ーいかせのごれ商店街・裏路地ー
「ぐぅっ‥」
腕を押さえてうずくまる男が一人。その手には大型ナイフが握られている。だが、ナイフの握られた手は不自然な方向に曲がっており、明らかに折れているのがわかる。
「‥だから、言ったのにさ。」
それを見下ろしているのは買い物カゴを下げた神社の巫女・明夢だ。
「私に迂闊に攻撃するとそうなるよ。それと、何度説得されても私はあなた達の組織に入る気も無ければ協力する気も無いよ。」
らしくない口調で男に語りかける明夢。
あらゆる衝撃を反射する超能力。相手の振り下ろすナイフの衝撃を反射してしまえば結果はこうなる。何せ自分が振り下ろすナイフの衝撃とぶつかった物の反発作用の合計の衝撃を反射させられるのだから。
「は‥反射しているのか‥?自分への‥ダメージを‥?」
「いやいや、確かにそれも合ってるけど具体的にはエネルギーの向きを操ってる感じかな。」
男の質問に、明夢は事も無げに答える。
食材補充の為に商店街に訪れた明夢だが、そこで今の男と出くわしたのだ。男の目的は明夢を暗部組織への勧誘かつ断られた時は抹殺しろとの命令の遂行にあったらしい。男は曰わく暗殺やスパイを生業としている雇われであるらしいが、明夢の力の前ではその技は一切通用しなかった。
明夢は自分から何かした訳では無く、勧誘を断わったら襲撃されたので、その攻撃の衝撃を反射しただけなのだ。
「それより私の質問に答えて欲しいね。何で私が超能力を持ってるって知ってるの?」
明夢が口調をほんの少し強めて男に問う。すると男は驚いたような顔をして、
「何故お前が超能力を持っている事を知ってるかだって?そりゃお前さんのその力『ナイトメアアナボリズム』は一度死んだ人間が持つようになるモノだからな。」
「死んだ事まで知ってるんだね。どうも話が分かり易いや。ナイトメアアナボリズム‥それがこの力の名前か‥死んだ人間が蘇って、その死因に関係する事を超能力として扱えるようになる‥私が体験した事を照らし合わせるとそんな原理かい?」
明夢は少し嫌な顔をして言う。
「頭の回転が早いな。概ねその解釈で間違いは無い。まだウスワイヤには情報は渡っていないが、そんな強力な超能力はすぐにバレるだろう。」
男はそこら辺に転がっていた木の棒を添え木にして、折れた手首をポケットから出した包帯で固定する。
「だからあなたの言う組織『
ホウオウグループ』に入ればウスワイヤに保護される事もないってわけ?遠慮するよ。私はこの力を戦争や侵略の道具にはしたくないし。むしろ、そのホウオウグループが超能力者の差別、酷使をしてるなら私は迷わずその組織を潰す。」
明夢の語気が更に強くなる。明夢としては超能力者の差別や軍事利用をするような連中を許して置けない。故に彼女の意志は曲がらない。
「周りには妖怪『
天津黒主之命』や二重人格者『姫守真奈』か。新しい超能力者勢力『神社』でも創る気か?」
「クロコと真奈の事も把握済みか。超能力者と超能力者じゃない人々が平等な世の中を創るのに必要ならね。」
明夢は迷わない。
明夢は自分のやりたい事、成し遂げたい事に対して一切の迷いを持たない。その為に命を賭けることも厭わず、時には非情になれる覚悟も出来ている。
それが赤城明夢という人間のアイデンティティだ。
「はぁ‥まぁ俺はただの連絡役に過ぎない。だが、恐らくこれでは終わらないぞ。俺のような雇われの下っ端じゃなく、正規のアースセイバーやホウオウグループの幹部が差し向けられるだろうな。」
「それでも、私は私の我を通す。」
今更それ位で折れる明夢の意志ではなかった。
ー神社ー
時刻が12時を回った頃、明夢は自分の神社である『叢雲神社』に帰り着いた。
「お帰りなさい、明夢さん~」
「やぁ明夢。思ったより遅かったね。」
今日は真奈が神社に来ている為、真奈が境内を掃除してくれていた。その奥の縁側に座り、新聞を読んでいるのは妖怪鴉・天津黒主之命こと、クロコだ。
「ああクロコ。しばらく神社内の結界を強めてくれるかな?」
「‥何かあったのかい?」
結界。明夢が超能力者であるのに見つからない理由は、クロコが超能力者の力が外に気付かれない結界を神社に張っているからだ。クロコが『陰陽思想・式神の不可視化の応用』とか言っていたが、ぶっちゃけ妖怪ならではの技能など、明夢には理解出来るわけがないのだ。
「‥そりゃまた物騒な話だ。しばらくは買い物も真奈に任せた方が良いかもね。」
とりあえず明夢は事の次第をクロコに説明する。クロコの言うとおり、しばらくは買い物に商店街に行くのも控えた方が良いのかもしれない。
「まぁ、敵さんも神社の巫女とまでは行き着いてるけど、いかせのごれだけで神社はたくさんあるし、ここがバレるのはそうそう無いでしょ。」
クロコの隣に腰掛け、お茶を飲みながら明夢が言う。
「そうですね~明夢さんは窮屈な思いをしてしまうかもしれませんけど‥」
掃除を終えた真奈が明夢の隣に座る。
「こりゃしばらくウスワイヤへの干渉もやめた方が良いかな。また魔嗚や真奈と作戦を練り直そう。まぁ、明夢が本気を出せば歩いてるだけで一組織位は壊滅させられるだろうけど。」
「別に破壊するのが目的じゃ無いしね。私がやるのはあくまで調査だから実害は与えたくないね。」
確かにあらゆる衝撃や衝撃を伴うモノを反射出来る明夢なら出来るかもしれないが、調査をする為に来たのに壊滅させては意味が無い。逆に明夢の性格上、そういった荒事は極力避けるはずだ。
「それに、私の超能力は完璧なんかじゃない。『衝撃を伴わない攻撃』ならいくらでも受けるしね。」
そう、明夢の能力は絶対的な壁ではない。
例えば酸素の無い部屋に放置されれは普通に窒息するし、マグマの中に落ちれば普通に焼け死ぬ。明夢の能力が及ぶのは、あくまで衝撃を伴うものに限るのだ。
「まぁ、そんな都合のいい超能力なんてあってたまるかって感じだしね。」
「うん。もしそんな馬鹿げた能力だったら今以上に気を使わないといけないだろうし。」
パキッと手にしていた煎餅を割り、口に運びながら明夢が言う。ただでさえ扱いに困る超能力を持っていると言うのに、これ以上強くなったとしても持て余すのは目に見えている。
とまれ作戦も含めて一度白紙に戻ってしまった。とりあえずは警戒が薄れるまで行動を起こさず、明夢は外出を控えるという方向でまとまりそうだ。
が‥話はそう上手く行きそうにも無い。
「君が赤城明夢か‥新興超能力者集団『神社』の中心人物。」
「‥さっそく厄介事か。あなたは誰?」
明夢は面倒くさそうに神社の階段の方を向く。
そこにはスーツ姿の男が一人立っていた。黒いやや短めの髪に切れ長の眼を持った30歳手前位の男だ。
「『衝撃の悪夢』の赤城明夢か‥一体どれだけ危険なのだか‥」
最終更新:2011年10月14日 14:06