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守らせてくださいよ

一人寂しい食卓に変化が起こったのは、突然の事だった。
夜の藍色が支配する部屋の中で、ルーの溶け残りがひどいシチューを啜っていたときだ。
不意に後ろから背中を叩かれ、気管にシチューを詰まらせそうになりながら振り返る。
背中に手を置いていたのは、いつの間にか目覚めていた「片割れ」だった。

「…お前…。」
「…僕の分、ありますか?少しお腹がすきました。」
「あ、ああ…。」

状況を呑みこめないまま鍋をこする。
舌を火傷し、照れ笑いをする彼は、姿こそ見なれたものではないが間違いなく「彼」の表情だった。
廃人の様になってた今までとは大違いである。
半分ほどシチューを食べた後、彼は真っすぐ前を向いた。

「…今まで、迷惑をかけました。」
「…もう、大丈夫なのか?」
「万全ではありません。でも、幾分よくなってきました。」
「それにしちゃ姿も戻ってないだろ?」
「あはは、違うでしょう。これが僕の「本当の姿」なんですよね?」

向かい合う二人の少年はまるで鏡合わせのよう。
片方の少年が眼鏡をかけている所しか違いが無い。
言ってる台詞は間違いではないのだから、曖昧ながらも頷く。

「だったら僕はこれから、できる限りこの姿のまま生活をします。変に体力を使う心配もありませんしね。」
「でもお前、学校…。」
「ああ、彼らなら受け入れてくれますよ、きっと。」
保証もないことだが、きっとそうだと口の中でくりかえし彼はまたシチューを飲みだした。

何の前触れもない突然の変化だった。
廃人だった彼が急に元のようにはつらつとし出した。
とりあえず姉に報告せねばと立ち上がると、「自分でしますからいいです」と止められた。
あっけにとられたまま再び椅子に座ると、彼はふと疑問を浮かべた。

「…お前、何で俺がしようとしたこと分かったんだ?」
「え? …そういえば。どうしてでしょうか…。」

互いに首をかしげるも理由に思い当たらず。
静かな食卓は…いや、いつもより少し賑やかな食卓は終わりを告げた。




「暫くは様子を見ておきなさい。休み届は出しておくから」という姉の意見を聞き入れ、その日も学校を休んだ。
ただ、このまま部屋に籠るのも気分が悪い。
少し外に出て散歩をしよう。眼鏡をかけた彼の方から声をかけた。

昼間、学生は学校に居るものだ。
人眼を気にして選んだ場所は、ストラウル跡地。
ここは明るくても不気味なのに変わりはない。
片割れが心配しているのをよそに、久しぶりの外の世界を堪能するもう片方。

機械が動く音がした。反射的に体が動く。
後ろから飛び出し、突っ込んできた機会兵の攻撃をもろに受けながらも、蹴り飛ばした。
響く騒音。撃たれた個所は直ぐに傷口が埋まっていく。
片割れの安否を確認しようと振り返り、絶句した。
「な…っ!?」

「何でこんなにパニッシャーがいるんだよ…!」

見渡す限りの機会兵が此方を取り囲んでいた。
普通こいつらは一機ずつしか稼働しない筈ではなかったか。
それだけではない。先程その一機を蹴り飛ばして感じた。
『何時もより装甲が硬すぎる』と。

「どういうことなんだ…。」
疑問は絶えないが、今はこいつらを払うのが先だ。
片割れの方が戦闘向きとはいえ、今は病みあがりもいいところなのだ。
俺一人でやるしかない。片足を引いて構えた瞬間、後ろから肩を叩かれた。

「…引いていてください。僕がやります。」
間違いない、片割れの声だった。

「で、でも…!」
「心配は無用です。今までのお礼もしなければなりませんしね。」
そういうと彼もぐっと拳をにぎりしめた。


一斉に襲い掛かる機会兵が爆音と共に吹き飛んだ。
その様子を見ていた片割れの息が詰まる。
その間にも爆風から逃れた機会兵を相手取る片割れは今までの姿を微塵も感じさせない勢いだった。
放つ拳が、蹴りが、頑丈な装甲達にダメージを与えていく。
その一撃一撃が、肉弾戦では勝る自分より重いものであることに彼が気付くのは容易かった。

しかし、何時までも有利とは行かない。
怒涛の攻撃をかわした機会兵が次々と斬りかかる。遠方から射撃軍の弾が飛んでくる。
流石に体力を削られてきたのだろう。息遣いが荒くなっていく。

「もう無理をするな!俺があとは…。」
「嫌です。」
その言葉ははっきりと、片割れの口からでた。
彼が知る限り以前殆ど言わなかった、否定の言葉だった。

「もう、『家族』を失うのは、嫌なんです。」
「お前…。」
「せめて、僕の『家族』と認めているのなら、守らせてくださいよ。」
振り返って見せたその笑顔は、笑っているのに泣きそうだった。
ひどく、悲しそうだった。

機会兵の装甲を、幾本もの赤い針が貫いたのは直ぐ後の事だった。
的確に核を貫かれ、射撃軍が動かなくなる。
「『僕』はもう、大丈夫だから。」
そう呟くと同時に、片割れの体から傷が消えだした。

彼は確信した。先刻からの違和感の正体を。
(今のは…リオトと俺の能力…!?)
血を自在に操るリオトの能力による赤い針。
超越した回復能力をオンオフ式で発動する彼の能力。
それだけではない。先程の爆破は恐らくアイの、重い攻撃はトキコの能力だ。

「一気に方をつけさせていただきます!」
振りあげた拳に現れる青緑のオーラ。
それが一気に形作り、龍が吐き出す炎のような剣に変わる。
ケイイチ…いや、今のはゼアの能力!)
ナイトメアアナボリズムも再現するのか。そう思っているうちに片割れは蹴りだした。
ものすごい速さで機会兵の関節が吹き飛ぶ。
今眼の前で起こっていることが、彼には信じられなかった。
元来ホウオウグループの細胞を持っている片割れが、他人の能力を使う事が出来たのは昔からの話だ。
しかし、今までとは明らかに違う状況だった。なぜなら…。

片割れは気付いた。
彼の後ろから最後の機会兵が襲い掛かってきていたことに。
長刀が振りあげられたことに彼は気付いていない。
「危ない!!」

無我夢中で手を伸ばす。
ぐらりと機械兵の体勢が崩れた。
否。
長刀が変な方向に振り下ろされた。
彼に掠りそうになりながらもその近くの瓦礫にあたって長刀がはじけ飛ぶ。
その隙を見計らって、最後の一機を貫いた。

最早彼に言葉はなかった。
鉄クズと化した機会兵を地面に落とし、剣を消した片割れをただ茫然と見ていることしかできなかった。
「…クロウの…能力までも…。」
軌道を操る能力を、片割れは他人を守るために使った。
しかし、それ以上に理解できないことが彼の頭の中を巡る。

今まで廃人のように眠っていた間に何があった。
こんなことがあっていいものだろうか。
今は解明するのが先なのか。
とにかく、姉さんを通して誰かしらに伝えるべきなのかもしれない。

そうだ、それよりも今は、
『本人に状況を把握させる』必要がある。
彼はからからになった喉に唾を通し、ゆっくりと片割れに問いた。

「お前、『姿を変えずに能力使えた』のか…?」



守らせてくださいよ



「あーあ…折角成敗できると思ったのに、惜しかったなぁ…。」

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最終更新:2012年01月06日 12:52