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企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.2_ログ-101~150

企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.2

1鶯色:2011/04/04(月) 16:19:48
ここはキャラ企画つれっどにて投稿されたキャラクターを小説化しよう!というスレです
•本編とはかかわりがなく、あくまでもアナザーストーリーという扱いです
•時系列は本編(2002年のGW4月28日~)よりも前の話が主になります
•本編キャラの名前が名字無しカタカナの為、小説ではそれに合わせた呼び方が多いです
•人様のキャラクターを借りる時は、設定を良く見て矛盾が無いように敬意を持って扱いましょう
詳しい説明などは下のURLをご覧ください
•ナイアナ企画@wiki―「はじめに:企画キャラとは」
http://www22.atwiki.jp/naianakikaku/pages/27.html

前スレ
企画されたキャラを小説化してみませんか?
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1208562457/

101スゴロク:2011/04/15(金) 15:14:46
>(六x・)さん 気にいっていただけたようで何よりです。キャラを借りて来る際は、そのイメージを崩さないようにするのが難しいですよね……。

アオイ・凪のファーストコンタクトですか。凪さん相変わらず強いですね、色々と。
アオイからすれば、凪の認識は多分「姉様みたいに素敵な人」だと。基準がスザクなんで。

102大黒屋:2011/04/16(土) 13:39:47
>しらにゅいさん
まじですか!
そういうことであればぜひ!ぜひ書いてくdアギャァ(蹴

(六x・)さんの「凪」をお借りしました。
折角由衣の特訓に協力してくださるならということd(
最後また新キャラかという突っ込みはスル―してくださいorz

冷鉄交戦

「ごめん!待ったか、凪!」
「いや全然。こっちも今来たところだからw」
「そうか、よかった…;」
息切れする由衣の背を、凪はさすった。
「そんなんでこの後大丈夫か?」
「体力はある方なんだ。大丈夫さ。」
「そっか。ならよかったw」

「態々悪いな、付き合ってもらって。」
「いいんだよ。こっちももうちょっと能力知っておきたかったし。」
「つっても、凪の方が能力者としては先輩だろ?私はまだアースセイバー入ったばかりだしよ;能力の応用も把握できてないんだ;」
「少しずつでもいいだろうけど、最近色々騒がしいからね。」
「…じゃあ、場所は「跡地」でいいか?」
「いいよ。あそこなら思いっきり暴れられる。」


毎日由衣が向かう広い場所に、凪を誘った。
瓦礫の積み重なるそこはひどく足場が悪い。
しかし、しばしば戦場になるそこに慣れておく必要もある。
足場を確かめるように踏みしめ、二人は向き合った。

「手加減なし、でいい?喧嘩とか慣れてないからさ;」
「ああ、分かった。」
ぐっと片足を引き、拳を握って脇をしめる。
風が吹き、小さな瓦礫が落ちた。
カツン、という音を合図に、二人同時に突っ込んだ。


引いた右手に集中し、砂鉄が集まりだして形を成す。
正面を見ると、同じように凪が右手を引いてこちらに向かってきていた。
二人の違いを上げるならば。
既に凪の右手には「完成した」サーベルが握られていたのだ。

咄嗟に身を引き、突き出された切っ先を避ける。
(形成が速ぇ…。慣れてやがる。流石能力者としての先輩ってか)
左手を地面につき、勢いで回し蹴りあげる。
凪はそれをかわし、僅かに間を開けた。

やっと形を成した剣をしかと握り、正面に構える。
上段に構えられた氷のサーベルが振り下ろされるのを見計らい、こちらは下段から振り上げた。
ぶつかる刃先。暫く競り合っていたが、温度を奪った鉄の剣が氷のサーベルを溶かし折った。
「うわ!」
「あっ!ごめん!;」
「いやいや、大丈夫だよ。」

103大黒屋:2011/04/16(土) 13:40:22
笑いながら言うも、正直由衣のパワーには驚いていた。
不良はやめたと聞いていたが、普通に生活していて身につくパワーではない。
能力の使い方にまだ戸惑っているものの、力でカバーできるほどだ。
ただ、それは至近距離での話。

手元のサーベルの残骸を消し、十分に間をとる。
小型のナイフを数本作り出すと、勢いをつけて飛ばした。
「ウェ!?;」
反応した由衣はかわしながらも近づこうと試みる。
しかし、足元に撃ち込まれ続けるナイフに、近づくことができない。

遠距離からの攻撃は、パワーが直接伝わるわけではない。
空気中を飛行することで、気圧でエネルギーが削られるからだ。
つまり、現在の由衣には明らかに不利な状況に置かれたのだ。

「っはぁ…マジかよ;」
「油断してると怪我するぞ!」
考える暇も与えぬよう、ナイフを次々と飛ばす。
それをかわし続ける由衣。

それが数分経ってからだった。
由衣は突然後ろに蹴りだし、一層間を開けた。
「!?」
「威力はねえが、仕方ねえ!」

左手に砂鉄が集まる。
形成に時間はかからなかったらしい。直ぐにその左手は前に突き出された。
僅かに光が反射し、こちらに向かってくるそれを避けるのはギリギリのタイミングだった。

背後のビルには、数本の細い針が突き刺さっていた。
「…やっぱうまくいかないか…。」
一人呟く由衣。
いやいや今のは…本気で焦った。

細い針が視界に入っても、簡単には気付けない。
それを知ってか知らずかではあるが、下手をすれば3本ともあたっていた。
感覚的ではあるが、能力の使い方を身につけているではないか。
自然と口角は上を向いていた。

「…剣構えろ、由衣!もう一度接近戦だ!」
「やっとか!いいぜ、勝負だ!」
氷のサーベルを作り出し、構える。
向こうも剣を成型するのを見計らい、地を強く蹴りだした。
「「おおおおおおおおお!!」」

104大黒屋:2011/04/16(土) 13:41:03
上段突きで、交わるはずだった切っ先。
しかしその切っ先が交わることはなかった。
間に何かが入り込み、双方の剣を素手で取り押さえたのだ。

「「!!??」」
「…はいはいはい、そこまでそこまで!」
剣を放し、血に濡れる手をたたき合わせて声を上げた。
よくよく見ると、話したことこそないものの、由衣にも凪にも面識のある顔だった。

「二人とも危ないなっ。今の剣下手したら二人とも顔にざっくりだったんだから、焦ったよ。」
「お前…「螺良華」、何でこんなところに…;」
「ていうかその手!大丈夫!?」
「うん、全然平気w」
ひらひらさせる手に血の色はなかった。

「なんでっていうか、幹さんに頼まれてここに来たら、行き成り危ない状況に遭遇!?って感じでさ…。」
「幹さん…幹久朗さんのことか!?」
「そ。最近調子悪いとか何とかであんまり外に出てないみたいでね。代わりに私が見に来たってこと。」
「…ごめん、最初から話が分からないんだけど;」

かくかくしかじかしかくいむ○ぶ…(

「成程な。つまり、アースセイバーに入る前から特訓はしていたと。」
「で、幹久朗さんが協力してくれてたんだけど、最近来てなくってな…。」
「珍しく申し訳なさそうなったんだよねぇ。らしくないっていうか。」
「とにかくありがとうな。いろんな意味で。」
「いいっていいってw」

「…螺良華。」
「ん?何?」
「…もしかして、あんたも能力者なの?」
「どうでしょう?…なんて焦らしても意味ないしね。そうだよ。能力者。」
「初耳だな…;」

「ひどいなぁ、由衣ちゃん!あたしもアースセイバーだよっ!」
腰に手を当て、螺良華は迫った。
「えっ!;」
「ていうか、所属してるグループが丸ごとってかんじ?」
グループが所属してる…なんて話聞いたことないような気がすると由衣は思案しだすが、それを遮るように螺良華が声を上げた。

「それでそれで?まだ特訓するの?あたしも手伝ってあげるよ!」
「え、いいのか?」
「もっちろん!幹さんにもそう頼まれたからね。凪っちも由衣ちゃんも一緒に!」
「助かるよ!ありがとう!」

ビルに向かって歩いていく凪と螺良華の背を見ながら、由衣は考えていた。
「野乃 螺良華」。そんな名前、名簿でみたっけか…と。

105十字メシア:2011/04/16(土) 15:15:37
「てゆうかさ、女顔ってそんなに気にするもの?」
「お前じゃあるまいし」

ユズキもハヤトと同じく、女の様な顔立ち(そしてハヤトより美人)ではあるが、
「本人はそう見えるだけ」と言って、あまり気にしていない。

「まーまー、喧嘩しちゃ駄目だって」
「誰が原因だと思ってんだよ!」
「キシシシッ」

いたずらっぽく笑うミユカ。

「じゃあそろそろ行くねー」
「えー、カラオケ行かないの?」

コヨリが残念そうに言う。
他のメンバーもつまらなさそうな表情だ。

「ごめんね。また今度一緒に行こう」
「約束だよー」
「うん、じゃあまた学校でねー」

コヨリ達はミユカに別れを告げて去っていった。

「ミユカ」
「ん?」

呼ばれたミユカはシグマの方を見下ろす。
彼にはレストランにいた時と同じ様な、むっつりした表情が浮んでいた。

「何でいきなり口を塞いだんだ?」
「あー、ごめんごめん。シグマが能力者だって、バラす訳にはいかなかったんだよ」
「あ、そうか…」

常識に疎いシグマでも、能力者は世間から見ればイレギュラーな存在である事は分かっていた。
しかもあそこには同じアースセイバーの能力者であるハヤトがいた為、シグマが「ウスワイアに管理されている能力者」だとバレてしまえば、
せっかくの外出も中断せざるを得なくなるかもしれなかったのだ。
幸い、ハヤトはシグマの事は名前しか知らなかった為、不思議がられる事は無かったが。


―――最も、理由はそれだけじゃないけど。

ミユカは別の危険性も感じていた。
先程自分に話しかけたクラスメイト―――コヨリ。
彼女はホウオウグループの擬人兵である。
実際、ミユカはコヨリに対して敵意を持っておらず、コヨリ自身もミユカが「あちら側の人間」である事を知る由も無い。
それに、ホウオウグループの道具にしか過ぎない彼女は、内部の事情をあまり知らない。
だが万が一、彼女が生徒に扮している他のホウオウグループの人間に、シグマの事を(話題として)話してしまえば、シグマが狙われる確率は高くなる。
それだけは絶対に避けたい―――ミユカはそう思っていた。

「…ミユカ?どうしたんだ?」

シグマの不安そうな声に、ミユカはハッとした。
自分でも気づかない内に、表情を曇らせていたのかもしれない。

「ううん、何でもないよ」


―――絶対にシグマを殺させはしない。


「さて、次行こうか!」

いつもの明るさを取り戻したミユカは、再びシグマの手を引いて歩き出した。

106スゴロク:2011/04/16(土) 16:47:48
マナの過去話その二です。


お兄ちゃんは結局、飛び出してそのまま戻って来なかった。近所の人たちが数日してから駆け付けて来たけど、その時私にはもう行く当てはなかった。

『……』

しばらくして孤児院に送られたけれど、そこも私にとっての家とはならなかった。
私には、人とは違う能力が備わっていたから。空間に波を起こす、そんな力が。制御が出来なかった私は、気味悪がられ、貶められ、傷つけられた。

『なんだよ、お前』
『く、来るな、こっち来るな!』
『気味が悪いのよ、あっち行って!』

死にかけたことも、もう数え切れない。一番ひどかったのは、入浴中に突然後ろから殴りつけられ、外に放り出されたことか。

あの時は、本当に死ぬと思った。意識がみるみる遠くなり……だけど、私は死ななかった。気が付いた時は異様に寒くて、だけどそれ以上にはならなくて。管理人の先生が見つけてくれたけど、その時はただ眠かった。

(………)



『……?』

入所してから3年。8歳の時、私はある事に気付いた。

(……全然、疲れてない?)

体力づくりの時間があったのだが、それを全て終えた後も私は息一つ切らしていなかった。ただその時は、

(体、強くなったのかな)

くらいにしか考えていなかった。それに、やけに体が軽い気がした。特に痩せたような覚えはなかったし、気にしていなかった。
―――異変が起きたのは、9歳の誕生日。

「?」

なぜか、あまり空腹を感じなかった。喉が渇いたとも、思わなかった。その日は、一口、二口食べたくらいで終わったけれど、苦しくはなかった。調子が悪いのかと思って相談してみたりもしたが、異常はなかった。
――それこそ異変に他ならないことを、この時はまだ知らず。

そして、翌日は最悪の日だった。
孤児院で、捨てタバコが原因の大火事が起きたのだ。

私の部屋は一番奥まった場所にあった上、出火場所が入口と裏口近くだったために逃げ遅れ、取り残された。
炎が迫って来た時は、今度こそ死を覚悟した。

(お母さん)

怖くはなかった。大好きだったお母さんのところに行けると思えば、熱いのなんて少しも苦ではなかった。

(また、会えるね)

―――だけど。私には、それすら許されることはなかった。

「!」

突然、視界が一気に高くなり、広がった。死んだのだと、その時は本気でそう思った。意識を少し巡らせれば、孤児院が、街が、すっぽりと視界に入り、遠くなのにその隅々までが頭の中に入って来た。

(なに、これ)

当惑する視界の中に、避難していた友達が入る。
そこに意識を向けると、今度は視界が急降下を始めた。

(!?)

