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企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.2_ログ-701~750

企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.2

1鶯色:2011/04/04(月) 16:19:48
ここはキャラ企画つれっどにて投稿されたキャラクターを小説化しよう!というスレです
•本編とはかかわりがなく、あくまでもアナザーストーリーという扱いです
•時系列は本編(2002年のGW4月28日~)よりも前の話が主になります
•本編キャラの名前が名字無しカタカナの為、小説ではそれに合わせた呼び方が多いです
•人様のキャラクターを借りる時は、設定を良く見て矛盾が無いように敬意を持って扱いましょう
詳しい説明などは下のURLをご覧ください
•ナイアナ企画@wiki―「はじめに:企画キャラとは」
http://www22.atwiki.jp/naianakikaku/pages/27.html

前スレ
企画されたキャラを小説化してみませんか?
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1208562457/

701十字メシア:2011/08/05(金) 23:11:22
頬をかきながら、ひきつった笑いを見せる白奈。

「あのー…見逃してほしいなあーなんて…無理?」

だが人間の言葉が分かるはずもない兵器は、白奈に向かって容赦なくマシンガンをぶっ放す。

「ひええ」

何とか逃げる白奈。
しかし弾が一発、彼女の頬をかすった。

「っ…あーもうっ!」

逃げるのを観念した白奈は、戦う体勢に入る。
その瞬間、彼女の姿が雪女としての姿へと変わった。
そこへパニッシャーがグレネード弾を撃つ。

「…ヒュゥウ~~ッ」

白奈の口から冷気が吐き出される。
それを浴びたグレネード弾は、たちまち氷づけにされて地面に落ちた。

「めんどくさいから、一気に凍えさせてやるっ!!」

その途端、白奈の回りに雪が―――いや、吹雪が舞う。
その吹雪がパニッシャーに纏わりつき、そして―――。

「ヒュゥウウウウウッッ!!!!」

白奈の口から更に強烈な冷気が吐き出され、パニッシャーはその冷気と吹雪で一瞬にして凍った。

「ふー…疲れたあ…」

何とか命の危機から脱した安心感から、白奈は地面にへたりこんだ。

「それにしても、パニッシャーちゃんって相手がホウオウグループでも攻撃するのかあ……やっぱりホントの事だったんだ」

その時。

パキッ

「…ふにゃ?」

白奈の耳に、何かが割れた音が入る。
音の方を見ると―――。

パキパキッ…パキッ…

「わえっ!? ヒ、ヒヒ、ヒ、ヒビ入ってる!!?」

パニッシャーの氷に、不吉にもヒビが入り始めていた。

バキッ、バキ…バキンッ!!

「ひゃああああっ!!!!」

逃げ出そうとする白奈だが、安心感と再び迫りくる危機の恐怖に、すっかり腰が抜けてしまっていた。
声も思うように出ない。
白奈は耳を押さえるように頭を抱え、目を瞑った。

「…………………あれ?」

何も来ない。
不思議に思った白奈は、ゆっくりと手を下ろし、目を開いた。
すると視界に入ったのは、破壊されたパニッシャーと2つの人影。

702十字メシア:2011/08/05(金) 23:13:02
「鴉さん! 吸血鬼くん!」
「全く…パニッシャーは凍らせただけでは倒せんぞ」
「それにたかが兵器に恐れを成すなんて…その綺麗な白い目をえぐりとってあげようか?」

冷たい笑みを浮かべ、残酷な事をまるで冗談の様に言うエドワード。
それをクロウがたしなめる。

「…エドワード」
「大丈夫ですよ鴉さんっ!」
「は?」
「えぐられない様に、目を凍らせますから!」
「…そういう問題じゃないだろ」
「じゃあ目ごと炎で溶かすよ」
「…お前も反応するな。とにかく戻るぞ」
「あっ、はーい!」


「お、ようやく帰ってきたか。雪女」
「だーかーら! 私の名前は白奈!」
「んな事どーでもいいだろ。それよか、また迷子になったのか?」
「な、なってないなってないっ! ちょっと遅くなったから2人に迎えに来てもらっちゃったの!」
「何で遅くなったんだ?」
「パニッシャーに突然、襲われたから!」
「パニッシャーに?」

その時エドワードが口を挟んだ。

「いくらパニッシャーでも、人気の多い場所には現れないけど」
「……」
「て事は人気の無い場所にいたんだよな? 何でそんなとこにいたんだ?」
「え、あ、えと…ア、アレだよ! 新しいアイスクリーム屋さんが出来てたから!」
「どこにもなかったがな」
「……」
「ふ~ん…てこーとーは。お前やっぱり―――」
「言わないでよーーーーーーっっ!!!!!!」

赤面した白奈は激昂のあまり、体の周りから冷気もとい、雪を吹き飛ばした。
それをまともに浴びたミチルは凍ってしまう。

「うわぁああああん!! ミッチーくんのバカァ! 死んじゃえばいいのにぃいーーっ!!」

白奈はそのまま大泣きしながらどこかへ走り去ってしまった。
凍らされたミチルはクロウとエドワードによって何とか助かったそうな。


お借りしたキャラは、スゴロクさんから「クロウ」、許助さんから「エドワード」「エレナ」(名前のみ)樹アキさんから「ミチル」、本家から「コウスケ」「コヨリ」(名前のみ)でした。
白奈のあだ名リストは別スレに書いておきます。

703大黒屋:2011/08/07(日) 19:50:40
重要項発令。早すぎる気もするけど;
スゴロクさんより「火波スザク」「夜波 詠人」「蒼崎 啓介」、しらにゅいさんより「トキコ」、名前はあがってませんがスゴロクさんより「夜波 マナ」をお借りしました。

罰、行動を本格化させる

「…もしもし、『僕の妹(ボク)』かい?調子はどうかな?」
『万全だよ。あの時の怪我も完治さ。そちらはどうだい?』
「こっちも絶好調だよ。久しぶりに一人成敗さ。」
『流石だね。いよいよ本調子かな。』

「それで、今日は何の用かな?」
『例の生物兵器の成り損ないさ。どうも沢山の友達に信用されているらしくってねぇ。一番近い子を脅してみたんだけど、これっぽっちもはかなかったよ。』
「おかしな人間たちだねぇ。それとも、あの生物兵器が惑わしてるのかな?」
『とにもかくにも、相手取るのは手ごわそうなんだよねぇ。』

「…いや、これは逆手に取ろう。『君(ボク)』が、あの生物兵器を成敗するんだ。」
『僕が?どうしてまた?』
「学校で仲良くしてるんだろう?友達に手が出せないほどの情を持ってたら余裕だし、そうじゃなかったら尚更こっちの思う壺だね。」
『生物兵器が恐ろしいと、そこで証明できるってことだね。』
「『君』の能力なら大丈夫さ。きっとあれにも勝てる。」

『じゃあ、僕はその為にまた情報でも集めるとしようか。『君』はどうするつもりなんだい?』
「僕はいつも通り。より多くの人外を成敗しに行く。特に一回、夜波君と組んだ時に取り逃がした人外が居てね。もう少しだったのに、あれは悔しかったなぁ。」
『そうだったんだ…。次は絶対、ね!』
「勿論だよ。」

『それじゃあ、引き続き。くれぐれも気をつけてね?』
「そっちもね。何かあれば直ぐに駆けつける。」
『ありがとう。…それじゃ『君』、また今度。』


「しっつれーしまーす!」
「うぇっ!?…な、なんだ、お前か…。」
「今日は誰に用事なの?」
「蒼崎君にっ!ちょっと取材させてもしいんだけど、今いる?」
「…いや、居ないみたいだぞ?」
「あらら、それは残念。なら、またあとで来るよ。」

「なぁ、最近お前、2年生に取材する回数増えてないか?何かあったのか?」
「そうかなぁ?たまたまだよ。」
「もうオカルト方面すてたの?」
「まさか!このカメラが決定的瞬間をおさめたんだもん!まだまだ調査します、的な!」

「まぁ、後悔しない程度にな。」
「あ!スザクちゃん、また馬鹿にして!いいよ!そのうちアッと驚くスクープをとって来て見せるから!」
「ま、飽きるまで頑張ってね。」
「トキコちゃんまで…。わかったよ!」

――この海女海 海海、全ての不可解を解き明かしてみせる、みたいな…。

704えて子:2011/08/07(日) 21:23:41
えて子です。望を動かしてみました。
・・・こんな感じでいいのかなぁ。


廃墟の住人


「…ああ、またですか」

深夜、日付も変わるという時間帯。
ストラウル跡地の廃墟前で、望は疲れたように呟いた。

この跡地では不可解なことが起こりやすいという話は小耳に挟んだことがあったが、ここ最近は毎日のように何かしら起こっているらしい。
今日も、歩きやすいようにと朝瓦礫を片付けたはずなのだが、今見ると朝以上の瓦礫が転がっていた。
廃墟も所々真新しい崩れた跡が目立つ。また、ここで何か一悶着あったのだろう。
この廃墟を拠点としようと決めた時から、ある程度のことは覚悟していたつもりだった。

「…せっかく今日、片付けたばかりですのに。また明日もやらないとなりませんね」

特にやらなくてもいいものではあるけど、どうしても放っておけないのだから仕方ない。
地面に転がった瓦礫に躓かないように歩きながら、望は自分の性格と「不可解なこと」に向けてため息をついた。


「…ん?」

ふと、瓦礫の隙間で何かが動いたように見え、足を止める。
しゃがんで見てみると、小さな猫だった。首輪もしていないから、おそらく野良だろう。
ここで起きた何かに巻き込まれたのだろうか。前足を怪我しているらしく、その場でにゃあにゃあと鳴いてはいるが一歩も動く気配はない。

「……可哀想に」

痛ましげに呟くと、傷口を撫でるようにそっと猫の前足に右手を置く。
少しの間そうしてから手を離すと、猫の傷は消えていた。

「…もう大丈夫ですよ。ここ、瓦礫が多いですから気をつけて…」
「フシャーッ!!!」
「あいたっ!」

前足を自由に動かせるようになった猫は、警戒心を剥き出しにして望の手を引っかいた。
爪痕からじわりと血が滲む。

望の手から離れた猫は、一目散に夜の闇へと消えていった。

「………やれやれ。また、嫌われてしまいました」

猫を見送りながら、苦笑を浮かべて呟く。
どうも自分は動物に嫌われる星の下に生まれてきたらしい。
引っかかれた手を見ながら、望はそんなことを考えた。

「…さて。僕も早く戻りましょうか。ここにいてももうやることは……おっと」

足を進めようとして、何か思い出したように踵を返す。
向かった先は、一人では運べない大きさの瓦礫の前。

「…この瓦礫なら、丁度いいかもしれませんね。明日の作業の手間も省けますし…」

しゃがみこんで瓦礫に左手を置くと、そっと一撫でする。

「………これでいいでしょう。さあ、今度こそ戻りましょうか」

そっと立ち上がると、廃墟の中へ消えていく。


瓦礫には、大小さまざまな切り傷や裂傷が残されていた。

705スゴロク:2011/08/07(日) 21:34:30
スザクの危機に拍車をかけて見ました。
>大黒屋さん
最後にフラグを用意しましたが、拾うかはお任せします。


「ふむ」

その日、ヴァイス=シュヴァルツはいかせのごれ高校の近辺にいた。つい先ほど白波 シドウと出くわし、何とかやり過ごして逃げて来た所である。
彼が見ているのは、とある女子生徒。

「……やれやれ、また動く気ですか。あまり派手なことをされては、ワタシの楽しみが減ってしまうではありませんか」

海海とかいうらしいその女子は、自身因縁の火波 スザクに狙いを定めているらしい。借りを返す前に彼女が死んでは、大いに困る。あくまでも、彼女を壊すのは自分でなければ。

「行きますか」

先手を打つに越したことはない。思い立ったが吉日と、黒ずくめは地面を蹴ろうとして、

「……待てよ……うむ、これで行きましょう。うまくすると、あの鬱陶しい男にも掣肘をかけられるかも……」

それよりももっといいことを、思いついて足を止めた。




「!」

帰り道。海女海 海海は、路地からふらりと現れたその男に気付いて、足を止めた。その風貌には見覚えがあった。
シン・シーを襲った、黒ずくめのシナリオライター。

「ヴァイス=シュヴァルツ、だっけ?」
「さすがにご存じですか。その通りです」

手を出す気はなかった。彼はあくまでもその時の都合でシンと戦ったに過ぎず、また人間でもあるからだ。
ただ、向こうから攻撃して来るならばやむを得なかった。
この時ばかりは杞憂に終わったが。

