「……んー?」
その日、
赤銅 理人は非常に暇を持て余していた。「道化者」を地で行くこの男だが、おかしな行動・言動と異なり、思考は冷静迅速極まりない。
だからこそ、余計に暇だった。思考を持て余している、というのが正しいかもしれない。何しろ面白いことが何もない。いつもと変わらない、退屈な日々。
だからこそ、ストラウル跡地に迷い込んだ時、「それ」に気付いたのかもしれない。
「なーんだ、ありゃ……」
確か「
パニッシャー」とかなんとか言う機械兵器だった気がする。今、ちらっと見た感じでは、誰かを追いかけていたようだが……。
(あれって確か、戦闘力の低い能力者を優先して狙うんだったよな……ってことは?)
追われている誰かは能力者……それも、戦う力が低い部類だ。理人は基本的に他人の迷惑は考えないタイプだが、目の前で困っている人を見捨てられるほど冷酷ではない。
「んー、と」
ナップサックを漁り、道具をいくつか取り出す。自身の力……「性質付加」で特殊能力を付加した器物だ。
「こーんなもんかなー?」
右手に懐中電灯、左手にダーツの矢を持ち、理人は機械兵の後を追った。
鞄を持ったまま、佑は機械兵を撒こうと必死になっていた。障害物や壁を使って何とかビルの外へは出たものの、機械兵はまだこちらを探しているらしく、少しでも気を抜くと駆動音が近くに聞こえてくる。
どうやってこちらを識別しているのかにもよるが、見た感じでは普通にカメラに映さないと見えないようだ。なら、このまま隠れながら跡地の外に出られれば逃げ切れる。
(早く、帰らないと……)
不安なのは携帯をなくしたことだが、命あっての物種だ。死んだらどうしようもない。
体がまだあちこち痛むが、弱音を吐いていたら殺されてしまう。
と、
「っ!」
瓦礫の山の反対側から駆動音が聞こえた。想像以上に動きが早い。既にこちらを捕捉したのか、回り込んで来ようとしているのがちらりと見えた。
一刻も早く離れなければ。焦燥に駆られた佑は一気にその場からダッシュをかけ、
凍りついた。
機械兵が瓦礫の山を、あろうことかジャンプで飛び越え、真正面、至近距離に現れたからだ。
冷静に考えれば、相手は機械兵……言い換えればロボットなのだから、人間以上の力を持っていると考えてしかるべきだ。もっとも、この時の佑にそれを期待するのは酷というものだが。
ともかく、佑は意識が完全に凍りつき、動きが止まっていた。呆然と見る前で機械兵の腕が上がり、そこにマウントされた銃口がこちらを捉える。
「!!」
そこまで来てようやく現実に戻ってきた佑だったが、今からでは逃げられない。こちらが動くよりも銃弾の方が早い。
頭の中をいくつかの風景がぐるぐると流れる。3秒に満たないその間に、銃弾は既に放たれていた。
「うーわっ、これーってかなりギリーギリのタイミングってーやつかな?」
機械兵に後ろから懐中電灯の光を当てつつ、理人はそう呟いた。額を冷や汗が伝う。発見したときには既にその「誰か」らしき少女に機械兵が銃撃をかけようとしており、まさに間一髪だった。
この懐中電灯に付加した能力は、「照らした相手の全ての動作を極端に遅くする」というものだ。ただ、今の状態だと少女も一緒に照らしてしまっているので事態が変わっていないのだが。
(とすれば、これだな)
懐中電灯を持つ右手はそのままに、左手を振りかぶってダーツの矢を投げる。
動きの遅くなった機械兵の頭部をダーツの矢が捉え、一拍おいて爆裂した。
「!? うわっ!?」
突然目の前で起きた爆発に、佑は思わず顔を腕でかばう。その腕が、誰かに捕まれて引っ張られる。
「っ!?」
一瞬パニックを起こしそうになったが、視界が戻ると機械兵が頭部から煙を吹いており、動きが止まっている。しかも、どんどんそれが遠ざかる。
どうやら、自分を引っ張っている誰かはあの機械兵から自分を逃がそうとしてくれているようだ。理由はさておき、助かっ――――
「だーああっ、あーの程度じゃダーメかーっ!!」
変に間延びした、しかし切羽詰まった声に視線を戻すと、機械兵が煙を吹き出しながら追ってきているのが見えた。
見つかった分状況は悪くなったが、誰かがいる分は良くなった。―――結局のところ、あまり変わっていないのだが。
と、その誰かが何かを渡してきた。
「そーいつであれを照らーせーっ!」
「え、うわっ、は、はいっ!」
渡されたのは懐中電灯だった。言われるがままに機械兵を照らすと、その動きがまるでコマ送りか何かのようにスローモーションに変わる。
「!? え……」
「いーまだーっ!!」
目の前で起きた事態に瞠目する佑を引っ張り、謎の人物は機械兵からとにかく遠ざかろうとストラウル跡地を走って行った。
道化者、乱入する
(ところで、彼にはジンクスがある)
(彼が関わった事件は)
(肝心なところでトラブるのである)
(……実際、彼が逃げたのは出口と真逆の方向であった)
最終更新:2012年02月22日 17:46