気が付いた時、私はみんなの目の前に立っていた。だけど、様子が明らかにおかしいのに気づいた。
みんな、明らかに怯えた目線で、私を見ていた。

『ねえ、みんな』

一歩を踏み出す、
その瞬間に悲鳴が上がった。みんな、散り散りになって逃げ出し、後には私がひとり、残された。

『みん、な……?』

先生達でさえ、私を恐れ、そのまま逃げだし、あるいは攻撃して来た。
何も知らない9歳の私は、ただその場から走り去るしか出来なかった。拒絶された悲しみを、涙に変えて零しながら。

『なんで……なんで……!?』

林を抜け、道路を渡り、街を横切り……明らかに子供の足では不可能な距離を駆け抜け、海岸線に出た時にようやく足が止まった。白み始めた空を茫洋と見つめ、知らず、胸に手を当てる。お母さんから教わった、自分を落ちつかせる方法。鼓動を感じることで、自分をリラックスさせるのだと言っていた。
だから、この時もそうして、

『!! ッ、!?』

心臓が止まりそうになった。いや、違う。


『私の、心臓……動いて、ない……!!』



「私」が死んだ日

(仮初の居場所も)
(僅かな絆さえも)
(自分自身さえもなくした少女は、泣いた)

107十字メシア:2011/04/16(土) 17:12:05
しばらく歩みを進めていた2人は、風月堂の前に立ち止まった。
勿論そこにいる客の中には―――。

「カナちゃん!」
「あ、ミユカちゃん。こんにちは」

ミユカと同じ役職の能力者にして親友のカナミ。
和菓子が何よりも好きという彼女は、暇さえあればここ―――風月堂に立ち寄っていた。
カナミによれば、風月堂はいかせのごれ一有名な、老舗の和菓子店らしい。
時折行列が出来るほど美味しい和菓子が売られており、中でも一番人気の商品は苺大福と生菓子にみたらし団子だとか。

「今日は何買ったの?」
「えーっと、三色団子と、栗羊羹と、生菓子と、きんつばと、蕨餅と…」
「OK、もういいよ」

永遠に続きそうだと判断したミユカは、やや興奮状態のカナミを制した。
周りには何も影響を与えてないが、今の彼女の心には、大きな「喜び」が溢れている。

「相変わらず好きだねー、和菓子」
「ふふふ♪」

カナミの満面の笑みを見て、ミユカは苦笑いする。

「なあ、ミユカ。「わがし」って何だ?」

ミユカに「わがし」の説明を求めるシグマ。
その時、シグマを見たカナミは不思議そうな表情を浮かべる。

「ミユカちゃん。その子は…」

カナミの反応に、ミユカがしまった、という表情を浮かべる。

「確かシグマ君…でしたっけ。その子はまだアースセイバーには…」
「……」
「もしかして…黙って連れ出したんですか?」
「…ご名答」

はあ、とカナミはため息を漏らす。

「ミユカちゃんの気持ちは分かりますけど、バレてしまったら、アキヒロさんから説教くらいますよ?」
「問題さえ起こさなきゃいーじゃん」
「ミユカちゃんたら…」
「とにかく、この事は内緒だよ」
「…仕方ないですね。分かりました、黙っておきます」
「ありがと~」
「ミユカ!!」

唐突にシグマが声を荒げた。
「ど、どうしたのシグマ」
「「わがし」の意味を教えろ!」
「あ…ごめん」

するとカナミが、

「私が代わりに教えましょうか?」
「お前がか?」
「はい」

にっこり笑って、カナミは説明を始める。

「和菓子というのはですね、日本独自のスイーツなんです」
「すいーつ?」
「甘い物の事ですよ。主に、餡子や餅等を使って作られるんです」
「あんこ?もち?」
「餡子は甘くて茶色い物で、餅はお米から作られる物です」

半分理科していない様な表情のシグマだが、カナミはお構い無しに説明を続ける。

「そして見た目もとても華やかなもので、味も上品な甘さなんです」
「……」

冷や汗を流し始めるミユカ。

「そもそも現在の様な形の和菓子は、江戸時代になってからでして、それまでは餅や餡子で作られた物が主流だったんです。そして、茶が日本に伝わると、和菓子も趣向を凝らすようになり…」
「…行こう、シグマ」
「え、何で?」
「いいから行こう」

熱中するカナミを置いて、ミユカとシグマは風月堂の前から去る。
その後もカナミは延々と説明を続けたらしい。(後日談)

108十字メシア:2011/04/16(土) 17:55:52
「…カナちゃんまだあそこで説明してんのかな……」

風月堂の方角を見るミユカ。
あの親友ならやりかねない―――いや、絶対やるだろう。
そうミユカは思った。

「俺、全然分からなかった」
「そうだよねー…」

カナミ自身は分かりやすく説明してるつもりだろうが、あまりの情熱ぶりでシグマには全然伝わっていなかった。
しかも相手は幼い子供同然である。

「もうその事考えても埒が明かないや。シグマ、次どこ行こうか?」

だがシグマから返事がない。

「…シグマ?」

ミユカがシグマを見下ろす。
彼の視線は右の方角に向けられていた。

「シグマ?どうしたの?」

ミユカがもう一度を呼びかける。
今度は返事が返ってきた。

「あそこに何かいる」
「え?」

ミユカはシグマの視線を追う。
だが何も無い。
しかしシグマはその先を見続ける。

「…そういえばあの方角には―――」

―――ストラウル跡地がある。
そう言おうとした時、シグマが突然走り出した。

「シグマ!?」

訳が分からないまま、ミユカがシグマを追いかけた。

109十字メシア:2011/04/16(土) 18:52:36
息を切らしながらも、ミユカはようやくシグマの元に追いついた。
そして、目の前に聳え立っている、廃墟のビルを見やる。

「ここは…ストラウル跡地…」

―――ストラウル跡地。通称スト跡地。
ある事件により、アンバランスゾーンと化してしまったゴーストタウンである。
その為か、奇妙な事件が多発している。

「ここ、何かいる」
「何かって…何が?」
「分かんない。でも絶対いる」

目の前のビルに強い眼差しを向けるシグマ。

「…とりあえず調べようか。私も身分が身分だし」

ミユカは自身の身分が「アースセイバー独立隊員」である事を思い出す。
本来、アースセイバーの能力者は、本部からの命令が無い限り、自由に動き出す事が出来ない。
だがミユカとその親友カナミは、アースセイバーからほぼ独立されている為、命令が無くとも自由に活動がする事が可能で、発見次第、敵と戦闘を開始できる。
それ故、どんな異変であろうと自身がそれを見つけた以上、対処しなければならない。

「でも入るからには気をつけてね」
「うん」

ミユカとシグマはビルの中に入っていった。



「…シグマ、どの辺りから感じるの?」
「んー…あっち」

シグマは南東の方角を指差す。
その方角に向かって、二人は慎重に歩みを進める。
そこにいたのは―――。





「お前は…ゼア…ッ!?」

110大黒屋:2011/04/16(土) 20:45:19
天ノ川ノ叫ビ~赤ト銀~の補足および、星の過去(後編)の伏線として。
自キャラオンリーです。

天ノ川ノ叫ビ~憐ト謝~

面識のある男に呼び出された彼女は、会うなり行き成り頭を下げられた。
普通ならどうして頭を下げているか分からないものだが、彼女には何のことかおおよそ察しがついていた。
だがしかし、あえてその疑問を口にした。

「…なんだよ、行き成り。」
「…君に謝っておかなければならないといけないことがある。」
「この間の月光のことか?色々あったが、最後に助けてくれたのはあんたじゃねぇか。別に気にしてねぇよ。」
「そうじゃない。」

彼は、左目を覆う包帯を指さし、思いきったように告白した。
「…君は、自分の左目を持っていないだろう?」
「!」
「その左目を奪ったのは…僕なんだ。」

彼は告白した。
20年前の真実を。
幼く抵抗できなかった彼女に、命令とはいえメスを入れたのは自分であると。
そして、彼女自身の命は「左目」の媒介になってしまったことを。

「命令に反することのできなかったとはいえ、僕が…君の全てを奪ってしまった。それだけじゃない。嘘の証拠を流し、君を弁護士の座から下ろしたのも僕だ。」
男の告白を、彼女は静かに聞いていた。
憤慨もせず、軽蔑もせず。
「許してくれとは言わない。寧ろ許さないでほしい。僕は…、いつからか道を間違えて、「怪盗」から「犯罪者」に成り下がってしまった…!」

「殺してくれ!最早僕に、まっとうに生きる道はない!ならばいっそ、君に…!」
「…何勝手なこといってるんだよ。」
彼女は初めて、口を開いた。

「全部聞きゃ分かる話じゃねぇか。全部お前の意志じゃねぇ。皆命令されてやったことだ。お前のせいじゃねぇよ。」
「でも…!」
「…お前は言ったな。許さないでほしいと。なら、私は許さない。」
踵を返し、彼女は言った。

「「殺してくれ」と願い乞うなら、私はお前に「生きろ」という。」
「!!」

「もうお前は今までの「クランケ」じゃねぇ。眼の色が違うだろ?」
肩越しに振り向く彼女の顔は、笑っていた。
「もうひとつ命ずるなら、私の前では「千郷」でいろ。そして、また私と話してくれ。」
「「星」…。」
「何分寂しがりなんだ、私は。」

一体どれほどにまで心の広い人間なのだろう。
人間に嫌われ続けた彼女は、自分は人間を嫌うまいとした結果なのだろうか。
…いや、違う。
きっとこれも「キング」の血族としての、心の広さなのだろう。
塵同然の自分を受け入れた笑顔が、あまりにもそっくりなのだから。
だから、彼は自然とこの言葉を口にしていた。

「――ありがとう――!」




追記

――君に伝えておきたい。
ホウオウグループが新たな計画に手をつけた。
そのメインの指揮を執るのは
僕たちの長で
君の祖父。

変わり果ててしまった
「ギルティー・キング」だ。

111スゴロク:2011/04/18(月) 20:49:50
マナの過去話その3です。これで最後です。名前のみしらにゅいさん「トキコ」「千春」「楠原 亜音」、大黒屋さん「夏香 由衣」「夏香 奏」、(六x・) さん「凪」をお借りしました。


―――私はもういない。その事実に気が付いてからの私は、空っぽだった。誰を頼ることもなく、食べることも、飲む事も、眠ることすらなく、4年を過ごした。その中で能力……いや、私を使って色々なことを調べ、私に関する事実に行き当たった。
それを知って以後は、私にはもう何もなくなっていた。――――私はもう、生きてすらいない。
それに気が付いてしまったから。

(いかせのごれに来たのは、ちょうどその頃だった)

今から考えれば、ゲンブがアースセイバーに入り、スザクが偽名を名乗ってから1年程の時期だったと思う。
特殊能力者が他の地域、いや国と比較しても異常なまでに多い、不思議な場所。「奴」……ヴァイスと名乗っていることがわかったあの男なら、ここに目をつけるだろうと思った。
そして私は、ここでの行動の拠点を確保するため、能力を使った。

火波 スザク、水波 ゲンブ、ブランカ・白波……アースセイバーに近い立ち位置と独自のネットワークを持つ彼らに接触し、その精神に微妙に干渉することで、自分を「以前からの友人」と認識させる。そうすることによって、縛られることのない「仲間」としての立ち位置を得、ヴァイスについて調査する。必要な時だけ姿を現し、信用を得るために情報を流す。そして、必要に応じてさりげなく関連情報を引き出す。

調査そのものはあまりに簡単だった。自分自身を波動と化し、意識を拡散させることで、あらゆる場所のあらゆる情報を取得し、必要なものだけを選別してもとに戻る。彼らを隠れ蓑に、ゆっくりと奴について調べる。それだけの、関係。真実から外れた、偽りの、絆。

(そう――――)

その、はずだった。
なのに。

『マナ、元気にしてたか?』

スザクも、

『相も変わらず神出鬼没なことだ。無茶をしてはいないだろうな』

ゲンブも、

『マナちゃん、元気ないよ。どうしたの?』

ランカも、

(みんな、みんな……優しかった)

そういう風に認識させたのだから、ある種当然ではあった。能力を無効とするランカでさえ、精神そのものへの干渉は防げない。
なのに、

(胸が、痛くなった)

とうに止まってしまったはずの鼓動が、聞こえたような錯覚があった。
父を、母を、私自身を奪い、全てを滅茶苦茶にした、あの男への復讐。それが、それだけが目的だったはずなのに。いつしか、スザク達を守りたいと、みんなの力になりたいと、そう思う私がいた。偽りの絆ではない、本物の居場所が欲しいと、願っていた。だから、ゲンブの手助けをした。ランカのお見舞いにしょっちゅう行った。スザクの恋にアドバイスをした。

112スゴロク:2011/04/18(月) 20:50:28
「………」

スザク達は、私と出会った記憶を持っていない。あるのは、私の与えた認識に合わせる形で作られた、存在しない思い出。その認識を切り離せば、記憶に疑問を覚え、やがて真実に辿りつく。
もしかすると、私は友達でいられなくなるかも知れない。だけど、それでもいい。

(いっそ恨んでくれれば……その方が、楽)

体よく彼女らを利用したようなものだから。恨まれても、文句は言えない。
けれど、それでも、今の私は……みんなが、大好きだから。スザク達だけじゃない。店長さんも、由衣さんも、奏さんも、正人さんも、千春さんも、凪さんも。
だから、あの人たちに迷惑をかけるようなことは、もうしたくない。

思い起こされるのは、ついこの間までの出来事。シドウさんが帰って来て、スザクが倒れて、ランカが落ち込んで……。そこに、私もいた。仲間として。

(あれが、本当の絆だったら)

どんなに、よかっただろう。だけど、今の私には……人間ですらなくなった今の私には、叶わぬ願い。
……ヴァイスはいずれ、邪魔な私を排除に来るだろう。恐らくは、周りのみんなを使って。
そうなる前に、この作られた絆を捨てよう。私一人で、ヴァイスを止める。もう誰も、傷つけさせない。

(……ごめんね、スザク。でも、あの子は……トキコは、必ず守るから)

心の中で謝って、空に立てた指を基点に、見えない波を起こす。スザク達3人の精神に干渉し、私の与えた認識を消し去る。数秒も、かからなかった。

(……さよなら、みんな。今まで……ありがとう)

思い、自分を波動に溶かす。意識がその場を離れるのに、時間はいらなかった。




―――とある場所の、とある部屋。机の上に散らばる書類を、ぶつぶつ言いながら片付ける女性がいた。

「ほんっとにもう、整理整頓の出来ない人なんだから……」

その手からこぼれ落ちた、一枚の資料。こう、書かれていた。


『……以上のように、特殊な能力を持った人間の中には、ごく稀にその能力に生体機能を奪われ、外見・自我を保ったまま能力そのものと化す事例が存在する。この現象については未だ調査中であり―――』



私の姿、それはあの日の残像

(彼女は大切な人を守るために)
(偽りの絆を捨てて孤独を選んだ)
(その想いこそが絆と気付くことなく)

113鶯色:2011/04/19(火) 00:13:27
時系列は2001年の秋
自キャラのミキヒサとカイリ兄弟のお話です

―――

墓に、花が供えられる

ここは、とある一つの墓地
その中のひとつの墓の前で、一人の男が手を合わせている
閉じていた目を開けて、彼は眼鏡越しにまっすぐと墓を見た

「あれから16年、か」

彼の名前はミキヒサ。いかせのごれ高等学校の教員であり、墓の中で眠る少年の親友だった
その少年――カイリとミキヒサはいかせのごれの隣に位置する県の、扶余中学校に通っていた
2人は昔からの幼馴染で、同級生で、部活の仲間でもあった
しかし一年生の秋頃にカイリは死んだ。包丁で一突きだったらしい
現場に残っていた包丁には彼の指紋が付いていたことから、自殺ということで片づけられている

