「…………」
今日は、ポリトワルサーカスの公演初日。準備は整ったが、開演までもう少し時間がある。
メンバーはそれぞれに、最終調整や順番の確認に余念がない。それは彼女、茉理も同じ。
「…………」
「大道芸」にカテゴライズされるもののうち、ジャグリングは乃瀬、
ピエロはエミールがやる。アクロバット・パントマイム・バルーンなどを担当する彼女は、前座。メインの出し物に繋げるための、とても重要な位置だ。失敗は許されない。身寄りもなく、行き場所も無い自分を受け入れてくれた団長、そしてサーカスのみんなのためにも。
「…………っ!」
小さな呼気と共に、複雑な軌道を描いていた手足を止めて戻す。大丈夫。手足のキレは完璧、狂いも許容範囲。
コンディションは完璧だ。
「マツリ、そろそろ始まるぞ」
「はい」
一言だけ返した相手は、最近入って来た手品師、森山 修斗。隣には万全の上体のソラが。
「いつもの調子でいけば大丈夫、上手くいく」
今度は無言で頷く。茉理は極端に口数が少なく、知らない人とのコミュニケーションはほとんど成立しない。まともに話をするのは団長くらいで、サーカスの他メンバーとは何とか意志疎通が成立している。
「Ladys And Jentleman!! 小さなお子さんから老齢の大人、皆々様! 本日は『ポリトワルサーカス』へようこそおいでくださいました!」
開演時間だ。進行役を務める「ユキじい」こと代雪の声が響く。
「よし、まずは僕らの出番ですね」
「マツリ、準備は?」
「完りょ―――」
エミールとノセに、そう言いながら何気なく客席に視線を投げた茉理は、
「!!」
ちょうどそこに、一番苦手な色を見つけて硬直した。
―――赤。燃えるような、赤い髪。
「―――!!」
上げかけた悲鳴を何とかこらえ、胸を押さえて深呼吸し、心の中で自分に言い聞かせる。
(大丈夫……大丈夫。あれは違う。あれは血じゃない。あれは火じゃない。あれは、私に何もしない―――)
「マツリ、大丈夫?」
後ろにいた瞳子が、気遣わしげに声をかけて来る。
「大……丈夫」
二、三度頭を振って、もう一度客席を見る。―――よし、大丈夫だ。
「出番」
「ですね。行きましょう」
「ああ」
――――ポリトワルサーカス、開演。
舞台裏
(過去に何があったのか)
(今は関係ない)
(今は、観客のために全力を尽くすだけ)
最終更新:2011年09月27日 19:10