何の変哲もない、いつもと同じのんびりとした日。
ショウゴはたまたま保健室でタマキと雑談をしていた。
その雑談は、慌ただしい足音と叩き付けるように開かれた保健室のドアで止まった。
教諭に抱えられた女の子が飛び込んできたのだ。
ショウゴは、ミキヒサに抱えられたミクの姿を見て、思考が一瞬停止した。
(あれは・・・あの時の! 何があった、まさか・・・)
ミキヒサがタマキに状況を説明している間、ショウゴは必要なガーゼや絆創膏、
包帯などを用意して渡していった。
あの日。
ミクが万引きをしようとしたのを止めた時の怯えた顔。
しどろもどろだった自己紹介。
泣きだしてしまったミクを宥めた背中の感触。
『いじめられたら相談に乗ってやる』と言った時の事。
全てが鮮明にフラッシュバックする。
いじめの事は知っていた。だが、此処まで酷い事をするなんて。
いじめで一番酷いのは、精神的なものだ。
だが、決して肉体的な暴力が酷くない訳ではない。
精神的なものには干渉がしづらい。本人が何とかして
乗り越えてくれる事を望んでいたのだが・・・
(こんなになるまで暴力を振るうか、普通!?)
硬く固く握りしめられた拳に、タマキは気付いていたが何も言わなかった。
処置が終わったのを確認し、走って保健室を出ようとしたショウゴの腕をタマキが掴んだ。
「どこに行く。」
「どこだっていいでしょう。」
「拳を開け。お前、こんな硬い拳で人を殴るつもりか。」
「!」
「暴力で解決する事じゃないのは分かってるんだろが!」
「だからって許せるんですかアンタは!」
ショウゴは声を荒げる。その剣幕にタマキは面を食らう。
「あの子はそれ以前も相当のイジメに遭ってたんだ!
いくら精神的な嫌がらせをしてもあの子が我慢をしていたから
エスカレートしたんでしょう!?
あんな・・・あそこまで酷い一歩的なリンチ、許せるわけが無い!
同じ目にくらい遭わせてやらなきゃ、イジメをやる奴はやられる奴の
気持ちも分からないし懲りない!違いますか!」
「だからといって、暴力が肯定される事は無い!」
「上等だ、そんな程度の正義なら犬にでもくれてやる!正しい事がいつも正解とは限らねぇだろ!」
そう言うと、ショウゴは空きっぱなしの扉をバシンと閉めると廊下を駆け抜けていった。
そして、見つけた。
ゴミをぶちまけられたらしきトウヤ、それをやったらしきイジメの張本人。
そしてそれを取り囲むナギ達。
「てめぇらかぁぁぁぁぁぁ!」
ショウゴは走りながら拳を振り上げ怒鳴った。
だが、その拳が振り下ろされる事は無かった。
「邪魔すんな!」
「いきなり何すんだ!」
ナギが進路を塞いだからである。ぶつかる前にショウゴは止まった。
「コイツら、一年のハリマに超ド級のイジメをやりやがった!
精神的なモンが効かないからって暴力までだ!今あの子はどこにいると思う?
保健室で寝てんだよ!この馬鹿野郎共のせいでな!」
「なっ!」
「退け、こういう奴らは自分が同じような事をされなきゃ痛みがわかんねぇ!
懲りねぇ!同じ目にしてやらなきゃ」
「いいわけねーだろ!頭冷やせ柔道部部長!」
すでにショウゴの剣幕でイジメの張本人たちは腰を抜かしている。
元々ナギ達に追いつめられていた事もある。しかしただの怒気だけではない、
明確な『殺意』がショウゴに現れていたからでもある。
と、張本人達の一人が指を刺す。
「な、何が寝てるだよ・・・元気に逃げてくじゃねーの・・・」
ショウゴは窓の外を見た。確かに、ミクが校門へ走って行くのが見えた。
しかし、『元気』ではなかった。後ろ姿は小さく、確かに涙していたのが、
視力3.0のショウゴには分かった。
「な、なによアンタあんな子の方持っちゃって…。」
「あんな子が好みなの?」
「やだ、キモーイ。」
何を思ったのか、調子に乗る虐めた張本人達。
だがショウゴは再び憤怒の形相で虐めた張本人達を睨むと、一言呟いた。
「 」
その言葉の直後、ショウゴは窓から外へ飛び降りた。
その場に残った、ガタガタ震えるイジメの張本人達とナギ達を残しながら。
(もう一回・・・話す必要がある、いや義務がある!
あの子に俺は『相談に乗る』って約束した!
それに…こんなに皆が気にかけてくれてんじゃねぇか…!)
駐輪場の自転車に跨ると、とんでもない勢いで走りだす。
ケイスケが走って行くのが見えた。
二年の変わり者と評判の
ゴクオーが上空から追っかけて行くのも見えた。
タマキやミキヒサ、ノノカやトウヤ達だっている。
きっと、ミクを支えるのに人が足りない事は無い。
話をする為に追いかける。止める為に追いかける。
ショウゴの自転車は、ミクの隣で止まった。
驚いてショウゴを見上げるミクと視線が合う。
「あ・・・。」
「相談しろって言っただろ。ちょっと待ってな。」
傍の自販機でジュースを4本買うと、一本をミクに渡して残りの二本を自転車のかごに入れた。
勿論カゴに入れたジュースは見張ってる彼と追いかけてる彼の為のもの。
最終更新:2011年10月14日 06:23