをガードしきれない。
腹筋を使ってひっくり返そうとしたり、足を引っ掛けていくら引き剥がそうとしても、
ショウゴが柔道で培った技術はそう簡単に破れない。
だが、ここで思いもよらぬ出来事が起きた。
ショウゴを誰かが後ろから蹴飛ばしたのである。
驚いたショウゴは、そのまま前転し距離を取ると、蹴った相手を見た。
「組長さんか・・・!」
いつの間にかアスミが立ち上がり寄ってきていたらしい、
起き上ったアキトが、アスミの口に貼られたガムテープを剥がす。
「無事だったか!怪我は無いか!?何か変なこと」
「アキト、話は後!今はショウゴさんを止める事を考えて!」
ショウゴが再び接近してきた。しかも、再び右手には改造モデルガンを構えている。
(ミナも、親父も、組員も!俺が救い出す!絶対に、ここで負けるわけにはいかない!)
(アスミを、皆を、助けるっ!ここでこの馬鹿野郎を止めてみせるっ!!)
「ウオオオォォォ!」
「アラァァァァァ!」
再び、銃の反動を利用した威力もスピードも申し分無い打撃を行うショウゴ。
対してアキトは、能力『絶対保護』を発動し、アスミを守る為に自らのポテンシャルを
極限まで引き上げて拳を突き出す。
二つの拳が交差した。
ドスン、と音をたてて倒れたのは、ショウゴだった。
そして、能力を使って疲弊したアキトが、座り込む。
「…アキト、俺に止めを刺さないでいいのか。」
「殺せっつーのかよ。」
「お前んとこの組長さんを攫ったのは俺だぞ。」
「・・・出来ねーよ。」
アスミがアキトに近付いて来る。
「アンタを殺して、その後普通にバイト仲間として、或いは同じ高校の知り合いとして葬式に出ろっていうのか?
何も知らない様な顔して『いい人だったのに』って涙を流せってか?
・・・そんなの無理に決まってんじゃねーか・・・。」
ショウゴは今の会話に引っかかりを感じた。思い出したのは最高顧問のオジキとの会話。
(いい人だったのに?)
死者は過去形でその存在を語られる。
(あぁ・・・)
『お前の親父は大事な所でしくじらない、良い男だった』
(…………良い男、だった。)
テレビ電話での、オジキとの会話。
もっと早く気付くべきだった。
もう、ショウゴの親父は殺されているのだ。
「何が正義だ・・・何が悪だ・・・何が仁義だ・・・俺は一体、何をしてたんだ・・・。」
ショウゴは顔を腕で隠した。
自分のバカさ加減に涙が出て来た。
体中の痛みを忘れて、倒れたまま泣く。
オジキがうっかり口を滑らせていた事にも気付かず、それを利用する事も出来なかった。
父が殺されているなら、妹が生きていることもないだろう。
よくよく考えてみればそれに気付くチャンスは何度も有ったのだ。
テレビ電話越しの会話だったが、あの時オジキが見せ付けた指の切断面はどうなっていたか。
生きている人間から切り取られた肉の切断面は血の色が濃いが、
死体から切り取れば血の量は少なく黄色い皮下脂肪が目立つ。
あの指は・・・。
最初から、何もかもが終わっていたのだ。
ショウゴは、ずっと前にもう負けていたのだ。
「俺は…最初から何一つとして守れてなかったんだな…」
決着がついた。
ショウゴの敗北と共に、鬼英会の組員が降参したからである。
目を覚ましていたサワコが、ヨシヒトに連絡をとった。
アスミの拘束も、ショウゴが鍵を投げて寄越したため解かれた。
敵も、味方も、皆が1階に集まっていた。
だが、その時である。
ドガガガガガガガ!
「な、なんだぁ!?」
「正面エントランスからだ!」
「おい、なんか変な集団が来てやがるぞ!」
「どこのどいつだ!」
「わかんねぇ!ライダースーツっぽいのの上に軍用ベストを着てやがるぞ!?後ヘルメットだ!」
「おいおい、武装が半端じゃねぇ!アサルトライフルにショットガン、分隊支援火器まで持ち込んでやがる!
