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〈少女達の原風景〉

〈少女達の原風景〉

ーいかせのごれ北東部の神社ー


早朝、朝に弱い妖怪鴉・クロコを放置したまま、神社の巫女・明夢は起床する。
巫女とはそういうものなのだ。それに明夢は実質的にこの神社の主でもある。主が寝坊とは情けない話にしかならない。
いくら参拝客が少ないとは言えその点、何かと真面目な明夢は少しも手を抜かない。



「ぐう‥」
明夢が朝やるべき事をやってから寝室に戻っても、まだクロコは惰眠を貪っていた。

「‥はぁ。もの凄く面倒だけど‥いい加減起きろ。」
明夢がクロコの足元付近の畳を思いっ切り踏みつける。

ゴッ!と重い音がして布団ごとクロコの身体が2メートル近く宙に浮く。

「ぎゃああああああああ!!!何してくれてんのぉぉぉぉ!?」

クロコの絶叫。それから間もなく、クロコは布団ごと畳の上に落とされた。
明夢の身に宿る超能力。自分の皮膚に触れた衝撃または衝撃を伴うものを反射または向きを変換する力。無論、自分の発する衝撃も例外ではなく、今のはただ単に畳を踏みつけた時に発生した衝撃の向きを変換してクロコの寝る布団に向けただけだ。最も、クロコが踏みつけた衝撃と畳からの反発作用による衝撃を纏めて向けた変換したため、2倍のエネルギーで吹っ飛ばしたわけだが。

衝撃を反射、向き変換する超能力。懐で爆弾が爆発しようが、戦闘機に体当たりを喰らおうが倒壊したビルに巻き込まれようが彼女は傷一つ負わない。それどころかその結果生じる莫大な衝撃エネルギーを好きな向きに操れると言う正真正銘の化け物じみた超能力だ。

狂人の操る車で跳ねられた時、使えるようになったこの超能力だが、その際奇跡的に一命を取り留めたとされる彼女はそれが間違いであることに気付いている。


『赤城明夢はきっちり一度死んでいる』事を正しく理解している。


彼女は九死に一生を得たのでは無く『死んでから』蘇ったのを彼女は理解している。そして蘇った際にこの超能力を得て制御不能の内に勝手に車が彼女に突っ込んで彼女の力はその衝撃を反射。自分を殺した相手を勝手に殺していたのだ。


「(まぁ、その点はクロコに感謝してるんだけどね‥)」

2メートルの高さから落とされて「ぐえっ!!」と叫んび畳の上でのたうち回っているクロコを見ながら明夢は思う。

しばらく前にクロコに無我夢中だったとは言え人を殺してしまった事、実は一度死んだと言う事実を悩みながら打ち明けた所、クロコは何故か大爆笑した後、

『だからどうしたワケ?別に気にするまでも無いんじゃない?そんくらいでこの妖怪サマのボクがビビると思った?』

と、一切迷いなく言ってくれたのだ。明夢がその事を気にしなくなったのはクロコのこの言葉のお陰だった。




「痛たたた‥もっと優しく起こしてくれてもいいんじゃない?」

「あのさ、目覚まし時計をセットしてあげるとその度寝ぼけてチョップで叩き壊してるクロコに言われたくないんだけど。」

腰をさすりながら食卓につくクロコの愚痴を明夢は華麗に論破しつつお茶を淹れる。クロコは家事らしい事は一切出来ないので勿論朝食も全て明夢が作ったものだ。

その代わりに、クロコからある情報を持ってきてもらっているわけだが。

「この前頼まれてたあの『アースセイバー』とか言う組織の事を調べといたよ。」

ほうれん草のおひたしをつまみながらクロコが言う。

「所長の名前はアキヒロ、その意義は対特殊能力犯罪組織らしい。前に調べたウスワイヤが同時にアースセイバーの本拠地らしいね。以前は副長としていかせのごれの村長マイコさんの弟、ケイイチ君が居たらしい。」

すらすらとクロコが報告する。どちらもインターネットで検索した位では到底辿り着けない、いかせのごれの暗部に存在する組織の名前だ。クロコがどうやって情報を仕入れてくるかは不明だが。