―――というのが世間的に知られている事
カイリは、その時ミキヒサを殺したはずだったのだ
それなのに今カイリは亡き者になっていて、ミキヒサはこうして生きている
矛盾は「ナイトメアアナボリズム」という能力で全て説明が付くだろう

ミキヒサは毎年、命日付近には必ず墓参りに来ている
昨日はその命日だったから、彼は花を手にここに来ていた

彼がお参りを終え来た道を戻ろうとした時、道の先にいた少年と目があった
緑に近い色の癖毛と、眠そうな目
その姿は、墓の中にいる少年と赤の他人とは思えないほど似ていた

「兄の、知り合いですか?」
「え、ああ。子供の時にちょっとな」
「そうですか」

カイの、弟なのか
いままで弟がいる事は知らなかったが、そう聞くと妙に納得した
その少年は墓の前にしゃがむと、持っていた缶ジュースをその前に置いた
手を合わせるわけでもなく、感情の含まれていない目でただ墓を見ている

「兄は、どんな人物でしたか?」

少年は一人ごとの様にぽつりと呟いた

114鶯色:2011/04/19(火) 00:14:22
「傍から見れば完璧を絵にかいたような奴だったよ」
「…」
「でも実際は強情で、なんでも一番じゃなきゃ気が済まなかったみたいでな」
「そういう所はやっかいな奴だったかな」

懐かしむ様子で語るミキヒサ
意外だといいたげに少年は彼に目を向けた

「そんな所あったんですか」
「聞いた事なかったのか?」
「兄の事は、なんでも出来る凄い人としか聞いていません」
「…お前自身はカイとは、兄貴とは?」
「会った事ありません」
「兄は、僕が生まれる前に死にましたから」

ミキヒサは何処か気まずくなって目を逸らす
それを見て少年はふっと笑った

「僕は、兄の事が嫌いです」
「え?」
「いつでも優秀だった、完璧だった兄は僕の事を追い詰めました」
「兄の代わりに育てられたけど、どんなに頑張っても兄に足りなかったから」

少年の話を聞いて、彼は申し訳なくなった
兄が死ななければ少年は幸せだったのかもしれない
何か言おうとするも、何て言えばいいのか

「すみません、変な事言っちゃって」
「いや」
「なんでかな、あなたとは初めて会った気がしない」

少年は立ち上がり、供えていた缶ジュースを彼の前に突き出した

「聞いてくれたお礼です」
「いいのか?」
「どうせ捨てる予定だったので」

それを受け取ると、少年は「それじゃ」と言って去っていた
缶の中身はスポーツドリンク。ラベルは変わったものの、カイリが良く飲んでいた物だ

「本当の事を知ったら、どんな反応すんのかな」

ミキヒサは呟いた
少年は好意的だったが、それだけに次会う事があったらどんな顔をすればいいのか
…いや、もう会う事は無いだろう
いままで16年間、一度も会う事はなかったのだから
親友と同じ後姿を見ながら、そう思った


墓参り


(その後、親友と同じ名前を職場で発見する事を)
(春から毎日顔を見る様になる事を)
(その時の彼は知る由もなかった)


―――

この2人の初対面のお話でした
書きたい話が多い中で筆が進まなくなったのでちょっと息抜きです

115大黒屋:2011/04/20(水) 22:00:04
時系列はスイネ救出(?)の直後になります。
矛盾が生じる気がしそうで怖いですが、ネタが出ないので投下します!
自キャラオンリーです。

逆の逆

いつもより早くに電灯が消えた部屋。
月明かりだけを頼りに、キリは自らの鋏の手入れをしていた。
いつもなら春美も起きている時間なのだが、今日は非常に疲れており、早めに床に就いた。

当然と言えば当然だろう。
「精神体」も女性に導かれるようにウスワイヤに立ち寄り、生死の境を彷徨う少女の「姉妹」に体を貸したのだ。
それだけでもかなり体力を使うのだが、基本的に能力を使わないので慣れない体では限界だったのだろうと思う。

『…キリ。』
突然、頭の中に声が響いた。
聞き覚えのあるその声に少しうんざりしながら、声を出さずに返答する。
(何でありマスか、このタイミングで。主なら寝ているのでありマスよ。)
『ああ、それなら丁度いい。お前に用があったんだ。』

声の主は一言いった。
『寅の刻。アカノミの所まで来てもらえないか。』


午前四時。朝日も上らないこの時間にキリは当人を待っていた。
昼も夜も彼には関係ない。東の平原の巨木に寄りかかりながら。
そして、時間どおりに当人はやって来た。

「…ごめん。待った?」
「時間どおり。問題ないのでありマス。」
キリが顔を上げる。視線の先にいたのは、幹久朗だった。

「どうしてまたこのタイミングで?」
「風のうわさで主が体を貸したとを知ってね。結構体力使うから直ぐ寝ることは知ってたんだ。念には念を入れたけど。大丈夫。今アカノミは寝てるから事実俺たちだけだ。」
「…そこまで考えて小生を呼び出すということは、何かあったのでありマスね、幹久朗?」
「…ごめん、今だけは『キムナ』って呼んで。」

幹久朗…いや、キムナの言葉にキリは反応した。
「お前、その名前はとうに捨てたはずでありましょう!?どうして…。」
「…捨て切れてなかったんだ、「俺」をな。」
嘲笑するキムナ。しかしその表情は悲しげに見えた。

「主が帰ってきて3日後くらいからか。逢魔ヶ刻から翌朝までの記憶が消えるようになった。」
アカノミによりかかり、キムナは言う。
「そしてついこの間。その時間帯に「俺」が暴走していることに気がついたんだ。」
「それって、まさかまた人間を…。」
「ああ。「木に変えてしまっていた」。しかも一人二人のレベルじゃない。」

「今は丑三つ時を過ぎればなんとか自我が働いて戻れるんだ。でも、いつまでもつかわからない。」
「…それで、万一暴走した時は止めてくれと、そういうことでありマスか。」
納得がいかない、というようにキリは言っていた。キムナはそれに気付きながらもうなづく。
「悪いな。お前は頼まれるどころか、俺と面あわせんのも嫌だったろうけど。」

116大黒屋:2011/04/20(水) 22:00:45
「どうして主に相談しないのでありマスか。」
感情を抑えながらキリはきいた。
「いや、主に話せば心配するからというのは分かっているのでありマス。なら何故他の妖怪にあたらないのでありマスか。」
「…。」
「お前のことを小生以上に知っている者は何人もいるはずでありマス。それを抑えてでもというのが、やはり気になるのでありマスよ、こちらとしては。」
「…。」

「小生とお前は元々仲が悪い。単純な理由でなくあらゆる面において。それでもそういった重要な役を小生に任せるのは、甚だ納得がいかないのでありマス。」
横目に見ながら、キリは言った。
「生半可であるようなら、引き受けないのでありマス。分かってるでありましょう、自分がどれほど重要なことを言っているのか。」
キムナは黙って、彼の言葉を聞いていた。
「どうしても小生なら、何故小生なのかはっきりさせるのでありマス!そうでなければ…。」

「…こんなこと言うのもあれなんだけどさ。」
キリの言葉を遮りキムナは姿勢をただすと、キリを見た。

「どう曲がり間違っても、最後に頼れるのはお前なんだよ。」
「!!」

「なんか無性にムカついて、喧嘩ばっかりしてるけど、やっぱり最後はお前なんだよ。」
「小生が…?」
「だから頼む!今回の相談にはのってくれ!」
キムナは思い切り頭を下げた。
「これ以上、俺は人間を傷つけたくないんだよ…!!」

キリは暫くその姿を見ていたが、やがてキムナの頭を軽くたたいた。
キムナが顔を上げると、キリは彼の横を通って背を見せた。
「頭を下げないでほしいのでありマス。調子が狂う。」
「キリ…。」

「そのくらいの覚悟があるならば、ムカつく相手でも、全力でそうするでありマスよ。もし主に話しても同じことを答えるはずでありマス。」
振り返りながら、彼は笑いかけた。
「守るのは当たり前でありましょう?」
キムナも、その顔に安堵し、笑い返した。

朝日が昇ってくる。
光に照らされたキムナの眼が、血の色から金緑色に戻っていく。
「…この約束、守る日が来ないように俺も頑張るから。」
「なにも起こらないのが一番でありマス。」
二人は向きあうと、その手を固く握ったという。


「非常に気に入らない者の話をしよう。」
「非常に気に入らない者の話をしよう。」

「自然に魅入られたそいつは」
「文明に魅入られたそいつは」

「人間を憎み」
「人間を殺し」

「隔離されて生きてきた。」
「恐れられて生きてきた。」

「非常に気に入らない者と出会い」
「非常に気に入らない者と出会い」

「張りあっていくうちに」
「張りあっていくうちに」

「気がつけば周りにいるのは」
「気がつけば周りにいるのは」

「隔離してきた人間だった。」
「恐れつづけた人間だった。」

「自然を好むそいつは文明を嫌う。」
「文明を好むそいつは自然を嫌う。」

「自分はそいつが非常に嫌いで、非常に信頼できた。」
「自分はそいつが非常に嫌いで、非常に信頼できた。」

「だから、何故嫌いかと問われれば、敬意をこめてこういうだろう。」
「だから、何故嫌いかと問われれば、敬意をこめてこういうだろう。」

「「スカした顔が気に入らない、と。」」

117十字メシア:2011/04/20(水) 22:06:07
ミユカの驚きの声に、長い黒髪の男―――ゼアが振り返る。

「おや、誰かと思えば…あの研究者の娘さんではないですか」
「…っ」

ミユカの拳が強く握り締められる。
彼女の瞳は、今にも蛇の目になりそうなぐらいにゼアを睨み付けていたが、当の本人は物ともしていない。

「それと…久しぶりですね。Σ-B001」
「……」

シグマがゼアを避けるかの様に後退りする。

「シグたん?」
「…あいつ、俺を捨てた…」
「!」

ミユカは思わずゼアを睨み付ける。

「お前が…シグたんを…」
「何か問題があるとでも?」

おどける様にして発言するゼアにミユカはついに苛立ちを隠せずにいられなくなった。

「問題もなにも、シグマを勝手な都合で捨てたじゃない!!」
「それが何だと言うのですか?」

ゼアの態度にミユカの怒りは募っていく。

「使えないものをいつまでも手元に置くのは、あまりにも合理的じゃなさすぎる。だから捨てたんですよ」
「使えないって…!」
「当たり前でしょう。戦う為に生まれた兵器が戦えないのでは、最初から無いのと同じなんですから。とにかく」

言葉が途切れた途端、ゼアの右手から剣の様な形状の光を吐く龍―――幻龍剣が現れた。

「Σ-B001…今度こそ消えてもらいますよ!」

ゼアが幻龍剣を構え、シグマに向かって突進する。

「シグたん!」

ミユカがシグマを後ろに突き飛ばしたと同時に、ゼアに一蹴り浴びさせる。
だが間一髪の所で、ゼアが後転して避けた。

「…意外とやりますね」
「伊達にアースセイバー独立隊員やってる訳じゃないよ」

互いに不敵な笑みを見せつける。

「シグたん、下がってて」
「うん」

ミユカの言う通りにシグマは柱の影に身を隠した。

「あなたが弱くない事は認めましょう。しかし、悪夢の中身は私の方が有利…あなたが勝つ可能性は無いに等しい」
「そんなの、使う人によるんじゃないの?開発部のゼアさん?」
「ふっ…なら試してみますか?」
「当然」

会話の終わりを合図に、二人の戦いが始まった。

118十字メシア:2011/04/20(水) 22:08:50
ゼアが幻龍剣をミユカに向かって薙ぎ払う。
ミユカはそれを避け、ストリートダンスの様な蹴りを放ち、ゼアの足を払った。

「く…ッ!」

体勢を崩されながらも、ゼアはミユカに攻撃をしかける。
だがミユカはそれを再び避けた。

「キシシシシッ、やっぱ戦い慣れてないんだ」
「黙れッ!」

ゼアがムキになって突進する。
その時、ミユカの瞳が蛇のそれに変貌した。
そこにミユカの蛇の瞳にゼアの「行動の意志」が映る。

―――横一線に薙ぎ払って突き刺す、か。

するとゼアが、ミユカの瞳に映ったそれと同じ様に行動する。
あらかじめ予測していたミユカは、後ろに下がって避けた。
と同時に、ゼアの幻龍剣が空を斬る。

「!?」

ゼアは驚きの表情をする。
ゼアの目には、ミユカがまるで自分の動きを見抜いたかの様子に見えていたのだ。

「キッシシシ」

笑いながらゼアの攻撃を鮮やかに避けつつ、次々と攻撃を繰り出すミユカ。
その最中、ゼアはある事に気付く。

―――私の攻撃を避ける度に、蛇の瞳になっている?

