____時は遡る
「それは、ただの理想に過ぎないわ。ありえない絵空事ね」
「なにそれ」「ロゼちゃん、弱者のくせに」「強者の皮をかぶった」「弱者さん」
「はいはい、なんとでも言いなさいよ」
長々と演説した後のひどい一言に最文鈴子はむすっと頬を膨らませていた。
…さすがに言いすぎたかしら。
彼女の飲み終えたカクテルグラスを片付けながら思案している時だった。
「私知ってるよ」「その目」「ロゼちゃんの妹さんのだったって」
ガシャン
ガラスが割れる音と同時に指先に熱を感じた。
破片で切れたのだろう、でもそんな痛みはどうでもよかった。
どうでもよくなるくらい私は鈴子をひどく睨みつけていた。
「あははっ☆」「やっとこっち見た」「そんなに睨まないでよ」「よっぽど知られたくない」「話だった?」
「何を…」
「知ってるよ?」「その目、妹さんから貰ったもの」「そうでしょう?」
「双子の妹さん」「可愛そうな妹さん」
「やめて」
普通の人として生まれた私に対して、
妹は「アイコンタクト」をもって産まれた先天的能力者だった。
両親は研究者だった事もあってか、姉の私よりも妹を愛していた。
そんな私も謙虚で心優しい妹が好きだった。
でもある時、学校先で能力者である事がばれてしまって…
「クラスのみんなに」「きみわるがられて」「いじめられて」「傷つけられて」
「・・・やめてちょうだい」
「耐えられなくなって」「クラス全員の」「心ぜんぶ壊しちゃって」「カルーアトラズに・・っと」「危ないな!」
「やめてって言ってるでしょう!あなたに…あなたに何が、何がわかるっていうのよ…!!」
無心にアイスピックを握りしめて鈴子に振りあげる。
だが感傷的になって標準が定まらないそれを鈴子は軽々とかわしていく。
一瞬窓に自分の顔が映り、あまりのひどい泣き顔に内心自嘲してしまう。
こんなに泣いたのは、両親が死んだ時と、あの時振りかもしれない。
あの時から私も両親も普通から逸脱してしまった。
世界がとても憎くなってしまった。
そうして
ホウオウ様に救われた。
だから
両親と共にホウオウグループに入ると同時に
私は、
カルーアトラズで自殺して間もない妹の両目を移植した。
「弱い者いじめはそこまでに、しましょうか」
「「ゼア!!」」
彼に手刀でアイスピックを落とされるのと、同時にロゼは床に膝をついて頭を垂れた。
そんな彼女を滑稽だと言わんばかり一瞥した後鈴子はとても嬉しそうにゼアに言い放った。
「弱い者いじめ?」「違うよゼア君」「話し合ってたんだ」「弱い世界、素敵だと思わない?」
「まぁ、そうかもしれませんね」
「……」
「素直だね」「素直はいい事だわ」「機嫌いいからそうね」「これ以上はやめておくわ」「バイバイ」「ロゼちゃん☆」
カラリと扉が閉まった後、店内にはゼアとロゼが残された。
しばらく流れた沈黙から最初に切り出したのはロゼだった。
「こっちを見ないで」
「なぜ?」
「今、の、私は、私じゃないからよ。こんな弱い私、私じゃない…」
ぎりっと拳を握りながら数滴零した涙が照明に照らされるのを見つめるしかなかった。
「そうですね、あなたらしくもない。ホウオウ様が今のあなたの姿を見たらなんと仰るか」
「こんな…こんな私見られたら最悪よ。そう、最悪、舌噛み切って死にたいわ」
「それだけまだ強気で言えるなら5分で十分そうですね」
「・・?」
「5分だけお店を見張りましょう。その間もちなおせますか?」
ゼアに背を向けるようにしてロゼは立ちあがった。
「もちなおして、みせるわ」
「そうですか」
「ゼア」
「なんでしょう?」
「借りは、いつか返すわ…その、ありがとう」
「…どうも致しまして」
____時は戻る。
「【
マザー】さっさと起動してちょうだい。探索ワード【
ミネルヴァ・現在位置】よ」
『声紋・指紋一致、「ロゼ」認証完了。マスターロック解除シマス』
ここはバーの地下室のうち一番広い部屋にあたる。
その真ん中に情報伝達・収集用に作ったばかりの機械【マザーグース】、通称マザーは鎮座していた。
一見ただの大きく黒い地球儀だが
それはロゼの声に呼応する度に紫色の光を帯び、発光した。
「ミネルヴァ失踪。エンブレム着用。至急、捜索頼む・・か」
クロウからトキコを通じて送られたメールがトキコから直接転送されたものをもう一度見直す。
あの鈴子の一件以来、クロウもゼアも直接頼みごとをする事がなくなってしまった気がする。
頼りないと思われているのだろうか。
それとも彼らなりの配慮・・なのだろうか。
どちらにせよ、弱い自分を見せた自分が悪いわ。
少しずつ信頼を取り戻す他ないわね。
『
ウォッチャーシステム起動開始、全198個体からデータ回収中・・探索中…』
(・・検索に時間がかかり過ぎる。製作に数カ月しかかけていない事もあって、まだまだ改良の余地があるわね)
『現在位置、不明。最新データ、コチラノ20分前、№199カラノ引キ継ギデータニナリマス』
「・・何て事」
球体に浮かぶ映像を確認した後、
ロゼは急いで二人に連絡するべく球体に暗号を打ち込む。
「聞こえる?トキコ、クロウ。そのまま聞いてちょうだい。
ミネルヴァ、彼女は今…」
___その一方、ウスワイヤ施設。
「コノカさんいるか・・ってうぉ?!」
「わわっ??!す、すすすいません
クロイさん!今外します!あ、頭から血が・・!!」
クロイに慌てて謝り、今にも泣きそうな顔をしているのは茨の悪夢の能力者、野原コノカだ。
ちなみにクロイが急に床に倒れて額に軽い傷を負ったのは
紫の茨、コノカの能力によって両手足を瞬時に縛られた為である。
「いやいや急にノックせずに個室に入ろうとした僕も悪い・・それはそうと何をしていたんだ?」
「え、その・・シノさんから頂いた問題集を解くのに時間がかかってしまって…。
あ、でもさっきやっと全部解けたんですよ!ほらっ」
「……えっとコノカさん?」
「はい、なんでしょうか」
「今いくつだっけ」
「15です!」
(シノさん…15歳になんで高3の問題解かせてるんです?)
*
「護送、ですか・・」
(辰那さんって確かホウオウグループの…噂でしか聞いた事ないなぁ。どんな人だろう)
「そう、その移送で人出が足りなくてね。一緒にお願いできるかな」
「・・!是非協力させてください!その、未熟者ですがこちらこそよろしくお願いします・・!」
「よろしくな、さぁて。あとは為人君かな・・?」
(ホウオウグループ…まだ接触した事はないけれど…。)
(一体どんな人たちなのかなぁ…?)
最終更新:2012年02月15日 14:21