「構える必要はありません。実は、ちょっとお話がありまして」
「話?」

そうです、と「白い闇」は嗤う。

「アナタが狙いを定めている火波 スザクですが……彼女には、校外にも多くの仲間がいます。彼女個人を狙う方法では、どうやっても外部から介入がありますよ。その力とて、リスクもなしに連発出来る程安いものではないでしょう」
「! どうして、これのことを?」
「ほほう、やはり事実でしたか。さすがに半信半疑でしたが」

カマをかけられた。それに気付いたのも一瞬、ヴァイスは続ける。

「ともかく……そんなわけですから、ワタシの力を貸そうというのですよ。彼女にはワタシも因縁がありましてね」
「へぇ……そう言う事なら、ありがたく手を借りるとするよ」
「それはどうも。具体的な方法ですがね、簡単な事ですよ」
「それは?」

暗闇、と形容すべき嗤いと共に、脚本家は言う。

「彼女には、何にも変えられない友人がいます。あくまで、もし、ですが……彼女を盾に取られれば、火波 スザクはおろか、仲間も何も出来ません」
「……それは、ちょっと無理。その友達も人外なら乗ったところだけど、人間みたいだし」
「ですから、そちらはワタシがやるのですよ。ちなみに彼女の家ですが、以前アナタのお兄さんが取り逃した人外の少女と、妖狐がいます。つまり、人外を匿っているということです。家の場所はお兄さんが知っているでしょう」
「! それは……それは。何とも好都合だね」
「ワタシとしても、いい加減縁を切りたい相手ですのでね。まあ、利害の一致というやつですよ。よければ、夜波君とアナタのお兄さんも呼べば面白くなりそうですが」

含み笑い。

「それで、どうします? 断るなら、この場でワタシの記憶を消して頂いて構いませんが」
「…………そうだね。この話――――」

答えは―――――。



道化師の提案

(あくまでも自分のために)
(男は「罰」に知恵を貸した)
(彼女の出した答えは――――)


大黒屋さんより「パニ・シー」名前のみ「シン・シー」をお借りしました。

706大黒屋:2011/08/07(日) 22:09:27
>スゴロクさん
了解しました!では、短めですが早速…。
スゴロクさんより「ヴァイス」をおかりしました。

罰の回答

「…くぁーっ、眠い眠い。今日のご飯はさっさとできるやつにして、早く寝ることにしよっと。」
家に向かう海海はそんな独り言を言っていた。
その背後には樹の上に持ち上げられた、眠る白い闇。
彼女はそれを見上げながら、独り言よろしく呟いた。

「とってもいい提案だったよ。僕にとっても君にとってもメリットしかない。喜んでのっていたさ。」
自らゴーグルを取り、蒼く透き通った眼に白い色を焼き付ける。
「でも、君が『僕の兄(ボク)』に、あんなことしなきゃよかったんだ。」

「『彼(ボク)』を自分の利益のために襲った奴に、僕は素直に力を貸せない。僕にとっては『彼』がすべてだ。」
見上げる眼に鋭い光が宿る。
「安心してよ。君の記憶からは、僕に出会ったことはおろか、こんなくだらない事を思いついたことさえ「無かった事」にしてあげてるから。」
その口元には、嘲笑。

「本当に自分のことしか考えないんだね。道理で『彼』と相容れなかったわけだよ。」
踵を返し、彼女は歩き出した。
「だって、僕たちは『正義の味方(ボク)』だもん。あんな悪人じゃない。」
でも、と彼女は付け加えた。
「いいこと教えてくれてありがとう。僕たちの目標がまた一つ明確になった。そこだけは感謝してあげる。」

ゴーグル越しの世界に、白なんて存在しない。
そう分かってて、彼女は白い道を歩いてきた。
兄の黒い背を追いかけ、黒い姿を纏い、黒い力を手に入れた。
その背後に迫る白い闇も知らずに。

「…安心しきっても、いいよね?怖い人だけど記憶は消したから、まさか逆手に取ってくることはないよねぇ…?」

707スゴロク:2011/08/07(日) 23:14:23
「罰の回答」を受けまして。


「……ふむ」

樹の上。下の気配が遠ざかるのを待ち、ヴァイスは身体を起こし、「彼女」の背を見送った。

「……断られましたか。ま、いいでしょう」

彼女の力によって消えたはずの記憶が、そこには確かにあった。いや、正確に言うと頭の中ではない。
右眼の義眼に、邂逅からの一部始終が記録されていたのだ。

海海の言うとおり、ヴァイスは己のことだけを考えている。それだけに必然、自身が関わる事に関しては万全の備えをしている。見たもの、聞いた事を記録する義眼も、その一つだ。
だから、彼はその一件を思い出す事が出来た。とはいえ、その反動で頭痛が酷いし、義眼も調子がおかしい。こんな無茶は金輪際御免だ。


「……頭が痛いですねぇ」


とはいえ、だ。
断られたことがわかった時点で、彼はこの件に関わる気をすっかりなくしていた。ダメでもともとの思いつきだったこともあるし、この結果も想定の内。

「ま、簡単に行くとは思いませんが」

強力な能力と言うものは、どこかに必ず付け入る隙がある。完全無欠の力と言うものは、存在しえない。
そして、スザクには不思議な運がある。どんな危機的状況も、水際で何とかしてしまう。今度もそうかは知らないが。

「……自分のことしか考えない、ですか。いいでしょう。ならば、あくまでも自分のために行動するとしましょうか」

この件から手を引く前に、ヴァイスは一つだけ、事態を動かすために、手にもならない手を打つことにした。携帯を開く。今朝出くわしたあの男に、発信者非通知・本文なしでメールを送る。
そのタイトルは……。


白い闇の動向

(その報せを受け取った男の行動は……?)

大黒屋さん「海女海 海海」をお借りしました。ちなみに、ヴァイス本人はこの関連の話からはこれで退場します。

708(六x・):2011/08/08(月) 05:46:03

原因究明

「雪乃、ミナミちゃんいる?」
「帰ったよ。」
「今日はいつも以上に早いな。ところで、凪の封印が解けそうな件についてだが…あれは本人の精神状態も関係してると思うんだ。いつだったか、凪の友達が全治二週間のケガしたことがあったろ。それと同じような時期に凪が服に血付けて帰ってきた。」
「あったねそんなこと。本人は盛大にこけたと言ってたけど」
「あれは…確証はできないが、凪はケガさせた奴と喧嘩したんだと思う。」
「変態親父のせいでついに不良になったか…」
「凪は正義感の強い子だから不良はない…はず。しかし、最近は包帯やら絆創膏がついてる。マンガ脳入った推測になるが…何か俺達の知らない敵と戦ってるのかもしれない。」
「心当たりはあるんだな。」
「で、強い奴を倒すには自分も強くないといけない。躊躇してたら負ける、ならどうすればいい?」
「感情を捨て去る。」
「正解だ。一種のリミッター解除だな。封印がリミッターだとすると、それを解除しているのは凪自身だ。」
「子供の頃より思考力も上がってるだろうし、その可能性はあるね。…この前の事も考えると、現時点では軽い二重人格みたいなもんかな。精神感応系の能力を持ってる奴がいればうまくいくかもしれないよ。」
「さすが、俺の嫁。問題はその人をどう探すかだが…最近物騒だからどうも心配だ。」
「拡散希望」
「それだ!ミナミちゃんは確かテレパシーできたよな!」


後日

ミナミ『別人格に支配されそうで大変な子がいるからなんとかしてあげたい。拡散希望。ただし、最近物騒だから秘密裏に。』



ついでにフラグも拡散希望したので、誰か拾って下さると幸いです。複数人可。

709大黒屋:2011/08/08(月) 19:14:50
早速(六x・)さんのフラグを回収しにまいります。
名前のみ(六x・)さんより「ミナミ」、十字メシアさんより「ヨシエ」をお借りしました。

使えないなりの知恵

休日の昼間。由衣は早めに食事をとり、カウンターにいる亜音の元へと向かった。
丁度一番客が少ない時間だ。店には誰もいない。
「店長、さっきミナミさんから連絡はいったのきいたか?」
「きいたよ。別人格に支配されそう、ねぇ…。」

由衣は向かい側のカウンター席に座りながら訊いた。
「ただ単に封印するだけじゃだめなのか?」
「本人の精神次第っていう問題はあるわね。難しいところだけど、精神関連の能力者を探すしかないか。」
亜音が溜め息を吐くと、由衣はぴんと何かを思い浮かべた。

「…あのさ、ノルンじゃ駄目なのか?」
「乃流?どうしてまた?」
「『変幻自在』だよ。あいつ、確かホウオウグループの能力者の力を使えたはずだろ?」
「あ、そうか。もしかしたらそういった能力系統を持ってるかもしれない。」

「あいつ、簡単なものなら能力単体でも使えたらしいし、頼めるかもしれねぇ。」
「分かった。乃流に頼んでみることにしてみよう。」
「できるだけ他人には言わないようにしてるけど、こればかりは仕方ないだろうな…。」
「まぁ、乃流だから絶対口外はしないよ。」

由衣は勢いよく立ち上がり、携帯を取り出した。
「よし、店長、ミナミがバイトしてるとこの電話番号教えてくれ。商工会で知ってるんだろ?」
「良く知ってるね、あんたは…;もしかして情報収集強い?」
「へ?いや、そんなことはないと思うが…?」


同刻、ミナミからの連絡を受けた春美達も話し合っていた。
機密事項なのでこちらはテレパシーのみでの会話だ。
『別人格でありマスか…。いまいちそう言ったものにはピンと来ないのでありマスが…。』
(皆いろいろあるから、簡単に呼び出せないだろうし…。)
『やはりここはヨシエさんあたりに頼むしか…。』
(でも、いつもここでお仕事してもらってるのに、休暇じゃないんだから…。)

でもミナミちゃんの頼みだし、断るわけにもなぁと春美は頬杖をついた。
(シン・シーの一件もあるし、心配事は多いし…。)
『…あ、そうか、それでありマス!』
キリが思いついたように言った。春美はそちらを向く。

(キリ君、なにか思いついたの?)
『カイムさんでありマス。封印が排除された今、「音」と「言葉」の全てを掌握している。ならば…。』
そこまで言われ、春美も察した。
(そっか!精神能力者じゃないけど、間接的に心理に働いて進行をとどめたり遅らせたりができる!)

『それに、逢魔ヶ刻の暴走の原因の一つとして、能力を極度に使わなかったことに寄る反動がある。ここで彼に能力を使わせれば、彼自身の暴走の進行も遅らせることができるのでありマス。』
(そうだね。分かった。ミナミちゃんに頼んで、昼間に訪問しよう。)
春美は立ち上がり、カイムの部屋へと向かった。

「カイムさん、調子はどう?」
「ええ、大丈夫です。まだ昼間にまで影響はありません。」
「よかった。なら、ちょっとだけつきあって?」
「え?あ、はい、構いませんが。」
「近いうちに、ちょっとお仕事に出てほしいの。」

710十字メシア:2011/08/08(月) 22:43:56
気ままな黒井さんは実はこんな事考えてる、的な。

『無意味、むいみ、ムイミ』

『いつも人が多いなあ~』

ホームの屋根から見下ろす黒井さん。
学生、子供連れ、会社員、旅行中の人―――色んな人がいる。

『今日は…何もしなくていいや』

黒井さんは屋根にごろんと寝転がる。
特にゲームしたい気分でもないし、途中下車の旅は別に行きたい所は無い。
たまにはこんな風に日向ぼっこして、のほほんと過ごすのもありかも。

『……襲ってこないよね~』

いつだったかは忘れたけど、噂の『正義の味方』が黒井さんを殺しに来た。
その人は、ゲームで捨てられた黒井さんを見つければ、存在も消えるだろうと考えてたみたいだけど、黒井さんは都市伝説から生まれた妖怪。
だから負けても姿をくらますだけ。
こうして黒井さんは正義の味方から逃れた………本当は死んでもいいけどね。

だって、黒井さんは勝手に生まれたから。
別に家族も友達もいないし。
存在しているから、なんとなく、存在しているだけ。
人間は、誰かの為に生きていて、誰かに望まれている。
確かな意味を持って、生きている。
意味の無い人間なんかいない。
では、黒井さんは?

