※一部【グロ注意】
ストラウル跡地で、追いかけっこをしている人間がいる。
逃げているのは、中肉中背でサラリーマン風の男、
鬼は、黒に身を包んだ青年だ。
必死の形相で逃げる男と対照的に、鬼は酷く冷酷で息ひとつ乱していない。
男は転び、立ち上がれずに鬼を見れば、それはすぐそこに居た。
「た、頼む!殺さないでくれ!」
「……。」
「誰に雇われた?金なら出す、見逃してくれ」
恐怖に身を強張らせながら、男はへらりと笑って見せた。
間を詰めながら、鬼は無表情のまま口を開く。
「悪いが、こっちは信頼関係が命なんだ」
「なっ……!?」
「あんたに恨みは無いが、運が悪かったと諦めてくれ」
一転変わって青ざめて今にも発狂しそうな男に、鬼は鉄パイプを振り上げる。
そして、鉄パイプは男にめり込み、内臓物がはじけ飛ぶ。
心の臓まで届いたのだろう、鮮血は何もかもを赤く染めた。
ずるりと鉄パイプを抜けば、男だったモノは前のめりに倒れる。
―――ああ、なんて脆いのだろう
青年は、物言わぬ肉片をじっと見つめて、目を閉じた。
「お前、何してるんだ」
背中から、女の声が聞こえた。
振り向けば、そこには真っ赤な髪の少女が居た。
その凛々しさは男のそれと見間違えそうになるが、学生服から女だと理解する。
「何者なんだ、どうしてこんな事をする」
「ただの仕事だ」
「……殺し屋か何かか?」
「そんなものだ」
「なら、僕はお前を見逃すわけにはいかない!」
赤髪の彼女は、何もない空間から光る剣を生み出す。
まるで手品のような所業に、思わず青年は息を呑む。
その剣をひと振りして、彼女は青年に襲いかかった。
それを手に持つ獲物で弾くも、彼女の攻撃は止まらない。
「見逃してくれないか?無益な殺生は主義に合わない」
「心配しなくていい、僕はまだ死なないし、君を殺さない」
鋭い斬撃を寸での所で避けていく、が、彼女の強さは並はずれていた。
青年が鉄パイプでガードすると、彼女はそれをいともたやすく一刀両断する。
その攻撃は鉄パイプだけではなく、青年の胸をも切り裂いた。
「っ…!」
よろめく青年に追い打ちをかけようと間を詰める彼女。
しかし、
「う、おおおおおお!!」
「っ!?」
青年は短くなった鉄で彼女を薙ぎ払う。
それと共に彼女の体は宙に浮き、地面に叩きつけられた。
「かはっ!」
人間とは思えぬほどの力で飛ばされた為対応が遅れたのか、
彼女が起きあがった時、青年の姿は背中が遠くに見えるだけだった。
「待っ…」
追いかけようとして、事の発端となったモノが目に留まる。
前のめりに倒れ、もう二度と動く事は無いであろう「元人間」。
このままほおっておけば、彼の弔いは何時になるのだろう。
「……通報、しなきゃ」
彼女がそう思った時には、既に青年の姿は見えなくなっていた。
* * *
青年は、赤髪の少女から逃げ切った事を確認すると、路地裏を選んで座り込んだ。
胸には、先ほど受けた傷が涙を流している。
傷を負うのは、死んだ日以来か。
懐かしさすら感じる痛みに、青年は苦笑する。
「っ、は……」
考えてみればこの傷は、今日の仕事で与えたそれと同じ場所にある。
なんと滑稽な偶然だろう。運が悪かったのは、自分の方だったのだ。
しくじったと反省し、血を拭って胸を押さえながら立ち上がる。
「ぐ、……ぅ」
ふらりと立ち上がり、彼はまた歩きだした。
これが災難の始まりだとは、まだ知らずに。
お仕事一転び
最終更新:2011年10月28日 16:41