「僕は知ってるよ。」
私服の彼女はそう呟いた。
「皆が僕や『僕の兄(ボク)』について詮索してること。でもそれは無駄な話さ。」
腰に巻いたジャージと、黄緑の髪が風になびく。
「『僕の兄』も僕自身も分からないことが、どうして他人に分かるんだろう。そうは思わないかい――、」
彼女はおもむろに振り向き、呟いた。
「…人外。」
『!』
「何の用かな?まさか、自分から僕に殺されたいってお願いに来たとか?」
『そんなわけないじゃない。私は死ぬ気なんてないから。』
「ふーん。それは残念だなぁ。」
相手が誰だか分かっているのか。彼女はのんびりと言う。
「それで、何の御用かな?言っておくけど、僕の正体知ったところで関係ないからね?」
『記憶を『なかったこと』にするからかしら?』
「御名答。流石に無知できてるわけじゃなさそうだね。」
けらけらと笑う彼女。そのままなにも警戒することなく、壁に寄りかかった。
「ま、今の僕たちじゃ君はどうにもできないから、今日はゆっくりお話ししようよ。」
『…。』
警戒するサクヤだが、それとは裏腹に彼女は呑気に語りだした。
「僕の能力って使い勝手が悪くてさ、混乱すると何を『なかったこと』にすればいいかわかんなくなるんだよね。」
相手が聞いているか否かなんてお構いなしである。
「これが間違ったら大変だからね。世界の原理に矛盾を作っちゃいけないじゃないか。」
そのくらいの意識くらい僕にもあるよ、と彼女は笑う。
『…どうして、あなたは人外を敵視するの?』
「どうして?決まってるじゃないか。」
『貴方のお兄さんが人外を敵視するから?』
「それもあるよ。今の僕にとっては『僕の兄』が全てさ。でもね、もうひとつ理由がある。」
彼女はおもむろにナイフを取り出し、手の内で弄びだした。
「『僕の兄』はね、人外のせいで『僕の兄』自身を失った。」
『自身を…?』
「そう。それが『僕の兄』が『正義の味方(ボク)』をしている理由で、存在意義。」
どういうこと、と訊こうとしたサクヤを制し、彼女は言った。
「だって、これ以上人外が人間をいじめるのはかわいそうでしょ…?」
狂ってる。
最初からわかっていたであろう事なのに、狂ってるとしか言いようがない。
しかし、これで少なくとも彼女の、そして「人外狩り」の行動の理由に近づいた。
彼らの行動は「復讐」に近いものなのだ、と。
「…さぁて、お話はこれくらいかな?」
彼女は立ち上がった。サクヤは身構える。
『私の記憶を『なかったこと』にする気?』
「そうそう。あ、因みにその体に攻撃してもダメージが無いとか、関係ないから。」
『!?』
「僕の力は『時間軸から事実を消すこと』。対象が離れてようが、『なかったこと』にできるんだよ?」
サクヤの視界が、急に真っ暗になった。
カウント・9
「僕はもっともっと、この力を知らないといけないなぁ…。」
最終更新:2011年10月12日 14:01