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朝、九時に。

昨夜、夜波マナという少女に相談に乗ってもらったユウイ。
マナのおかげでユウイは『今自分がどのような状況におかれているのか』『ホウオウグループとは如何なるものなのか』を知ることが出来た。

…しかし、ユウイの目覚めの気分は最悪だった。
髪や服は嫌な汗でねっとりと肌に張り付いている。

外にはそんな彼女の気持ちを嘲笑うかのような快晴の碧空が。
二羽の鳥がそれはそれは心地良さそうに羽を大きく広げ飛んでいた。

ボサボサ頭で寝惚け眼のユウイには、その光すらも不快で仕方なく。
窓の前に立つと、まだユウイが目を覚ます前に来た母親の手によって開かれていたカーテンを勢いよく閉めた。
光は閉ざされ、部屋の中は薄暗くなる。

「……学校休も」

ぼふっとベッドに倒れ込み、ひんやりと布団の冷たさを感じながら。ふ、と自然に出た言葉だった。
今まで休まずに登校していたから、皆勤賞を逃すことになるが。今はそんなことを言っていられる状態じゃない。

一日休んだだけでも勉強が追い付かなくなるかもしれない?
わかってる、そんなことわかってるから放っておいて。
今日だけ、今日だけは勘弁してほしい。

「ちょっとユーイー!?いい加減にしないと学校遅れるわよ!」

ユウイの部屋の扉が開き、母親が飛び込んできた。
いつまで経っても朝食を食べにこない娘を叱りにきた、とでもいったところか。

「……ち、悪い」
「え?」
「気持ち、悪い。頭痛い」

勿論全くのデタラメである。
いや、気持ち悪いというのはある意味では本当なのだが。
学校を休みたいが為につく嘘。仮病だ。

普通ならば親は布団をひっぺがし一喝して無理矢理にでも学校に行かせるところだが、母親は娘を起こそうなどということはせず。
「仕方ない」と大きなため息をついた。

「全く…ユウイは最近夜遅くまで起きすぎなのよ。今日はしっかり寝なさい!じゃ、私仕事行くからね?」
「ん…」

母親はそれ以上、何も言わなかった。
バタンと自分の部屋の扉が閉まる。
ユウイは顔を上げず布団の中、母親の足音が遠ざかるのを感じながら「ありがとう」と心中で呟いた。


(あなたに、人が殺せる?)

夜波マナに言われた言葉を思い出した。

人を、殺す。

(アタシが―――?)


殺人といえば。
今でも鮮明に思い出せる。

親友の見開かれた目。
食いしばられた歯。
震える拳、握られたもの。
刺さる、感触。

「っ――――!!!」

『あの時』の光景がフラッシュバックし、声にならない声を上げ両手で頭を抱えた。

(アタシが、アレをするのか―――?)

出来る、はずがない。
そんなこと。

そして友人達の顔が浮かぶ。

マサカズを始めとし、クラスメイトにイタズラを仕掛けていく、楽しそうなミユカ。
トキコに抱きつかれ満更でもないような表情を浮かべるスザク。
体育の時間、ファインプレー続出で拍手と羨望の眼差しを浴び照れ笑いを浮かべているオウカ。
その授業終了後の片付けでボールをぶっちゃかしていたが。
いつもその明るい笑顔で周りを和ませてくれるののか。
リオトと談笑するハヤト

スイネとは一度だけだが一緒に旅行に行ったことがある。
ユウイとスイネ、二人とも笑い上戸でドン引きされていたっけ。
他にも、友人はたくさんいる。

「――はは、あはは!」

そういえば、そんなこともあった。

彼らの顔を思い出すと、ほっとした気持ちと妙に浮き浮きする気持ちが溢れてきた。
そしてそんな気持ちが交じり合い、大笑いがこみ上げてきて。

ユウイは一人で大口を開け、涙が出るほど笑った。

「あはは、は…」

出てきた涙が頬を伝って流れ落ち、布団を濡らす。
大きかったユウイの笑い声は徐々に小さくなっていく。

そして、それは嗚咽へ。

「無理、だ…、出来ない…。皆を裏切るなんて――アタシには出来ない…!!出来ないよ!」


朝、九時に。


(彼女は一人で涙を流し続けた)
(薄暗い空間、一人で)

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最終更新:2011年11月23日 13:19