やがてゼアはある確信に辿り着き、小さく笑みを溢す。
ミユカはそんな事を知るよしもなく、再び蛇の瞳でゼアの行動の意志を読み取る。

―――後ろに回り込んで斬る。

ゼアが再び幻龍剣を振るい突進する。
ゼアが背後に回り込もうとした所で、ミユカは前に飛び退く。
だが―――。


ザシュッ。


「…え?」

ミユカは一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。
背後にいるはずのゼアが目の前におり、本来なら無いはずの一線の朱い傷が腹部にある事を―――。

119鶯色:2011/04/23(土) 20:42:15
登場人物はびすたさんより「ロゼ」さんと、自キャラの「エミ」と「ウミ」
「決断と勘違い」の直後の話です

―――――

シックな雰囲気の隠れ家的バー
今なら丁度営業時間のはずが、扉にかかる看板には「close」の文字が
休業日でもなんでもないし、バーテンダーはお店の中にいるのだけれど
中で行われる会話は、ある決断のもたらした結果のお話

店内には、バーテンダーであるロゼがノンアルコールカクテルを振舞っている
それを受け取ったのは、同じ顔の少女が2人。エミとウミだ
バーはアルコールを扱う場である事もあって、2人はその場所に不釣り合いだ
なのに2人がここにいるのは少し事情がある

一口ライム・レモネードを味わった所でウミが尋ねた

「例の件、何かわかった?」
「ええ、何から話せばいいのか…」

磨いていたグラスをおいて、ロゼは話し始める


先日、「切裂き魔とその主」について、エミとウミ、2人の要望でクランケの監視をしていたロゼ
そのついでに、情報を集めていた
主がホウオウグループに監禁されている事、切裂き魔を知る人物はいなかった事
妖怪を召喚できるという主の能力「百鬼夜行」と、それを利用する研究部の計画
ホウオウグループ内で収集できるのはこれくらいかと思った時
クランケが行動を起こしていた
地下牢に向かい、紫髪の少女を連れて何処かへ行こうとする彼
もしや、と思い彼女の能力「アイコンタクト」を発動させてみたところ
…ビンゴ。少女は噂の主で、彼は嘘をついて主を連れだしていた
そのことは上に報告
リオトとクロウの2人が処分に向かったが、突如現れた切裂き魔にしてやられたらしい
彼はホウオウ様に反中を翻し、結果としてホウオウグループを脱退した


「ここまでが、私の知ってる情報よ」

120鶯色:2011/04/23(土) 20:43:11
そう言って一息付くロゼ
エミは驚いた様子でロゼを見つめていた
何せ昨日の今日の出来事だから、今回の事を知る人物にまだ会っていなかったのだろう
そんなエミを傍目に、ウミが確認をとる

「まず主の能力だけど、妖怪を召喚するのよね」
「ええ。それで今まで数多の妖怪を従えてきたみたい」
「それなんだけど、昨日から様子がおかしくてね」

へえ?と反応するロゼに、エミとウミが交互に説明する

「街を歩いてたら主がどうとかって声が聞こえたみたいでね」
「力がみなぎるとか、一般人とは思えない内容だったの」
「追いかけようと思ったんだけど、声が聞こえなくなっちゃったみたいで」
「結局詳しい事はわからなかったわ」
「妖怪達の復活って所かしらね」
「そういや妖怪っぽい子、高校にいたよね」
「ええ、隣のクラスのノラ」

―――野乃 螺良華、通称ノラ。いかせのごれ高校2-1の生徒だ
明るく活発な少女で、エミ達も何度か話した事があった
いつも帽子を被っているが、その中には犬のそれと瓜二つな耳が生えているなど普通では無いようだった

「変な事考えてるなあって思ってたけど、あの子も妖怪だったのかな」
「『主の為なら頑張らなくちゃ』とか言ってたみたいだし、そうだろうね」
「『一度無くしたこの命!』なんて考えてた事もあったから悪夢持ちの子だと思ってたけどなあ」
「高校にまでいるなんて、妖怪ってどこにでもいるのね」
「そうね。人の恐怖の数だけいるとも聞くし」
「それなんかやだなあ」

そこまで話した所でエミがはぁーあ、とため息をついて、脱力した

「それにしても、クランケが脱退するなんてね」
「びっくりしたわ、いきなりだったんだもの」
「兆候とか何か無かったの?」
「うーん、ちょっと悩んでる所はあったみたい」
「けど辞めるつもりはないって考えてたし」
「忠告もしてあげたから大丈夫だと思ってたのにね」
「もう、なんで辞めちゃうかなあ」

拗ねた様子でマンゴー・ラッシーに口を付ける
そんなエミをみて一言

「エミって、クランケの事気に入ってたでしょ?」

ロゼの言葉に思わず噴き出しそうになった

121鶯色:2011/04/23(土) 20:47:05
「あら、図星かしら」
「へ?何いきなり」
「それ前から言われてるよね」
「やっぱりそうなんだ」
「だってあんなに言ってる事と考えてる事違う人も珍しいんだもん」
「それを苛めてたのよね」
「可愛がってあげてたんだよ、ウミ」
「クランケも時々愚痴ってたわ。弱みに付け込んで振り回されるって」
「そんなこといってたの?」
「ええ。まるで悪魔みたいだとも」
「結構考えてたわよね、気が擦り減るとか」
「むう、こんど会ったらただじゃ…」

あ、と何か思いついたようにぱあっとエミの表情が明るくなった

「ねえロゼ、クランケの処分ってもう決まったの?」
「ノアノルンと同じく存在の抹消だろうけど、誰がって事はまだみたい」
「昨日の今日だからね」
「そっか、じゃあさ、一つ頼んでもいい?」
「私ができる事なら。どうしたの?」

そう聞くとエミは笑顔であのね、と続けた
その時、ウミは一層悲しげな表情を見せたのだけど

「クランケの処分、私がやってもいいかな」

その表情は、曇り一つないほど晴れやかだった


 決断の果てには

―――――

っと、名前だけ大黒屋さんの「クランケ」お借りしました
という訳で裏でエミウミ動かしていきますね

122スゴロク:2011/04/23(土) 22:06:29
遅ればせながら感想をば。

大黒屋さん>由衣の特訓風景ですか。凪を相手の実戦訓練、経験とセンスの戦いって感じがしますね。
そしてノラ、ここで登場! 結構なツワモノの様子……これから楽しみです。

クランケの懊悩が伝わってきますねぇ……。そして星さん、器が広いっ! 言ってしまえばそれまでの自分を奪った張本人を認めた、かといって寛大に許したわけではない。
こういう選択ってありだと思います、実際。
そして最後、グループにキングが!? こ、これはどういうことなのか……。

カンクローとキリの語り……色々と複雑ですね、この二人。しかし、合わないがゆえに理解でき、信頼が置けるという、一見真逆に見えてそうでもない。
結局、似たもの同士ゆえ、なんですかね。

十字メシアさん>ミユカ&シグマの外出、見てて飽きないですね。文字通りの世間知らずといたずら好きな世話焼きの組み合わせ、最初「大丈夫か?」と思ったのは内緒です。
風月堂にてカナミの一面発覚、和菓子のことになると回りが見えなくなるという。誰もいない所に説明すると言うのは、らしいというか、なんというか。
そして跡地、ついにゼアと直接対決! ミユカの読みを覆した攻撃……これはあれですね、某ヘッド対策と同じですね(分かる人しか分かりません)

鶯色さん>ミキヒサとカイリの邂逅、といったところですか。かつて自分を殺したはずの少年の墓の前で、その弟と出会う。
これも一つの縁、ってやつでしょうかね。いい方向に向かう事を願いつつ。

クランケに再びの危機が!? エミの真意は何か……ますます目が離せなくなって来てますね。


我ながらグダグダな文章になってしまいました……それでは、また。

123十字メシア:2011/04/23(土) 22:54:56
「くあ…ッ」

ミユカは傷の痛みと飛び退いた勢いで倒れる。

「ミユカ!」

柱の影に隠れていたシグマが、ミユカに駆け寄ろうとする。
だがミユカは、

「来ちゃ駄目!」
「で、でも…」
「私の言う通りにして!て!」

渋々隠れるシグマ。

「少し悪夢の力に頼りすぎていたようですね」

不敵な笑みを浮かべるゼア。
それに対し、ミユカはいつものいたずらっぽい笑みを返す。

「キシシ…バレた?」
「どうもおかしいと感じたんですよ。私が攻撃する度に蛇の様な目になっているんですから。しかも必ず攻撃を避けてくる…」

という事は、と前置きしてゼアが言った。

「蛇の瞳で私の動きを読み取っていた。そうでしょう?」
「ご名答…これ結構気に入ってる戦い方なんだけどね」

よろめきながらもミユカは答えた。

「私が先程言った通り、あなたに勝つ可能性など無いのですよ…残念でしたね」

「残念?」

ミユカが唐突に呟いた。

「まだ終わってないよ?」
「…その体でまだ戦うつもりですか?」
「それ以外に何があるの?それにこのぐらいの傷、『再生』すれば治るし」
「ほう…しかしその深い傷では時間がかかるのでは?」
「キシシシシッ。これもバレた?」

と、ミユカが咳き込んだ。
その拍子で口から血が数敵、床に飛び散る。

「…!」

シグマの表情に陰りがつきまとう。
そんなシグマとは対照的に、ミユカは明るい表情でこう言った。

「大丈夫だよシグたん」
「どこがだよ!そんな深い傷なのに…」
「大丈夫って言ってるでしょ。それに、ウスワイアで私言ったじゃん。





保証するって」
「!」

シグマはハッとして顔を上げる。
そこにはさっきまでと同じ、太陽の様な明るい笑顔を浮かべたミユカが立っていた。

「だから!絶対にこいつを倒す!」

ミユカがゼアに向かって飛び蹴りを放とうとする。
しかし―――。

ズキッ!

「痛…ッ!」
「無駄ですよ」

その隙を突いたゼアが、ミユカを横に殴り飛ばした。
壁に激突したミユカは立ち上がろうとするものの、傷と壁に当たった背中の痛みでへたりこんでしまう。
成す術も無くなったミユカの前に、ゼアが幻龍剣を手に立つ。

「では…とどめです!」

光の刃がミユカを襲う―――その時だった。

124十字メシア:2011/04/23(土) 22:58:04
「やめろぉお!!」

能力を発動し、体を狼の四肢に変化させたシグマがゼアに飛び付き、牙を向いた。

「! この…ッ!」

驚いたものの、ゼアはシグマに向かって幻龍剣を振るい、両足を切り裂いた。

「シグたぁああんッ!!!」

悲痛な悲鳴を上げるミユカ。
強烈な一撃を食らったシグマは、そのまま床に落下した。
ミユカは思わずシグマの元に駆け寄る。

「シグたんッ!シグたん…しっかりして!」

ミユカの呼び掛けに、シグマはうっすらと目を開ける。

「ご…めん…ミユカ…助けようとしたんだけど…」
「馬鹿…まだまともに戦えないくせに…ッ!」

ミユカの目から涙が溢れ出る。

「な…かないで…ミユカ」
「泣くに決まってるでしょ!」
「ミユカに…泣いてるのは似合わないよ…」
「え…」

シグマの手が涙を拭き取るように、ミユカの顔に触れる。

「ミユカは笑ってるほうがいいよ…」
「シグたん…」
「ミユカには笑って欲しいんだ。だって―――





俺の大切な…『友達』だから…」
「…!」

シグマの意識がそこで消えた。

「っ、シグたん…ッ!」

その時ゼアが冷たく言い放った。

「クズ兵器が…私に逆らうからこうなるんですよ」

ピクッ

「ク…ズ…?」

ミユカが立ち上がる。
その時ゼアは、ミユカの様子に違和感を覚えた。
するとミユカが振り返り、顔をうつむかせたままゼアと向き合う。

「!」

ゼアは驚きを隠せなかった。
ミユカの腹部にある傷がみるみるうちに塞がっていく。

―――短時間で傷を…?

その時。


ギロッ!

「!?」

ミユカの鋭い蛇の瞳に、ゼアは気圧される。
そして自分の異変に気付いた。

―――体が動かない!?

まるで金縛りにあったかのように、ゼアの体は微動だにしなかった。
そこへミユカが高速の速さでゼアを殴り飛ばした。

「生み出しておいて…勝手な都合で捨てたくせに、シグたんの何が分かるのさ」

ミユカが怒りを秘めた声で話す。

「お前らに捨てられたあの子の苦しみや辛さを知らない癖に…分かってる様な口でクズとか言うなぁあああーーー!!!」

怒号を口にしながら、ミユカはゼアに向かってかかと落としを放った。
猛烈な蹴りを食らったゼアは、そのまま床ごと下へ落下していった。

125十字メシア:2011/04/23(土) 23:08:09
* * *

私はシグたんの事全部知ってる訳じゃない。

でも分かる。

だって、見たんだ。

明かりの無い部屋の隅で、「お母さん」って言いながら泣いているシグたんの姿を。

その時のシグたんが、昔の私に―――大好きだった両親を亡くした私に似ていた。

そして―――決めたんだ。

シグたんを守るんだって。

もう涙を流させない為に。

いつも笑顔でいてほしい為に。

* * *

「……ん」
「あ、気付いた!」
「ミユカ、大丈夫か?」

ミユカの視界にシノと光一が映る。

「ここは…」
「治療室っすよ。ミユカ、ずっと寝てたんすよ?」
「ずっと…あ」

ミユカは思い出す。
自分がゼアを追い払い、ウスワイアに連絡した後、疲労と安堵で眠ってしまったことを。

「…っ、そうだ!シグたんは!?」
「シグマなら別のベッドで寝てるぜ」
「…そう」
「ミユカ?」

シノはシグマが無事であったにも関わらず、ミユカが気落ちしているのに疑問を感じた。

「シグたん…ゼアに両足とも斬られたんだ」
「え?」

ベッドのシーツを握りしめるミユカの手に涙が落ちる。

「私のせいで…シグたんが…もう、歩けないんだ…ッ!」
「あー、その事だけどさ、何かシグマの足…ちゃんとあるんだよ」
「…え?」

光一の言葉に、ミユカは思わず聞き返した。

「ある、の?」
「お前、俺の話聞こえてた?」

光一が眉をひそめて言った。
それでもミユカはまだ半信半疑の表情だ。

「でも…あの時確かに斬られた筈なのに…」
「アタシも、足が斬られているのを見たから不思議に思ったんすけど…多分、ミユカの再生と似た力を使ったんじゃないかな」
「…私の?」
「ミユカの再生は蛇の悪夢からきてるっすよね?となると、シグマに蛇の遺伝子が組み込まれていたのなら、足が元通りになっているのも辻褄が合うっす」
「て事は…歩けるの?」
「勿論」

と、シノが笑って言った。

「ミユカー!」
「おぶぅ!!」

不意打ちの如く、シグマがミユカに飛びついた。
その勢いでミユカは壁に頭を打ってしまう。

「大丈夫かミユカ?怪我ないのか??」
「だ、大丈夫だから、降りて~…重いよ~」
「あ、ごめん」

シグマが慌て降りる。

「ごめんねシグたん」
「? どうしてだ?」
「だって、私が油断したせいで、ゼアに足を…」

きょとんとしたかと思えば、シグマはいつもの笑顔を浮かべた。

「その事ならもういいよ。それに俺、嬉しいんだ」
「嬉しいって?」
「俺の事、クズとか言うなって、言ってくれた」
「え、聞こえてたの?」
「うん、その時だけだけど」
「……全く」

ニカッと笑って、ミユカはシグマの頭を撫でる。

「盗み聞きするなんてひどいなぁ」
「へへっ」
「あのさ、水を注すようで申し訳無いけど…アキヒロさんが話があるって」

その言葉でミユカが固まったのは言うまでもなかった。

126十字メシア:2011/04/23(土) 23:15:07
「…今回みたいにな、アースセイバーに入っていない能力者を連れ出すという事は…」
「…ミユカ、いつ終わるんだ?」
「…3日間は続く」
「みっ…」
「でも大丈夫。もうちょい私の近くに来て」
「どうしてだ?」
「いいから」

不思議に思いながらも、シグマはミユカと距離を縮めた。

「これでいいか?」
「うん。よーし…開けシオ!」

ガゴン!