「‥で、ボクにこんな暗部の事ばっか調べさせてるけど、まさかウスワイヤやアースセイバーを潰す気かい?」

「必要ならね。今はただ真実を知りたいだけなんだ。ウスワイヤが超能力者を閉じ込める施設でアースセイバーが超能力者を戦力として投入してるって話が本当かどうかを。」

物騒なクロコの台詞に明夢は一秒の間も置かずに言う。

「もし事実なら?」

「私の全存在を賭けて全力で潰す。」

やはり答えは即答。

明夢自身、暴力沙汰など起こしたくは無い。ましてや明夢が超能力を全力で行使すればどうなるかは明白なのだ。間違いなく死傷者の出る大惨事となる。たとえ明夢が何もせずとも『相手からの攻撃を反射』してしまえばそれだけで攻撃した方は致命傷を負うかもしれないのだ。

「(でも‥それで罪の無い超能力者が救われるなら、構わない。)」

己の手を穢す事は既に覚悟していた。

言ってしまえば明夢は『善人』だ。

誰にも言われずとも、誰からも求められずとも、自分の心に従い、何の見返りも感謝すらも求めず他者の為に命をはれる人間だ。

それは素晴らしい事であり、同時に悪い事でもある。


例えば数多くの味方を逃がす為、囮になった軍の部隊を救ったとする。

結果、より多いの人々が傷つくかもしれない。

善意とは、そういった面も持ち合わせている。



「(だからこそ、ね…ボクが絶対に明夢を抑える。)」

明夢の答えを聞いて、改めてクロコは心に留める。明夢は助けを求められれば戦場のド真ん中に突撃して行くような性格だ。もちろんクロコは明夢のそんな所も大好きなのだが、大好きで大切な友人だからこそ、その手を穢れさせたくない。彼女に身を裂くような覚悟などさせたくない。

「明夢さん~お疲れ様です~」

緊張した空気をほぐすかのように、朝の空気に柔らかな女性の声が響く。明夢を呼んだのは縁側の外、境内を歩いて来ている少女だ。明夢と同じ巫女装束に黒いセミロングの髪がサラサラと風に揺れている、おっとりとしていそうな少女だ。

「ああ、真奈ちゃん。いつも朝早いね。クロコにも見習わせてやりたいよ。」

「ぐっ‥妖怪は基本夜行性なんだぞー」

クロコの言い訳を軽くスルーしながら、明夢は少女を迎える。

姫守真奈。

明夢の神社のもう一人の巫女だ。

「はわわわ‥そうですよ~クロコちゃんは妖怪さんですからきっと朝は苦手なのですよ~」

クロコの言い訳をスルーした明夢とは違い、真奈はわたわたとしながらフォローを入れる。言葉にある通り、もちろん真奈もクロコの正体を知っているし、明夢が超能力者であることも知っている。これに少しも疑いを感じず、違和感も感じていない真奈を大物ととるか天然ととるかは正直微妙な所だ。

もっとも、信じている理由はあるのだが。

「真奈ちゃんいい子すぎる天使か‥」

「このバカラス、昨日もしっかり早く寝てたクセに何を言うか。」

真奈のフォローで少々涙目になっているクロコに追い討ちをかけながら明夢は真奈を見る。

「真奈ちゃん、少し魔嗚と話しがあるから替わってくれるかな?」

「わかりました~」

明夢のいまいち意味の分からないお願いに対してそう言って、真奈は目を閉じる。

転瞬、真奈を包む雰囲気が変わった。おっとりとした雰囲気は無くなり、妖しげな気配が空間を満たす。


そして、ゆっくりと目を開けた真奈の瞳は茶色から紫色に色を変えている。


「それで、私に話とは何だ?」

目を開けた真奈が静かに言う。声、容姿は同じでも決して真奈と同一人物のそれではない。

二重人格。姫守真奈の身体には2人分の意識が存在する。真奈が超能力や妖怪の存在をあっさり信じたのは、自分もまた特異体質だったからだ。

もう一つの人格は自分の事を『姫神魔嗚』と名乗っている。

「うん、ウスワイヤについてなんだけど‥」

「ん?ああ、超能力者の保護施設か。それがどうかしたか?」


「うん‥私は真実を知りたい。ウスワイヤの現状をこの目で確かめたい。だから‥ウスワイヤとアースセイバーの施設に忍び込む準備と作戦に協力してほしいんだ‥」

「ほう?詳しく話を聞かせろ。」







‥to be continued

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最終更新:2011年10月10日 13:07