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変わらぬ月夜の時間

短針は一番上をとうに通り過ぎた。
一人居間の椅子に体を預ける男は、窓越しに霞んだ空を見上げた。
時間の概念を持たない彼は睡魔に襲われることはない。
一家は既に上の階で寝ている。自分が迷惑をかけるわけにいかなかったのだ。

「…はぁ、今日は…いや、昨日哉?とにかく疲れる日だったな…。」
アカネを送り届けてから今までの経緯を思いかえし、彼はまた溜め息を吐いていた。
なんだかんだ自分はこの一家なしじゃ過去も今も語れない。その気持ちがあって付き添ったのもある。

月明かりだけを頼りに読み進めていた本を閉じ、しかしまぁ、と彼は呟く。
「なんとか無事におさまってよかったぜ。一時はどうなるかとひやひやしたが。」
夕刻頃のアカネの無言の重圧に耐えかねていた彼(しかも部屋の隅で正座である)。
ここでトラブルを起こそうものならただではすまないことは重々承知のつもりだったが、此処までとは思わなかった。
(流石のシンももうここには乗りこめまい…。)

(って、その考えが甘いんだよ、俺。)
彼は自らの両頬をはたいた。
そうだ、あのシンのことだ。なにをやらかしてくるかわからない。
(なにはともあれ主とゲンブさんの対策が早くできる事、『アルマ』さんとの連絡が取れる事。それを待つことしか今の俺にはできないからな。)
それまで体力充電だ、と彼は大きく伸びをし再び本を開いた。


「…それにしても遅いわね、カルーアトラズの皆さんが…。」
ウスワイヤの一室で彼女は腕組をしながら呟いた。
彼女の後ろでぎしぎしと物音がなる。
「…いや、まぁそうよね。貴方にとっちゃありがたいことよね。心の準備があるし。」

どうしたものかなぁ、と彼女は外を見た。
仕事が最優先なのか、ロビンから連絡が入ってないのか、はたまた何処かで事故ったか。
いずれにせよ、待つ側の「彼ら」は手の打ちようが無い。
背後の彼も未だそれ関連の未来が見えないという。都合の悪い能力と言えばそれまでだが。

「…今日も待っても無理ね。来間、今日は寝ましょ。」
彼女は踵を返し、扉を開けた。
扉が閉まる頃には、物音は一切消え去っていた。


ストラウルの奥地。
どさりと何かが落とされる音がした。
黒い人のような物体。しかしそれは跡形もなく消え去っていた。
暫く構えていた彼はゆっくりと周りを見回し、やがて警戒を解いて本を下ろした。

「…何なんだ、今のは?また「おかしな人」に襲われでもしたのかな、僕は。」
こんな夜中に外に出ている僕も悪いけど、と彼は言う。
周りに散乱するのはコンクリートの破片ばかり。
廃ビルにはその一部と思われる破片と(何故か)栞が突き刺さって大きく罅入っていた。

「…変わってないなぁ、僕…。」
その壁を見ながら彼はため息を吐くと、栞だけを抜き取ってその場を後にした。
…尚、彼は一枚だけ突き刺さった栞を忘れていた。


変わらぬ月夜の時間


ソノシズケサハ アラシノマエカ ソレトモアトカ

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最終更新:2011年09月07日 19:23