「「!?」」

ミユカの声に反応して、床から隠し通路が現れた。

「さ、逃げるよシグたん!」
「お、おお!」
「まっ待て!まだ話は終わってな…」

アキヒロが慌てて二人の逃走を阻止しようとする。
だがミユカが隠し通路に入った時、

「閉じろコショウ!」

再びミユカの声に反応して、隠し通路の入り口が閉ざされた。
上からアキヒロの怒号が空しく響いてくる。

「ミユカぁああッ!!勝手に隠し通路を作るなとあれほど…」
「凄いなミユカ」
「いたずらの時とかに便利なんだよね~。キシシシシッ」

ミユカが笑う。
それにつられてシグマも笑う。

「ミユカ」
「ん?」
「…俺、アースセイバーに入れる様に頑張る。だから、その時また外に一緒に行こう」
「うん、約束するよ」
「絶対だぞ!」
「大丈夫だって。あ、そうだ」

いつものいたずらっぽい笑みを浮かべるミユカ。

「…今からいたずら、しに行かない?」
「うん!行く行く!」
「そうこなくっちゃ!」


蛇は再び獣の手を引いて行った。
互いに笑顔を交わして。

~おまけ・後日談~

「百科事典さーん」
「ん?何すかミユカ」
「シグたんと外に出かけた時にね、百科事典さんにお土産買ってきたんだけど、渡すの忘れてて」
「お土産?アタシに?」
「うん。だってあの時見逃してくれたし、お礼のつもりで買ったの。はいコレ」
「サンキューっす。中身は何なんすか?」
「開けてからのお楽しみ。じゃね~」

(その場を去るミユカ)

「いたずらっ子だから忘れがちだけど、やっぱミユカは優しいっすね…それにしても中身何だろ。お酒かな…何ちゃって」

(箱を開けるシノ)


「ギャァアァアーーーーッ!!!」

「ど、どうしたシノ!?…ん?箱?」

(中身を見るKEA)

「…般若の面…ミユカか」

(溜め息を漏らすKEA)
(泡を吹いて気絶中のシノ)

127十字メシア:2011/04/23(土) 23:17:15
携帯からなせいか、文字数と改行エラー出まくりで連投なりました;
すいません。

な…長かった。
ようやく『蛇、獣と一緒に外に行く』が完結いたしました!
早く他の話書きたいなと焦ってたからか、変なミスが続出orz

・ミスその1、真衣ちゃんが名前出てるのに全く関わってない

これは、ミユカが真衣ちゃんにあだ名を付けるシーンを出そうと思ってたのですが、タイミングが全然無かったので削ったんですが、名前消し忘れてました…;
スゴロクさん申し訳ございません。

・ミスその2、ハヤトのシグマに対する認識の矛盾

カナミ初登場話の時点ではシグマを知っていたので、本来なら「まだシグマについては知らなかったため」とか言う風に書くつもりでしたが、何故かああなりました;
何やってんの自分。

・ミスその3、ミユカが途中でシグマをあだ名で呼んでない

もうこれは普通にミスです。
気を付けないと…

・ミスその4、光一のあだ名が違う

最初でミユカが光一を「こうちゃん」と呼んでましたが、正しくは「こうくん」です。
想像者さん申し訳ございません。

という訳でお借りしましたキャラは、大黒屋さんより「夏香 由衣」「夏香 奏」(名前のみ・あだ名)「楠原 亜音」、あそもりさんより「ゼア」、鶯色さんより「ハヤト」、スゴロクさんより「火波 スザク」「火波 アオイ」、(六x・)さんより「凪」、想像者さんより「闇野 光一」、本家様より「コウスケ」「コヨリ」「アキヒロ」「KEA」の
以上の14名です!
今までの作品の中で一番多いな…w
因みにミユカの気に入ってる戦い方というのは、攻撃を避けまくって焦燥感を煽るというものです。
次はマキナ話か過去話のどっちにしよう…

128スゴロク:2011/04/23(土) 23:26:55
>十字メシアさん お疲れ様でしたーっ! いや、ここまでの長編はそうそう書けるものじゃないですよ。
真衣については……これは、時系列で言うと「旅行と鴉と蒼い鳥と」の少し前って感じですかね。いや、当人の状態考えるとこれでいいかと。
目が覚めて間もない+目の前にいたのが聖でパニック+周りに全く馴染めてない なので、気にしないで下さい。


十字メシアさん、携帯から投稿してたんですか!? そりゃ細かなミスもありますよね……。ちなみに自分の場合、一旦メモ帳に書いておいてから推敲し、それをコピペして投稿してます。
なので、デスクトップに「ハタラキ企画」なる保管用フォルダが。

それでは、また。

129大黒屋:2011/04/24(日) 18:39:47
最近よく見るシチュエーションなきがしてならない…;
自キャラオンリーです。自己嫌悪系列メインのためのエピソード…になってるといいなぁ(

血の狭間

…誰だ?
俺に呼び掛けるのは誰だ?
ここは何処だ?
暗くて何も見えないじゃないか。
そもそも俺はどうしてここにいる?
来た記憶は全くない。それなのになぜ?

目覚めた途端に疑問ばかりか。
うるせぇ奴だ。

…!
お前は?

誰でもいいじゃねぇか。
さっきまで呼びかけてたのは俺だよ。
あまりに目覚めないから、蹴ってやろうかとも思ったがな。

…ここは、この暗い空間は何処なんだ?

「俺」の中だよ。

…!?

ここは「俺」の中であり「お前」の中。
「血の狭間」とでも言おうか。
お前は今、この空間に閉じ込められたんだ。

閉じ込めた!?俺を!?
そんなこと、誰が!

俺に決まってるだろう?

!!

はっきりいって俺が目覚めるのに、お前は邪魔な存在だ。
妖怪であるにも関わらず、人間の情に目覚めやがって。
「百物語」として語られるつもりあんのか?

そんな理由でか!
分かってるのか!お前は…俺は許さざれることをやっているんだよ!
命の価値は如何な生き物の変わらない!お前も分かってるはずだ!

ああ、分かってるさ。
分かってないのは人間のほうだ。
人間の命が、とりわけ自分の大切な者の命が何よりも大切であると思いこんでいる。

かといって、力をつかってまで諭す必要はない!
そもそもあんなことしたら、変われるはずの人間も変われないだろ!

…っは。分かってねぇな。
自然が大切だと叫ばれながら、未だに減っていく森林を見て、変われるというのか?

…それは…。

お前じゃ妖怪として話にならねぇんだよ。
暫くそこで見ているんだな。


待て!お前が出ていけば…。

一々うるせぇ奴だ。

っ…!!?

…恐怖の具現ならそれらしくしろ。
たかだか餓鬼一人に従ってるような奴じゃ、雑魚にもほどがある。
見てろ。
自分勝手な人間なんて、俺が滅ぼしてやる。

「キムナ」、行くな…!

てめぇとはもうおさらばだ、「幹久朗」。

130大黒屋:2011/04/25(月) 19:53:15
自己嫌悪系列メインシナリオになるとおもいます。しばらくグダグダ続くだろうけど。
鶯色さんより「ユウト」、akiyakanさんより「ヨリミツ」、ヨシダサンより「エダ タカシ」、本家様より「アキヒロ」をお借りしました。
キャラ崩壊&微グロ注意です。

「ケツベツトハジマリ」


怖がることなんてないよ

君は生まれ変わるんだ

きっと君なら大きく成長できる

次に目が覚めた時

君は新たな姿に変わっている

もっとも

目覚めることはもうないだろうけどね――



ユウトとヨリミツは、暗い森の前にたっていた。
最近この付近で「人が消える」事件が相次いでいる。
能力者の仕業ではないかと睨んだアースセイバーは、その調査を二人に命じた。
いかせのごれの東にある森。そこを抜けると平原がある。
平原を取り囲むように茂る森は滅多に光がささず、自然にまかされたままであった。

実際、ここに来るのは二人とも初めてである。
人が寄り付かない分事件が少なく、来る機会もなかったのだから当然だ。
少し緊張するユウトの背を、ヨリミツが軽く押した。

「心配することはないでござる。何かあれば、拙者がなんとかするので。」
「ああ、申し訳ないです、そんな…。」
恐縮するユウトを見ながら、ヨリミツは深い森に一歩踏み込んだ。


枯葉を踏む音だけが響く。
風がないため、余計にその音は木々に反射して聞こえた。
「こ、怖いですね…;」
「…。」

ヨリミツは周りの木々を見回した。
何の変哲もないはずの木なのに、ただの木じゃないような気がする。
確証はないが、「ゴーストバスター」をやっていたあの時の直感が、そう囁いている気がするのだ。
そして、彼は向かい側から、誰かの足音が向かってくるのを聞いた。

「だ、誰か来る…。」
ユウトにもその足音が聞こえたのだろう。
自らの刀に手をかけながら、先へと進む。
そして必然的に、その足音の主にはち合わせた。

「…あれ?ユウトにヨリミツ?」
「あ、幹久朗さん!」
暗い森の中でもはっきりと見えたその姿。
春美とともにアースセイバーに加わっている妖怪の一人、幹久朗だ。
いつも通りの軽装で、彼は手を振る。

「なんでこんなところに?」
「アースセイバーからここを調べるように命令を下されたんです。幹久朗さんこそ、何でここに?」
「俺も前々からここの様子がおかしいような気がしててな。店もこの近くにだしてるから、何度か見てきてるんだ。」
「そうだったんですか。」
安心したようにユウトは言った。
しかし。

「…それは本当でござるか?」
「え?」
黙っていたヨリミツが口を開いた。
その眼が、まるで敵を見るような冷たい眼だった。

「何言ってるんですか、ヨリミツさん…?」
ユウトが不安げな声を上げる。ヨリミツは幹久朗に言い放つ形で答えた。
「不穏な空気が漂っていると分かっていて、そんな軽装で暗い森に入るのはおかしいでござる。」
「!」

「お前が妖怪ということは分かっておるが、それでもある程度は警戒するはず。」
すっと、ヨリミツは幹久朗に指をさし向けた。
「何か隠しているのではないのでござるか?もしかしたら、このところ相次ぐ失踪事件…。」

「犯人はお前ではないのでござるか?」

「ちょ、ちょっと、ヨリミツさん!何を…。」
「…あーあ。やっぱりばれたか…。」
ユウトの大声をかき消すように、幹久朗は呟いた。
「いるんだよねぇ、たまに。暗示にかかりにくい人間ってのが。」

「か、幹久朗さん…?」
「忘れてた。ヨリミツは妖怪の類に強いんだったな…。」
口の端が上がる。
二人を見下すように短い髪を掻きあげた。
その眼の色が、いつもの金緑色の色でなかったのは、暗くとも分かった。

赤黒く濁った血の色に、染まっていたのだから。

131大黒屋:2011/04/25(月) 19:54:38
「!?」
「見抜かれたのは初めてだ。「俺」とは眼の色しか違わないんだからな。」
やれやれという態度で彼は言う。
ヨリミツはもう一度刀に手をかける。
だが。

「抜かせるかよ。」
一瞬速く気付いた彼がヨリミツに近づき、右手と首を取り押さえて近くの木に叩き付けた。
「ぐっ!?」
「ヨリミツさん!」

「お前の言うとおりだよ。ここ数日で相次ぐ失踪事件の犯人は俺だ。」
両手に力を入れながら彼は言う。
「その失踪した方々は何処にいるんですか!」
「わからねぇのか?お前らの眼の前にいるじゃねえか?」
「えっ…?」

「ここに生えてる木。これが元々人間だったものだ。」
「「!!」」
「俺の力で森の木に変えてやったんだよ。…こんな具合にな。」
「うぐっ…!?」

首をつかむ手から何かが這い上がって来た。否。這い上がるように変化してきた。
メキメキという音を立てながら、喉元が茶色に変化していくのだ。
「ヨリミツさんっ!?」
異変に気付いたユウトが慌てるも、何をしていいのか分からなかった。
彼の能力は「ナイトメアアナボリズム:獣の悪夢」。2mほどの巨大なワーラットに姿を変える。
しかしここは深い森の中。今ナイアナを発動させても枝が邪魔して思うように動けないのだ。
どうしようか戸惑ってる間にも、侵食が進行していく。

迷ってる暇はないと、彼が飛び出す。
考えなしだったのは後から後悔したが、それどころではなかったのが事実。
一気に蹴り出し、彼に近づいた。

しかし、何かが突然ぶつかり、その勢いをそがれた。
同時に眼の前に誰かが現れ、ヨリミツから手を引きはがした。
足元で何者かが叫んだ。
「『結界解除』!」と…。



少しの間だけ、意識が飛んでいたらしい。
眼を開くと、眼の前にあったのは灰色の空だった。
体を起こす。背丈の低い草が、隙間なく並ぶ平原らしい。中央に見える巨木をみとめ、ここはきっと「東の平原」なのだろうと思った。
ヨリミツの姿を探すと、少し離れたところに寝かされていた。

その喉元に指をあてる少女。
見覚えのある巫女服に、彼はその名を呼びかけていた。
「あ…春美ちゃん…。」
「!ユウトさん、気がついたんですね。」
振りかえる春美が、笑顔を投げかけた。

「ヨリミツさんの処置も、丁度終わりました。気付いたのがはやくてよかったです。」
ユウトが覗き込むと、先程まで侵食されていたヨリミツの喉元は、何事もなかったかのように戻っていた。
「これ…君がやったの?」
「はい。こういう類は専門なので。」

「…そういえば、幹久朗さんは?」
ユウトのその言葉に、春美は一瞬悲しげな表情を見せた。
「…違うんです。」
「え?」
「今の彼は、『幹久朗』じゃありません。彼は…。」

そう呟いた瞬間、金属音のような激しい音がユウトの耳に届いた。
振りかえると、誰かが対峙しあっていたのだ。
常に春美とともに行動する「妖怪」キリと、『幹久朗』だった。
幹久朗の様子がおかしいのに変わりはないらしい。キリの鋏に、枝を突き付けて対峙している。
その口から洩れる言葉に、彼は耳を傾けていた。

「…恐れていたことが現実になったのでありマスね…。」
「何を言ってるんだ?俺はこの展開大歓迎だ。『人間に恐怖を与える存在』…俺たちはそういうものだろう、キリ?」
「幹久朗も嫌いでありマスが、お前はもっと癪に障るでありマスな、『キムナ』!」

「…キムナ?」
その名を聞いたことのないユウトは首をかしげた。
幹久朗とは別人なのだろうか?と疑問を呟くと、春美は首を横に振った。
「キムナと幹久朗さんは同じです。『人間としての存在』が幹久朗さんで、『妖怪としての存在』が、キムナです。」

「じゃあ、やっぱりあれは幹久朗さん!?一体何が…。」
「私にもわかりません。ただ、今の彼は妖怪の力を持て余している状態。幹久朗としての自我は、完全に失っています。勝手に元には戻りません。」
「そんな…!」

「…うっ…。」
眠っていたヨリミツが声を上げた。意識を取り戻したらしい。
体を起こそうとしてふらつくのを、春美が慌てて支えた。
「動かないでください!手当ては施しましたが、応急程度なので動くと危険です!」
「しかし…。」
「…今はキリ君に任せるしかありません。」

132大黒屋:2011/04/25(月) 19:56:40
一度間をおいたキリとキムナ。
キムナの姿は幹久朗と相違ない。違いは眼の色と、腕の様子だった。
動物細胞と植物細胞を変化させる能力を持つキムナ。
自らの腕を木に変化させ、枝を飛ばすことでキリの鋏と戦っていた。

「腕が落ちたんじゃないか、キリ。昔はこんなに時間かかったか?」
(ただ力が有り余ってるだけじゃない。出てこなかった間に強くなっているのでありマス。長期戦は嫌いなのでありマスが…。)
「油断禁物!」

キムナから枝が放たれる。
しかしその枝は、キリから大きく軌道をそれた。
その枝を眼で追った時、彼ははっとした。

一度間を開けたあの時。自分は主たちを庇う位置にたっていた。
つまり、キムナから彼女達の位置が見えたのである。
そして彼は、無防備な彼女達3人を狙い…!