答えは、『持ってない』。
黒井さんは、誰かの為に生きている訳でも、誰かに望まれている訳でも。
確かな意味を持って生きている訳でも、無い。
黒井さんは、ただ存在しているだけ。
いようがいまいが、どうだっていい。
だから正直言って、正義の味方が来たときは少しだけだけど、消えてもいいかなーって思ってた。
でもそんな気分でもなかったから、今度にした。
次あの人が来たら、消えようかな。

別に生きていたって、何にもなんないよ。
無意味な存在、だから。
いないのと、同じだね。
黒井さんなんか、いなくてもいいから。


都市伝説の幽霊は

その憂いを隠すように

今日も偽りの笑みを浮かばせる

コインロッカーの少女は

自身の存在を悟り

無意味に今日を生きる


お借りしたキャラは、名前は出てませんが大黒屋さんから「シン・シー」でした。
都市伝説から生まれた彼女は、「自分みたいないるだけで望まれないの存在なんか、無意味でしかない」と思っているのです。

711鶯色:2011/08/08(月) 23:36:34
大変長らくお待たせしました!!(待っててくれた人いるかな?)
ようやく書けたー、>>4->>7 『日常と非日常』の次のお話です


***


ハヤトは、見知らぬ土地を歩いていた
先ほど、飛行物体を追いかけて来たハヤトだが、それはもう見失った
その為飛んで行った方角へ来た訳だが、飛行物体どころか人一人さえ見つからない
しばらく走っていた事、苛立ちを持っていた事もあり彼は気力も体力も擦り減っていた
疲れの色も濃くなり、飛行物体を探すのもバカらしくなってきて

「…もういいや、帰ろう」

そう呟いて、来た道を戻ろうとする
しかし、どの道を通ってきたのか考えてみると、さっぱり思い浮かばない

蛇足な話ではあるが、この少年は社会科、特に地理系が苦手中の苦手である
あえてなぜかと言うならば、地図が大の苦手なのだ
地図記号や読み方は勿論、方角でさえもよく分かっていない時が多い
それは彼の土地勘の無さも相まって、かなりの低成績を弾き出している

それを今話す必要性、つまり何が言いたいのか?と聞きたくなる方もいるだろう
そんな方は今の状況と彼の苦手分野を照らし合わせてほしい
そこから見えてくるのは、彼の立たされた危機的状況だ
……勤勉な皆さまならば、もうおわかりだろう

「あれ、これどうやって帰るんだ?」

そう、迷子である

712鶯色:2011/08/08(月) 23:37:11
一方その頃、ハヤトが追いかけていた飛行物体は目的地であるストラウル跡地に着陸していた
その中から出て来たのは、2人の男
全身白と黒に包まれた貫禄のある男、バクヤと
長身と眼鏡が特徴的な好青年、シュウトだ

彼らがここに居るのは先日、いかせのごれ高校の男女2名が建物の崩壊に巻き込まれた事件を受け
バクヤの提案により安全調査を行う事になったからである
シュウトはウスワイヤのツーマンセル制度により、バクヤが今回選んだパートナーだ

「ここに来るのはいつ以来だろうな」
「ストラウルの、レイスの件は話に聞いています」

ストラウル跡地
そこでは4年前、ホウオウを止めようとして特殊能力を研究していた男がいた
それがレイス――ホウオウの実の弟だ
だが皮肉な事に、レイスは特殊能力のもつ力に魅せられ暴走する
サイキック集団『ストラウル』の誕生である
あまりにも強大となったそれにアースセイバーもホウオウグループも手に負えず
結果利害の一致として、敵対する2つの組織は最初で最後の共闘を果たした歴史もある

「――壊滅と同時に廃墟となったストラウルではいつも何かしらの事件が絶えないとか」
「応。何の原因も無いこの土地で、不可解な事故があるのは珍しい事ではない」
「レイスの余波からという説が有力らしいですけど……」
「そういえば、ここで最初に起きた大事故は知っているか?」
「えっと、2年前の話ですか?」
「そうだ、ここで大規模な建物の倒壊があった」
「負傷者は一名、まだ中学生の少年一人だ」
「当時問題になっていた失踪事件との関連性も見て調査したが、有益な情報も出てこなくてな」
「少年もトラウマになっているのか詳しい供述はしなかった」
「結局それはストラウルの土地柄で起きた不幸な事故として片づけられたんだ」

淡々と語られるそれに、シュウトは一つ疑問を浮かべた

「本当にそれは、ただの事故なんでしょうか」
「私もそうは思っていない。だが、決定的な何かが見つからない以上、ただの事故になるのがこの土地だ」
「ストラウルの残した怪現象として、ですか」
「その方が迷宮入りよりいくらか良いのだろう」

シュウトは、釈然としない様子で周りを見渡した
見た目はただの廃墟、本当にそれだけなのに踏み入れれば事故が起きるなんて

「この土地柄を利用した犯罪なんじゃないかって、思うのですけど」
「そう言うケースも多々あるのだろう。だが、そうとも断定できない」

彼は俯く
犯罪が黙認される土地なんてあっていいはずない
それでも存在するという事実に、歯がゆい思いをしているのだろう

「少し話しすぎたな。そろそろ任務を遂行しよう」

713鶯色:2011/08/08(月) 23:37:41

「あれー?俺どうやって来たんだっけか」

ハヤトは、帰り道を探して見知らぬその場所を歩いていた
そうしている間にも日は落ちかけて、空を真っ赤に染めていく
道がわからなくとも、なんとかして帰らなければここで一晩過ごさなければならないかもしれない
その事実が余計に少年を焦らせた

「てか、なんでこんなに人いねーんだ?絶対おかしいって」

何処かで道を聞けばなんとかなる、そう思っていたのにあてが外れた
こんなに建物があると言うのに、そのすべてが廃墟と化している
あーあ。と周りを見渡しながら、どこか不思議な空気を感じていた
懐かしいような、見た事があるような…

「ん?」

ふと、今までとは違うような何かを見つけて立ち止まる
それは路地裏。凹んだ段ボールが道に飛び出してきていて
なんとなしに横道を覗いてみた

そこにあったのは、辺り一面が赤黒く血に塗れた空間、不自然に凹んだ壁。
人の命が危ぶまれるような、そんなやりあいがあった痕だろう
血痕の量は並ではなく、赤いペンキをひっくり返し、振り回したかのように生々しい
ケンカなら数をこなしている少年も、こんな惨状は見た事が無かった

「どうやったらコンクリートに足跡なんて付くんだよ…」

靴の形にめり込んだ地面に驚愕を漏らした
言って、どんな武器が用いられたのか予想ができない

―――『超能力』を使えば
ふとそんな考えが一瞬浮かぶも、すぐにそれは否定した
そんな非現実なもの、あるはずが無い
他の事を考えようともう一度その場所をみて、血だまりの中に目が留まる

「ナイフ……?」

この血痕量はそのせいかと、よく見てみる
それは諸刃で、派手な装飾が特徴的だ

「……は、嘘だろ」

ハヤトはこれを見た事がある
二度と思い出したくない悪夢の中で、これを持った男に襲われた
思い出せば、この場所はその悪夢の舞台と同じものだ
手が赤く染まる事も考えられず拾い上げる。血で汚れてはいるが、それはまごうことなく本物だ

「こんなのおかしい、こんなことがある訳ない。だって、あれは……」

うわ言のように呟くも、浮かび上がる可能性はどれも事実だと示している
ここで3人組の男達に絡まれた事、売られたケンカを買った事、そして

「おい、そこの君」

2人の大男と会った事

背後からかけられた声に大きく心臓が跳ね、冷汗はどっと噴き出す
ゆっくり、ゆっくりと振り向いたその先に居たのは、2人の男
間違いなくあのときの奴らだ

『ほう、これはいいモルモットになりそうだ』

悪夢の中の言葉が頭の中で反響して離れない
捕まれば今度こそ殺される
そう確信すると手にあるナイフが重みを増し、それをぎゅっと握った

714鶯色:2011/08/08(月) 23:38:37
「どこもただの廃墟ですね」

シュウトは見回しながら、そう言った
しばしの間見て回るも、あるのは脆くなった建物のみ
爆発物やパニッシャーなどの兵器や危険物の類はどこにも見当たらず、そこはどうみてもただの廃墟だ

「前来た時となんら変わりは無いな」
「冬也君やケイスケ君のような探査型の能力が無いと、これ以上の発見は難しいかもなあ……」

何もないのは良い事ではある
しかし、原因が見つからなければ事件事故は起き続ける
やはり、レイスの件がすべての原因なのだろうか?
空は赤く染まり、日も落ちかけている。アレが沈むまでがタイムリミットかもしれない
あと半数程度確認場所はあるものの、今まで同様何もないのか

「あれ、あそこに誰かいますよ」

見れば、小柄な人間が路地裏のあたりに立っている
見覚えがあるような気がして、目を細めた

「事故があったばかりなのに危ないよなあ、ちょっと注意してきます」

そこの君、と彼はその子に声をかけ、近くまで歩み寄る
その呼びかけに、肩を大きく跳ねさせたのはどういう事なのか

「ここは事故が多発しているから危ないよ、だから……?」

ゆっくりと振り向いたその子の目は、恐怖に色濃く染まっている
ただ事ではないと彼も理解したのか、注意の言葉を途切れされた

「君、ここで何が」
「う、うわあああああああ!!!」

彼の言葉を遮り、その子は叫び出した。酷い錯乱状態だとすぐにわかる
それと共に、何かを彼に投げつけてきた
からん、と音を立てて地に落ちたそれは、血を吸ったであろうナイフだ

「!!??」

彼は一連の行動に目を丸くして驚き、その子に呼びかけようとする
しかし振り向いたとき、既にその子は逃げ出していた

「バクさん!あの子……」
「あの少年、2年前に起きた事件の当事者だ」
「え?」
「追おう、あの様子はただ事ではない」

互いに頷き合うと、既に姿が遠くなり始めている少年の背を追い走り出した

715鶯色:2011/08/08(月) 23:39:13
いくら逃げても、逃げきれない

「くそ、あいつらどこまで追いかけて来やがる……」

悪夢の中の出来事がいくつも浮かびあがる
あの大男達は人間とは思えぬ出来事を次々と引き起こした
攻撃も当たらず、ナイフが刺さっても傷一つなく、あり得ない攻撃力を誇る
もう一度捕まれば、今度は奇跡も何も起こらず確実に殺される

「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!」

もう、二度と死にたくは無い
その思いは少年を焦られ、走らせた


いくら追いかけても、追いつけない

「なんてスピードだ」

人間は死を感じると、普段使われていない力を最大限に引き出す事ができる
いわゆる「火事場の馬鹿力」という奴だ
しかし、ならばそろそろスピードが落ちてきてもおかしくはないというのに、一向に差は縮まらない
少年の持つ元々の素質なのか、それだけ力を継続させるだけの何かがあったのか
なんにしても、このままでは彼らの体力的にも捕まえる事は難しいだろう

「……バクヤさん、“後処理”頼みますね」

シュウトは返事も待たずに袖口からロープを引っ張り出し、少年の方へと投げた
それはまるで命を得たかのようにうねうねと動き出し、少年の片腕に絡みつく
確認すると、シュウトはそれを一息で引っ張る

「うわ……!?」

少年の体はは予期せぬ力に引かれ一瞬宙に浮き
重力にしたがってうつ伏せに地面にたたきつけられた
痛みに呻く少年の腕をロープは後ろ手に縛り上げ
彼が手を放しても、ロープは仕事を続けた

「っ……い!?」

シュウトの特殊能力―――縛縄の悪夢はその名の通り縄を自在に操る
たとえそれが手から離れたとしても、縄はシュウトの意のままに動く
そんな事を知る由もない少年は、訳のわからぬ現実に一層混乱していた

――は、嘘だろ?こんなのあり得ない
  こいつ、やっぱり変な力を持った、化け物なのか
  捕まる、捕まったら、また俺は、あのジジイに

「さて、どうして逃げたのか教えてくれないかな」

息を切らしながら彼は近づいていく

「……な」
「ん?」

思い出したくない悪夢が少年の心を蝕んでいく
その日、大男に掴まり、老人に『研究の人柱』と称され殺された事
悪夢の中で少年を殺したのは―――『音』

「来るなああああああっ……――――!!!」

少年は声を張り上げ拒絶を示す
途中でそれは途中で聞こえなくなり
代わりに『キイイイイイ……ン』と言う耳鳴りに似た音と、強烈な痛みが2人を襲う
頭が割れるような、四肢が崩れていきそうな錯覚
音によりびりびりと、世界が崩れるような振動を感じた

716鶯色:2011/08/08(月) 23:39:43
少年が叫ぶことを終えると、音は攻撃性を失っていた
頭がじんじんと耳鳴りを起こしているものの、これと言った痛みなどは残っていない

「一体何が……?」

不意に上空からパラパラと何かが落ちてきた
何事かと見上げれば、両端にある建物がぐらぐらと崩れ
瓦礫となった廃墟が無差別に襲いかかる

「伏せろ!」

バクヤが叫ぶと、地面が盛り上がり3人を囲い
降り注ぐ瓦礫をすべて跳ねのけた
ガラガラと、外で硬質な物体が壊れる音が響く

「……なるほど、特殊能力者だったのか」

何が起きたのか整理しているだろうシュウトを横目に、バクヤは少年に近付く
少年も呆けた様子で目を丸くしているが、男の行動に気付くとまた恐怖の色が浮かぶ
来るな、くるなとうわ言のように呟いているものの、逃げる様子も攻撃を仕掛ける意思も伺えない

