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『モエギ・ヤマブキ探偵隊』

某日、天河探偵所。
玩具がばら撒かれた一室で、2人の少女がすーすーと寝息を立てて眠っていた。
とその時、萌葱色の頭が動く。

「…ん」

寝ぼけ眼をこすりつつ、天河探偵所の事務員、モエギが起き上がる。

「………」

まだ眠気が覚めてないのか、今にもひっくり返そうに体がふらふらしている。
頬をぺちぺちと叩いて、何とか眠気に意識を持ってかれない様にするモエギ。

「ふあー…」

1つ欠伸をした後、近くにいる小さな少女の肩を揺する。

ヤマブキ…ヤマブキ、起きろ」
「ふにゃー…?」

モエギに起こされ、少女―――ヤマブキがが山吹色の目を覚ます。

「…おはよー。チカ姉ちゃん」
「あたいら、遊び疲れて寝ちゃったみたいだな」

立ち上がって自室から出るモエギ。
そこで彼女はある事に気付く。

「…あれ?」
「どしたの、チカ姉ちゃん」
「皆いない」
「え?」

辺りを見回すヤマブキ。
確かにモエギの言う通り、星や月光はおろか、クランケやミサキ、果てには流也もいない。

「どこ行ったんだろー」
「…ん? テーブルに手紙があるな」

手紙の内容を見るモエギ。
そこにはこう書いてあった。

『流也がいつまで経っても帰って来ないから、皆で探しに行って来る。飯は適当に食べとけ。 星より』

「「………」」

呆れて何も言えない2人。

「もういい。突っ込むの疲れたし…飯食うか」
「うん」

キッチンをあさるモエギ。

「…カップうどん発見、ちょうど2つあるわ」
「食べよ食べよー」
「ん」

湯を沸かし、カップうどんにお湯を注ぐ。
3分経つのを待つ3人。

「…暇だな」
「だねー」
「そういや、昨日のホラー映画、まあまあ面白かったな」
「ちょっと怖かったけどねー」
「ヘルパーはちょっとどころじゃ無かったみたいだけどな…」

クランケが真っ白になっていたのを思い出すモエギ。
自分とヤマブキも笑うぐらいの3流ものでも駄目なのか、あいつは―――そう思わざるを得れずにいたモエギであった。

「おっ、3分経ったか」
「じゃあいただきまーす!」




「ごちそうさまー!」
「とりあえず腹はいっぱいになったな…しかしあいつら、いつ帰って来るんだろ」
「流兄ちゃんが見つかったら!」
「それは分かってるよ。問題なのは、霧波が見つかるまでどれぐらいかかるのかって事だ」
「むうー」

暇をもて余す2人。
時間は刻々と流れていく。
すると、モエギが思い出した様に言った。

「なあヤマブキ、今何時だ?」
「6時前ー」
「お前、この噂知ってる?」
「どんなー?」
「このいかせのごれには、廃墟になった病院があるんだよ」
「それで?」
「なんでも、そこに幽霊が出るらしいんだって」
「ゆ、幽霊って…お化けだよね?」
「そう」
「こ、怖いなあ…」

身震いするヤマブキ。
それを宥める様にモエギが言う。

「大丈夫、あたいがついてるから。んじゃ行くぞ」
「えっ? どこに?」
「どこにって、病院に決まってるだろ」
「何で? ヤマブキ、別に風邪ひいてないよ」
「そっちの病院じゃないよ。廃墟の病院だよ」
「……え?」

間の抜けた声を出すヤマブキ。

「暇だし、どうせまだ帰って来ないだろ」
「い、嫌だあ! ホラー映画より怖いじゃん!! キ、キービィやろう、キービィ!」
「さっきやったろ。それにゲームは1日2時間までだ」
「じゃ、じゃあ剣玉教えて!」
「たまには自分だけでやらないと、上達しないぞ」
「えーと、じゃあ……えと…」
「よし、行こう」
「いーやーだー!」

ソファーにしがみつくヤマブキ。
モエギは何とかひっぺがそうとする。

「あたいがついてるから大丈夫だって!」
「やだやだやだー! チカ姉ちゃんだけで行けばいいじゃん!」
「1人で行くのはつまんねーもん」
「ええー!!」
「大丈夫! いざとなったらあたいが守ってやる!」
「…ホントに?」
「ああ」
「や…約束だよ!」
「んじゃ行くぞ」




「よし、着いたぞ」
「こ、怖い…」

廃墟の病院に着いた2人。
窓ガラスが割れ、壁にシミやコケがついているその外見は、いかにも廃墟の様だ。

「やっぱ薄気味悪いなあ…入るぞ」
「うん…」

怪しい雰囲気に怯みつつも、病院の中へ足を踏み入れる2人。
すると突然―――。

バターン!

