みく、省吾、啓介の三人が会話していた頃、公園の入り口の影で偶然にもそれを聞いて唖然としていた少女がいた。
モエギである。
(張間…お前も…)
「一度死んだ」と聞いた瞬間、モエギは開いた口が中々塞がらなかった。
まさかクラスメイトも自分と同じ能力を持っていたとは、微塵にも思わなかったからだ。
(張間…)
とにかく気弱で、悪いことしてないのにすぐ謝る。
でもそのぶん優しくて、我慢強い。
それを知っていたから、自分はみくを助けていた。
そして知っていたからこそ、自分が余計にちっぽけに思えてきた。
(あたいは悪夢に目覚めた途端、いつも通り学校に通って、いつも通り振る舞うのが怖くなって…自分がやっている事が正しいのか分からなくなって、だから学校をやめた)
「でも」とモエギは思う。
(張間は違う。あいつは悪夢に目覚めても学校に通い続けた、自分らしく振る舞った。どんな事をされても我慢し続けた。それにひきかえあたいは…)
「…おい」
「!」
「どうした? 蒼崎」
「…入り口の影に人がいる」
「何?」
「出てこい」」
(…しょうがねえか)
おとなしく姿を現すモエギ。
すると啓介は少し驚いた様な表情を浮かばせた。
「お前は…」
「チカちゃん!」
声を上げるみく。
モエギはばつの悪そうな顔をした。
「知り合いか?」
「元クラスメイト…です」
「元?」
「…中退したんだよ。1ヶ月前に」
みくの代わりに省吾の疑問に答えるモエギ。
「それで? お前もあいつらの仲間なのか?」
「あいつら? ふざけんな、あんな連中と一緒にすんじゃねーよ。あたいは張間のダチだ」
啖呵を切るようにモエギは返した。
「それより張間、お前…能力者って…」
「…本当だよ」
「……そうか」
「ご、ごめんなさい…」
「なーんで謝んだよ」
「あ、えと、ごめんなさ―――」
と、みくの言葉を遮る様に、モエギの手がみくの頭に乗せられた。
「だーかーら。お前はなんも悪くねーんだから、謝る必要ないんだよ。分かったか?」
「でも…」
「お前の事はあたいもよく知ってる。あたいだけじゃない、冬也も緑音も
ユウトも優池も、みーんな知ってる」
「チカちゃん…」
俯くみく。
モエギはそのみくの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ほら泣くな。お前は一人じゃないんだから、全部一人で抱え込むなよ」
「あ、ありがとう…チカちゃん…」
そこでモエギの目に力が入った。
「…張間」
「何?」
「お前さっき、『一度死んだ』つったよな?」
「う…うん」
「…実は、あたいもなんだ」
「え?」
刹那。
モエギに変化が起こった。
萌葱色の髪がまるで剣の様な鋭さを帯び―――否。
剣そのものと化したのだ。
みくと省吾はその光景に、そして次の言葉に驚愕する。
「あたいも、『死んだ』。そして生き返った…この力を身に付けてな」
髪の剣を動かして見せるモエギ。
二人は唖然としていたが、啓介は至って冷静だった。
モエギはそれを見て言う。
「ま、蒼崎はアレだから知ってるけど」
「そうなのか?」
「まあ…な」
やや言葉を濁す啓介。
「チカちゃん…」
「…あたい、知っての通り正義感が強いからさ、つい困ってる奴や辛い思いしてる奴ほっとけねーんだよ」
「うん、知ってる…いつも助けてくれたよね」
「…そんで、いつも通り虐められてる奴助けて…そしたらその日の放課後…殺された」
「え…」
「…まさか、虐めをやってた奴か?」
省吾が言った。
「そうだ。『ヒーロー気取りウザい』とか『偽善者は死ね』とか、明らかに逆恨みの言葉を口走って、鋏で髪ごとあたいを斬ったり刺したりしてな」
「それで髪が剣みたいに…」
「ああ。…っと、そいつが虐めてた奴ってのは、張間じゃないからな。気にするなよ」
「う、うん…」
剣になっていた髪が急にはらりと揺れる。
元の普通の髪に戻ったのだ。
「だけどそれで、自分がやってきた事が正しかったのか分からなくなって…自分に自信が持てなくなって、学校やめたんだ…それからずっと、人を助ける事に迷ってて…」
「そうだったんだ…」
「…でも、やっぱり間違ってた」
モエギの目に強い光が宿る。
「そんな奴らなんか関係ない。助けた奴にとって不幸じゃなきゃ、あたいがやった事は正義に代わり無いんだ。それに、学校をやめた時点でそいつらを見捨てた事になった」
「チカちゃん…」
「今更行動しても、報いになるか分かんねえし、なるとも思わない。でもそいつらを二度と見捨てたくない―――その中にいるお前も。だから」
「また、助けてやるよ。張間」
萌葱色の剣士の決意
(その言葉に泣く臆病の頭を)
(剣士は優しく撫でる)
(優しく 優しく撫でた)
最終更新:2011年11月04日 15:22