ストラウル跡地、とある廃ビル。
普通の人間であれば気味悪がって近寄らないそこを溜まり場としていた不良たちがいた。
そして、今日も馬鹿騒ぎを起こして楽しむ…はずだった。
溜まり場に突如現れた小柄な人影。黒い外套を被り、顔は見えない。
それが現れてから、不良たちの楽しい時間は終わりを告げた。
まず、入り口付近の仲間が人影と顔を合わせた瞬間に青ざめ、そのまま石化した。
そして、それからが地獄だった。
逃げようとする者、襲い掛かろうとする者。人影はその全てを次々と石にしていった。
ある者は一瞬で。またある者は自らが石になっていく恐怖を味わいながらじわじわと。
そうして、どのくらいの時間が経っただろうか。
「……あ…あ……」
今、不良の一人は、目の前の光景に戦慄していた。
仲間は全員石になり、生き残っているのは自分一人だ。
人影は、まだ動いている彼を見つけるとゆっくりと歩み寄る。
殴れば倒せそうな相手であるのに、それができない。
全力で走れば逃げられそうな相手であるのに、それができない。
命乞いも、脅し文句も、喉につっかえて出てこない。
まるで、何か強いものに圧しつけられたようだった。
「な、なんっ……」
がたがたと震える不良に、人影はゆっくりと近づいていく。
そして、そっと不良の顔を覗き込んだ。
「ひぃっ……!?」
外套の下にあったのは、蛇の顔だった。
金色の目が爛々と光っている。
言葉は発さず、
シューシューと不気味な息遣いが聞こえる。
それが、彼の見た最後の光景になった。
「………」
動くものが何もなくなった廃ビルで、黒い人影が一人立ち尽くす。
もう何もいないことを確認すると、人影は蛇の仮面をそっと外し、素顔を露にした。
「……ふう」
黒い人影―花丸は、小さく息を吐くと、石像と化した“元”不良たちを見やる。
仮面はいつの間にか小さな蛇に姿を変え、彼の腕に巻きついていた。
「……ありがとう」
そっと蛇を撫でると、蛇は応えるようにシューと鳴く。
そのまま、石像に背を向けると、廃ビルから立ち去った。
「ねぇ、聞いた!?不良がみんな石になってたって話!!」
「聞いた聞いた!」
「やだー、何それー…!」
翌日、クラスの女子がする噂話を聞いて、花丸は軽く肩を竦めた。
聞こえてくる内容によると、塾の帰り近道をしようとした生徒によって、恐怖の表情を浮かべた不良たちの石像を発見したそうだ。
最近流行りだした都市伝説のこともあって、新たな怪人の仕業ではないかとも囁かれているらしい。
(…参ったなぁ。こんなに早く見つかるなんて…)
目立つのが苦手であるため、誰にも見られぬよう細心の注意を払い、人気のない所に集まっている所を狙った。
そして相手は完全に石にしたというのに、まさかこんなに早く噂になるとは思わなかった。
(…僕はただ、動物をいじめていたあいつらをやっつけたかっただけ、なんだけどなぁ…人目につきたくはなかったのに…)
やはり石化させたあと砕いてしまえばよかったか、などと物騒なことを考えながら、小さくため息をついた。
(…まあ、今は侵話さんの方が目立ってるから、それは救いかな……地味に動いてれば、皆そのうち忘れてくれるよね)
机に突っ伏すと、誰にも分からぬよう一人小さく笑んだ。
小さな影、暗躍
(僕は侵話の影に隠れる程度でいい)
(目立たない存在、影でひっそりしているぐらいが丁度いい)
(けれど、影から牙を剥く)
(…そんな相手に、ご用心)
最終更新:2011年11月23日 13:22