「……蒼さん、何かあったの?」
通学路でアオイと出くわしたトキコが一番に発したのは、困惑の声だった。
スザクと同じ顔立ちの彼女だが、性格の違いがダイレクトに現れており、スザクが炎なら彼女は川のような雰囲気を纏っていた。
しかし、今朝の彼女は明らかに様子がおかしい。
「あ、あら、トキコさん、おはようございました……」
「……ちょ、ホントに大丈夫?」
虚ろな目の下には濃い隈、いつもなら綺麗に整えられて流れるような白く長い髪は乱れに乱れ、制服も上の空で身に着けたのが丸分かりの酷い有様だった。極めつけは持っているもので、
「!? あ、蒼さん、それ鞄じゃないよ?」
「……あら。なぜわたくしは扇風機を……?」
――――どう考えても正常な精神状態ではない。以前のスザクや自分とは別の意味で危ない。それだけは確かだった。
「あ、あのさ、今日は休んだ方が良くない?」
「そういうわけにも……行きませんわ。姉様がいるかも知れませんもの……」
「って言っても……あれ、そういえば鳥さんは?」
いつもなら連れ立っているはずのスザクがいない。思えば、見てすぐ感じた違和感はそれだったのだろう。
「…………それ、が……」
アオイの言う所では、スザクは昨夜、夕食の後で突然家を飛び出し、それから連絡が取れなくなっているのだという。残されたアオイは姉の帰りを今か今かと待ち続けたものの、結局スザクは帰って来ず、夜が明けてしまったのだとか。
「……それで、学校に来れば鳥さんが来るかも知れない、って?」
「ええ、そうですわ……」
声にもまったく覇気がない。見れば、精神状態が体調にも跳ね返ったのか顔色が死人もかくやという状態になっている。
と、その腹が小さく鳴る。
「!? あ、蒼さん……朝ご飯、食べた?」
「え? ……そういえば、何も……お腹、空きました……」
言うや否や、ふらふらと崩れ落ちてしまった。いくらなんでも極端だろう……などと思ってもこれが現実だ。考えてみれば、性格的にしっかりしていたのため気にしなかったが、アオイの姉依存は常識を超えている。心配が高じてこうなってしまったのだろうが、このままでは冗談抜きで命が危ない。
(ど、どうしよう)
困り果てていたそこに、紛れて声がかかる。
「あれ? トキコと……ど、どうしたんだ!?」
聞きなれた声を発したのは、黒い髪を背中まで伸ばしてまとめた、同級生の少年。
「あ、一角君!」
「あぁ、
シスイさん、こんばんわ……」
「朝だよ今は! って、本当にどうし……うわっ、何だその顔!?」
動揺しきりのシスイに、トキコは簡潔に事情を説明する。
状況を了解したシスイは、
「と、とりあえず何か食べさせないと……あ、あの
レストラン今からやってるかな?」
「時間がちょっと早いけど……この際仕方ないよ」
近くを通った同級生に伝言を頼み、二人はアオイを抱えてこの間も行ったレストランを目指した。
―――扇風機は、とりあえず置いておいて。
偶然とはいえ
(姉妹揃って、問題は多かった)
(衝動抱えの姉、依存症の妹)
(……本当にこれで大丈夫なのか)
(揃っていれば、何とか)
最終更新:2011年09月27日 19:06