そこいらのチンピラにゃ手に入らんぞ!」
「くそお!マグナム弾が利いてねぇ!」
「刀も通しゃしねぇ!や、やべぇぞ!」
組員達がいろんな方向へ逃げていく。そして、色々なモノを遮蔽物として身を隠した。
「数が多い!しかも武装が強力です、此処は一旦引いた方がいい!」
ヨシヒトは怒鳴る。
「組長の事もある、此処は脱出優先にしましょう!」
撤退を始める
出雲寺組。ショウゴ達も脱出を試みる。
ただ、鬼英会の門外顧問派の組員だけがその場で応戦し続けた。
数日後。
鬼英会のビルが壊滅状態となり、「人が大勢死んだ」という憶測が新聞記事に書かれている。
否、憶測ではなく真実であるのだが、アスミ達が撤退した後死体が消えたというのだ。
最高顧問も行方不明。最高顧問につく組員達も行方不明。最後に現れた、謎の武装集団も行方不明。
アスミは新聞を畳むと、障子を開けて縁側に座った。
あれから調べて分かった事は、どれもアスミ達を驚かせる事ばかりであった。
ショウゴの素性。
鬼英会の提携の話。
人質を取られていた事。
ショウゴの妹が、顔ではない色々な所でアスミと似ていた事。
アスミがショウゴに珠のように扱われていた事にも、納得がいった。
拉致された妹のように見えたのだろうか。
妙にショウゴが手加減したり、アスミを庇ったりした理由はそれだったのだろう。
アキトは憤慨していたが。
「はぁ…。」
別れ際にショウゴが言った言葉が重くのしかかる。
『・・・どんなに結束の固いメンバーでも、どんなに楽しい日常でも、気をつけろ、いつ瓦解するかわかんねぇ。
お前らは、間違うなよ。守りきれよ。』
アキトは工場に来ていた。
タクミと一緒に、車を組み立てていた。
そこに、ふらりと人影が現れる。
ショウゴだった。
思わずアキトは身構えるが、それをタクミが制した。
「久し振りだな。」
「・・・ああ。」
「話は聞いてるよ。アキト達出雲寺組とやり合ったらしいじゃねーか。」
「・・・。」
「・・・どうして相談してくれなかったんだ?」
ショウゴが自嘲気味に笑う。
「・・・身内が人質にされてた。此処からじゃ助けに行くのに時間がかかり過ぎる。
何とかなったかもしれねーが、不確定要素過ぎた。」
「・・・。」
「また・・・雇ってもらえないですか工場長。」
「かまわねぇよ。」
「タクミッ!」
「ただし、条件がある。・・・俺たちに、秘密は無しだ。」
「・・・ああ、もう守るモノも隠す事も何もないよ。」
アキトが尋ねる。
「鬼英会の組員達はどうしてんだ?」
「組の立て直しに必死さ。この前ので結構な人数が消えた。サトルが組長代理になって必死にやってらぁ。」
「ショウゴが組を継ぐのか?」
「・・・興味は無い。継げと言われたら考えるけど、そのままサトルにやっちまうだろうな。」
「そうか。」
タクミが踵を返すと、車の組み立てに戻る。
「オラ!さっさと働け!3人もいるんだ、今日中にコレ組んじまうぞ!」
「ちょっ!待っ、無理だろそれは!」
ギャーギャーと騒ぐ二人を見てショウゴは笑う。
「秘密と言えば…そうだ、もうひとつあったよ工場長。」
「あん?」
ゆっくりと拳銃を抜くショウゴ。シリンダーに装填された弾丸を全て出すと、工場の入口付近に置かれた、
古ぼけた看板を狙う。
皆、声を出さない。遊びでやっているような雰囲気ではなかった。
そして、ショウゴが引き金を引く。
ドンッ、という発砲音の後に、看板がクルクルと宙を舞った。
「俺は一回死んでるんだ。その時から、何だか知らないがこんな能力が付いちまった。」
二人が唖然としながらショウゴを見る。
「今のは空気を圧縮した弾を発射しただけだ。だが、小石を詰めれば砕けて散弾に・・・
普通の弾丸を能力発動して使えば、戦車だって撃ち抜ける。」
クルクルと回しながら銃をしまうと、ショウゴは言う。
「さぁ、これで俺も秘密は無くなった。組んじまおうぜ、車。」
最終更新:2011年08月28日 21:37