「主――!!」



空白の時間は、あまりに長く感じられた。
キリに庇われた春美は、その抱きかかえる左腕の温度が低くなっていくのを感じた。
「キリ君っ…!」

ずるりと肩から離れた左腕は、赤黒い血を伴って、鈍い音を立てて平原に落とされた。

「!!」
ユウトが駆け寄る。
膝をついたキリの顔に、苦痛の色が浮かんだ。
枝の突き刺さった右腕も動かないのだろう。
止血されない左肩は、枯葉色の軍服を黒く染めていく。

「キリさん!」
ユウトは予備で持っていた布を取り出して引き裂き、止血する。
「っ…。すまないのでありマス、ユウトさん…。」
「そんなことより動かないでください!もう戦えないですよ!」
「…。」

キリはゆっくりと首を横に振ると、立ち上がった。
「いや、小生はまだやれる…やらねばならないのでありマス。」
「キリ君、止めて!いくらキリ君でも死んじゃうよ!」
叫ぶ春美を見下ろし、キリは言った。

「主…小生は今まで黙っていたことがありました。」
「えっ?」
「スイネさんに関わったあの日の夜。主が早く寝たあの夜。小生は幹久朗に…キムナに呼び出されたのでありマス。」
一歩春美から離れるように踏み出した。
「そこで、小生はキムナ自身の異変を、直接聞かされたのでありマス。」
「!」
「そして、万一の時は小生が止めてくれと、頼まれたのでありマス。」

「幹久朗さん、もしかして私に気を使って…。」
「その通りでありマスよ。だからこちらも、彼の気持ちにこたえなければならない。」
「でも、その大怪我じゃ…!」
ユウトが声を張り上げる。
キリは振り返り、地面に落ちていた鋏を足で探って取り上げた。

「人間の常識が通用しない「恐怖の具現」。それが小生たちでありマス…!」


鋏を引っ掛けた足を振り上げ、キムナに飛ばす。
距離があったからだろう。気がついたキムナは枝を飛ばして勢いを弱めてかわす。
が、その頭上には飛びあがったキリ。
振りあげた足を真っすぐに振り下ろした。

反射的に弾いてかわす。
すると今度は横から気配。
先程の鋏を拾い上げ口に咥えていたキリが、着地と同時に首狙って突っ込んできたのだ。
枝を横にし根元に挟み込んで、刃が動かないように固定した。

一歩も引かない無言の競り合いが続く。
急に力を緩め、キリが一歩引いた。
バランスを崩し、前に倒れるキムナ。
そのタイミングを見計らい、足先に鋏の柄を引っ掛け、そのまま回し蹴る。
向かってくる刃を、キムナは伏せてかわした。

「嘘…。両腕が使えないハンデがあるのに…。」
呟くユウトの後ろで、春美は察していた。
キリは本気だ。本気で幹久朗を取り戻そうとしている。
かつての姿、性質、特性、思考さえもかなぐり捨て、無条件で助けようとしている。
いくらキリでも、あそこまで本気で向き合うことはない。

それなのに、妖怪の「主」である自分が何もしないでどうするのだ――!

133大黒屋:2011/04/25(月) 19:57:31
一度間をおいたキリは、急に体に違和感を覚えた。
いつもと違う、それなのにどこか懐かしい感覚に。
そして、彼は気がついた。
「!…腕が、動く!?」

全く反応しなかった右腕が動くようになっていた。
それだけじゃない。左肩には紫色のオーラを纏った腕が出現していた。
はっとし、彼は後ろを振り向く。
視線の先にいた春美は、右手に札を持ちキリに向けていたのだ。

札の先には紫の炎がともり、その煙は吸い込まれるようにキリの体に向かっていた。
慌ててキリは叫んだ。
「何をしているのでありマスか、主!」
「だって、キリ君が本気で頑張ってるのに、私が何もしないわけにいかないじゃない…。」
「しかし主自身、『能力』を使うのは久しいうえ、体力の消費が…!」

「私なら大丈夫だから。お願い。幹久朗さんを救ってあげて。」
「主…。」
「大丈夫。キリ君の自我は、私がつなぎ止めておくから。だから!」
キリは暫く黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。


「ユウトさん!主を守ってほしいのでありマス!今、主は完全に無防備でありマスから!」
「勿論です!」
ユウトの眼が緑色に染まり、体が変化していく。
それを見届けると、キリは正面を向き鋏を構えた。

「「…『百物語:逸話』!!」」
紫のオーラがより一層キリに集まっていく。
草原に風が吹き出し、羽織った軍服がなびく。
その内側は深い闇色に染められていた。
そしてそこに幾つも、白い何かが浮かび上がって来た。

「っ!?」
「な、何でござるか、あれは!!」
「とうとう本気になったか、キリ。いや…。」

「『切り裂き魔のとおりゃんせ』!!」

軍服の内側に現れたのは、無数の青白い『顔』だった。
苦しみもがく『顔』は、キリにとっての力の源。
両手に構えた鋏が『顔』の悲鳴とともに生々しい音を立てて形を変えていく。
再び姿を成した鋏は錆びがひどく刃先がささくれ立っていた。
その大きさはキリの1.5倍はあろう。

その鋏を片手で簡単にもち、確認するように軽く振りまわした。
「…主。」
「大丈夫。でも、時間は長くないから、速攻で…!」
「勿論でありマス。」

刃先を下に向けて持ち、キムナを真っすぐ見る。
風になびいた髪から垣間見える眼は、いつも以上に赤黒い血の色が光っていた。
「『幹久朗』も苦しんでいるのでありましょうから…!!」


鋏の刃を広げ、真正面から突っ込む。
今までの大きさなら簡単にかわせたであろう。しかし、今回は範囲が違う。
横に避けることはやめ、キムナは大きく飛び上がった。

しかし、それを先に見抜いていたのだろう。
飛び越えたと同時に鋏を閉じ、刃の背でキムナをたたき付けた。
「っ!;」
平原に叩きつけられながらも上体を起こすキムナ。
そこに畳みかけるようにキリは突っ込み、腹部に蹴りをかました。

「ぐ…っ!やられてたまるか!」
大きく吹き飛ばされながらも、枝を飛ばして反撃しようと試みる。
キリは少し後ろに下がり、鋏を横に振った。
その場で暴風が起き、枝は風圧だけで吹き飛ばされた。
「なっ!?」

両手でしかと鋏の柄を握り、振りあげる。
キムナが着地しきれていない間に間を詰め、飛び上がっていた。
完全無防備のキムナに、キリは容赦なく鋏を振り下ろした。
誰にも聞こえない声で「すまない。」と呟きながら…。

134大黒屋:2011/04/25(月) 19:58:08
――その喧騒が一気に執着した時。
草原にはキリとキムナが折り重なるように倒れていた。
それを見届けた春美。
風は止み、札の灯も消えた。キリを補っていた幻覚のような左腕も消え、鋏も元に戻っていた。
そして、糸が切れたようにバランスを崩し、そのまま前に倒れ込んだ。
「あっ、春美ちゃ…。」

その体が草原に投げ出される前に、何者かが受け止めた。
赤いエナメルコートの女性。綺麗な黒い長髪が特徴的だ。
顔を隠すように大きなマスクをつけた彼女は、春美を大事そうに抱えあげた。
その女性に面識のないユウトとヨリミツは少し困惑した。

「…全く、予想はしてたけどこんなになるまで無理しなくてもよかったのに…。」
「あ、あの、どちら様d」
「ああ、やっと見つけた;急にいなくなるから焦ったよ、ミサキ;」
やや遠くから声。そちらの方を振り向き、二人は思わず絶句した。

銀の髪に白い服。赤い髪止めが映える。そして眼もとには白い仮面。
二人が彼を知らないわけがなかった。
ホウオウグループの「怪盗一家」の一人だ。よからぬことに決まっていた。

「お前、何でこんなところに!」
「今来たばかりだよ。僕の連れが急にいなくなったから探してただけ。」
「…?;」
疲れていながらも警戒態勢を解かない二人に、彼は静かにいった。
「一応名乗っておこうか。」

「『怪盗:クランケ・ヘルパー』…否。今だけは『妖怪主治医:薬師寺院 千郷』と名乗っておこう。」
眼もとの仮面を外し、二人に向けて放る。
仮面を拾い上げた二人は、彫り込まれたホウオウのマークの上に新たに×印が施されているのを見た。

千郷はキリとキムナの元に駆け寄る。
少しの間二人を見ていたが、彼はすぐ立ち上がり、ミサキを見た。
「ミサキ、春美ちゃんは君に任せるよ。こっちは相当の重傷だ。」
「分かったわ。」
そして彼は二人の方を向いた。

「…お願いがある。何処でもいいんだ。広い部屋を一つ貸してほしい。」
「え?」
「一刻を争う事態だが、ここじゃ応急手当しかできないんだ。信用できないなら、見張りをつけてもかまわない。」
「…。」
ヨリミツは少し俯いた。しかし、ユウトが直ぐに返事を返した。

「分かりました。僕がウスワイヤに連絡してみます。」
「ユウト!?分かってるでござるか?仮にも彼は!」
「ホウオウのマークに×を掘るなんて、所属しているのならできない行為です。僕は信じます。」
「…確かに…。」

そう話している間に、千郷は二人の応急手当までは完了させた。
「…協力、してもらえるかな?」
「…エダに頼んで、見張りをつけてもらうでござる。それでいいのならば。」
「勿論だよ!ありがとう!」

ユウトが連絡を取っている間に千郷はキリとキムナを背負いあげた。
少々重そうだが、こなれたものなのだろう。そのままグライダーを広げて飛び出した。
白いグライダーを見送りながら、ミサキも春美を改めて背負う。
そして、こちらはユウトとヨリミツと一緒にゆっくりと歩き出した。

135大黒屋:2011/04/25(月) 19:58:38
メスを握る手に迷いはなく、正確な機械のように千郷は継ぎ接ぎを繰り返している。
見張るエダは何も言わないが、二人同時、それも人外の者の手術に手慣れた様子に驚いているだろう。
普通の医療技術では使わない呪術的なことでさえ、簡単なものとは彼は言うが、眼の前でやってのける。
(信用できる人間なら、うちにでも入れてやりてぇのに…。)
ひそかにそう思った。

その千郷も、普通の人間と心持ちは変わらないまま作業を行っていた。
妖怪と過ごした日々は、彼を妖怪と人間を分け隔てなく見る目を養っていた。
とはいえ、流石の千郷も覚えたての知識では不安を覚えていた。
自信を持ってメスを握れるのは、頭の中に響く『声』のおかげだろう。

『そう、そこよ。少しでもずれたら危ないから。』
(ありがとう。春美ちゃんは?)
『まだ眠ってるけど、異常はないわ。大丈夫。』

(ごめんね、君にばかり頼ってしまって。本当ならこの手術も、僕一人でやらなきゃいけないのに。)
『まだ初めてじゃないの。この位手伝って当然よ。』
(…君の『もう一つの力』の賜物だね。)
『何言ってるの。かくしてるけどこっちが本当の力なんだから。』
(…そりゃそうか。)

二人の手術は順調。もうすぐ完了する。
手を動かしながら、千郷は一つの心配ごとを気にしていた。

今回の騒動で、妖怪の力が如何なるものか実証された。
誰もいなければいいのだが、場所は東の平原。麓には森が茂る。
ホウオウグループの誰かが見ていない可能性はほとんどないであろう。

妖怪を生物兵器にする計画は、現実味を帯びるはずだ。
そして、もう一度春美が狙われる可能性がある。むしろ可能性は高い。
(この手術が終わり次第、アースセイバーにその計画のことを伝えよう。)
彼はそう思いながら、左腕を縫い合わせた糸を切った。

(守られている僕に、守る資格はないんだろうからね…。)





追記
春美、キリ、キムナは数時間後無事意識を取り戻す。
キムナは妖怪の縛りが解け、幹久朗に戻った。
千郷は手術終了直後、春美の狙われる可能性をヨリミツ、ユウト、エダに告げ、「何かあれば天河探偵事務所にいる」といって一人で立ち去った。
3人の回復は順調。キリにいたっては左腕も早々に動く様になった。

尚、幹久朗に関しては後日アキヒロの説教と始末書を食らったことは言うまでもない。

136大黒屋:2011/04/25(月) 20:00:03
おおう;6スレッド;使い過ぎごめんなさい;
最後にフラグ?がたってますが回収は自由です。持って行ってもらってかまいません。
だれも持っていかないでしょうけど!(蹴

137十字メシア:2011/04/25(月) 22:10:47
今回はシノとマキナと愛澄以外の過去話総集編です。
まずはユズキ。

『過去(むかし)の僕と現在(いま)の僕』

「おーい、ユズキー」
「……」
「また目開けて寝てんのかよッ!」

ある学校の日の昼下がり、睡眠中だった僕は、友人の由衣に叩き起こされた。
せっかくのお昼寝タイムを…

「…何の用?」
「用っていうか、話に来たんだけど」
「じゃあ寝る」
「寝るなッ!」

またしても叩かれた。

「前から聞きたかったんだけどさ」
「何?」
「ユズキって、昔どんな感じだった?」
「どんなって…今とあんま変わんないけど…あ、でも」
「でも?」
「友達、1人もいなかった」

すると僕の言葉に由衣は目を丸くして言った。

「…意外」
「あれ、そうなの?」

僕的には、逆にそう思われてそうだけど。
まあ、今はケイイチ達とも仲良いけどね。

「そりゃあ、お前は自己中に見えるけど、友達の事第一に考えてるじゃん」

自己中は余計だよ。

「何て言うかさ、馴染めなかったんだよね。こういうキャラだから」

自分が興味無いものには一切関わらない。
いつも同じ様な表情を浮かべている顔。
不思議な雰囲気。
だから周りとは全くと言ってもいいほど相成れなかった。

「でも今は違うじゃん」
「今と昔は違うよ。第一この学校、僕以外にもクセのある奴いっぱいいるし」
「まあな…」

でも周りに馴染めなかったのはもうひとつ理由がある。
それは僕の周りにいた大人達。
そして僕がトモコ先生以外の教師達が嫌いな理由でもある。

まず両親。
両親はいつも夜遅くまで働いていた。
学校行事には一度も来てくれなかったくらいだ。
なのに僕を見れば「宿題はしたのか」とか、「ちゃんと友達作れてるか」とか聞いてくる。

ふざけるなって思った。

親らしいこと何一つもしてない癖に、そんな事言われる筋合いはない。
生活費を稼ぐ為に働いてるだけで、自分の子供の事を理解しない両親が、僕は嫌いだった。

次に教師。

僕が中学生になった時、周りにいた教師達は僕に対していつもああしろ、こうしろと言ってくる。
あいつらにとって、いつも不真面目なツラで興味のない物には関与しない僕が問題児に見えてたんだろう。
だからって何だ?
不真面目なのもお前らがそう決めつけてるだけで、興味のない物に関わらないのを注意するのだって、都合の良いようにさせたいからだろ?

