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聞こえないカウント・ダウン

「この世界を……」

ええ、と千郷は頷く。

「特殊能力はまだ謎が多い概念です。表に出ていること、使い手自身の知ること、それがすべてではありません」
『それもそうよね……あの能力で「世界の始まり」を消去すれば、法則に従って今在る世界も消える』
「本人が実際にそこまでするかはわかりませんが……」

実際にそれをやったとすると、パニ・シー自身の存在も連動して消えるために「世界を消したのは誰だ?」というパラドックスが発生することになる。そして、世界はそれを簡単に許すほど甘くはない。

「世界も一つの生き物だもの、ね」
『さておき……そこまでではないにしても、さっき琴音ちゃんが言った様なこと、実現する可能性が出て来たわね』

というか、彼女の行動律からして絶対に実行するだろう。

『もし、力を使いこなせるようになったら、打つ手がないわ』
「使わせないのが一番なんだけど、対象が時間軸じゃあね……」

都合の悪い事実はすべて「なかったこと」に出来る。現実に対するリセットボタンを持っているようなものだ。これでは無敵もいいところだ。

「……ですが、一慨にそうとも言えません」

千郷の言葉に、思わず二人とも振り向く。

「パニ・シーの能力は、何度も挙げている通り『時間軸から事実を抹消する』力です。ですが、強力な力には、その分のリスクあるいは制限がかかります」

そう、無制限に、自由に使える力などないのだ。どんなに小さな力にも、代償や制限がある。ランカが異能を通さない力の代わりに、丈夫な体をなくしたように。アナボライザー達が、力と引き換えに存在そのものの危機を孕んだように。

「既に起きた事実を抹消する……確かに、目の前で、今自分が行った事に対してなら、何の問題も発生しません。ですが、時間を大きく遡って、何かの始まりを抹消すればどうです?」

そう、

『そっか……事実や事象、記憶は、決してそれ単体では成立しない。付随する、別の、多くの事実や事象を伴っている、必ず』
「その起点が消えれば、それが古ければ古いほど、現在の状況に対する矛盾が発生する」

過去にタイムスリップし、過去の自分を殺して自分も消えた男の話がある。それと似たようなものだ。

「さっき琴音さんが言った様な、人外を始まりから消す、ということを実際にすれば、確かに人外は消えます。ですが、あの『正義の味方』が『正義の味方』として存在する理由も、その始まりからなくなります」
『大いなる矛盾ね……』

サクヤはそう言いつつ、内心では別のことを考えていた。
もし、パニ・シーの能力にそのような制限がなかったら? 事実、ランカの「異能耐性」は代償として抵抗力を奪ったが、長い療養の末に彼女は不安定ながらも健康を取り戻した。ならば、同じ事がパニに起きないとどうして言い切れる?

〈……これは、さすがにまずいかも知れないわね〉

下手をすると人外どころか、いかせのごれそのものの存亡にかかわる。彼女が持っている力は、それほど大きい。もちろんこれが事実である確証はどこにもないが、警戒するに越したことはなかった。

「何か縛りはないのかしら……たとえば『消したい事実を自分がきちんと事実として認識している』とか」
「なくはないですが……どうでしょうか? それこそ神のみぞ知る、ですかね」

二人が話している間に、サクヤはすっ、と姿を消した。向かうは―――。


聞こえないカウント・ダウン

(どちらにしても、確定が一つ)
(黙って消される理由は、存在しない)



「……あら? サクヤさん?」

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最終更新:2011年10月12日 14:00