某日、白波邸。
「あら? ランカ、出掛けるの?」
「うん、ちょっと綾ちゃんの所に」
玄関で靴を履いているランカを見つけたアカネは、意外そうな顔をした。あまり出歩くことのない愛娘が、今日は自分から出かけるというのだから。
(ヒナちゃんの娘さんのおかげかしら? だとしたら、良い傾向ね)
「そう、わかったわ。夕飯までには帰って来るのよ」
「はーい」
「それと、周りの人には出来るだけ気をつけて歩きなさい。誰かが狙ってくるかも知れないんだから」
事実、ランカはこの間3人もの不審人物に襲撃されている。
「うん……ちゃんと気をつけるよ」
「そうしなさい。……
アズールはどうするの?」
「なんか、朝からずーっと寝てるんだ。ゆうべ夜更かししちゃったみたい」
「あらら……それはちょっと注意しておかないと」
苦笑するアカネに、鞄を両手で持ち、靴をとんとん、と直したランカは、
「それじゃ、行って来ます」
「はい、いってらっしゃい」
笑顔で言って、外に飛び出して行った。
「さて……妹娘はどうして夜更かししたのかしら?」
アズールがいる2階のランカの部屋に上がったアカネは、まだ彼女が寝ていることを考えて静かにドアを開けた。
当のアズールは、珍しい事に人化したままベッドの上で眠りこけていた。
「着たきり雀になっちゃってるわね……起きたら着替えさせないと。……あら?」
よく見ると、机の上に何か置いてある。近づいて見ると、
「……私?」
フェルトで作られた、人形があった。手に取った一つは、ジーンズにTシャツ、黒い髪……他ならぬアカネ自身を象っていた。
見れば、ランカやシドウ、火波姉妹のものまである。さらには、
「……これはマナちゃんかしら?」
ランカ曰く「親友」の少女。今はどこにいるのか。
何となく微笑ましい気分になって人形を眺めていたアカネは、ややあって違和感に気付いた。何か欠けている気がする。程なく気付いたその正体は、
「……アズールがいないわね」
人形の中にアズールのものがない。単に自身のものを造り忘れただけなのか、それとも他に理由でもあるのか。
「後で聞いて見ようかしら」
自身を象った人形と目を合わせ、アカネはそう呟いた。
白波家一コマ
(ちょっと変わっている)
(だけどどこにでもある)
(そんな、一日の一コマ)
最終更新:2011年10月05日 21:27