「その様子だと無自覚だったようだな。運が悪かったと諦めてくれ」

男は少年の目の前にしゃがむと、その額に手をあて強く念じた
見開いていた少年の目は次第に色を無くし、まぶたは重く沈む
そして操り人形の糸が切れたようにぷつりと伏せ、動かなくなった
意識が無くなったのを見て、バクヤは汗をにじませながら息を吐く

バクヤの能力―――記憶操作は、その名の通り記憶を対象から消す事ができる
その応用によって人の意識を一時的に落とす事も可能だが、体力を大幅に消耗するようだ

「バクさん、その子、保護しなきゃいけませんか?」

少年を抱きかかえるバクヤに、シュウトは声を落とした

「一年前の自分を重ねているのか」
「それは……」

うつ向き気味に、年相応な迷いの表情を浮かべる彼

「『特殊能力者に未来はない』」
「え?」
「アキヒロ隊長の言葉だ」
「私も、この少年も、そしてお前にも。この言葉は平等なんだ」

バクヤは淡々と話す、まるで自分の事では無いように
シュウトは打ちのめされたように言葉を失う

「ウスワイヤに戻ろう。この少年を抱えたまま調査を続ける事は出来ない」
「……はい」


彼らが立ち去った後、一羽のスズメがぴぴぴと鳴く
とても静かな音で、ガラスの目を光らせて背中を見送る
キュイン、と体を鳴らしながら、首を傾げて
そのうちスズメは、廃墟から姿を消していた

717鶯色:2011/08/08(月) 23:40:36

***


ホウオウグループ基地内の、研究施設の一室
血の髪を揺らす金色の目の男が、その中に入る
そして漆黒で長髪な青年を見ると、彼に呼びかけた

「ゼア、ちょっと良いか?」

ゼアと呼ばれた彼は血の色を見ると、少しだけ呆れた顔を見せる

「どうしましたクロウ、世間話ならお断りしたい所ですが」
「まあ似たようなものだが、あの施設が関わっている事でな」
「UHラボ、ですか。何かありましたか?」
「2年前から監視していた奴が、ウスワイヤに捕まったそうだな」
「ああ、その事ですか」

―――UHラボ
ホウオウグループから追放された研究者集団
グループへの復帰の期を探りながら研究をしていた
9年前に滅ぼされるも、残党は懲りずそれを続けているとの情報もある
一部は殺人音波による兵器を、ストラウル跡地を根城として開発していた
その結末はナイトメアアナボライザーを誕生させ、自らの研究に滅ぼされるというものだったが
研究結果は、その間際グループに転送されている

「奴らは再びグループに舞い戻ろうと手土産を送って来たらしいな」
「ええ、全く低能な連中ですよ。その程度私たちに出来ないはずがないと言うのに」
「……今更だが、あいつらの研究の産業廃棄物を観察しているなど悪趣味なものだ」
「否定はしませんよ。それでも、彼は優秀な研究素材に値すると思いましたから」
「なら尚の事、今回の件は災難だったな」

研究によって生まれたアナボライザーは、それ以来能力に気付かず並の人間と同じく過ごしていたと言う
ナイトメアアナボリズムの研究も行っていたゼアは、その少年をバードウォッチャーにて監視させていた
しかし今日の夕方、ウスワイヤによって不運にも保護されてしまったとの報告があった

「ウスワイヤの手に渡ってしまっては研究もつづけられないだろう」
「その件ですが、彼は発症直後からデータを回収していた貴重なモルモット。今更引き渡すのは些か勿体有りません」
「と言うと?」
「隙を窺って、こちらに引き入れようかと」
「随分と大胆な事だな。俺なら引き受けたくない任務だ」
「案ずる事はありませんよ。もとよりあなたを使う気はありませんから」
「……はあ。じゃあ誰が行くんだ」
「私が直々に伺いましょう」
「お前が?」
「ええ。2年間も監視していましたし、一目見てみるのも一興かと」

それに、と付け加え、怪しく微笑んだ

「必要とあらば、この手で切り刻むのも悪くないと思いましてね」



 『悪夢⇒逃走⇒四面楚歌』

718鶯色:2011/08/08(月) 23:41:29
>>711->>717
という訳でハヤト過去編第二弾
登場キャラはサイコロさんより「森山修斗」、ネモさんより「七篠 獏也」、あそもりさんより「ゼア」
スゴロクさんより「クロウ」、名前のみで「蒼崎 啓介」、「UHラボ」、(六x・)さんより「冬也」、
びすたさんより「バードウォッチャー」、自宅からは「ハヤト」、その他モブキャラクター達です

宣言から一年もたってしまい、特にサイコロさんとネモさんには申し訳ありませんなあ
当時の構成ではここまででしたが、もうちょっとだけ続きます
劇中で登場しているストラウルについての説明は、有氏の発言に基づく物なので概ね正確かと
あと色々と設定お借りしているのですが、矛盾などあればwiki以降の際に修正しますのでご連絡お願いします

719大黒屋:2011/08/09(火) 18:13:32
闊歩を動かしてみたらとんでもないことになった。反省はしていない。
しらにゅいさんより「千春」をお借りしました。

昼時を過ぎたレストラン

厨房でつかの間の休息を取ろうとした由衣は水を口に含んだ。
が、その直後に現れた客の姿を見、口の中の水を一気に噴き出してしまった。
作業をしていた千春が驚く。

「ちょ、おま、何やってるんだ、由衣!見事に流し場で吹いてくれたのはナイスだけど!」
「ゲホッ!ガヘッ!…っは、え、嘘だろ…?」
由衣は顔を上げ、直ぐにカウンターに向かった。
顔を出すと、その客もこちらに気付いて顔を上げた。

「か、闊歩っ…。」
「…由衣?」
「んー?どうした?誰か知り合いでもきたか?」
呑気に店長は言う。由衣が無言で頷くと、その客…数寄屋 闊歩の元へと向かった。

「闊歩、お前…。」
呆然とする由衣に向け、闊歩は片手を上げた。
「や、久しぶり。元気してた?」
「何でお前がここにいるんだよ?向こうは…大阪はどうしたんだ?」
「僕が向こうにいる理由なんてないから、此処に来た。それだけ。あ、店員さん、オムライス一つお願いね。」
たまたま近くにいた店員に声をかけ、闊歩は水をのんだ。

「そういう由衣も何でこんな所に。しかもバイトとかする柄じゃなかったろ?」
「や、まぁそうなんだけどな…。」
店長に目配せをし、由衣は向かいに座る。
「「あの時」ここに流れ着いて、そのまま店長に拾ってもらったんだ。だから、せめてもの恩返しにこうして働いてるんだよ。」
「そう言うことか。ま、何事もなかったようで何よりだよ。」

「お前はあれからどうしてたんだよ。」
「…僕?」
闊歩は顔を上げた。由衣の眼を真っすぐ見る。
「僕は何もしてない。することもなかったから。だから、君がここに居るって聞いて、此処に来たまで。」
「…昔からお前はそうだよな。いつでも私についてきた。その路が間違っていたとしても。」
「今更みたいに言ったところで、僕はかわりやしないよ。」

闊歩はあたりを見回した。
「それにしても、すごい所に行きついたみたいだね。何だい、この店は?」
そう言われ、由衣ははっとした。
そうだ。此処は「能力者が集うレストラン」。闊歩は能力を持ってない筈だ。

「いや、それはだな…。」
「…もしかして、皆『おかしな人』なのか?」
えっ、と由衣は闊歩を見た。
「…どうして、分かった?」
「カン。あと、どっか由衣に似た雰囲気の人とか居るし。」

闊歩のいう『おかしな人』とは『能力者』の事である。
一般人である闊歩も、諸事情で一応能力者の存在を知っている。
ただ根底から能力を信じているわけではない上、電波扱いされたくないため『おかしな人』と彼はよんでいるのだ。

「…ま、君が元気ならよかったよ。」
闊歩は笑うと、運ばれたオムライスをつつきだした。
由衣はぼんやりと、久しぶりに出会ったこの男を眺めていた。


「御馳走様。じゃあ、僕はそろそろ。」
彼は立ち上がり、レジで勘定をすませてドアに手をかけた。
「…あ、そうだ。明日から僕、いかせのごれ高校に通うから、そこんとこよろしく。」
「えっ。…ああ、よろしくな。」

闊歩を見送り、由衣は裏に戻って行った。
「…あ、御帰り。」
「ん、ただいま。」
「誰なんだ、今の人?由衣の知り合い?」
「知り合いっつーか…。」
由衣は頭を掻きながら言った。

「幼馴染で、不良時代の一番の相棒で、私が「死んだ」事知ってる一般人だよ…。」

720十字メシア:2011/08/12(金) 19:22:24
灰音の話。

『神江裏 灰音とは』

「とーりさーんっ」
「わぶっ。いきなり背中から襲ってくるなよ…」
「また本読んでるの?」
「ああ」
「好きだね~」
「って言っても、このシリーズぐらいしか読まないけど」

いかせのごれ高校の、2年2組の、いつもと同じ日常。
スザクとトキコはいつも通り会話を交わしていた。

「…ねえ鳥さん」
「何だ?」
「あそこに座ってる子、誰だっけ」
「あそこ?」
「ほら、あの全身灰色の…」
「…ああ。確か名前は―――」

<神江裏 灰音だよ>

「「!?」」

いつの間にか二人の方へ振り向いていた、灰色の生徒。
優しげな笑みに、何も無い灰色の瞳が不釣合いだった。

<幻想シリーズかな、それは>
「あ、ああ。知ってるのか?」
<神江裏 灰音は広く、浅くだから>
「ねえねえ灰音ちゃん」
<何かな? 朱鷺子>
「灰音ちゃんの好きな物ってないの?」
<朱鷺子は?>
「私? 私は楽しい事が好き!」
<楽しい事?>
「うん!」

すると、神江裏 灰音は虚ろで空っぽな瞳のまま言った。

<楽しいって何?>
「え?」
<楽しいから、何なのかな? 楽しいから、どうなるのかな? 楽しいから―――>
「は、灰音?」
<神江裏 灰音は分からない。楽しいというものが、それに基づく概念が、人がそれを良しとする理由が>

やれやれ、といった素振りを見せた後、神江裏 灰音はどこかへと去っていった。

「…灰音ちゃんって、凄い変わってるよね」
「そうだな…」
「何ていうか、人間なんだけど、人間じゃないみたいな」
「どういう事だそれ」
「上手く言えないけど…”普通すぎて”人間じゃない?」
「…益々分からないんだが」
「うー」

721十字メシア:2011/08/12(金) 19:23:13


<……あれ、先客いたんだ>
「やあ、灰色の傍観者」

屋上に来た灰音をそう呼ぶのは、チェシャ、ただ一人。

<風変わりなドリーマー、ここで何をしているのかな?>
「そんな他人行儀な呼び方じゃなくて、チェシャって呼んでよ。出来れば」
<チェシャたん、かな?>
「そうそう! そう呼んで欲し」
<そんなの中立を保つ傍観者には相応しくないよ>
「おやおや、相変わらず辛辣だねえ」
<そういう君はいつも変人だね>
「…ところで」
<ん?>
「何か、見つけたかい?」
<何かって何?>
「それは君しか知らないよ。灰色の傍観者」
<そう>

灰音の顔に少し陰りがさす。
その額を、チェシャはニヤニヤ笑いのまま指で押した。

<…何?>
「傍観者に、悲しみと苦痛はいらない筈だろう?」
<ああ、そうだね>

優しげに笑う顔。
だがその笑みは、笑みであって笑みではないように感じる。
それが良いとでも言うように、チェシャは言った。

「そうそう。それに可愛い顔してるんだしさ、ずっと笑っときなよ」
<うん、笑うだけ笑う>
「そう、それが君なんだ」
<うん、それが神江裏 灰音だね>


神江裏 灰音とは

中立者で 平等人で 孤立者で 普通人で 傍観者である

故に 人間でありながら

”普通の人間”ではない―――そういう人

<しかしどうしてかな>
「ん?」
<君だけは他の人よりもよく話す。傍観者なのにね>
「そうだねえ。でもそれでもいいんじゃないかな」
<うん、それでもいいかな>


お借りしたキャラは、スゴロクさんから「火波 スザク」、しらにゅいさんから「トキコ」「チェシャ」でした!
ホント摩訶不思議すぎるよこいつorz

722大黒屋:2011/08/13(土) 18:08:31
触発されて衝動だけでかいた。傍観者の扱いが間違っている気しかしない。
十字メシアさんより「神江裏 灰音」をお借りしました。

