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不幸少年、臆病と対談

「し、し、シガタさん!シガタさーん!見てコレ見てコレ!全力で走ったら購買一番に着いて大人気の焼きそばパ…ン…」

二年一組一の不幸少年、浅木旺花。
今日も気になる「シガタさん」に会う為に階段を駆け降り、廊下を走る。
そんな彼によって「ダァン!」と勢いよく保健室の扉が開けられた。
やけにハイテンションで保健室内へと足を踏み入れた彼だったが、自分の知らない人物が二人程いることにより大きな声は尻すぼみとなっていった。

「あぁ、おーちゃんいらっしゃい」
「……あ、えっと…」


保健室の主であるタマキににこやかに微笑まれ声をかけられるオウカ。
彼は勝利の勲章の如く掲げていた焼きそばパンをゆっくりと下ろしつつ、見覚えのない二人にちら、と目を向ける。
一人は、ショートカットがよく似合う女の子、なんだか明るそうなイメージだ。
そしてもう一人は、長髪の小さな女の子。
失礼だが、先程の女の子とはうって変わって少し暗そうなイメージがある。

二人ともあまり姿を見かけたことはない、まだ少し幼さが残っている、ということはどちらも一年生なのだろうか?

とにかく、突っ立っていても仕方ない。
そう思ったのか
オウカは近くにあった回転式の椅子に腰をかけた。

「えっと…初めまして」
「あ、はっ、初めまして!」
「……は……はじめまして……」

挨拶をすると、反応はそれぞれだったが、二人共返事を返してくれた。
ちょっと、嬉しい。

「彼は二年一組の浅木旺花君、通称おーちゃんだよ」
「あっ!タマちゃんセンセーそれ僕のセリフっすよー!」
「浅木、旺花…さん…私知ってます!」
「おっ?」
「あの…スポーツが出来るって有名な…」
「おおっ!」

ののかが楽しそうに笑みを溢しながら言葉を紡ぐ。
思わずガタッと椅子から腰を上げた。
まさか「不幸な人」ではなく「スポーツが得意な人」として自分を知っている人物がいるとは。
思わずにやけ顔になってしまうオウカ。

「えへへ、ありがとー。二人は名前なんて言うの?」

「私は緑音ののかって言います」
「…………張間……みく、……です」

───張間、みく?

─── あっ

「ハリマミク」

その名前を聞いた瞬間、不幸少年は息を呑んだ。
確かこの間、自分の教室で話題になっていたこの学校の「いじめ」の話。
その「いじめ」の被害者が、
そうだ、目の前にいるこの「ハリマミク」だったはずだ。

(いじめ、かぁ…)

オウカは椅子の背もたれに両腕を乗せ、それに口元を埋めた。
中学の頃「いじめ」について授業で何度も何度も話し合ったことがあるのを彼は思い出す。
「いじめ」を無くすにはどうしたらいいか。
「いじめ」を見たらどうするか。
そんな内容ばかりだった。
(皆「いじめ無くしたい」「助けてあげたい」とか言うけど、それを実際に行動に移してくれるのはほんの一部なんだよなぁ…)

偽善に溢れ返った不快な中学時代の教室、それに
はぁ、と溜め息をつく。
そして、「ハリマミク」へと視線を向けた。

「は、ハリマちゃん?」
「………っ……?」
「そのっ…大丈夫…?」
「え……」
「お、おーちゃん?」
「えっ、はっ…!あ、あああの…大丈夫?って言うのはッ!えぇっとッ!」

しまった。

オウカは心の中で後悔した。
いきなり「大丈夫か?」なんて話が飛びすぎにもほどがある。

(ど、どどどうしよう…!)

「いじめ」を受けている本人に
「いじめられていると聞いたから心配になった」
なんて言ってもよいものなのだろうか?
余計傷を抉ることにならないだろうか?
でも元気づけてあげたい。
でも、でも、でも。
ぐるぐる、ぐるぐると視界が回る。
ぐるぐる、ぐるぐる。

(ええい、こうなったらもうどうにでもなれ!)

「ハリマちゃん!」
「はっ、はいっ………!」
「ぼ、僕君の味方だから!」
「はっ…」
「だっ、だからいつでも先輩を頼ってきなさい!!!その、一週間に二回ぐらい交通事故に遭う先輩だけど!」
「あ、アサギ君…?」
「カラオケに行ったら曲が流れなくてアカペラで歌うハメになる先輩だけど!!」
「浅木先輩っ…!?」
「ドラクエやったらいつも冒険の書が消えてる先輩だけど!!!」
「ちょっ、ちょっとおーちゃん落ち着きなさい!」
「な、なんていうか不幸でも必ず嬉しいことはやってくるっていうかあああ!!」

思考回路がショートし、暴走モードに入ったオウカを、タマキが羽交い締めして落ち着かせる。
顔を真っ赤に染めペロペロキャンディーの模様のように目を回していたオウカだったが、羽交い締めされ数秒もすると煙を出すようにしながら力無く椅子へともたれ掛かった。

「はぁ、はぁ…」
「……あ、あの…」
「あ、あはは…ごめんね~…」
「い、いえ……そのぅ……」

息切れを起こしているオウカに、みくが初めて自分から声をかけた。
後輩にみっともない姿を見せてしまった彼は恥ずかしそうに苦笑する。
しかし、みくは小さくだが首を左右に振り、

「……ありがとう、ございます…」

予想だにしなかったその言葉に、少年は相好を崩した。


(困ってる人は助けてあげたい)
(そう思うのは、当然だよね?)

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最終更新:2011年11月12日 17:03