「…闊歩、分かってるだろうな?;」
心配そうに由衣が尋ねる。闊歩は首だけ振り返った。
「分かってるよ、大丈夫。」
「…なら、いいんだg」
「手加減なしでかかっていいんだよね?」
「そういう意味じゃねぇー!!;」
由衣が止めにかかるのも遅く、闊歩は蹴りだしていた。
由衣はあきらめたかのように伸ばした腕を重力に任せて落とした。
幹久朗がその頭をぽんぽんと叩く。
「仕方ねぇよ、あきらめろ。」
「…せめてウスワイヤでやって欲しかった…。」
「そういえば、由衣。お前はこいつの知り合いだったな?」
ゲンブが問うと、由衣は頷いた。
「大阪にいた時からの幼馴染でよ。不良時代の時もつるんでたし、今もよく一緒にいるんだよ。」
「なら、お前は分かるんじゃないか、あいつがどういう奴か。」
「…。」
「私の知る限りだけど、闊歩は能力者じゃねぇ。存在は認識しているが根っから信じているわけじゃねぇんだ。」
鞄を肩にかけ、開いた手を前に突き出す。
しかし、先を読んでいたアルマは受け流す形でかわし、背に突きを一発落とした。
もろに食らって正面から地面に付き落とされるが、素早く立ちあがって間を取った。
「身体能力も能力者ほど特出しているわけじゃねぇ。むしろ、腕力だけなら私でも勝てる。」
その間をアルマが一気に詰める。下から上がる拳を闊歩が反応して受け止めた。
突きの応酬がその場で起こる。
だが、徐々に上がるアルマのスピードに付いて行ききれず、少しずつ闊歩が押されていく。
「だけど、あいつとんでもない喧嘩狂で、技能だけで全部補ってきやがる。」
瓦礫に躓き、バランスを崩してその場に倒れ込む。
追い打ちの一撃を辛うじて避け、瓦礫を挟んで反対側に転がり込んだ。
丁度陰になる所で彼は…。
「技能?」
「ああ、例えば…。」
「その場にある物、何でも武器に変えやがる。」
多数の小さな気配をアルマは感じた。
反射的に横にかわすと、後ろのビルから硬質な音がいくつも鳴った。
銃弾が直撃したような罅がガラスに入る。
しかし、その場に落ちていたのは銃弾ではない。
ビルの倒壊で出てきたコンクリート片だった。
「な、今のあいつが…!?」
傍観していた幹久朗が驚く。由衣は頷きながら呟いていた。
「だからウスワイヤの方がよかったんだよ。余計なもんが落ちてないから予想外の攻撃が来ないし。」
瓦礫の陰から飛び出した闊歩は何かを振り上げる。
上から来るかと腕を組んで構えるが、その腕は横に振われた。
瞬間、組んだ腕のサイドに何かがぶつかる。
闊歩が最初から持っていた鞄だ。中は分からないが重量がある。
僅かにバランスが崩れたのを見逃さず、闊歩は左手に持っていた栞を突き出した。
材質の変化は見られない。
どこにでもある普通のラミネートの栞。指で押さえれば簡単に曲がるはずだ。
それに細い刃が仕組まれているわけでもない。
だというのに、正面から喉に当てられたその栞は、僅かに動かせば赤く濡れるような鋭さを持っていた。
「…何者だよ、あいつ…。」
幹久朗はもはや唖然とその光景を見ていることしかできなかった。
「さっきも言ったが、私の知る限り闊歩は能力者じゃねぇ。ただ、あいつはその場にある物なら何でも武器にする。武器に変える『知識を持っている』。」
「『広く浅く、時々深く』。あいつは趣味の読書で幅広く知識を取得し、一片たりとも無駄にしねぇ。」
「それが原因だと、お前は考えるのか?」
「勿論、天性の喧嘩狂と腕力もあるだろうが、私はそう解釈している。でなきゃあんな突拍子もないことできないだろ…。」
アルマが後ろに下がり、左腕を蹴りあげた。
持っていた栞が宙を舞う。それを眼で追う闊歩につかみかかり、背負い投げよろしく放り飛ばした。
自由が利かず空中に放り出された闊歩の口は。
――笑っていた。
着地点に鞄を放り出し、衝撃を僅かながら抑える。
飛び起きると同時に鞄を拾い上げ、中から文庫本を一冊取り出した。
そして、鞄を近くの廃ビルの壁に叩きつけたのだ。
鈍い音が上から聞こえた。
同時に地響きが走り、上空に急に影が差した。
「!!」
脆くなっていたビルの上部が罅に沿って割れ、崩れ落ちてきたのだ。
アルマは小さい瓦礫をかわしながら後ろに下がる。
一方闊歩はその場から動く気配が無い。
その様子を見、由衣は顔を強張らせた。
「…やばい、このままじゃ…。」
瓦礫が折り重なり、激しく砂埃を巻き上げた。
砂から守るように全員が眼を覆う。
アルマだけが、砂が舞う視界の中眼を凝らした。
いや、アルマだけではない。
瓦礫の山の一部が崩れ、何かが這い出てきた。
斜めになった瓦礫を踏みつけ、上に上ったのは、闊歩だ。
手元に持った本一冊だけで這い上がって来たというのか。
由衣は顔を上げ、叫んでいた。
「ゲンブさん!そろそろとめてもいいか!?」
「は?何故…。」
「頼む!あのままじゃ手がつけられなくなるんだよ!」
由衣の焦り方にただ事ではない事情を察したゲンブは、一つ頷いた。
「アルマ!そこまでだ、下がれ!」
指示を聞いたアルマが素早く下がる。代わりに由衣が飛び出し、大きく息を吸った。
本を構えた闊歩が盲目に飛び出した。
そのタイミングを見計らい、由衣は叫んだ。
「メゾロンバーリッドロンダ!!」
ぴたりと、彼の動きが止まる。
「…闊歩。」
由衣がそういうと、闊歩はその場に崩れ落ちた。
「「「…は?;」」」
一瞬何が起こったか把握しかねる3人。
由衣は闊歩の腕を引っぱり、なんとか立たせた。
「お前なぁ、自制が効かなくなるまで暴れんなっての。」
「…ごめん、由衣…。」
「え、ちょっとまて。今のめぞ…なんだって?」
幹久朗を見ながら由衣は肩をすくめた。
「言葉に意味はないんだけど、ああ叫んだら止まるんだよ。最も、声が届けばの話だけどな。」
由衣の能力は精神に干渉しない。昔からのようだから能力云々は関係なさそうだが…。
「言ったろ、こいつは喧嘩狂だ。時間が長引いたら自制ができなくなって、必要以外の情報がシャットアウトされる。もう少し時間がかかってたら力づくで抑えなきゃならなかった。」
闊歩を支える由衣は笑いながら言った。
しかし、直ぐに真顔に戻ると、アルマを見た。
「それで、どうだったんだ。闊歩は…。」
狂人の解析
「…つか由衣、お前の腕力どれだけなんだよ?」
「一回石ころで倉庫の壁ぶち破ったことがあるな…。」
最終更新:2011年09月27日 10:35