連絡を入れてからしばらく後、4人の立っていた場所にエンジン音が響いた。
「!」
「来たか」
ゲンブの視線を追った3人が見たものは、やたら頑丈そうな大型バイクと、ニット帽とゴーグルをつけたライダーの姿だった。
その男は、バイクを降りて歩いて来る。
「ゲンブさん、もしかして……」
幹久朗の問いに、ゲンブは静かに応える。
「ああ。奴が『アルマ』……IUC監督官補佐だ」
アルマ。その名は、アースセイバーの中でも知られている。が、逆に言うと名前しか知られていない。
途轍もない解析能力を誇っており、「裏アースセイバー」こと「
IUCチーム」監督官の補佐にまで抜擢された人物だ。だが、その正体は謎に包まれている。
機密漏洩防止のため、本名も、所在地も、全てのパーソナルデータは秘匿され、明かされているのはラテン語で「武器」を意味するコードネームのみ。
それらのデータを所持しているのは、隊長である
アキヒロと連絡員の役割を持たされたゲンブの2名のみ。
その「アルマ」は、一同の前に来ると口を開いた。
「それで、俺に用事とは?」
「何、ちょっとしたことだ」
そう前置きして、ゲンブは闊歩に関する一連の事態を語った。一通り聞いたアルマは、確認するようにそれらの事項をひとつひとつ問い直し、答えを受けて「ふむ」と腕を組んだ。
「……その情報量では、はっきりとした事は言えませんね」
「お前の力でもダメか?」
「答えは出せますが、確実性は下がります。俺の力はコンピューターと同じです。裏付けとなりえる情報が少なければ、どこまで言っても推論にしかなりません」
あくまでも淡々と語るアルマ。その様子はどこか人間のものとは思えず、由衣や幹久朗は背筋がわずかに冷えるのを感じた。ただひとり、闊歩だけは成り行きをじっと見ていたが。
「新しい情報が必要だと言う事か。では」
闊歩が持っている栞を指差す。
「あの栞ではどうだ」
「普通の栞ですね。駅前の100均に同じものがあります」
思考する間もなくアルマが即答した。彼の能力は思考加速による高精度の解析と、それに伴う肉体操作だ。実戦においては、この力で相手の行動・言動・挙動を解析・理解することで、あらゆる意味で先手を打ちながら戦う封じ型の戦闘を主体に行う。
「では、あの瓦礫はどうだ? この栞が突き刺さっていたところだが」
「……あれですか? あの、真ん中に縦のヒビが入っている」
「ああ、それだ」
問題の瓦礫を見たアルマは、それをじっと見つめたまま沈黙した。ややという程でもない時間の後、顔を上げて振り向き、こう言った。
「瓦礫そのものはここにある別のものと同じです。ただ、どうやら元々あったヒビに命中したために、写真のようにめり込んだものと見られます。もっとも、並みの人間が出来ることではありませんが」
「ならば……」
呟いたゲンブの視線が巡り、由衣の隣に佇む闊歩を捉える。
「やはり、能力者か?」
ゲンブが核心をつく。しかし、アルマは、
「それは何とも言えません。IUCのような異常体質・才能の可能性も十分に考えられますし、何らかの技術や経験がある可能性もあります。いずれにせよ、現時点では
数寄屋 闊歩本人のデータが足りません」
「……では、やるしかあるまい」
「ゲンブさん、それってやっぱ……?」
由衣の言葉に、ゲンブは「そうだ」と一言おき、
「実戦形式でのデータ取得を行う。アルマ、お前が直接戦ってデータを取れ」
「ここでですか? ウスワイヤに向かうべきでは……」
「この後、お前にはもう一つ用事がある。行き来していては機会を逃す。ここでいい」
「……了解。もっとも高い可能性を考え、手加減はなしで行きます」
そう言って下がるゲンブの見る先で、アルマはす、と構える。それを見て取った闊歩も、おもむろに一歩下がる。手には、鞄と栞。
解析その一・情報が足りない
(肝心な部分のデータがない)
(ならば、本人から取ってしまおう)
最終更新:2011年09月27日 10:33