「やあ、灰色の傍観者」
<…君か>
いかせのごれ高校、屋上。
暇をもて余した
チェシャは、灰音の所へ来ていた。
<よく神江裏 灰音の所に来るね。何故?>
「君こそ、傍観者でありながら何故オイラと話すんだい?」
<………>
「それと一緒さ」
灰音の隣に座るチェシャ。
「いい天気だねえ」
<そうじゃなかったら、ここに来てないね>
「それもそうだねえ」
<…君は変わっているね>
ふぅ、と息をついて、灰音はそう呟いた。
対して、チェシャはニヤニヤと笑っている。
「君は、相変わらず中立で平等だ」
<傍観者だから>
「そう、君は傍観者。でもそれは神江裏 灰音という存在からなるモノだ」
<だから何だって言うの?>
「前にも言ったけど、神江裏 灰音という存在の、目的と理由を無しに傍観者である事は無い…て事さ」
<………>
何も答えず、ただただ微笑を浮かべる灰音。
<傍観者に、そんな物は存在しない>
「『しない』? 『いらない』或いは『あってはならない』の間違いじゃないのかい?」
<……そ、れは…>
「君は永遠に、傍観者である事を望んでいる。そうだろう?」
<………だから?>
「なら必ず意味があるものだよ」
<意味、か>
二人の間に沈黙が流れる。
が、チェシャは突発的にそれを破った。
「君の、その灰色の目はいつも空っぽだ。しかし、それは時として憎しみと怒りが表れる」
<…何故、分かる?>
「君の目がそういってるからさ」
<………>
「おや、気分を損ねてしまったかな?」
<いや。バレるものはバレるものだなと>
「その感情は、君が傍観者になった理由と関係あるのかい?」
<……分かってるくせに>
「ニヒヒ」
不可解な笑みを浮かべるチェシャ。
呆れた微笑を湛える灰音。
<…昔、とある女の子がいた。そうだね、”わたし”と言っておこう>
「へえ」
<”わたし”は可愛らしい女の子だった、そしてとても優しかった。でも神江裏 灰音はそれが大嫌いだった>
「何故?」
<その優しさを誰にでも振り撒くからさ。例えどんなに酷い”悪人”でも>
憎々しく吐き捨てる様に言う灰音。
<全ての命は平等だとか言いながら、平等にしなかった>
「どういう事だい?」
<さっき言っただろう? どんな悪人でも優しさを振り撒いたって>
「なるほど、”悪平等”ってやつかい?」
<そう。しかし神江裏 灰音は敢えて、『弊害(マイナス)しかもたらさない平等』…”負平等”だと言うね>
「負平等? 何故?」
<臆病で弱虫だから、正義と悪の定義に怯えていたから。だから誰にでもそれを振り撒いた。愚劣な、優しさを>
「愚劣ねえ」
<助けた悪人から何度裏切られても、それを咎めようともしなかった>
<そんなカスな”わたし”が神江裏 灰音はたまらなく大嫌いだった>
<そしてある日の事…何が起こったと思う?>
「さあ?」
すると灰音は淡々と言った。
<…自分に想いを寄せる人に、ガラスケースの中に閉じ込められた>
「おやおや、ヘビーだねえ」
<”わたし”は優しいだけでなく、とても可愛い容姿も持っていた>
灰音は続ける。
<それに心奪われたその人は、自分の物だけにしたくなって、ついにそれをやってのけた>
「それで?」
<…”わたし”は笑っていた>
「へえ、そんな目に遭っても許したのかい?」
<そう、自業自得だからと>
<そうやって誰彼構わず助け、何かあれば自分のせいにして>
<正義と悪の境界に揺さぶられ、負平等に振り回され、自分自身に苦しんだ>
<だから>
<”わたし”から”傍観者”になった>
辺りに風がざわつく。
灰音の口から出た事実に特別驚きもせず、ニヤニヤ笑ったままのチェシャ。
「傍観者になったのに、何故今更その子を憎むんだい?」
<…まだいるんだよ>
「どこに?」
<夢の中に。時々呼ぶのさ、”わたしが”>
<それで神江裏 灰音に「助ける」とかなんとかほざく。下らなさすぎて笑えるよ>
<自分がそうしたくせに。あのカスなんか消えればいいのに>
「…何で消えないのかねえ?」
<それは神江裏 灰音だって知りたいよ>
「ふーん」
と、チェシャが立ち上がる。
「灰色の傍観者」
<…何だい?>
「傍観者になって、君はどうだい?」
<どうって、別に不満は無いね>
「なるほど、ならいいさ」
<…何が聞きたいの?>
「今の君には関係ないよ」
<それは平等では無いなあ>
「じゃあ1つ言おう…早かれ遅かれ、君も赤きハムレットの様に1に戻る日が来る」
<……>
「…かもね」
にんまりとした口を残して、チェシャは姿を消す。
残った神江裏 灰音はぽつりと呟く様に彼に問う。
<…君は、そうなったらどうするつもりなの?>
問いに対する答えは、無い。
それでも彼女は呟いた。
<…神江裏 灰音は、今のままでいいさ>
最終更新:2011年08月30日 09:39