いつも通り屋上に上がれば、既に先客がいた。
灰色一色のその姿の名を、彼は思い出して呼びかけた。
「…神江裏 灰音、じゃったかの。」
呼ばれた灰色は振り返り、誰にでもふりまく微笑を湛えた。
<…やぁ、覚えてくれていたようだね。>

同じクラスに居るはずの灰音。
姿も灰色一色なのにその印象は記憶に残りづらい。
現に人間離れした(人間ではないが)ゴクオーも思い出すのに少しあぐねた。
「珍しいの、お前がこんな所に居るなんて。」
<神江裏 灰音は何処にでもいるよ。>

「…不思議なもんじゃな、お前も。」
独り言のように、ゴクオーは呟いた。
「人間でありながら人間ではなさそうなその態。あらゆる「モノ」を平等にみる眼。わしより人間じゃなさそうじゃ。」
<おかしな言い方をするね。まるで君が本当に人間じゃないようだ。>
「…お前みたいな傍観者が知ったところで、事態は変わらんじゃろうしの。」

「灰音…いや、『傍観者』。お前は何のために傍観する?」
興味本位の割に声に芯は通り、真意を見抜こうという意図が現れていた。
<別に意味はないよ。神江裏 灰音は傍観者だから、かな。>
「傍観者でも偏見くらい出るもんじゃろ。正義だ悪だと…。」

<…正義って、何?>
「えっ?」
ゴクオーは驚いて彼女を見る。
<正義って?悪って?何処に定義がある?定義は変わる?明確?曖昧?>
矢継ぎ早の質問に、彼は声も出せない。
<神江裏 灰音は何時だって平等。正義も悪もない。傍観者にそんなもの分からない。>

「…たく、ここまでとはのう…。」
ゴクオーは笑い出した。
「降参じゃ!こりゃ兄貴も裁くのが大変じゃのう!」
<…本当に不思議な人だね、君は。>

<…じゃあ、そろそろ下に降りるとするよ。>
灰色の傍観者は踵を返した。
「…わしはお前の事は心配しとらん。」
その背中越しに、ゴクオーは呼びかけた。
「色々物騒じゃが、お前は巻き込まれんし巻き込まん。そうじゃろ?」

「『負平等な傍観者』よ。」
<…。>
灰音は何も答えずにドアを開けた。

不平等と負平等

「…もし、あいつとわしの立場が逆なら、こんな時間を過ごすどころか、追放もなかったじゃろうな…。」
<君の出来事も神江裏 灰音は傍観するからね、地獄の使者。>

723砂糖人形:2011/08/13(土) 18:14:10
戦いのあとに-ユウムとマナコ-

「はぁ、はぁ、着いたぞ」
「ここが、ウスワイア・・・」

黒い塀に囲まれた灰色の施設---ウスワイア
ここには特殊能力者が多数、保護されているという

ハヤトと共に自動ドアをくぐると外観とは裏腹に、真っ白で無機質な感じだった
オフィスには小学生ぐらいの黒髪の少女がいた

「なあ、チサト、はぁっ、隊長さんは、今何処に・・・」
息を切らしながらハヤトはチサトに訪ねる
「・・・」
少女はハヤトの目をじっと見つめた

「そうか、いないのか・・・ありがとな」
少女にお礼を言うと、ハヤトはユウムにこっちへ来いと言わんばかりに手招いた

「こっちにマナコがいる」
「え、何でマナコの所に・・・」
「アイツが一番、お前のこと心配してたんだ、行ってこいよ」
「う、うん・・・」

少し廊下を進むとマナコと名前が書いてあるプレートが扉にかかってあった
ノックをしようとした瞬間、扉が勢いよく開いた

「ユウム・・・!」
「ま、マナコ、やっほー・・・うわっ!」

マナコは急にユウムに抱きついた

「ちょ、ちょちょちょ、なにして」
「無事で、よかった・・・」

暖かい水がユウムの肩に伝わった

マナコは泣いていた

「・・・あたしは、大丈夫だから、この通りぴんぴんしてるよ」
「・・・ん」

いつものマナコの返事が返ってきた

「あの、マナコ、ちょっといいかな」
「ん、何?」
「いい加減抱きついてるのやめてほしいな」
「え」
「や め て ほ し い な」
「・・・」
「離せえええぇぇえええい!!」
「ぐはぁあ!」

ユウムのパンチはマナコのみぞおちにクリーンヒットした

「まったくマナコは変態なんだから」
「あの、俺一応病人・・・」
「そうだっけ?」
「そうだよ・・・」

痛そうにしてるマナコに、ユウムは笑いかけた

724砂糖人形:2011/08/13(土) 18:15:41
戦いのあとに 三話です

もう少し続きます。

お借りしたのは鶯色さんの「ハヤト」くん、本家からは「チサト」ちゃん です

725十字メシア:2011/08/13(土) 23:21:39
黒井さんとシン・シーの邂逅の話。

『正義の味方から逃れた妖怪』

とあるビルの屋上。
そこに佇むのは黒を纏った青年、シン・シー。
彼は今日も人外を探していた。

「全く…どれだけいるのやら。あまり『正義の味方(ボク)』の手を煩わせないでほしいな」

やがて、彼の視界に今日の標的が止まる。
その標的は、ホームの上に浮遊している、黒い制服を着た少女。

「もしや、都市伝説の妖怪かな?」

人外の事に関しては情報が早い彼。
早速、少女の元へと向かう。
ホームの近くの電柱の上に降り立つと、シン・シーに気付いた少女がこちらに振り向いた。

『………』
「おや、僕が現れた事に驚いてるのかな? ま、自分の運の無さを嘆くことだね」

ナイフを手に持つシン・シー。
だが少女はそれを見ても臆せず、それどころか笑みを浮かばせて言った。

『キミ、黒井さんが”見える”のぉ?』
「!?」

シン・シーは少女から放たれた、異様に膨れ上がったオーラに怯む。
そして次の瞬間、自分は電車の中にいた。
それも人が全くいない、不気味な電車の中に。
しかもホームはまるで廃墟の雰囲気を漂わせ、床には所々水溜まりがあり、天井や壁には樹木やカビが埋め尽くされている。

「……君、何をしたんだい?」
『あははっ。こっちに来てよ』

同じく電車の中にいた少女が外に出る。
シン・シーは少女を追いかけた。
すると―――。

「…!」

シン・シーは目の前の景色に驚愕する。
樹木やカビに蝕まれた大きなコインロッカーが、壁のように聳え立っていた。
コインロッカーの前に立っている少女が、シン・シーに話しかける。

『ねーねー、黒井さんとゲームしよ!』
「…悪いけど、お断りするよ。僕は『正義の味方』だからね!」

と、ナイフで少女の体を切り裂いた―――筈だった。

「…!?」

自分が今持っているナイフは、確かに少女の体を切り裂いた。
だが手応えがまるで無い。
しかも切られた箇所は繋がって元通りになっている。
シン・シーの行動に特別驚きもせず、少女は笑顔のまま話続ける。

『キミが噂の、人外を襲いまくってる人?』
「おや、知ってるんだ」
『人が集まる駅はね、情念とか思考が流れ込みやすいんだ。だから、駅から出ない黒井さんでもキミの事を知ってるんだよー』
「へえ。まあ僕にとってはどうでもいいけど」
『黒井さんもどうでもいいよー』
「…そんな訳だからさ、消えてくれないかな?」
『ゲームに勝ったらいいよー』
「…素直だね」
『別に生まれたくて存在してる訳じゃないしー。じゃあルールを説明するね!』

少女はふわりと飛び、コインロッカーの上に座る。

726十字メシア:2011/08/13(土) 23:22:47
『今から1分以内に捨てられた黒井さんを見つければ、キミの勝ち! 黒井さんは消える』
「負けたら?」
『黒井さんの勝ちで、キミはこの世界を4日間さ迷う事になる。ホントは元の場所に戻されるんだけど、人外を襲うキミだから、これでも構わないでしょ?』
「…いいよ。その勝負、受けてたつよ」
『じゃあいくよ。よーいスター…』

「ト」と言い終わった瞬間。
シン・シーの手から放たれた何本かのナイフが、一つのロッカーの蝶番に当たり、ロッカーの扉が外れる。
中には女の赤子が安らかに眠っていた。

『…凄いねえ。今まで一番早いかも』

呆然とする少女の体が、霧の様に霞んで消えていく。

「赤子が見つかった事で、幽霊の存在も無かったことになる…それがキミの弱点だろ?」
『…あはっ。バレちゃった』
「これで僕の勝ちだね。”コインロッカーの少女”」
『そうだね。”正義の味方”さん』

そう言い残し、少女は完全に消え去った。
それと同時に、少女が作り出した世界も消えた。
するとシン・シーの視界には、少女の世界に引き込まれる前の景色が広がっていた。

「これでまた、人外を始末出来たね」
『出来てないよー?』
「!?」

シン・シーの耳に、聞き慣れた声が入る。
その声の主は―――先ほどの少女のもの。
姿は見えないが、確かに少女の声が聞こえる。

「消えた、筈じゃあ…」
『うん、消えたよ。姿はね』
「!」
『黒井さんはね、見つかっても姿をくらますだけで、存在は消えないんだー』
「でも、君はあの赤子の―――」
『違うよ』
「何?」
『黒井さんは、”捨てられた赤子が幽霊になって成長している”っていう、人々の想像から生まれた妖怪なんだよー?』
「…!」
『だから、黒井さんは”都市伝説の妖怪”なんだよ。それと、別に消えても良かったけど、今はそんな気分じゃないから、また今度ね! ばいばーい』

それきり、少女の声は聞こえなくなった。
残されたシン・シーは溜め息をつく。

「正義の味方とあろうものが、人外を無傷のまま取り逃がすなんて……とんだ大失態だよ」

しかし次の瞬間には、彼の表情は笑みと化した。

「まあ、自ら消えたがってたし、また会うまでに確実に始末する方法でも考えておこうか」

そう言って、黒い衣をはためかせながら、シン・シーはその場から去った。


お借りしたキャラは、大黒屋さんから「シン・シー」でした。
意外とタフな黒井さんであった、というw

727(六x・):2011/08/13(土) 23:32:26
水、雪、氷。


「はい、北欧雑貨スノーエンジェルです!…うん、うん…マジで!?あ、でも最近変なのいるからくれぐれも気を付けて!マジ感謝だし!じゃ、また今度ねっ。…雪乃さん、協力してくれる人見つかりそうだよ!」
「よかった…。」
「凪もあたしの大事な家族だからね。最初は何こいつとか思ったけどー」
「ケンカ…というよりミナミが一方的に突っ掛かってただけか。出会ったばかりの頃は海に人やら船を沈没させるのが仕事だったのに、今じゃ人間の、しかもケンカ相手の心配なんてね。」
「雪乃さんの娘じゃなかったら放置だし。」
「うん、成長して何よりだ。そうでなきゃ春美ちゃんに顔向けできないからね。」

雪乃が言うように、呼び出された頃のミナミはかなりの問題児で、春美や他の仲間に反抗はしないものの、海に来た人を片っ端から沈めるなど暴れまくっていた。

そんなある日、ミナミはたまたま海に来ていた雪乃に襲いかかったがそこはあの凪の母親、ミナミを返り討ちにして説教。ついでにバイトとして雇い、徹底した社員教育(?)のおかげでミナミは無事更正したのであった。

「雪乃さんに会ってなかったら、今も暴れてただろうなー。感謝してもしきれないよ。」
「そう。じゃ、頼んだよ。」
「すまないな、ミナミ。」

「凪、いつからいたの?てか学校は?」
「最初から。学校で暴走するわけにもいかないから、当分休むよ。」
「そう…じゃあ部屋行って寝たら?」
「寝るにはまだ早すぎるんだなこれが。どうせなら訓練…これも禁止されてたな。」
「…散歩なら付き合ってやらんこともないし」
「えっ」
「勘違いすんなし!あんたが辛気臭いとあたしも気分悪いだけだし!」
「ありがと。(ぎゅ」
「!!////」



大黒屋さんより、名前より「春美」をお借りしました。
訪問はOKです。

ミナミは凪に対してツンデレなのです。

728十字メシア:2011/08/13(土) 23:41:45
今回はタイトルの位置とか変えてみる。

<……あれ、また来たの?>

だって。

<何度言えば分かるかな>

会いたかった。

<神江裏 灰音は君なんか知らない>

ごめんなさい。

<神江裏 灰音は君なんか嫌いだよ>

わたしは嫌いじゃないよ。

<神江裏 灰音は君なんかに会いたくない>

わたしは会いたかったよ。

<………………>

もう行こうよ。

<……帰れ>

嫌だよ。

<帰れ帰れ帰れ帰れ帰れさっさと帰れよ>

ならあなたも一緒に。

<消えろ消えろ消えろ消えろ消えろとっとと消えろよ>

それは駄目だよ。

<神江裏 灰音は”ここ”にいる。これからずっとずっとずっとずっとずっとずーっといる>

……………

<神江裏 灰音(わたし)なんかどっか行け>

……………

<神江裏 灰音は、もう神江裏 灰音(わたし)じゃない>

傍観者?

