マナちゃんを連れて帰って来てから、お母さんがどんな話をしてたのかは知らない。
『上にいなさい』って言われたから、部屋で大人しくしてた。
アズールはちょっと前から狐に戻って夢の中だし、ちょっと退屈。
けど、
「……マナちゃん、何で急にいなくなったのかな」
友達のことが、今は心配だった。
お母さんと入れ替わるようにして姿を消した、私の友達。どこに行ってたのか、何でいなくなったのか。聞きたい事はいっぱいあった。
でも、それはお母さんのお話が終わってから。お父さんの時みたいな大きな声は聞こえて来ないから、多分酷く怒られてるわけじゃないと思う。
「!」
ノックの音。終わったのかな?
「はい、どうぞ」
「入るわよ」
がちゃり、とドアを開けて、お母さんとマナちゃんが入って来た。何だか、落ち込んでるような、違うような、複雑な顔してる。どうしたのかな。音を聞きつけて、膝の上でアズールが目を覚ましたのが分かった。
「……ランカ、後はお願いね」
「え?」
だけど、お母さんは意味ありげに笑っただけで、答えてくれずにそのまま下に降りてしまった。
どうしていいかわからなかったけど、とにかくマナちゃんに話しかけて見ることにした。
「……えと、とりあえず座って?」
「……」
無言のまま座り込む、マナちゃん。ホントにどうしたのかな。
「……お母さん、何て言ってた?」
「…………」
『どうしていなくなってたのかは、訊かない事にするわ。悪気があったわけじゃないみたいだし、ね』
『………』
『でも、ランカも私もアズールも、心配してたのよ? 私はもういいから、ランカとアズールに謝って来なさいな』
「……って」
「マナちゃん……」
「……心配かけて、ごめんなさい」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
「いいよ。ちゃんと戻ってきてくれたから」
「さいでんな。マスターがええんでしたら、ウチも言う事はあらしません」
けど、訊きたい事はあった。お母さんはあえて訊かなかったみたいだけど、私は知りたい。
「……でも、どうして急にいなくなっちゃったの? ホントに心配したんだよ」
「…………」
一秒、二秒……何秒かの空白を置いて、マナちゃんが口を開いた。
「……守りたかったの」
「え?」
「私がここにいれば、『あいつら』がまた襲ってくる……」
「……だから、出て行ったの?」
こくん、と頷き。
「そうすることで、ここから目が離れるのなら……私は、どうやってもあなた達を守りたかった」
「………」
―――やっぱり。
まだ少ししか話したことがないけど、マナちゃんが優しい人だっていうことはわかる。きっとそうなんだろう、って思ってはいた。
でもね。
「……言ったよね、私。マナちゃんは一人じゃないって」
「………!」
「私はまともどころじゃなく戦えない。お母さんもお父さんも、いつもいるわけじゃない。でもね。……それでも私は、マナちゃんと一緒にいたいよ?」
「ランカ……でも」
「マナさん、ちょっとええですか」
突然アズールが口を挟んで来た。何だか強い調子だけど、言いたいことがあるみたい。
「……なに、アズール」
「期間が全然違いますけど、同じようなことやった身として、一つ言わしてもらいますわ」
「………」
「誰にも、何も言わずにおらんようになるっていうのは、残される身には偉う辛いもんでっせ。ウチも、アカネさんやマスターに言われてようやっと気付きました」
「……」
「マスターやウチらを心配してくれるのはありがたいです。せやけど、勝手にいなくなるんがアンタの気遣いですか? ……もし、出て行った先でアンタが連中に殺されるようなことがあれば、マスターはそれこそ死ぬまで悔やみますで」
「!」
「アズール……!」
咎めるように強く呼んだけど、アズールは聞かなかった。
「……何が正しいのかはこの際おいとくとしても、これだけは言うときます。出て行くことで解決するもんなんて、一つもありません」
沈黙。それから、どれくらい経ったかな。ちらりと時計を見たら4分くらいしか経ってなかったのに、30分くらい経ったと思ってた。
「……ごめん、なさい」
「……いいよ」
たった、一言。でも、それでよかった。
「……ランカ、訊いていい」
「?」
「アカネさんは、こうも言っていた」
『……でも、出て行ったとして、行く所はあるの?』
『……問題はないです。雨露がしのげる屋根があれば、どこでも』
『そんな無茶な暮らしが認められるわけないでしょ!? 何考えてるの』
『私は「波動」を使う能力者です。それに、ここに来るまではそんな暮らしでしたから、慣れたものです』
『……決めたわ。マナちゃん、ここに住みなさい』
『え?』
『年頃の女の子を、しかもランカの友達をそんな宿なしには絶対に出来ないわ。いい、今日からここがあなたの家よ』
『………』
『わかったら返事をする!』
『は、はいっ』
話を聞いて思わず頭を押さえた。さすがというか、やっぱりというか……。
「お母さん……」
「……決断が早いですなぁ、アカネさん。多分、最初から決めとったんでしょうな」
多分、ううん絶対そうだと思う。
「……訊きたい。私は、ここにいてもいいの?」
何だか不安そうに、マナちゃんが訊いて来る。だけど、用意してる答えはひとつだけしかない。
「もちろんだよ。だって、友達でしょ?」
「まあ、アカネさんもマスターもええと言うとりますし。それに、ウチも歓迎です」
「…………」
不意に俯くマナちゃん。何かと思って声をかけようとしたら、
「…………あり、がとう」
震える声で、小さくそんな返事が帰って来た。
拝啓 家族が増えました
(一緒に、頑張ろうね)
(これからは、家族なんだから)
最終更新:2011年11月11日 19:04