「わぁあああ!!?」
「落ち着けヤマブキ」
「だだだだって、ド、ド、ドアが!」
「勝手に閉まっただけだろ」
「勝手になんだよ!?」
「そんなベタな展開にわめいてたら、この後心臓もたねーぞ」
「うう…」

奥へ進む2人。

「病院っていうより診療所に似た造りだな」
「何で分かるの?」
「まず病院は受付の場所が診療所より広い。部屋だってもっと多いだろ?」
「そ、そうなの?」
「そーだよ。多分、大病院では無いんだろうな」

その時。

『ぅえーん、ぅえーん…』

「……今の、何?」
「赤ん坊の泣き声だな」
「…チカ姉ちゃん、何でそんなに冷静なの?」
「だって、ただの泣き声じゃん。それにあたい、一回『死んだ』からな。ちょっとの事じゃあ驚かないよ」
「そ、そうなんだ…」
「お前だって、ホントは存在しない筈なんだし、そんなの幽霊みたいなモンじゃん」
「ヤマブキ生きてるよ! 幽霊じゃないもん!」
「はいはい。ほら行くぞ」

奇妙な声を前に呑気な会話をしつつ、再び歩き出す2人。

『ぅえーん…』
「ちちち、近いよぉ…」
「お、こっからだな」
「あ、開けちゃうn」
「ほいっ」
「開けちゃダメだってーーーー!!!」

だが中には誰もいない。
へなへなとへたりこむヤマブキ。

「…幽霊の噂はホントかもな」
「やっぱり帰ろうよー!」
「あたいがついてるから大丈夫だよ。行こう」
「うう~」




「…結構奥に来たな」
「もうやだあ…」
「えーとここは…霊安室か?」

錆びかけているドアを開けるモエギ。
中に足を踏み入れる。

「中は普通だな」
「……チカ姉ちゃん」
「どした?」
「後ろ…ドアの外に骨格標本が、あるけど」
「ん? あるな……え、骨格標本?」

刹那。

ガチャッ

「!?」
「きゃぁあああああああ!!!」
「う、動きやがった! マジか!!」

ガチャ…ガチャ…

「うわぁあああ!! 怖いよチカ姉ちゃーん!!」
「下がってろヤマブキ!」

突如、モエギの髪が生き物の様に動き、剣と化した。
モエギは剣の髪を振り回し、動く骨格標本をバラバラにする。

「よし、もう大丈夫だ」
「よ、良かっ…た…」
「? ヤマブキ?」
「チ、チ、チカ姉ちゃん…あそこ…」
「…!?」

モエギがヤマブキが指差した方を見ると、そこには黒い影や壁から伸びた白い手が。

「うわぁあ!」
「怖い! 怖いよーっ!!」

デテイッテ…オネガイ…

どこからかそんな声が聞こえたが、今の2人にはただ恐怖に打ちのめされるばかりだった。

「ひい…」

流石のモエギも腰を抜かしてしまっている。
ヤマブキも泣き叫ぶ。

「お星様! お月様! 助けてえ!!」
「ヘルパー…は無理か…ミサキ…霧波…チクショウ!」

モエギはふと、ヤマブキに視線を向けた。

「怖いよ…怖いよお! チカ姉ちゃん…!」
「!」

―――そうだ。あたい言ったじゃねえか! ヤマブキを守るって…そう約束しただろ! なのにたかが幽霊なんかにビビってんじゃねーよ!!