だから僕は両親が嫌いになった。
だから僕は教師が嫌いになった。
だから僕は―――大人が嫌いになった。

当時は、大人以外で僕の事を理解してくれる奴なんていなかったから、心の色は白そのもの。
まっさらな、何も描かれていない、キャンパスやスケッチブックと同じ、白。
たがら、その白を何かで埋めたくて、いつも絵を描いていた。
そして、不思議な力で描いたそれを―――『産み出していた』。

この力が身に付いたのは、小学校の頃。
いつもの様に絵を描いていると、突然、描いたものと同じものが現実に現れた。
最初は驚いたけど、これは神様からの贈り物だと、その頃の僕はそう思った。

それからは楽しかった。
誰かと遊びたくなると、動物や自分が考えた生き物を描いて遊んだし、何か欲しいなと思ったら、それを描いて手にいれた。
描いた絵を消せば、現実に現れたものも消えるから、誰にも気づかれなかった。

でも、心の色は白いまま。
楽しい筈なのに。
寂しくない筈なのに。
変わらなかった。

138十字メシア:2011/04/25(月) 22:14:58
そして―――僕は高校生になった。

自分のキャラもあって、僕は落ちこぼれ学校でもあるいかせのごれ高等学校に入学した。
両親のがっかりした表情に、苛立ちを感じたのも今もはっきり覚えている。
今までとあまり変わらない生活―――の筈だった。


―――おうお前、名前何て言うんじゃ?

―――あ、ごめん。てっきり女の子かと思ってたよ。

―――これから一緒のクラスだね、よろしくね。

―――なあ、俺らバンドやってんだけど見にこねえか?

―――へー、あんた絵うまいじゃん


僕の周りに、いない筈の人達。
『友達』が、集まり始めた。
その時、気づいた。

僕の心の白が、色で、絵で、埋まっていく。
白く、無くなっていく。
そしてようやく分かった。

絵が産み出した現実は、確かに僕を楽しくさせてくれた。
でもそれは僕の『願望』という幻想にしか過ぎなくて。
僕の『理想』を形にしただけで。
僕の心の白を無くすことは出来なかったんだ。
皆という形だけじゃない、僕を理解してくれる『存在』が。
僕の心を色んな色や絵で埋め尽くしてくれた。
だから皆と接する興味も湧いた。
だからあの時―――由衣に話しかけたんだ。
僕の心の色や絵を分けてあげたくて。

「ユズキ?」
「あ、ごめん。昔の事考えてた」
「昔?」
「うん」

そう、これは。

過去(むかし)の僕から現在(いま)の僕になるときの、絵物語。


という訳でユズキ過去話でしたっ。
お借りしたキャラは、大黒屋さんの「夏香 由衣」、本家様から「ケイイチ」「マサカズ」「コウスケ」「ミキ」「B子」「トモコ」です!
由衣ちゃんに話しかけた理由を勝手作っちゃいました、大黒屋さんすいません;
因みにコウスケがユズキを誘った理由はナンパです(ドーン
男だと知ったときはフリーズしたそうですww

139サイコロ:2011/04/26(火) 03:54:31
時系列がメッチャ狂ってるのは構想を練り始めた時期が温泉の辺りだったから。
扱いづらい汰狩君、もっといろいろな事に巻き込まれていいと思うんだ(オイ
最近のスザクがトキコが複雑で、こんな絡みで良かったのか正直言ってくぁwせdrftgyふじこlp

彼は果たしてアースセイバーと縁が近くなるのか、はたまた今回も隠し通せるのか。それではどうぞ。



汰狩省吾の闘いの日。


「先生、頼んどいたテーピングと冷却スプレー取りに来ましたー。」
昼休み、ガラガラガラと保健室の扉が開いた。
「こっちの棚の中にあるから持って行ってくれて構いませんよ。」
養護教諭の玉置先生に頼んでおいた部活用の品を取りに来たショウゴ。
「ん?先生、その子は?」
「ああ、この子はシガタさんです、2年生ですよ。」
「ふーん、よろしく。」
「えっと、あの、どうも・・・」
笑いながらショウゴは言ったが、ゴツいショウゴに少しオドオドするシガタ。
「ショウゴ。分かってるとは思うけど」
「勧誘はしませんよ先生。流石に僕でも空気は読みますって。」
「・・・?」
「ショウゴ君は柔道部の部長なんです。
 いろんな人に部活に入らないかーって誘ってるんですよ。」
「まぁまぁ先生、それはそれ、これはこれですよ。」
「そうですね。あぁ、そういえば前に行ったテーピング講座、役に立ってます?」
「ええ、まあ。」
「目をそらすな。なんだ、ちゃんとしてないんですか?」
「動きづらいからっつって皆独自のアレンジ加えてますね。」
「それじゃ意味ない…ん?」
玉置先生の横を通り過ぎようとしたその時、目がすうっと細くなった。
「・・・どうしたんすか先生。なんで俺を睨んでるんですか?」
言った瞬間に拳骨を食らったショウゴ。思わず蹲る。
「~~~~!~~~ッ~~~~~!」
「腰のモンは何だバカタレ。」
「イタタ・・・おもちゃですよおもちゃ、誰かさんみたいに実銃振り回してないだけましじゃないですか・・・
 それに制服の下に隠してるのに良くわかりましたね・・・」
「喧嘩売ってんのか?腰の膨らみなんざ、見る奴が見ればすぐ分かるぞ。ほら出せ。」
「いや勘弁して下さいよ・・・。」
「そのテーピングでグルグル巻きにされたいのか。あ?」
(完全に裏に入ってるよー、誰か助けてくれー!)
その時、ガラガラガラと扉を開けて一人の女の子が入ってきた。
「あれっ?先輩だー。」
「ん?ああ、ののかさんか。」
「どーしたのたまちゃん先生?」
「ショウゴ君が腰に変なものを持っているので叱ってたところです。ののかさんはどうしたんですか?」
「マサムネと遊びに来たよー!先輩、腰に何持ってるの?」
そろりそろりと保健室から出ようとしていたところをののかに見つかったショウゴ。
「へ?い、いや別に何も・・・」
「待てショウゴ。・・・今日は夕方に皆で飯でも食いに行きましょうか。その時までこれは没収。」
玉置先生の手にはモデルガン二丁が。
「げっ、いつの間に・・・。」

140サイコロ:2011/04/26(火) 03:55:08
そんなこんなで来た場所は…
「いらっしゃい。」
レストランだった。
「やぁ。」
「おや、珍しいね。・・・見かけない顔もいるようだけど。」
「コイツにちょっと説教と話し合いをしようと思ったんで。」
「生徒とこんなとこに来ていいの?まぁ、私は良いけどね。」
笑いながら水を差し出す店長。
「今日は魚のいいのが入ってるから、お薦めは煮付けと刺身のセットかな。
 通常メニューの方も今日は材料が残ってるよ?」
「んじゃお薦め3セット。」
「早っ!僕らの意見は無視ですか先生っ!?」
「うるせぇ。あ、ののかさんはパフェも?」
「食べるー!」
「セット3にパフェね。・・・環ちゃん、調子いいみたいで何よりだわ。」

***  玉置先生説教中・・・。・・・?  *****

「おまちどうさまー!」
「ああ、ありがとうございます。」
「途中から動物談議にかわってましたね・・・。」
ののかちゃんのおかげで論点がずれていった結果である。

カランコロン

「あー!たまちゃんだ!それにぶちょーさんも!」
「あれ、本当だ。それにののか達も。珍しいメンバーだな。」
「席空いてるか・・・?」
トキコ、スザク、シスイの三人がやってきた。
トキコに合うのはアレ以降久々だったが、既にショウゴの中では一つの結論が出ていた。
(・・・あの時の事は一旦忘れておこう。)
「やぁ。三人で遊びにでも行ってたのかい?」
「えへへー!楽しかったよー?」
「ショウゴ、どうして君はここに?」
「いや、先生が飯おごってくれるってんでついてきたんだよ。」
「わたしもー!」
「ちょっと待て、ショウゴ。俺はお前に説教するために来たんであって、おごるなんて一言も」
「僕らお金持ってきてないですよ。」
「ごめんタマちゃん、今度お菓子持ってくるから!」
「あ、あの・・・私は持ってますけど…その」
「諦めなさいよセ・ン・セ・イ。」
ポンと手を置く店長。
「ショウゴ。明日道場に顔出す。」
ショウゴの顔がちょっと引き攣る。軍隊仕込みの格闘技でフルボッコにされるのは勘弁である。
それ以前に・・・。
「あっ、トキコちゃん!この前ぶち抜いた畳と壁何とかしてくれよ!」
「あっかんべー」
「えっ・・・トキコ道場で何したんだ?」
「ないしょー!明日みんなで道場に遊びにいこー!」

141サイコロ:2011/04/26(火) 03:56:35
そんなこんなで、皆ご飯を食べ終わり帰路に着く。
玉置先生と別れ、トキコと別れ、ののかと別れ、環と別れ・・・ストラウル跡地付近の住宅街を歩く3人。
角を曲がった直後、それまで笑い合っていた皆の顔に緊張が走る。
「クソッ、どういう事だ!?」
「パニッシャー・・・こんな所で!」
シスイとスザクが身構えた。10体前後のパニッシャーと、ライダースーツにメット
―ショウゴを除く3人はすぐに気付いたが、バトルドレスである―を来た人間が1人、
暗闇から現れた。
朱雀とシスイが歯ぎしりする。ここはまばらではあるが住宅がいくつかある。
不用意に暴れれば二次被害は避けられない。
しかし。
「おい、俺があいつらを川まで吹き飛ばすからよろしくな。」
幸い、数100メートル先には河川敷が広がっていた。あそこなら、まだかろうじて周りへの被害が軽く済む。
シスイやスザクが何か言おうとしたが、それ以前にショウゴは動いた。裾へ手を伸ばし、
モデルガンを持ち上げ、銃身を水平に持ち上げ連射を開始するまでに1秒掛からなかった。
しかも前へ走りながらの動作である。
「ショウゴ!無茶するな!」
スザクが叫んだが、ショウゴの耳には届いていなかった。
そもそもスザク達はSAAを構えるショウゴに驚いていたのだ。
(あれはおもちゃのはずじゃ?どうするつもり・・・え!?)
圧縮した空気の弾をバラ撒き、パニッシャーもBDの1人も暴風で真っ直ぐ河川敷まで吹き飛ばす。
更に河川敷まで走るショウゴ。
「こいつらが例のグループか!成程確かに厄介だな!」
後ろからスザクとシスイが追いつく。
「ショウゴ!流石に一般人の君がこれ以上無茶しちゃいけない!どういう弾を
 使ったのか知らないけど、その改造モデルガンで戦い続けられないだろう!?」
「僕達に任せてください!」
「よーしなら前は任せた、後方支援に回る!」
ショウゴが立ち止まり、堤防の上で片膝立ちでコルトパイソンを構える。
その間にシスイとスザクはパニッシャーとBDへと肉薄した。
マシンガンを龍義鏡で跳ね返し、爆風による攻撃の為に
パニッシャーがグレネード弾に切り替えようとした、その一瞬の隙に
装甲の薄い所へと刃を突き刺すスザク。
一方シスイはかなり低い姿勢で走り、パニッシャーのマシンガンの
弾幕をかいくぐると足を払ってひっくり返し、同士討ちを狙って無理矢理マシンガンをひねる。
二人の攻撃圏内から逃れ、距離を取ろうとしているパニッシャーには、
ショウゴのコルトパイソンから撃ち出された、パチンコ玉を削って作られた特製弾丸が雨あられと降り注ぐ。
みるみるうちにパニッシャーの数が減らされていく。
最後の2体がシスイとスザクに潰される頃にはBDを来た者が逃げようとしていた。
「逃がすかよっ!」
BDを着ていた男は、ショウゴへ真っ直ぐ走ってきた。弾丸を込める前に
接近してきたのは、ショウゴが遠距離戦型だと思ったからだろう。
「甘い!」
ナイフを瞬時に抜き、突くようにして斬りかかってきたBDの男に対して、
ショウゴはモデルガンを地面に落とし相手の腕を流れるように掴むと投げ飛ばした。
勿論トドメに関節をキメて動けなくする。どんなに力が強かろうが、
人間である以上構造的に関節を極められたら成す術は無いからだ。
「よーし、一件落着だな!」
しかし、そう言った瞬間BDを着た男のヘルメットの中でくぐもった爆発音がし、血がダバダバと流れてきた。
「うわっ・・・自殺か!?」
「捕まるよりかって事か、それとも洗脳されていて捨てられたか・・・クソッ」
ショウゴは土手に大の字になって倒れ、夜空を見上げた。
「なんつーこった・・・ったく。」

