「ごちそーさまでしたー!」
オムライスをたいらげ、少女は元気よく言って合掌した。行儀のいいことだ。
「ありがとう。正人ー」
「はいーっ」
既にレジのところに正人がいた。由衣も奏もいないこの時間帯、正人が生命線だ。
「えーと、お会計は……あれ?」
「ん?」
間の抜けた声がふたつ、重なった。
レジ打ちに気を取られた一瞬の内に、少女の姿が消えていたからだ。会計皿の上に、紙幣を一枚残して。
「い、いつの間に……」
「って一万!? ちょ、ちょっとお客さーん!? お釣りは……」
正人が飛び出して叫んだが、少女の姿は既にどこにもなかった。かなり微妙な面持ちで戻って来た正人に、厨房から千春が声をかける。
「正人ー、手が開いてるならこっち手伝ってくれー」
「あ、ああ、すぐ行く」
万券をカウンターにおいて厨房に消える正人を横目に見つつ、亜音はまた異和感を覚えていた。
(来たときも、さっきも、戸の開く音がしなかった……何で?)
「お、いたぜ」
「!」
同刻。
レストラン周辺を歩いていたルーツが、隣を歩く
クロウにそう言った。彼が示した先には、今まさに壁をすり抜けて現れた白い短躯。
「ミーネ、何をしている」
「あ、ルー君、クロさん」
「……その呼び方はやめろ。何度言えばわかる」
再会早々に頭を抱えるクロウ。
ミネルヴァは他人に妙なあだ名をつける癖があり、
ホウオウでさえ「ホーさん」呼ばわりしている怖い者知らずだ。当の本人は一度、面と向かって言われた際には無反応だったが、微妙に眉をしかめていた。
「えー? でも……」
「でもじゃないだろ。クロウの言う事は聞いとけ」
「はーい……」
口調と短躯からはわかりづらいが、彼女は16歳だ。なぜこんなに背が低いのかは誰も知らない。そして、もう一つ。
「やたらに壁抜けをするな。見つかったら面倒だろうが」
「近道したかったから、つい……」
「ついでは済まん。見つからなかったからいいが、今後は控えろ」
「むー……」
彼女の能力は、障害物を無視しての出入り。扉も、壁も、バリケードも、進入・退却を遮るあらゆるものは彼女には無力。たとえ人の壁でさえ、するりと抜けてしまう。
「……それより、二人とも何してるの?」
「俺はいつも通りだ。ルーツが配置転換で俺の方に回って来たんでな、潜入メンバーに面通しをしておくつもりだ。お前も来い」
「拒否権はなし、ね。わかりましたー」
はーい、と手を上げるミネルヴァ・・・・・・ミーネを加え、クロウ達はいかせのごれを行く。
ニアミス……?
(ある意味)
(彼らにとっては、よかったのかもしれない)
最終更新:2011年12月01日 21:35