<そう、神江裏 灰音(わたし)なんかいらない。神江裏 灰音(わたし)なんかいないほうがいい>

いつまでそうするつもり?

<ずーっとずーっと。神江裏 灰音(わたし)さえいなければ、神江裏 灰音は傍観者のままでいられる。だから―――>


<早く消えろカス>

729十字メシア:2011/08/13(土) 23:42:52
…………………いつも、そうだね。
あなたはいつもそうやって、何に対しても臆病。
だからあらゆるモノを「無価値」とか「いらないモノ」とか「消したい」とか思っている。
それだけじゃない。
あなたはわたしに対しても臆病で、それで見下している。

<……感情、愛情、友情、エトセトラエトセトラ。それらは傍観者に必要のないモノ>

だから―――わたしを棄てた?

<それ以外に何があるの? 臆病で、愚かで、弱虫で、無価値で、カスな君はいらないんだよ>

そんな事、無いよ。

<……散々、血反吐を吐く様な思いしてきたくせに。カス風情が>

そうだね。

<神江裏 灰音(わたし)は嫌じゃないの?>

だって、それで周りにあてついても変わらないから?

<呆れた。とりあえずさっさと死ねよ、神江裏 灰音(わたし)>

駄目だよ。

<五月蝿いなあ。傍観者になったのも、君のせいなんだよ? だから死ね>

…………ごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんね。

<いくら謝っても許さないよ。神江裏 灰音が傍観者になった、カスな理由なんだから>

ごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんね。

<神江裏 灰音(わたし)がそんなカスだから、全部棄てようと傍観者になったのに>


<もう、死んでくれよ。神江裏 灰音(わたし)>


『神江裏 灰音と神江裏 灰音(わたし)』


傍観者が灰色の理由

それは 「わたし」がカスだから

「わたし」が大嫌いだから

だから全部棄てるために

灰色になるために傍観者になった

それからは

全部平気になった

730しらにゅい:2011/08/14(日) 14:59:38

「さぁ、どうぞ。」

(灰音、差し出されたパンを凝視。)

<・・・・・・・・・>
「おや、食べないのかい?」
<何の、つもりなのかな。>
「何の、って物を食べる喜びを分かり合おうとしているんじゃないか。」

(猫、にんまりと笑う。)

「いらない?」
<・・・・・・・・・>
「それは、君の持つ『中立』の意に反するから?」

(猫、袋を破りパンを頬張る。)

<神江裏 灰音は平等で、中立なんだ。>
「知ってる。」
<・・・本当は、君とこうして話すのは相応しくないのかもしれない。>
「そうなのかもしれないね。」

(猫、片手にあるいちご牛乳を飲む。)

「灰色の傍観者、オイラはね・・・君に興味がある。」
<興味?>
「そう、君が何故誰よりも中立と平等に拘り、そして傍観者であるのか。
とても、とても興味がある。」
<そんなの、神江裏 灰音は傍観者であるからに決まってるからじゃないか。>
「それは違うね、君の存在は傍観者という人物ではなく、神江裏灰音という人物だ。」
<・・・・・・・・・>

(灰音、僅かに笑みが陰る。)

「いかせのごれには正義の味方を自称したり、気違いだと主張したり、それはそれは
色々な役者達がいるけれど・・・君みたいに傍観者を気取る人は早々いないかな。
関わりたくない、普通でありたい、そう願って似たような立場を取る人達は
たくさんいるけれど。」
<神江裏 灰音は、君の話す意味が理解出来ない。>
「じゃあ、聞き流せば良い。それも傍観の内に入るだろうから。」
<・・・・・・・・・>
「傍観とはそもそも手を出さずただそばで見ることを意味するけども、
それは何故?そして目的は?意図なくしての行動はないからこそ、気になる。」
<そんなの、・・・>
「その理由と目的が、傍観者である神江裏灰音の存在意義。当たり?」
<・・・・・・・・・>


(沈黙。)


「・・・おやおや、すっかり気分を害してしまったようだね。」
<違うよ、それを君に話すことは中立に反する。何より・・・それを話す必要が、ない。>
「そう、それが君の答えならオイラもそれ以上追及しないことにしよう。」

(猫、食べかけのパンと飲みかけのいちご牛乳を置いたまま立ち上がる。)

「灰色の傍観者、一つ言っておこう。」
<なんだい?>
「君はオイラと違って個がある、それを大切におし。」
<・・・何故?>
「ドリーマーは許されざる存在、だから許される為に、この世に存在する為に己を殺す。
つまり、その目的が達成されない限り・・・いずれ消えてしまう。」
<・・・・・・・・・>
「それでもオイラが、風変わりなドリーマーであり続けるのは・・・」
<あり続けるのは?>
「・・・・・・続きはWebで。」


(沈黙。)


<何それ・・・>
「だって君が教えてくれないから、オイラも教えなかっただけさ。」










表題
「猫、神江裏 灰音と会話する。」


「ああ、でも」
<?>
「ひとつ断言しよう、君が傍観者でなくなった時・・・君は物語の中に戻り、神江裏灰音という役者になる。
そして、今のようなこの関係は・・・・・・なくなるだろうね。」


(猫、にんまり口を残したまま消える。)


これにて終劇。

731しらにゅい:2011/08/14(日) 15:01:48
>>730 お借りしたのは神江裏灰音(十字メシアさん)でした。

うちのチェシャに絡んでくださったので、ということで書かせて頂きました。
ほぼこっちが一方的に喋ってる感があって、微妙な仕上がりになってしまいました・・・
うーん、まだリハビリが必要だなぁ・・・

編集される方は分類に関しましては「小話」でお願いします。

732大黒屋:2011/08/14(日) 18:20:42
展開を急いだらこうなった。反省はしていない(
十字メシアさんより「御影 咲埜子」、名前のみ「九十九」をお借りしました。

正義と命の対立

その日は、何もないはずだった。
いつも通り店の前に打ち水をし、ふうっと息を吐きながら咲埜子は汗を拭った。
「よっしゃ、今日もいつも通りやな。最近色々と心配しとうたけど、なにもなくてよかったわ。」
彼女は微笑み、店の中に入ろうとした。

直前。

「もしもし、ちょっといいかな?」
不意に肩を叩かれ、振り返った。
後ろに立っていたのは、爽やかな青空には不釣合な黒一色の姿。
出会ったことはないが、彼の正体を彼女は直ぐに察した。

「な…何の御用ですか?」
無意識に声が震える。
眼の前の男は肩に手を置いたまま問うた。
「この辺で人外が出たらしいんだけど、君、知らない…?」

口元が笑ってる。
この男、最初から自分が「半妖」であることを知ってて声をかけたらしい。
早く逃げなきゃ。そう思っても、足が動かない。
男の開いている手が懐に入った。
一瞬見えた金属光沢。
危ない、このままじゃ私…!


肩をつかんでいた手が離れた。
眼の前を誰かが遮り、それ越しに黒ずくめの男が吹き飛ばされ、近くの木にぶつかる。
それが全て眼の前の景色として映し出された後、音が纏めて耳に届いた。
地面とすれる音を鳴らして降り立ったそれを見、咲埜子は声を上げた。

「かっ…、幹久朗はんっ!」
「間にあったようだな。ギリギリだったけどよ。」
肩越しに彼は咲埜子を見る。その眼の色は既に血の色に染まっていた。

「間におうたて…何で、襲われてるて分かったんですか…?」
「カイムの能力だよ。」
彼は、地面に落ちた小さな紙を指さした。
「以前此処に訪問に来た時から、ずっとそのメモ仕舞ってたんだろ?」
「あ、確か連絡先が書かれた…。」

「主の知恵でな。普段と明らかに違う行動をとった際、メモが反応してこっちに『音』が届くようになってたんだ。たまたま近場を通ってたのも運が良かった。」
幹久朗は咲埜子を立ち上がらせた。
「直ぐに店に避難しろ。九十九さんにも伝えておけ。」
「わ、わかりました!」
咲埜子は直ぐに走って行った。

733大黒屋:2011/08/14(日) 18:21:35
「…さぁて。お前がシン・シーだな?こうして面合わせんのは初めてだな。」
咲埜子を見送った幹久朗は、おもむろにシンの方を向いた。
叩きつけられたシンもゆっくりと立ち上がる。
「そのオーラ…。君も妖怪だね?」

「なんてことをしてくれるんだい?あのまま行けば2人も人外が成敗できたのに。」
「こっちの台詞だ。人外だからって誰かれ構わず傷つけるな。命の価値は同じだ。」
シンはナイフを取り出した。幹久朗はそれを見、袖をまくった。

ナイフが鋭い光を纏って襲い掛かる。
常人では回避不能なスピードのナイフを、幹久朗はかわしながら間を詰める。
「近距離型か。なら、間を開けた方がよさそうだね。」
シンは足元にナイフを放つ。その場に幹久朗がとどまったのを見計らい、シンは更に間を広げた。

「ちっ…、近づけさせないつもりか。」
前に進む度に足元に放たれるナイフに、幹久朗は舌打ちをした。
「近距離型の君は、このくらい距離を離せば何とかなるかなと」
「力は使いたくなかったんだが…仕方ねぇ。」

「勘弁してくれよなっ!!」
勢いをつけて幹久朗が右腕を振り下ろす。
直後にシンは僅かに風を感じ、反射的に伏せた。
後ろの塀が音を立てる。振り返ると細い木の枝が数本、コンクリート塀に深々と突き刺さっていた。

「赤いオーラ…。成程、あれが能力ってことだね。」
シンが前を向いた。目隠し越しの視界には、赤いオーラを右腕にまとう妖怪。
褐色の腕は指先から徐々に枝へ、幹へと変形していた。

(能力を「見る」能力…。ということは当然、弱点も見抜いてくる。その前に…!)
蹴りだした幹久朗は左手に数本の枝を握り、それを振り下ろした。
防いだシンのナイフと擦れ合う。
幹久朗は幹と化した右腕を振り上げ、塀にシンを押し付けた。

「…っ!」
尚もナイフを放とうとする腕をつかみ、幹久朗はそこに意識を集中させた。
シンの腕から力が抜け、ナイフが足元に落ちる。
つかんだところから色が変化し、関節が曲がらなくなる。

「ぐっ…!」
「安心しな。変化させてるのは表皮細胞だけだ。中まで殺しはしない。」
敵であろうと命を消すことをためらう。そこが幹久朗とキムナの決定的な違いであった。

734大黒屋:2011/08/14(日) 18:22:19
「こんな目にあっても、お前は人外を襲うことを止めないんだろうな。」
冷静に、しかし激しい怒りも込めながら幹久朗は言う。
「どうして人外を襲う?確かに人を襲った人外なら成敗する必要がある。俺だってそうだ。だが、普通に生活をしている人外を襲う理由なんて何処にもねぇ。」
腕を握る左手に力がこもる。
「お前に何があった?人外を恨む理由は何なんだ?」

「…理由、か。」
シンは俯いた。
「初めてだよ、そういう風に追及してくる人外は。」
幹久朗は驚いてシンを見た。
「…でも。」

「話す義理はないな。」
風を切る音が幹久朗の耳に届いた。シンを放し、素早く下がる。
上から放たれたナイフは、シンの動かない腕に突き刺さった。
「あーっ、惜しい!」
そういいながら電柱から降りてきたのは、シンと全く同じ姿の少女だった。

「ごめんよ、『君(ボク)』。捕えたと思ったけど逃がしちゃった。」
シンに近づく少女を見、幹久朗は愕然とした。
(最悪だ。こいつ、前にキリが言ってたパニ・シーとかいう…!)
「いやいや、寧ろいい働きだったよ。」
シンが持ち上げた自らの腕には刺さったはずのナイフが消え、様子も元に戻っていた。
「なっ…!?」

「それで、今日はあの人外かい?」
「そうさ。さっき別の人外を取り逃がしたし、ちゃんと責任は取ってもらわないとだし。」
二人の目隠し越しの目線が此方を向く。
暫く対峙していた両者だったが、やがて幹久朗の口元が緩み、警戒を解いた。

「…何がおかしいんだい?」
シンが問う。幹久朗の腕も少しずつ元に戻って行き出した。
「いや、まさかこのタイミングで来るとは予想外だったが…。」
「金緑色」の眼を二人に向け、幹久朗は言い放った。

「想定の範囲内だったんだよ。」

一陣の赤い風のように、シンには見えた。
しかし、それに反応する間もなく二人の眼の前が真っ暗になった。
揃って前に倒れる二つの黒い姿の後ろには、白い布を纏った少年とも少女ともつかない子供。
白い肌、薄い黄緑の長髪とは裏腹に、瞳の色とイヤリングの飾りは血の如く赤かった。

