張間の示したいじめの「原因」を見て、一瞬言葉を失った。汰狩先輩も同様だったのか、目を見開いている。
いや、これはどちらかといえば予想外だったからだ。
そして、本人は自分を「一度死んだ」という。ならばこれは、
(ナイトメアアナボリズムか……)
髪がトゲとなって右手を貫いた。ならば茨、いやこれは「針」だ。「針の悪夢」とでも言うのか。
(「死因」は何だ? ……髪が針に……生体兵器絡みかも知れんな)
つらつら考えたが、無意味だと打ち切る。張間がこうしてここにいる以上、その「原因」は既にこの世界にいない。
「蒼崎、そんな怖い顔するなって」
「……これは地顔です」
目つきがよくないのは重々承知の上。そんなことよりも、今は張間だ。
とりあえず、座る。
「実際問題、どうする? 汰狩先輩」
「どうするも何も……これじゃあ、な」
基本的にはウスワイヤ預かりだが、恐らく……そう、玉置先生辺りはこの事を知っていてもおかしくないだろう。それでまだ張間が「一般人」として学校にいるということは、まだそこまで話が行っていないということだ。
それに、俺自身ウスワイヤの介入は出来る限り避けたい。あれは、ある種の最終手段だ。
それよりも、だ。
「む……張間、ひとつ聞いていいか?」
「は、はい」
「その能力がいじめの原因だと言ったが……悪いが、それがどういじめに結び付くのかが俺には、よくわからん。分かる限り、話せるだけでいいから、教えてくれないか?」
「…………わ、わかりました」
しばらく張間が語った所を簡単に整理すると、こうだ。
なぜアナボライザーになったか……はとりあえず関係ない。そうなってからしばらく、恐怖が込み上げると能力が勝手に発動して他人を傷つけることがざらにあったらしく、そのせいで流れた噂が原因の一つ……ということだ。そして、その噂は俺も耳に挟んだことがあった。
「触ると怪我をする一年生がいると聞いていたが……お前のことだったのか」
「ご、ごめんなさい……」
「謝ることはない。お前が悪いんじゃあ、ない」
そうだ、張間の能力が原因ではあるが、彼女に責任があるわけじゃあない。
何となく、ぽん、と頭に手を置く。
「え?」
「……張間、お前はいい奴だ。痛い目にあっても、苦しいことがあっても、決してその力で誰かを傷つけようとはしなかった」
「そ、それは……でも」
「自分のせいだから、というのはナシで頼むぞ? 汰狩先輩が言ったはずだから、な」
先んじて逃げ道を潰しておく。全てを自分の責任にして背負いこんでいては、誰のためにもならない。
「そうやって自分のせいにしているのは簡単だが、それで何か変わると思うか? 何も好転はしない。今のまま、続いて行くだけだ」
「……じゃあ、どうすれば……」
「いじめた連中はいずれ相応の報いが待っているだろうから、とりあえずはお前自身が変わらなければな」
「……蒼崎、何気に恐ろしいこと言ってないか?」
若干引いた様子で汰狩先輩が言うが、俺は怯まない。
「因果応報。行いには、必ず相応の報いがあるものなんですよ、先輩。善にしろ、悪にしろ、ね」
「……そういうものかな」
そんなもんですよ、と返して話を続ける。
「すぐには無理だろう。だから、少しずつでも変わって行けばいい。……これからは俺達がいる。少なくとも、覚えておいてくれ」
「一人じゃない、ってことをな」
偽善者、フル稼働する
(気の利いた台詞は知らない)
(だから、とりあえず思ったままを言っておく)
(今は、これくらいしか出来ないから)
最終更新:2011年10月24日 09:00