女子トイレ。
ボクは鏡の前で手を洗いながら、さっきの出来事を思い出していた。
冬也くんのノートにびっしりと書き詰められた悪意のある言葉の数々。
ボクが見慣れているその悪口は、あきらかに彼へと向けられたものだった。
ボクと話したせいだ、ボクが冬也くんと話していたのをあの人達は見ていて、
それが面白くなくて誰かに頼んだんだ。幸せそうしているのが、妬ましくて。
『張間さんは悪くないし、僕と距離をとる必要もないよ。』
冬也くんはボクを責めないでそう言ってくれた。
一緒にいたののかちゃんもボクに味方してくれて凄く嬉しかったし、泣きたくなった。
けど、このままだと冬也くんはボクのせいでずっといじめられるかもしれない。
ボク自身がいじめられることは苦じゃないけど、大事な人達が嫌な思いをするのだけは、
絶対に嫌だ。
どうにか、しないと。
「ハーリマさん、」
「っ!」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこにいたのは数人のクラスメイト。
ボクをいつもいじめているあの人達だった。
ニヤニヤと笑っている彼女達を前にして、ボクは逃げ出そうと横に走ったけど
腕を伸ばされてすぐに捕まってしまい、壁に押し付けられた。
勢いがあまり、頭をぶつけてしまった。
「あぐっ!」
ずるずる、と地面に座り込む。
その様子を見て笑い声をあげながら、彼女達の中のリーダー格の子が言った。
「ハリマさん聞いたわよ?昨日は楽しくお昼ご飯食べたんだってねぇ。」
「確か冬也くんだったっけ?あの人病弱だから滅多に学校に来ないけど…
何?もしかして仲間でも増やしたかったの?」
「そういえば緑音さんともご飯食べてたわねぇ、同じいじめられっこ同士、
気でもあうのかしら?あはは!!」
「………」
「何か言えよ!」
黙っているボクが気に食わなかったか、彼女達はお腹に蹴りを入れてきた。
「うぐっ!?」
「生意気なんだよおめぇ!!」
もう一人の子がボクの横腹を蹴り、それで倒れたのを機に彼女達は踏み始めた。
頭を、手を、腕を、足を。
踏みつけられる度に痛くて、熱くて、でも痛くて。
彼女達はしきり何か言ってるけど、きっとボクへの暴言なんだろう。
「・・・なさい・・・」
仕方が無いんだ。
「め・・・・・・んなさい・・・」
仕方が、なかったんだ。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」
これは、ボクへの『罰』なんだ。
ボクがあんな風にならなきゃ、誰かを傷つけずに済んだのに。
「―――!――!!」
・・・だれかのこえがきこえる。
ぼくをよぶ、やさしいこえ。
しってる、このこえは、たしか・・・
「・・・?」
「張間!っおい張間!!」
「・・・せ、んせ・・・?」
目を覚ませば、目の前にはアズマ先生がいて、ボクを抱き起こしてくれた。
せんせ・・・ここ、女子トイレだよ?
そんなことを言おうとしたけど、お腹が痛いし、唇が切れてて上手く喋りにくかった。
「せんせ、あの・・・」
「っいい、何も喋るな・・・!今保健室に連れて行くから・・・!」
せんせい、どうして泣きそうな目をしてるの?何かあったの・・・?
・・・あぁ、そっか・・・ボクがこんな風に傷付いてて、それでアズマ先生を泣かせているんだ。
あやまらないと、あやまらないと。
「・・・ごめん、なさい・・・ボク・・・」
「ごめんな、・・・っごめんな・・・!!」
先生が、ボクをぎゅっと抱き締めてくれた。
寒くて痛かったけど、とても、とても温かかった。
せんせいは、何も悪くないのに、どうしてあやまるの?
せんせい、わらってよ。
いつもみたいな、優しい、かおで・・・
チャイムの鳴る音。
先生の押し殺した泣き声。
薄汚れた天井。
それらを最後にして、僕の意識はゆっくり沈んでいった。
臆病な一年生
最終更新:2011年10月06日 00:40