「…よかった、うまくいったみたいだね。」
鈴のような綺麗な声が、その口から洩れる。
幹久朗はそちらに微笑んだ。
「上出来すぎるよ。頑張ったんじゃねぇの?」

「とりあえずこいつらは人気の少ない所に運ぶか。」
幹久朗は慣れた手つきで二人を背負いあげた。
「あ、僕も手伝うよ。」
「いや、いいよ。このくらいどうってことねぇし、お前もまだその姿に慣れてねぇだろ?」
「…まぁ、確かにね。」

「しかし驚いたな。お前の事主に相談したら、ものの見事に当てるんだもんな。」
「僕も吃驚したよ。本当に動ける日が来るなんて、感動だなぁ。」
「もう少し体力がついたら、少しずつ人間とも接するようにしよう。」
「うん!楽しみだなぁ…!」

「…さて、このあたりでいいかな。」
幹久朗は人気の少ない森でできるだけ静かに二人を下ろした。
「さて、早めに戻るか。人気がないとはいえ、東の平原の巨木がなくなってりゃ誰かが気付くかもしれねぇ。」
「そうだね。早く行かないと…あっ。」
ふらつく子供を幹久朗は咄嗟に抱きかかえる。

「おっと。やっぱり体力が限界近かったらしいな。」
「…ごめんね。」
「いいんだ。俺が背負ってやる。早く帰ろうぜ。」
「…うん。」

「やっぱり吃驚するほど軽いんだな、お前。今までの姿からじゃ想像もつかねぇ。」
「そうかなぁ?まぁ、確かに軽いなぁとは自分も思うけれど。」
「その体に慣れるのには、時間がかかりそうだな。ま、急ぎはしねぇよ。確実に慣れて行け、」


「…『アカノミ』。」

735スゴロク:2011/08/14(日) 19:47:13
流也の話です。


「や~、まいったまいった」

その日、霧波 流也は相も変わらず迷っていた。早朝に出たはいいが、霧が深かったため、晴れた時にはどこにいるのかもわからなくなっていた。
こうなると彼にとっては眼隠しで迷宮に放りこまれたようなものであり、もはや自分がどこに向かっているのかもわからなくなっていた。

「街の中で遭難死なんてシャレになってねぇぞ……おっ」

しばらく彷徨う内に、視界の端に見慣れた部分を見つけた。「友人」がいる、東の平原の端。

(ちょうどいい、アカノミに挨拶してくか)

取っ掛かりが見つかれば辿りつくまでは早かった。既に「友人」の所につくまでの時間は身体が覚えている。
慣れた調子でその場所に向かい、

「よぉう、アカ」

硬直した。



大木が…………ない。



「…………………………は?」

たっぷり10秒。流也が事態を受け入れるのに、それだけの時間が必要だった。
そして理解するや否や、

「え、ちょ、待っ、はぁぁッ!? ど、どういうこった!? 何でいねぇんだよ!? いや、どこ行ったとかそういことじゃ、おい、あの、えぉうをっ……!?」

傍から見て面白いほどに狼狽する流也であった。

「た、大木――――っ!?」

ある意味失礼極まりない呼び声に、


『喚かないの。あの子だったらちょっと出かけてるだけよ』


「何……へ?」

聞きなれた、しかし懐かしい声が答え、響いた。
思わず振り向いたそこに、

『ハイ、坊や。久しぶりね』

懐かしい顔があった。整った顔立ち、桜色の長い髪と瞳、真っ白なワンピースと帽子に靴、そして長身。
そして、流也を「坊や」呼ばわりするこの女性は……。

「……サクヤ姉さんじゃねぇか!? 何でいかせのごれに!?」
『そりゃ、この辺りに植え替えられたからよ』
「いや植え替えられたって、いつ!?」
『かれこれ15年くらい前ね。こうやってまた出て来られるようになったのはつい最近だけど』

半分混乱する流也に応える彼女―――サクヤは、表情こそ微妙に変えつつも口を動かしていない。にも拘わらず、意志の疎通は滞りなく行われている。
もっとも、幼少期から彼女と接している流也にとっては、慣れたものなのだが。

『それより坊や、あの子に用事があったんじゃないの?』
「あ、あぁ、アカノミか? いや、近くまで来たんで挨拶でもしていこうかと」
『……どうせまた迷ったんでしょ?』

図星である。

『まぁ、心配ないわ。ここには坊や以外の人間はほとんど来ないし、多分お昼過ぎには帰って来るんじゃないかしら』
「またそんな適当なことを……」
『ふふん、何とでも言いなさい』

得意げな顔で胸を張るサクヤ。自慢する所ではないと思うが。

「ま、いないならいいや。俺は一度帰る」
『待ちなさい。どうせ一人じゃ迷うに決まってるわ、送ったげる』
「えぇ? いいよ、ガキじゃあるまいし」
『私から見れば子供よ。ほら、行くわよ坊や』
「サクヤ姉さん、坊やはやめろって……」

ぶつぶつ不平を言う流也を引きずり、サクヤは何処かへと歩いていった。



東、二つの驚愕

(友人の意外な事実を知り)
(昔馴染みにも再会した)
(周りは不穏、東は平穏)


(………なのか?)


というわけで、名前のみ大黒屋さん「アカノミ」をお借りしました。新しい設定に加え、「東と大木といかせのごれ」でちょっとだけ出た「姉さん」を回収しました。

736大黒屋:2011/08/14(日) 21:19:53
さて、このあと過去編一話挟んだらいよいよランカ宅にて一騒動起こす…予定です。
が、どのように事を進めようか迷ってる節があり、スゴロクさんに丸投げするかもしれませんごめんなさい袋叩きにして殺してくだs(
名前はあがってませんがスゴロクさんより「ブランカ・白波」をお借りしました。

黒の計画、赤への声

…数時間後。
黒い二つの影が肩を寄せ合い、道を歩いていた。

「…まったく、してやられたって感じだね。」
かすれた声で片方が言った。もう片方が頷く。
「あの一瞬でしてやられるなんて、まだまだ未熟だなぁ、僕は。」
「お互い様さ。僕も見えていたのに反応できなかった。」

「あれは成敗するのに時間がかかりそうだね。少しずつ方法を考えないと。」
「でも、いつまでも停滞できないだろう?僕、ちょうどいい情報を入手してきたんだ。」
「へぇ!どんなことだい?」
「あの生物兵器の成り損ないについてなんだけどね…。」
片方は、もう片方に耳打ちをする。

「人外が二人も!しかも取り逃がした人外がいる、か…!」
「面白いだろう?一気に3人も成敗できるんだ。」
「乗ったよ、『君(ボク)』。近いうちにそこに向かうとしようか!」
「賛成だよ。勿論、計画はちゃんと立てて、ね。」
くすくすと、彼らは声を殺して笑った。


音のない部屋に、彼女はドアをノックして入って来た。
白い部屋には唯一人、ベッドに横たわる赤い姿。
彼女はマスク越しにため息をひとつ吐き、大きな鞄を開いた。

「あの怪我から一命を取りとめたねぇ。」
額に手を当て、彼女はベッドの男を見下ろす。
「呪術師としての才能は全くなかったけど、あの短期間でここまでやってしまうのね。流石、医療の天才。」
彼女は手を離すと、鞄を開けた。

「少し助太刀してあげるわ、貴方が目覚めるように。」
鞄の中を、彼女は探る。
「だから、急ぎなさい。今度は貴方の探し人が危ないかもしれないから。」
取り出した札からは、色のついた煙が昇りだしていた。


どうして、俺はこんな暗い所に居るんだ?
「存在」に戻って、鬼門に返還されたのか?
ああ、なんてことだ。
主にも、皆にも、「あの子」にもサヨウナラを言えずに、俺は…!

『…なに弱気になってんのよ。あんたらしくないわね。』
! その声、お前…!
『私の事はいいから。それより、このまま眠ってるつもりじゃないでしょうね?』
眠って…!じゃあ、俺はまだ返還されてないのか!

『今はどうでもいいことよ。それより、あんたにはやることがあるでしょ?』
俺の、やること…?
『探し人。早く見つけないと、とんでもないことになりかねないわ。』
!? まさか、あの男が…?
『近いかもしれない、わね。』

『こんなことしてる場合じゃないわよ。守りたいなら、早く目覚めなさい。』

737スゴロク:2011/08/14(日) 22:25:23
>大黒屋さん 
私の方ではいくつか案を用意してありますので、投げてもらってもいいですよ。
もしかしたら、その話で流也を絡ませられるかも、と思ってますので。

738大黒屋:2011/08/15(月) 14:12:42
>スゴロクさん
申し訳ありません><;
それではお言葉に甘えて丸投げしようと思います;

エトレク過去編&行動再開です。
スゴロクさんより「ブランカ・白波」をお借りしました。

その男は走っていた。
特に目的地があるわけではない。が、彼は逃げるように走っていた。
やがてたどり着いた倉庫の裏で、彼は壁に寄りかかり、大きく息を吐いた。

「嘘…だ、何で…。」
血の色の眼には未だ驚愕が消えずにいた。
理由は先程遭遇した少女だ。

彼は「怪人赤マント」。
夕暮れ時に、子供が一人路地裏を歩いていると眼の前に現れる。
そして、赤と青のどちらが好きか問うのだ。
それを問われた者は、その気がなくともどちらかを選んでしまう。

彼が備えた能力。彼は「絶対選択」と呼ぶ。
二つ以上の選択肢から必ず一つを選ばせる。
そして、赤と答えれば血まみれにし、青と答えれば水に沈める。
いずれにせよ、彼に遭遇した子供は一人として助からなかった。

――はずだった。

「何で、あの子は選ばなかったんだ?いや、それよりも…。」
彼は後ろを向いた。今まで彼が通った道が、変わらずそこにある。
ずり落ちた白い仮面が、軽い音を立ててアスファルトに落とされた。
「何で、俺の心境を見抜きやがった…?」

人間に語られることで生まれ存在する。それが都市伝説。
しかし、昭和初期が最盛期であった彼は最早殆どの人間に忘れ去られていた。
人間が存在を忘れる事。すなわちそれは都市伝説の「死」。
その恐怖が間近に迫っている彼は次第に自信を失くしていた。
今は何よりも名を広めなければならない。
焦燥に駆られていた彼はなおも夕刻、路地裏を彷徨っていた。

その自信の無さを、あの女の子は一目見ただけで見抜いたのだ。
理由が分からない。そのような類の能力者にも見えなかった。
怪我をした青い狐を抱えていた。家路へ向かう最中だったのかもしれない。
「…確かめなければ。あの子、一体何者なんだ…。」

恥辱と衝撃で逃げてしまったことは置いておき、翌日同刻、彼は先日の路地裏にいた。
息を殺して待っていると、予想通りやってきた。
彼は仮面を確認し、路地に一歩踏み出した。
眼の前にいる小さな女の子は此方を見上げ、一言。

「あれ?昨日の…。」

739大黒屋:2011/08/15(月) 14:13:29
ブランカ・白波と名乗った少女。
話してみると優しくもしっかりした印象があった。自分の自信の無さを見抜いたのも頷ける。
聞いたところ、自分が眼を合せなかったことに原因があったらしい。そこは素直に謝った。

それから彼女とは同じ路地裏で時々話した。
日没間近だから長い事話せなかったが次第に彼女とは打ち解けていった。
何気ない愚痴や世間話ばかりになってしまったが、その時だけは彼は現実を忘れることができた。

しかし、そんな日々も長くは続かなかった。

にわか雨だろうか。大粒の雨が地面を激しく打ちつける。
彼は傘もささずに、いつもの路地裏に立っていた。
「…こんな雨だもんな。今日は流石にこれないか。」
そう呟く彼は、悲しげに眼を伏せた。

「これでいいんだ。あの子に、辛い別れを経験させずに済む。」
空を振り仰ぐと、雨は容赦なく仮面と血の色の眼を襲った。
その足元の輪郭はぶれ、失いかけていた。
「…最後にさよならが言えないのは、俺が辛いけど。」

原型を失くした足先は、まるで電子が上へ上るように消えていく。
誰も知らない都市伝説に、意味などない。
自分は「存在」へと戻り、深い闇に還される。

もし、また出会うことができたら。
その時はもう一度、他愛もない話をしよう。
きっとそれは、叶うことのないささやかな希望だけれど。

「サヨナラ。」

誰もいない空間に彼はささやき、「実体」を失くした。
涙とも雨ともつかない透明な滴を一つ、水たまりに落として。

740大黒屋:2011/08/15(月) 14:15:32
白い天井が真っ先に視界に入った。
見覚えのある天井。彼ははっとし、体を起こした。
ウスワイヤの一室だ。しかし、そこには彼以外誰もいない。
「…何で、こんな所に?俺、「存在」に戻ったんじゃ…。」

そうだ。確かシンと偶然出会ってしまい、その場で惨殺されたはず。
なのに実体を持ったまま、彼はベッドに寝ていたのだ。
どういうことだ?とあたりを見回すと、小さな机に何かが置いてあるのを見つけた。

「何だこれ?メモか?」
取り上げると、そこにはきれいな字で
『クランケに感謝しなさいよ。生まれが違えど同じ都市伝説。私だって気が気じゃなかったんだから。』
と書かれていた。

思いかえす。そういえば、暗闇を彷徨っていたときに、女の声が聞こえてきたっけ…。
「…あっ!」
そう思いかえし、彼ははっと顔を上げた。
急いでベッドから降り、フックにかかっていたシルクハットとマントを取り上げる。
メモ書きはポケットに仕舞い、彼は部屋を飛び出した。

『探し人。早く見つけないと、とんでもないことになりかねないわ。』
シン・シーが、彼女の元へ向かってるかもしれない。
目的は恐らく、初めて出会ったときに抱えていた青い狐。
彼女達が危ない。そう思うだけで居てもたっても居られなかった。

「今の俺じゃ敵わないだろうな…。でも。」
取り出した白い仮面をつけ、右手には巨大な鎌を召喚した。
(俺にだってやれることはあるはずだ…!)


