「ありーゃりゃ、こりゃりゃ、何だこれーは?」
放課後のいかせのごれ高校屋上。誰もいないそこに、おかしなイントネーションの声が響く。入口のドアを開けて突っ立っていたのは、紫のフレームの四角いメガネをかけた男。
「なーんかあったみたーいな、これーは」
妙な所で溜める変わった喋り方の男は、石畳に目を落とす……というか、腰をぐぐっと折り曲げて顔を近づける。
(薄くなってるけどこれは血の痕……なんかここも物騒なー)
内心の声は普通なのだが、表に出る声はこの通り。
「まー、そんーなことはどうーでもいいか。休憩、休ー憩」
ちっとも疲れていない様子の男は、柵によりかかると「ふぁああぁ~あ」と大きくあくびをする。
「いかせのーごれも騒がしーいけど、俺にとってここは面ー白いからなーぁ。まあ、ワイはいつーも通りにやっーっとればええか」
全く一定しない口調の裏で考えるのは、来る途中ですれ違った長髪の男。
(何かな、アイツ……変な感じがしたなぁ)
本心から笑っているのに、なぜか好意が持てない。そんな男だった。
(あんなおかしな奴、そうはいないんだがなぁ)
自分がその「そうはいない」の典型だということは、ひとまず無視しておく。
「まぁ、いーいかな。どうーせあたしには関けーいないですし」
よっ、と身を起こし、出口に向かう。出際に扉を閉めようとして、
「おぉ、そうーだ。こいつーに能力をつけーたらどーうなるかな」
言いながら屋上に戻り、扉を閉める。ノブを握ったままの手に「ぽん」と意識を投げ、そして開ける。
「さぁーてどうなーるか……あら?」
出た先は、なぜか屋上だった。
「おっかしーいなぁ? ドアを開けーて、よいしょっと……」
戻っても屋上だった。
「ありーゃー? ありゃーりゃー? どっちも屋上ー!?」
右を見て左を見て、
「ぬおーおおおーおお!?」
扉を潜り、行って戻ってを繰り返す。傍から見ると、男が物凄い勢いで出たり入ったりしているように見える。
どれだけそんなことを続けたのか、やがていい加減男の息も上がる。
「ぜーはーぜーはー……もーう、いーや!」
言うが早いか、業を煮やした男は扉を閉じると、
「うおーりゃああああ!!」
力任せに蝶番を引きちぎり、うりゃーっとグラウンドに投げ飛ばす。そして視線を戻すと、そこにはきちんと階段が見えた。
「よーし、よし。ではー帰ーろうかね」
ふらふらと去って行く男は、自分のしたことの結果など、全く省みていなかった。
迷惑千万の男
(翌日、いかせのごれ高校では)
(グラウンドに突き刺さった屋上のドアが発見されたとか)
最終更新:2011年10月29日 23:47