勇気を振り絞り、再び髪を剣に変えるモエギ。
その目には怯えた色はどこにも無かった。

「かかって来やがれ幽霊ヤロー! あたいは怖くなんかねーぞ!!」
「チカ…姉ちゃん…」
「ヤマブキはあたいの大事な妹みたいな奴だ! 手ェ出すってんならこの部屋もろとも切り刻んでや―――」
「きゃああああ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいー!」
「へっ?」
「ふえ?」

急に聞こえてきた少女の様な声に、2人は素っ頓狂な声を出す。
すると、霊安室に白いブラウスを着た、墨色の髪を持つ少女が現れた―――が、下半身が無く、上半身だけが浮いている。

「ひゃあ!」
「…誰だお前」
「…怖く、無いんですか?」
「怖いもなにも、別にお前、悪い幽霊には見えねーし。つかあたい、啖呵切ったから今は何か平気」
「そう…ですか」
「んで、お前誰?」
「わ、私は、百物語組第一三話のミナです」
「百物語組って…秋山の姪がまとめてる妖怪集団か?」
「知ってるんですか?」

驚きの声を上げるミナ。

「あたいらは天河探偵所の事務員…って言えば分かるか?」
「天河探偵所? もしやミサキさんの?」
「ああ」
「そうだったんですか…脅かしてごめんなさい」
「別にいいよ、追い出そうとしただけなんだろ? ヤマブキも許すよな?」
「う、うん…怖かったけど」
「ご、ごめんなさい…」

申し訳無さそうに言うミナ。
モエギはヤマブキの言動を窘めた。

「ヤマブキ、もう根にもつなよ」
「うん、ごめん…幽霊さん」
「いえ、私の方こそ…」
「よし。そろそろ帰るか…っと、ミナだっけか」
「はい?」
「ミサキらが聞いた話じゃあ、最近人間じゃねーのを狙う奴が、うろちょろしてるらしいな」
「はい…」
「いつここに来てもおかしくない。くれぐれも気を付けろよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあな。行くぞ、ヤマブキ」
「あ、待ってチカ姉ちゃん!」

ヤマブキが、スカートのポケットから何かを取り出す。
千代紙で出来た花だ。

「これあげる!」
「え…いいんですか?」
「うん!」
「…ありがとうございます。大事にしますね」

淡い笑顔を浮かべるミナ。
ヤマブキの表情も明るい。
そんなやり取りを見て笑いつつ、モエギはヤマブキを促した。

「行くぞ」
「あ、うん! 幽霊さんばいばーい!」
「はい、さようなら」

ヤマブキの様子を見たモエギは、こう呟けずにはいられなかった。

「あんなにビビってたのになー」
「? チカ姉ちゃん何か言った?」
「別に」




「ただい…ウェ!?」
「遅い2人共! どこ行ってた!!」
「お星様! それにお月様と怪盗さんに、美人さんに流兄ちゃんも!」
「…お前ら、いつ帰って…」
「30分前にはもう帰ってたよ!」
「30分前って…」

―――あたいらが出掛けた時間とほぼ一緒じゃねーか…

「心配したんじゃぞ? 特に星」
「え?」
「ばっ…言うなよ月光!」

顔を赤らめる星。

「「……」」
「…ったく」

項垂れるモエギとヤマブキに歩み寄る星。
そして2人に目線に合わせて座ると、2人を抱き寄せた。

「あんま心配かけさすなっての」
「…ワリぃ、天河」
「ごめんなさい、お星様…」
「…お腹空いてる?」
「まあ…まあ」
「じゃあ、飯にするか!」
「…ああ」
「うん!」

星の明るい笑顔と声を聞き、2人もまた笑った。


~後日談~

「モエギ、ヤマブキ。ミナと会ったの?」
「な、何で知ってんだ?」
「ミナから聞いたのよ。あの病院に行ったの?」
「…ごめん」
「ごめんなさい」
「もう…あまり勝手な事しないでよ?」
「「はーい…」」
「あ、それとヤマブキ」
「ん?」
「ミナがありがとうって言ってたけど…何したの?」
「ああ、そいつに千代紙で作った花をあげたんだよ」
「あら、そうなの? 優しいわね、ヤマブキ」
「えへへ…」

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最終更新:2011年09月07日 18:52