音は全くと言っていいほどなかった。
ぶら下がるランプの炎が僅かに揺らめいただけである。
しかし、二人がコンクリートがむき出しになった壁に寄りかかって伏せるまでにかかった時間はものの数分だった。
骨が軋むような音に頭を抱えそうになりながら、ゆっくりと顔を上げた。
「ったく、手のかかる所は相変わらずらしいなぁ?」
眼の前に現れたのは、黒いマントに黒いシルクハットをかぶった男。
色の無い左目は、間違いなく「彼」と血がつながっていることを示していた。
「っかは…。な、何で貴方がこんな所に…。」
「何でか?決まってるだろ?久しぶりに顔を見に来ただけだ。そしたらどうだ?」
彼は胸倉をつかむと、思い切り引き上げた。
「俺の眼の前で、人を一人『殺し』やがった!よかったな、あれがアナボライザーじゃなくて!!」
「お前の事だ。
ガルダを使って石像でも作るつもりだったんだろ?」
睨みつけるその眼は、本気で怒っている。
「キングといいお前らといい、
ホウオウに入ってから落ちぶれたな、お前らは!」
「っ…!」
「…落ちぶれたは、どっちよ。」
角に蹲ってた女が口を開いた。
二人の視線はそちらに行く。
「そんな正義気どりが楽しいの?馬鹿じゃない?私たちは犯罪集団よ?いい加減こっちに戻ってくる気はないの…、」
「『イノセント・プリンス』。」
「微塵もない。」
彼はばっさりと切り捨てた。
「現状を見れば尚の事だ。てめぇらは何時までキングの部下を気取ってるんだ。」
「きどっ…!?」
胸倉を掴まれた男が反応した。しかし全身が痛むのか、ろくに動くこともできない。
「忘れたか、キングはもう死んだんだ。事実上
怪盗一家は解散しているんだよ!」
「「!!」」
その根本が頭になかったのか、二人は絶句する。
プリンス、と呼ばれたその男はため息を吐き、続けた。
「ホウオウに残るかどうかはお前ら次第なんだ。現にクランケは離脱した。そうだろ?」
偶然のせいではあるんだけどな、と付け加えておきプリンスは二人を見た。
「それに、今キングはホウオウに入ったことを後悔してるかも知れねぇんだ。」
「「…。」」
「ま、お前らがどうとるか次第なんだけどな。」
プリンスは手を離すと、踵を返した。
「今回は見逃してやる。『生き返った』わけだし、俺の目的はお前らじゃねぇ。」
煙草に火をつけ、それを加えながら彼は言った。
「ただし、今度会った時状況が変わっていなかったときは、覚悟しろ。」
一言そういって、彼は立ち去った。
「…アリア。」
「知らないわよ、そんなな話。」
「いやぁ~、決定的瞬間、的な?」
少し離れたビルの中。
黒ずくめの少女がカメラを構えてにやにやと笑っていた。
「これは即刻、『僕の兄(ボク)』に伝えないとだね。それと!」
彼女はメモを取り出し、ぱらぱらとめくった
「『怪盗イノセント・プリンス再来』!今回の学校新聞の見出しはこれで決まり、みたいな!」
影響なき影響
「聞く限り、アナボライザーで間違いはないだろう。ただ、記憶は曖昧なはずだ。できる限り能力の事は隠し通すしかないな。」
「…闊歩…。」
最終更新:2011年09月27日 18:56