「‥だが、それなら逆にあんたを倒しやすくなったかな?」
ミハエルの言葉。
「っ!?」
ガクン、と明夢の脚が力を失い、地面に膝をつく。その明夢の呼吸はやや乱れていて、身体からは嫌な汗が流れている。明らかに身体が異常を発していた。
「それだけの超能力、制御するのにどれだけ脳に、身体に負担をかける?衝撃エネルギーの向きを操作するのにどれだけ莫大な計算をしなければならない?あんたは無意識にそれを出来る位の力があるが、それでも脳に負担がかかるだろう。無意識に力をセーブしていた以前なら話は別だが、今は明らかに脳に強い負担をかけている。」
超能力を使う。
言えば単純だが、明夢の超能力は炎や風を操るといった超能力ほど単純に扱う事は出来ない。
衝撃を伴うものが皮膚に触れた一瞬の間に触れたモノの種類、エネルギーの大きさ、変更前のエネルギーの向き、変更後のエネルギーの向き、最終的な移動点を瞬時に導き出さなければならない。勿論、明夢はそれを特に意識してやっている訳では無いが、その裏では莫大な量の演算を行っている。
その情報量は時に人間の脳の処理が追いつかなくなるほどになる。簡単に言ってしまえばパソコンにあまりに多くの作業を同時にさせると動作の鈍化、果てにはフリーズしかねない結果になるのと同じだ。
「くっ‥」
明夢はまだこの本来の超能力を上手く制御出来ない。出来ないからこそ身体が無意識に能力に対するリミッターを掛けていたのだから。なんとか立ち上がった脚もまだふらついている。
「やれやれ‥明夢、君は休んでて。ここはボクが何とかするから。」
そこへ明夢をかばうように前に出たのはクロコだ。彼女はミハエルを見ると、翼を広げ少し地面から浮く。
「さて、ミハエルとやら。ボクの真名は
天津黒主之命だ。妖怪が自ら真名を名乗るとは、どういうことかわかるね?」
「…」
クロコは静かな笑みを絶やさない。が、クロコの周囲に嫌な気配、明らかな害意のある不可視な力が収束している。
「さて、ボクは神話には詳しくないけど、翼を作り上げ空に飛び立った勇者イカロスは太陽に近づき過ぎた為に翼を溶かされ地に堕ちたと言う。」
クロコが片手を挙げるとその指先に黒く鳴動する人間の頭ほどの塊が現れる。
「『太陽の黒点』。これがボクの真名を象徴する超能力だ。」
低く通る声でクロコは呟き、その塊を無造作に投げる。
地面に落ちたそれは激しく燃え上がり、樹齢1000年の大木ほどの太さの火柱となった。そして、炎の色は‥漆黒。
「どうだい?この炎の温度は太陽の黒点と同じ約4000度。しかもボクが燃やそうとしたもの以外は決して燃えない。人間の君には耐えられないよ、諦めて帰りな。」
クロコは余裕な表情で言う。
4000度。人間なら陽炎の消えてしまうような絶望的な温度。
まさしく、人ならざる者に相応しき異能。
「なる程、私一人ではこんな化け物どもを相手に出来るわけ無し、か。今日は潔く退こう。だが、諦める訳にはいかないな。」
ミハエルは溜め息をついて背を向け、石階段を降りた。
「‥やれやれ。立てるかい?明夢。」
クロコは明夢の方を向き、手を差し出す。
「うん、ちょっとまだくらくらするけど。悪いけどちょっと横になるね‥」
明夢はクロコの手をとり、立ち上がるとふらふらしながら社務所の奥へと入って行った。
「こりゃ本格的にマズいね。仕方ない、ちょっとお友達に力を借りるかな?」
「ほう?友達か?」
クロコはいつの間にか真奈入れ替わっていた魔嗚に言うと目を閉じ、何かに意識を向ける。
ーいかせのごれ、北はずれー
最近出来た以前からあった洋館の一階を使った洋菓子店で、なかなかの人気を得ている店だが、店自体で働いているのは、メイド服姿の店員ばかりで、館の主であり、店のオーナーである『カルラ』なる人物の姿を見た客は一人もいない。
理由は簡単、カルラは人間では無いからだ。
「なる程、大抵の事は理解出来たわ。クロコ、あなたの頼みだし力を貸しましょう。」
館の最上階の一番広い部屋、西洋風な椅子に腰掛けているのは少女の形をしたモノ。
白い簡素なドレスに身を包んでいる小柄な身体だが、白い肌と輝く紅い瞳は見る者を引き込む妖艶さを持つ。ただし、白鱗の皮膜の翼と紅い角を持つ存在が、人間であるはずが無い。
幻想の王『竜』。
それがカルラの正体。
(物語は動き出し、古竜が姿を現す)
最終更新:2011年12月01日 21:31