某日、
ホウオウグループ。
ジャージを着た、乱れた茶髪と金色の目の少女がせわしなく動き回っていた。
モブ子である。
「ゼア君」「過去に造られた」「生物兵器のデータ」「持ってきたよ」
「ああ、ありがとうございます。そこに置いといて下さい」
「うん」
バサッと、積み上げられた書類を置く。
「じゃあ」「他の雑務を」「やってくるから」
「ええ」
と、ゼアの元から離れた次は、箒と水入りバケツ、雑巾を持って生物兵器の保管室に入る。
箒を壁に立て掛け、雑巾をバケツに入った水に浸して絞り、机やら器具やらガラスケースを拭き始めた。
かなりのスピードで。
「~♪」「~♪」
鼻歌を歌っている。
「…よし」「次は床」
拭き終わると一旦雑巾をバケツの中に入れ、箒を手に取って床を掃く。
「空をなーがる♪」「雲のよーうに♪」
今度は「赤碧の空」を歌い出した。
一通り掃き終わると、仕上げとして再び絞った雑巾を手に床を拭く。
「あなたがもし♪」「泣くのなーらば♪」「雨のそーらを♪」「虹にかーえよう♪」
…結構ノリノリに歌っている。
「よーっし!」「掃除完了!」
背伸びした後、箒とバケツと雑巾を手に保管室から出た。
「ようやく」「終わっt」
「モブ子ー、お茶くれー」
「……」「はーい」
このパシリ振りも、「モブ子」呼ばわりされる一因でもあったりする。
「やっと」「解放された…」「皆」「元気かなー」
街道を歩くモブ子。
やがてある建物が見えてきた。
能力者の孤児を引き取るリリス孤児院と、それを経営する修道女が暮らすリリス修道院である。
彼女は暇を見つけては、ここの子供の遊び相手をしていた。
「皆ー」「こんにちはー」
「あっ、リン姉ちゃんだ!」
「お姉ちゃんー!」
子供が一斉に集まってくる。
モブ子は思わず顔を綻ばせた。
奥から
マザーのリリスが出てくる。
「リンさん、今日も来てくれたんですね」
「リンちゃんの」「楽しみだから」
「いつもありがとうございます。子供達もリンさんと遊ぶの、楽しみにしてるんですよ」
「ありゃ」「それは」「嬉しいなあ」「リンちゃんも」「皆と遊ぶの」「好きですから」
「姉ちゃん! 俺とヒーローごっこしよー!」
「やだ! 私とおままごとするのー!」
「こらこら」「皆で一緒に」「遊ばないと」「楽しくないでしょ?」「大縄とび」「しよう」
しかしモブ子の提案が気に入らないのか、子供達からブーイングが起こった。
「つまんなーい!」
「他のがいい!」
「まあまあ」「やってみようよ」「結構」「楽しいから」
渋々賛成する子供達。
モブ子は縄を用意する。
「すいません」「リリスさん」「そっちを」「持ってくれませんか?」
「はい」
にっこり笑って縄の片方を持つリリス。
「じゃあ」「行くよー」
縄を回し始める二人。
だが列の最初にいる男の子が中々入ろうとしない。
「ほら」「頑張って」「大丈夫だよ」
「う…うん」
思い切って縄に入る男の子。
すると、上手く引っ掛からずに入ることが出来た。
「おおっ」「出来たじゃん」
「へへっ…」
「はい」「次の子ー」
並んでいた子供達が次々と縄に入っていく。
「…七回」「八回」「九回」「十回!」「凄い!」「十回も飛べたじゃん!」
満面の笑みで褒めるモブ子。
褒められた子供達は皆、照れ笑いをしていた。
「次は」「何したいー?」
「鬼ごっこ!」
「かくれんぼしよー!」
「じゃあ」「鬼ごっこに」「しようか!」
「ふー」「いっぱい遊んだね」「リリスさん」「今何時かな?」
「五時…過ぎですね」
「えっ」「もう」「そんな時間?」
「はい」
「ありゃりゃ」「じゃあ」「そろそろ」「帰らなきゃ」
モブ子の言葉に子供達が口々に不平を言い始めた。
「いやだー!」
「お姉ちゃんともっと遊びたーい!」
「駄目よ、皆。リンさんもいつまでもいれる訳じゃないんだから」
「ちぇー…」
「ごめんね」「また」「遊びに来るから」「良い子に」「しててね」
「約束だよ!?」
「良い子にするから、また遊びに来てくれるよね?」
「うん」「じゃあ皆」「元気でね」
「ばいばいお姉ちゃん!」
「また遊ぼうねー!」
名残惜しみながら、子供達はリリスと一緒に笑顔でモブ子を見送った。
「あーあ」「疲れた」「でも」「楽しいなあ」
「何がだ?」
「ウェ!?」
ホウオウグループに戻った後。
モブ子は突然聞こえた声に、思わずはね上がった。
「な…なんだ」「
クロウ君」「じゃないか」「脅かさないで」「欲しいな」
「その反応からして、何かやましい事でもしてるのか?」
「やましい事って…」「してる訳」「無いじゃん」
「なら何故あの孤児院に行った」
クロウの口から出た想定外の言葉に、モブ子は体を強張らせた。
「……」「いつから」「知ってたの?」
「最近だ。雑務が終わる度に外出するからな、跡をつけていた」
「……」
「あの孤児院がウスワイアと繋がっている事は、お前も知らない訳ではないだろう?」
「…だから?」
「お前の行動は一種の裏切り行為なんだ」
それを聞いたモブ子は押し黙る。
しかし暫くすると言葉を紡ぎ始めた。
「…あの子達には」「親も」「兄弟も」「いない」「色々な理由は」「あるけども」「実の家族に」「愛された事がない」「弱い人なんだ」「皆」
「弱い?」
「うん」「同じ血の繋がりを」「持った人から」「愛情をくれた事は」「少ない」「或いは」「無い」「それって」「寂しくて」「辛くて」「悲しい事なんだよ」
「……」
「だから皆」「脆くて」「儚くて」「弱いんだ」「代わりに誰かが」「いないと」「すぐに」「消えてしまう」「だから」「だからモブ子ちゃんは」「ウスワイアと」「関係あろうと」「無かろうと」「あの子達の支えに」「味方に」「なりたいんだ」
表情は見えないものの、力強く発言するモブ子。
それを聞いたクロウは―――。
「…勝手にしろ」
「…報告」「しないの?」
「お前がそう決めた事だ。俺の知ったことではない」
「クロウ君…」
「どうせそこの子供にせがまれてるんだろう?」
「……」「うん」「ありがとう」
お礼を言うモブ子。
が、振り返ったその表情は。
「ま」「別に見直さないよ」「くそガラス(笑)」
暴言を吐く際の気味の悪い笑みだった。
「…俺もだ。どんな行動をとろうと、お前に対する主観は変わらんぞ」
「あはっ☆」「まだ言うか」「強者」「ぜってー」「弱者の為の世界」「作り上げてやる」
「やれるものやらな」
「あはっ☆」「見てろよ」「くそガラス」
弱者の優しさ
(弱さの裏返し)
(即ち)
(優しさ)
最終更新:2011年09月07日 19:30