「はぁ、はぁ、はぁ……」
佑の頭は混乱していた。
何が起こったのか分からない。どうしてこうなっているのか理解が追いつかない。
崩れかけた壁の影に隠れるように座り込むと、大きく深呼吸をして気を落ち着かせる。
「……落ち着け、私…。まず、何でこうなったか、一から思い返すんだ…」
…あの後、早退したはいいものの、そのまま家に帰る気にはなれなかった。
何となく、頭痛はあるもののそこまで体調が悪くないのに早退してしまった事で、サボってしまったような気分になっていたのだ。
そんな状態で帰って寝るのも、太陽に要らない心配をかけるようで気が引けた。
どこか誰にも気づかれずに時間を潰せる場所はないかと探し、ある場所で足を止めた。
…ストラウル跡地。
ここなら人も寄り付かないし、上手く隠れれば誰かに見咎められることもないだろう。
ここでしばらく時間を潰して、放課後皆が帰るぐらいの時間になったら家に帰ればいい。
そう考えて、足を踏み入れた。
…そして、ビルの影に隠れていたら、変な機械兵に見つかった。
危うく撃たれそうになって、たまたま落石に助けられ、逃げてきたのだ。
「(あぁもう…私、馬鹿だ…)」
だんだんと頭の整理ができて落ち着いてくると、今度は自分の行動を悔やんだ。
機械兵に追われる形で跡地の奥へ奥へと逃げ込んでしまい、今は廃ビルの二階の一室に隠れている。
…要するに袋の鼠である。一刻も早くここを離れなければいけないのに。
腕時計で時間を見ると、そろそろ放課後になったところだ。
早く帰らないと、今度は遅いことで心配をかけてしまうかもしれない。
どうすればいいかと思考をめぐらせていると、
「!!!」
突然、鞄から振動音がして、びくりと肩を震わせた。
震える手で鞄を探ると、携帯電話を取り出す。
(携帯…そういえば、マナーモードにしっぱなしだったっけ…)
携帯電話を開くと、画面に[海猫]と発信者名が表示されている。
機械兵に見つからないよう注意を払いながら、そっと通話ボタンを押して、耳に当てた。
「……海猫?」
『あ、佑?図書室にも教室にもいないから探したよ』
「ん、ああ…ごめん。頭痛くてさ、早退したんだ」
『え?ご、ごめん。大丈夫だった?』
「…平気。休んだらだいぶ良くなったから」
『そう…良かった』
他愛もない話をしながら、ふと佑はこの状況を海猫に相談しようかと考えた。
しかし、すぐに思い直して首を振る。
海猫は現実的な性格だ。「跡地で機械兵に襲われている」と言った所で信じてもらえるかは微妙なところだろう。
『佑?どうかしたの?』
「あ…ううん、何でもない。……そっちこそ、どうかしたの?」
『ああ、うん。図書のことでちょっと聞きたいことがあるんだけど…』
「うん、答えられる範囲なら答え…。…………!」
かすかに聞こえた小さな音に言葉が途切れた。
視界の端に一瞬だけ見えた機械兵に、思わず息を飲む。
海猫が電話の向こうで何か話しているが、何も頭に入ってこない。
逃げないと。この場から一刻も早く。
『…………佑?』
「ごめん海猫。また後でかけ直すから」
『え?ちょっ』
何か言われる前に通話を切る。
そのまま見つからないうちに壁の穴を通って隣室へ向かおうとして、
世界が、回転した。
「いてててて……」
気がつくと、さっきまでいた廃ビルの一室ではなく、瓦礫の散乱する地面だった。
足元の床が崩れたことであの機械兵から間一髪逃れられたと知り、小さく息を吐く。
転げ落ちた際に負った擦り傷と打ち付けた体の痛みはあるが、ざっと見る限り大きな怪我は負っていない。
教科書等が入っている鞄が上手い具合にクッションになったようだ。
「………携帯、なくしちゃった……」
安堵の息を吐いたところで、さっきまで手に持っていたはずの携帯電話がなくなっていることに気づき、今度はため息がこぼれる。
落ちた衝撃で手を放したため、ふっ飛んでいってしまったのだろうか。
どちらにしろ、もう誰かに助けは求められない。
「……何とか、逃げ切るしかないか……」
何とかあいつを撒いて、跡地から出なければ。
過程はどうあれ外には出ることができたんだ。
早く、帰らないと。
孤軍奮「逃」
(誰にも、頼れない)
(戦うなんて、できるわけもない)
(たった一人の、逃亡劇)
最終更新:2012年02月22日 17:45