某日深夜、ストラウル跡地。
「……ん?」
ここを拠点として生活している望は、昼間はいかせのごれを歩き回り、いつもこのぐらいの時間に戻ってくる。
だがその日は、足を踏み入れてすぐに、違和感を覚えて立ち止まった。
「明かりがある…?」
いつも拠点としている廃ビルの一室に、ちらちらと明かりが見える。
暗い上に遠目であるため断定はできないが、おそらく懐中電灯だろう。
「こんな時間に誰でしょう…」
腕時計を見ると、もうすぐ日付が変わるという時間だ。
不審に思いながら、胸ポケットからペンライトを取り出し、廃ビルへと向かった。
こつこつと靴音が響く中、廃ビルの廊下を歩いていくと、話し声が聞こえた。
子供の声のようだ。数人はいるだろう。
話し声が聞こえる部屋を探し当てると、軋む扉をそっと開けた。
「…誰かいらっしゃるのですか?」
「「「「うわああああああああああっ!!?」」」」
「うわっ!?」
「………あ……」
小さな明かりに照らされていたのは、4,5人の小学生くらいの子供だった。
皆一様に怯えた目をしていたが、目の前の男がお化けではないと知ると、安堵したようだった。
「な、何だー…お化けじゃなかった」「びっくりしたー…」「でもお化けだったらよかったのにな」「なー」
「はは、それはすみません。…こんな所で何をしているんです?」
「お化けを探しに来たんだ!」
「……お化け?」
不思議そうに聞き返すと、子供たちは口々に喋りだした。
「最近、人影が見えるんだって!ここで!」
「ここって誰も来ないだろ?なのに人影が見えるってうわさになってんだ!!」
「それに部屋が綺麗になってるんだって!!誰も何もしてないのに!!」
「絶対お化けだって、みんなで探検に来たんだぜ!!」
「は、はあ…」
参ったな、と望は心の中で呟いた。
子供たちの言っている『お化け』とは、おそらく自分のことだろう。
あまり人が寄り付かないからという理由でここを拠点にしていたが、まさかそんな噂が立っていたとは。
崩れかけていた部屋を、少しばかり修復していたのがいけなかったのか。
そんなことを考えながら、子供たちに質問を重ねた。
「…それで、お化けは見つかりましたか?」
「……ううん、見つからなかった……」
「…そうですか」
とりあえず、自分がそのお化けの正体だということは気づかれていないようだと知り、ほっと息をつく。
「…でしたら、そろそろお帰りなさい。君たちみたいな子たちがこんな時間にこんな所にいるのは、感心しませんよ」
「えー!!」「なんでー!?」「まだ探検したばっかりなのにー!!」
ぶうぶうと不満げな子供たちに苦笑する。
「…ここは危ないですよ。本当にお化けがいましたら、勝手に入るなと怒られてしまうかもしれません」
「むー…」「でもさー…」
「それに、こんな夜遅くまで出歩いていることが知られたら、ご家族の方が心配なさりますよ?」
そう諭すように言うと、子供たちは「はーい…」と、渋々ながらも帰ることを承諾した。
聞き分けのいい子達だと、内心ほっとする。
「よかった。もう、夜更かしはいけませんよ」
それぞれ子供たちを家の近くまで送り届けてから、ストラウル跡地へ戻る。
拠点としていた一室へと向かうと、ペンライトで軽く部屋を見回す。
何もない部屋。しかし『廃ビルの一室』というには、いささか綺麗過ぎるかもしれない。
「………これ以上ここを拠点にするのは、諦めたほうがいいですかね」
意外と便利だったのですが、と肩を落として項垂れる。
また別の潜伏先を探さなくては。そう考えて顔を上げた。
「…それまでは、もうしばらくだけここをお借りしましょう」
幸い、ここには廃ビルがたくさんある。
もう少し奥まった一室ならば、また少しは時間を稼げるだろう。
噂が収束すれば、跡地そのものから撤退せずに済むかもしれない。
「……人目を避けるのも、楽じゃありませんね」
跡地の噂
翌日。
「ねえねえ、聞いた?最近流行ってる噂」
「噂?何だよそれ」
「あ、私聞いたことあるー」
「廃ビルの住人、だよね」
最終更新:2011年12月29日 21:09