142サイコロ:2011/04/26(火) 03:57:32
「成程・・・あのアナボライザー、そこそこやりますね。しかしその辺のチンピラを
 BDに詰め込んだのは失敗でしたか…。いや、しかし貴重な戦力を割く訳にもいきませんから、まぁ良しとしましょうか」
遠くの橋の上で見物をしていたメイド服の男と女、そして子供。踵を返すと、首謀者は夜の闇に消えていった。

シスイはアースセイバーに電話をした後、ショウゴに疑問をぶつけた。
「先輩。・・・もしかして先輩はアナボライザーですか?」
「あの、一度死んだ者が蘇ってうんたらかんたら、ってあれか?ハハッ、今回の俺の戦い見たろ?
 ただの改造モデルガンを使った戦法さ。」
「そうなんですけど・・・なんか引っ掛かってるんですよね、なんだろう・・・?」
スザクは土手の反対側で敵や報道陣など誰か来ないか見張っている。よってそこにはシスイとショウゴしかいなかった。
本当は玉置先生がいたらすぐに解決することだったが、シスイが気付く事は無かった。
「まぁ・・・先輩が違うってんならそうなんですかね?うーん・・・。」
「んじゃ俺はそろそろ帰るわ。どうせこの後アースセイバーが来て色々やるんだろ?
 邪魔にならないようにとっとと退散するよ。またなんかあったら呼んでくれ、多少の助けにゃなれるはずだから。」

結局気付いてはいなかったが、シスイの言葉にショウゴが『否定』をする事は無かった。
そしてシスイの違和感の正体・・・それは、空気弾を撃っていた時の『リロード』。
ショウゴの能力では、圧縮した空気弾ならばリロードの動作無しで撃つ事が出来る。そのためリロードの動作が無かった。
シスイはその動作が無かった事に違和感を感じていたのである。
しかし、彼はそれには気付かなかった。

そうしてまた、ショウゴはアースセイバーに気付かれること無く一難を逃れた。
・・・いや、本当に難を逃れたのだろうか。もしかしたら彼は更なる深みに嵌ってしまったのかもしれなかった。

143サイコロ:2011/04/26(火) 03:59:50
はい、というわけで今回はなかなか長いお話となりました。
・・・うーん、なんかおかしいぞ?うーん・・・まいっか(殴

名前が小説内に出てこないキャラクターも居りますが、
しらにゅいさん宅の玉置先生とトキコ、 大黒屋さん宅の環、店長もとい亜音さん、
樹アキさん宅のののかちゃん、 スゴロクさん宅のスザク、 akiyakanさんのシスイ、ジングウ、サヨリ、レリック
をお借りいたしました。

144スゴロク:2011/04/26(火) 20:38:03
サイコロさん>
お疲れさまです。
ショウゴの戦闘シーンは初めて見ましたが、なかなか対応力高いようで。
というか冷静に考えると、拳銃が得意+柔道が強い+判断が早いって、実は結構な実力者では? 

ところで時系列はいつ頃を想定されてますか? ちょっと拾ってみたくなったので。

145大黒屋:2011/04/26(火) 20:48:08
感想かこうとしてもおいつきませんごめんなさいorz
1からいうような気力がないのd(蹴 キャラ使ってくださった方だけでも感想をば

>十字メシアさん
シリーズ連載お疲れ様でした―!
自分もなかなかあんな大作かけません><
そして由衣と店長の登場もありがとうございました!
レストランがどんどん身近になっていく感じがうれしいですw

独りだったユズキの心の変化もよく見えました。
こうしてみると、由衣もユズキも似たような境遇なんですね…。
ユズキ君、ありがとう!

>スゴロクさん
マナの葛藤が目に浮かんでみえます…。
一人じゃないってきかせてあげたいのに、誰も呼びかけられないもどかしさ…。
誰か彼女に気付かせてあげて!切実に!!

そしてそして!ショウゴかっこいいです!
BDにも億しない強さ!憧れます!
というかよくよく考えたら、環ちゃん使ってもらえたの今回が初めてですね^^
ありがとうございます!

>鶯色さん
脱退前からかかわりがあったエミがまさかの処分宣言!?
この先の展開が気になります!
クランケ逃げて!超逃げて!(

146大黒屋:2011/04/26(火) 20:51:47
あ!しつれいしました;

スゴロクさんあての感想の後半がサイコロさんあてでしたorz
すみませんでしたorz

147大黒屋:2011/04/26(火) 21:07:03
前回の後始末は今度かくことにします。先にストックしていた小説を出しておきたいので。
びすたさんより「ロゼ」、名前のみ鶯色さんより「エミ」をお借りしました。

同じように

ストラウルの廃ビルの屋上に上ることは、最早ロゼの日課と化していた。
かなり見通しがいいそこは、遠距離から監視するのに向いている。
監視する相手は勿論、離反の意を示したクランケ・ヘルパー。
もっとも、自分は興味本位で観察を続けているようなものだ。

先日バーに立ち寄ったエミから聞かされた「クランケの処分は自分がやる」という宣言。
とはいいつつ、それ以来変化を観察しているのだが、観察を始めて数日。何の変化もない。
なによりクランケが滅多に外に出ないのだから仕方あるまい。

「…今日も出てこないのかしら…。」
双眼鏡を覗きながら呟く。
待つことに苦はないが、いい加減飽きが来るものである。
「今日はこの辺で切り上げようかしら。」
そう言ったその時だった。

小さな建物から誰かが出てきた。
真っ白なその姿。見間違えるはずもない。クランケだ。
何か用があるのだろう。そのまま外に出てくる。
双眼鏡でその姿を追った。

向かった先は人気のない森。
あそこは確か暗くて気味が悪いはずだが、何の抵抗もなく彼は森に入って行った。
出てくるとすれば、その先の平原かUターンだろう。そう思い、暫く双眼鏡を暫くのぞいていた。

が、一向に出てこない。
「おかしいわね。そんなに深い森じゃないのに…。」
彼女は少し思案し、気がついた。
(もしかして…こっちの偵察に気付かれた!?)

『やっと気付いたのね。全く、鈍感っていうか。』
突如、頭の中に声が響いた。
はっと顔をあげ、あたりを見回すが誰もいない。
しかし、頭の中に響く声は止まらない。
『まさかホウオウってそんな鈍感の集まりなわけ?』

「…誰よ?隠れてるのなら出てきなさい!」
『隠れてないわよ。ここから堂々とあんたを見てやってるわ。』
くすくすと笑うその声は、女のものであろう。
自分は聞いたことがない声だった。

「嘘ばっかり言わないで。本当だというのなら証拠を見せて。」
『証拠?そうねぇ。ここから包丁でも飛ばしてみようかしら。』
物騒なことを軽くいってのけ言葉を切り、思いついたようにつなげた。

『あ、でもやっぱり』
「ここに来た方が早いかもね。」
「!?」

今度は後ろから耳に声が届いた。
振り向くと、先程までいなかった女がそこにたっていた。
綺麗な長髪。エナメルで統一された服。一目だけ見れば美しい女性。
しかしその顔は大きなマスクで隠され、眼は不気味な血の色をしていた。

「突然ごめんなさいね。ま、あんたもクランケみてたからお互いさまってことで。」
「…;」
何を考えているか分からないような言動。禍々しいオーラ。少し引きながらも、ロゼは女の眼を見た。
能力「アイコンタクト」。これを使って彼女の思考を読み取るつもりだった。
しかし。

「…!!」
しかと眼を捕えたはずなのに。
(思考が…全く読めない!?)
ありえない、こんなことがと焦ると、眼の前の女はまた声を殺して笑った。
「…何がおかしいのよ?」
「焦ってるでしょ。思うようにことが進まなくて。」

「そんなまね、私には通用しないから。」
「!?」
自分の能力を見ず知らずの女に見抜かれた。しかもそのうえで通用しないと警告した。
何、この女…。

「といっても、私はそんな大した能力者じゃないわ。」
笑いを含みながら彼女は言った。
「他人よりちょっと眼と足がいいだけ。それだけよ。」
「それだけで私の能力が通用しないなんt」
「だから「眼」がいいのよ、私は。」

「でもまぁ、折角あったんだから忠告しておくわよ。」
彼女は笑うのをやめ、真っすぐ向き直った。
「クランケの偵察はもうやめた方がいいわ。もう彼は弱くない。強力な仲間もいる。」
「!」
「上司に伝えておきなさい。恐怖を『語られる側』になりたくなければ、即急に手を引けと。」
「…。」

「私は失礼するわ。…そうそう。」
彼女はロゼに近づくと耳元で一言囁き、消えるように立ち去った。
その言葉を受け止めた彼女は、信じられないという眼で空を仰ぎ、茫然とその場に立ちつくしていたという。
森から出てきたクランケが小さな家に戻ることも知らずに。


『私を、下等な化け物と同じように見ないでよね…。』

148サイコロ:2011/04/27(水) 01:09:06
>スゴロクさん
ショウゴの対応力が高いのは彼がホウオウグループの存在と非日常・非現実的な事象ををケイイチから聞いていたという事と、以前ストラウル跡地で行われた大規模戦争を見学してたからですね(<汰狩省吾の見学。>参照)

時系列は一応店長達が温泉行って来た後辺りを想定してます。
環ちゃんが保健室にいたのはそのためです。
そのくらいの時期から考えていた話だったので、最近の進行への急な改変は僕の頭じゃ間に合いませんでした。


>大黒屋さん
環ちゃんこれから保健室舞台ではどんどん使われていくんじゃ・・・今後の成長に期待ですね。



さて、今度はアースセイバー所属、シュウトのお話です。お借りしたのはネモさん宅のバク、十字メシアさん宅のシノです。

<シュウトの試行錯誤。>

「うーん・・・バクさん、どう思います?」
「確かに今のお前の戦い方は支援系が主だしな。だが、人には得手不得手がある。近接戦が苦手なら近接戦に持ち込まなければいいんじゃないか?」
トレーニングルームの前で、バクヤとシュウトが話していた。
「そうなんですよね・・・ただ、敵は都合を合わせてはくれませんから。」
「・・・思考が詰まった時は気分転換がいい。武器庫にでも行って、戦い方を練ってみたらどうだ?そうすれば多少の光明も見出せるかもしれないぞ。」
「武器庫…か、なるほど。普段僕には縁のない場所ですしね。ありがとうございますバクさん。」
「おう。」
 
「武器…武器ねぇ、うーん・・・ん?なんだこれ・・・?」
武器庫を歩き回りながら色々な武器を構えるシュウト。ふと目に留まったのはレイピアとその隣に置いてあったクレイモア。
(・・・!そうか、鋼線を束ねて補強して、『突く』タイプの剣や『叩き斬る』タイプの武器を作り上げればいいのか!)
早速トレーニングルームで試そうと扉に手を掛けた。

トレーニングルームで、人型人形を立てるとシュウトは半身に構えた。
(まずはレイピア…)
袖口に仕込まれた鋼線が一気に伸びると、即座に束ねられていく。細身のレイピアが出来るまでに10秒かかった。
(次はクレイモア…)
一旦レイピアを解除し再び鋼線を仕舞うと、今度はクレイモアを生成した。しかし、出来たクレイモアはとてもではないが使える代物とは思えなかった。
(刃、か・・・。どうしたものかな)
そこに、たまたまシノが通りかかった。
「あれー?シュウト君、何してるっすかー?」
「ああ、シノさん。一応新しい戦い方を考えてるところですよ。」
「へぇ、成程武器の錬成と。でもその大剣、斬れるっすか?」
「いやぁ・・・レイピア型と違って刃が無い状態なんで無理ですね。」
「あ、ならメイスにするっすよ!棍棒型にしちゃえば!」
「ああ、その手があった!」

最低限の近接戦闘武器を、シュウトは手に入れた。格闘技はそこそこの成績だが、超常現象を扱うほどの熟練者には程遠い。しかし、武器の扱いはそこまで下手ではなかった。むしろ、『研修』を経て多少の心得は出来ている。


彼が知略による後方支援だけでなく、最低限の接近戦も出来るようになった瞬間である。

149ネモ:2011/04/27(水) 03:09:34
>サイコロさん
教官が生徒を放置するワケがないので動いてもらいました。
否、没ネタの流用ですが、よろしければご利用ください。

『教官の仕事』

「去説、どうしたものか・・・」
シュウトに相談を持ちかけられた直後、自室でバクヤも同様に考察していた。
手数・戦略に長けると評価されている自分のプライドが許さないのである。

(俺もまだまだ、って事か;
 武器庫に向かわせたはいいが、同行すべきだったか)

本人がインスピレーションで考察するなら、こちらは経験で弾き出す。
さっそく机の上にルーズリーフ、隊員の資料、能力のメモ帳を広げるバクヤ。


現状考察:能力での支援については次回
護身用に、小振なナイフの扱いを最初に教えた。
銃の扱いも悪くはない。体術も基礎体力もある。

(・・・しかしてこれだと、携行した通常の武器のみに限られる)

能力の酷使による反動・暴走を考えれば、現状で不満は少ない。
乱用するといった性格、思考でもない。


よって条件として遠近両用。刃こぼれ、弾切れへの対処。
(ここは紐状の利点をどうにかするかな・・・)
素材になるのはロープや鋼線など紐状。
それでいて対多数であれば好ましい。


・・・となれば。
手持ちのナイフに鋼線を繋いで、即席のフレイルというのはどうだろう。
これなら能力に頼り切らずとも運用でき、使用すれば幅が広がる。
リーチに不足なし、円周の軌跡で範囲も対処できる。

「よし、中距離だが、これを勧めてみるか。唯一難点を挙げるなら・・・」
否。シュウトなら気づくだろうし、その状況下なら能力で対処できる。
「過信は禁物、だな。支援については今度にするか」

生徒にちょっとした問題を渡すのも教官の仕事だ。

150スゴロク:2011/04/27(水) 09:37:23
>サイコロさん
なるほど、言われてみれば確かに。知識と記憶がそのまま行動に反映されるというのも、結構凄いですね。

時系列ですが、「旅行当日」から状況が激変した「籠われた朱鷺」までに結構間がありますね。
バトルドレスをシスイが認識した、ってことは「『黒騎士』」よりも後、と。とすれば、「『黒騎士』」~「籠われた朱鷺」の間のいつか、と解釈すればさほど問題はないかと。

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最終更新:2012年02月29日 12:42