「ありがとうございました、またお越しください!」
ピンクが基調の可愛い店、
デコラキャンディーから出ていく客を、胡間は笑顔で見送っていた。
店のカウンターで飴実はそれを笑顔で見ている。
「いつもありがとうね、胡間ちゃん。大助かりだよ~。」
「いやいや、私達もバイト捜していたところでしたので。」
「そうはいうけど殆ど無償でいいって…。」
「お金目的じゃありませんからw」
胡間は布一枚で仕切られた裏方を見た。
彼女の異常体質の相手方が、この裏で今お菓子を作っているのだ。
「来間の働き口が欲しかっただけですから。」
極力伏せているが、来間はカルーアトラズに投獄されていた罪人。
今は仮釈放中だが、ゆくゆくは自立し働かなければならない。
が、彼は今胡間と常に同じ空間で背中合わせにならなければならない。
凶悪犯罪者扱いの彼は常に左足首を縛られ逆さ吊りにされている。
そんなものが店の一角にあれば客が逃げるに決まっている。
その点裏方がドアで仕切られていないこの店は好都合だった、というわけである。
「店のオーナーが飴実さんだったおかげで事情は分かってもらえたわけですし。」
胡間が笑う。壁を挟んで向こう側でケーキの飾り付けをしている来間は無言で手を動かし続けていた。
「うちも従業員不足だったからね~。助かったよ、本当。」
「それはよかったですw」
その時、胡間の携帯が鳴りだした。
胡間は飴実に頭を下げると裏方に走り、電話に出た。
「はい、もしもし。…あ、ロビンさん!」
その声に、来間の手が止まった。
「はい、はい…わかりました。ちょっと待ってください。」
胡間は後ろを向く。
「来間、今度また、カルーアトラズが何人か此処に来るそうよ。」
からん、と音が鳴った。
来間が床にピンセットを落としたのだ。
拾おうとするも指先が震え、なかなか拾えない。
胡間はそれを見、溜息を吐いた。
「…すみません、やはりまだ面会は…。」
そう言いかけ、胡間ははっと顔を上げた。
振り向くと、来間はリボン越しに眼をこちらに向けていた。
暫く二人とも黙っていたが、やがて胡間は頷いた。
「はい、大丈夫です。では、近いうちに面会を。日程は後日お知らせください。では。」
携帯を切り、彼女は振り返った。
「あんたにしちゃ、頑張って行った方じゃないの。」
「まあ、何も悪いことはしてないし、後ろめたいことはないからね。」
胡間は微笑み、再び表へと出て行った。
逆さ吊りの男は、未だピンセットをつかみあぐねていた。
最終更新:2011年09月07日 18:47