レッド・クライシス


「さぁ、「都市伝説・怪人赤マント」の本領発揮哉…!!」

741大黒屋:2011/08/15(月) 17:31:52
すみません、名前は表記してませんが、(六x・)さんより「アズ―ル」もお借りしておりました;

742スゴロク:2011/08/15(月) 23:09:59
>大黒屋さん
投げられたらば受け取りましょう。ただ、用意していた案を全部投げ込みましたので、かなり展開が強引になっております。
キャラ崩壊等ありましたらすみません。



「ん?」

その日、久しぶりにウスワイヤに出向いていたゲンブは、入れ違いに物凄い勢いで飛び出して行った奇怪な格好の男に気付いた。確か、「百物語組」とかの一人だった記憶がある。

「なぜこんなところに? いや、それよりあんなに急いでどこに?」

その辺りの事情を知らないのは、彼がほとんど独自の行動をとる立ち位置にいる関係が多い。
ともあれ、ゲンブは何か胸騒ぎを覚えた。

(あの気配はただ事ではなかった……何かあるな)

暴走の可能性もある。とりあえずは様子を見ることにしつつ、ゲンブはその男―――「怪人赤マント」エトレクのあとを追った。



「マナちゃん、そっち終わった?」
「今。そっちは?」
「うん、後はお母さんの部屋だけだよ」
「マスター、マナさん、うちの方は終わりましたで」
「ありがとう、アズール。じゃあ、ちょっとこっち手伝って」
「わかりましたー」

白波家。
何だかんだで居候しているマナを加え、3人になったこの家では、何日かに一度の大掃除が行われていた。元来ランカが綺麗好きということもあるが、家族が増えてからホコリが立つ度合いが大きくなった、というのもある。

「ランカ、本当に掃除が好きね」
「うん、お母さんがそうだったから。いつも言ってたんだ」

『いーい、ブランカ? 四角い部屋を丸く掃く、じゃダメよ。あるものをどかして、箒やはたきもちゃんと使って、窓を開けて。掃除は定期的に、ね。毎日したっていいくらいなんだから』

「……って」
「さすが……」

ランカの亡母・アカネのきっちりとした教えに、マナはただ感心する。今のランカがこうしてしっかりした性格に育ったのは、ひとえに彼女のおかげと言えるだろう。

(少なくとも、シドウさんのおかげではないか)

仇を探して放浪するあの男が父親の義務を果たしているとは、到底思えないマナであった。
そんなことを思いつつ、ランカを手伝おうと階段に踏み出して、

ぴんぽーん、

「!」

玄関でなったチャイムを聞きつけた。

「あ、私がいくよ」

たたっ、と階段を駆け下り、ランカが玄関に向かう。

「はーい?」

がちゃ、とドアを開ける。そこでランカが見たものは、異様な風体の二人組。

一人は、黒い眼隠しに黒いマントをはおった男。
一人は、それと全く同じ服装の、恐らく女。

743スゴロク:2011/08/15(月) 23:11:27
「!? あ、あの、どちら様ですか?」
「初めまして。君がブランカ・白波かな?」
「は、はい。そうです、けど……」

名前を問うその声に答えつつ、ランカは目の前の二人組から異様なものを感じ取っていた。
粘つくような、嫌な感じのなにか。
スザクやトキコならわかったはずだ。――――それが、「悪意」あるいは「害意」と呼ばれるものだと。

「ランカ? どうし―――」

玄関の空気を察したのか、アズールを連れたマナが階段を下りて来る。が、尋ねて来ていた二人の姿を見た途端、その表情が凍りついた。

「な……シン・シー!?」
「え!?」

思わず振り向くランカ。マナから一連の話は聞いていた。
兄・詠人と組み、命を狙って来た「正義の味方」。あまり家から出ないランカでも、真衣を通じて噂くらいは聞いていた。
―――が、その振り向いた一瞬が命取りとなった。

「!? あぐっ!」

突然女―――パニ・シーの後ろから延びた手に喉を掴まれ、引き寄せられていた。そして、気が付くと牙だらけの左腕に抱えられていた。

「だ、誰……ッ!?」
「……今度は逃がさないぞ、紛い物」

眼光に憎悪。声音に怒り。震える腕は歓喜か、高揚か。
―――月読 詠人が、そこに立っていた。


わずか、時を遡る。
ヴァイス=シュヴァルツからもたらされた情報をもとに、白波家にいる人外二人、そしてあわよくば火波 スザクを「成敗」するために、「正義の味方」の二人は白波家に向かっていた。
元々二人で実行するつもりだったし、誰かを頼る気もなかった。しかし、行き道で知った顔と出くわしたのだ。

「あれ……シン・シーじゃないですか?」
「ん? ……何だ、詠人君か。何をしてるんだい、こんな所で」

ジャージ姿で道を歩いていた月読 詠人だった。以前彼の妹・マナの姿を奪った人外を倒すべく手を組んだのだが、妨害が入って失敗した。あの時のことは、シンにとっては苦い経験である。

「いや……特にすることもなくて、散歩でも、と。そっちは?」
「いつもの通りの『正義の味方』の仕事さ。実は、この先の家に人外が二体もいるって聞いてね」
「なるほど……」
「ちなみにその片方は、以前逃した奴でね。今度は逃がさないつもりさ」

それを聞いた途端、詠人の顔に鋭いものが走った。

「逃がした? まさか、紛い物ですか?」
「ああ、そうさ。……ところで、いい加減敬語はやめてくれないかな? 他人行儀だし」
「は、はい……じゃない、わかった。これでいいのか?」
「そう、その調子。……何なら一緒に来るかい? 君にとっても因縁だろう」
「ええ……っとと。……ああ、そのつもりだ。ただし、紛い物は僕が殺す。それでいいか?」
「いいとも。僕らが求めるのはあくまで人外を成敗するという結果だからね。君が協力してくれるというなら、断る理由はないね」
「僕としてもそれは賛成だね。あの男と違って、どうやら僕らに近いようだし」

シンの隣にいたそっくりな服装の女が言う。それを聞いてようやく、詠人はシンが誰かを連れていることに気付いた。

「あれ、その子は?」
「え? ……ああ、そういえばまだ話してなかったね。パニ・シー、『僕の妹(ボク)』だ」
「は?」

聞くだけだと「ボク」としか聞こえないので、無論詠人は混乱する。

「? ああ、ごめんごめん。君にはこれじゃわからないね」
「い、いや、大体わかる。兄妹、か」
「まあ、そんなところだね。……さて、話はここまでだ。行くとしようか、白波家に」
「……そうだな」

744スゴロク:2011/08/15(月) 23:12:18
そして、今。
玄関先で、詠人は牙だらけの左腕にランカの首を抱え込み、長身に物を言わせて宙づりにしている。

「お、お兄ちゃん……!?」
「黙れ。僕を兄と呼ぶな。そう言ったはずだ」

マナに向けるその眼にも、その声にも、憎しみしか宿っていない。そのことに、マナはまた悲しくなり、同時に怒りを覚える。

「……なら、それでもいい。それより詠人、ランカを離して。私だけ狙えばいいでしょう!?」
「そうはいかないんだよ……そのままなら何もする気はなかった。だが」

ぐ、とランカを締め付ける力が強くなる。

「く、ぅッ……」
「こいつはお前を匿った。それだけで手を出す理由になる」
「詠人君、一応言っておくけど殺してはダメだよ。その子はあくまでも人間。僕らが成敗するのは人外だからね」
「わかっている。……シドウさんの手前もある、お前は殺さない。だが」

力に物を言わせ、左手に持ち替えて一気に持ち上げる。

「お前は、僕の最も憎むべき存在に味方した。その報いは受けてもらう」
「あ……く、ぁ……」
「ま、待たんかい! マスターに手ぇ出す奴はウチが許さんで!!」

飛び出して来た少女―――アズールが叫び、詠人目掛けて両手から青い炎を飛ばす―――寸前、

「うおっ!?」

横合いから飛んで来たナイフが眼前を霞め、後退を余儀なくされた。

「ん、意外とすばしっこいな。狙いが逸れてしまったよ」
「まさに人外ってわけか。まあ、ここからは逃がさない。この場で必ず成敗するよ」

「正義の味方」は、そっくりの笑みを浮かべてそう言った。



「あぐっ!」
「迂闊に動くなよ、紛い物。必要以上にブランカが傷つくことになるぞ」

牙に、爪に覆われた両腕を振り回し、詠人がマナを襲う。普段の彼女ならこんな単純な攻撃は何でもないのだが、そう出来ない理由があった。

「パニ・シー」
「大丈夫、しっかり捕まえてるよ」

部屋の隅でパニ・シーに捕縛されているランカの存在だった。シンの流義からして命を取られることはないだろうが、彼らは人外の味方をするなら人間にも(あくまで殺さない程度ではあるが)危害を加える。何より詠人もいる。
下手に抵抗してランカが傷つくような事態になれば、スザクにもシドウにも顔向けできない。
だからと言ってむざむざ死んでやる気はなかったが、この状況では打てる手がない。

「マナちゃんッ!」
「動くな。痛い目を見たくなければ大人しくしていろ。骨の五、六本では済まないぞ」

冷酷そのものの声音で詠人が言う。

「待っていろ。こいつを始末したら、お前にも僕の痛みを教えてやる」

745スゴロク:2011/08/15(月) 23:12:56
一方のアズールはアズールで、シンの執拗な攻撃から逃げ惑っていた。

「やれやれ、少しでいいから大人しくしてくれないかな。君の主が傷つくよ」
「く……」

ランカを守るために修行を積んで来たのだが、シンの方が一枚上手だった。
相手の力が分からないなら、それを使わせなければいい。
その点において、アズールはランカという大きなディスアドバンテージを抱えていたからだ。

「状況がわかってないのかな? ……『君(ボク)』」
「ん」

音だけで答えると、パニ・シーの力が更に強くなる。呼吸が圧迫され、ランカの声がかすれる。

「 !! ぁ、か……」
「ま、マスター!?」
「そこっ!!」

一瞬の油断……しかしそれは、ことシン・シーという男を前にして、絶対にしてはならない油断だった。
全身を貫く異物感、次いで灼熱感を覚えた時には、既に壁にはりつけられていた。一拍遅れて激痛が走る。

「く、あぁああぁぁ!?」
「手こずらせてくれたね。だけど、これで終わりだ」

右手にナイフを持ち、シンが歩み寄る。そのまま投げてもよかったが、狙いがもう一つあったのだ。
その事は口に出さず、ただ待つ。

「ここは確実に行かせてもらう。いつも最後で痛い目を見がちなんでね」

眼前まで歩み寄った所で、振り上げる。

(アズール!!)
「では、さようならだ」

瞬間、


「やらせるかぁぁぁぁぁッ!!」


窓側から声。次の瞬間、そこを蹴破って赤い影が飛び込んで来た。
肩まで伸びた髪、同じ色の目。炎のような印象を与える、その少女。

「ようやく来たね……火波 スザク」

呟くシン・シーを、アカノミに「南」と見出された少女は剣のような目で睨みつけた。



(綾ちゃん……!?)

飛び込んで来た親友の姿を見て、ランカは安心するより前に動揺した。
その姿を認めた瞬間、自分を掴まえているパニ・シーが明らかに笑ったのが理解できたからだ。

(!!)

途端、ランカは全てを理解した。母親譲りの洞察力が、理解してしまった。アズールとマナを狙って来たのは間違いないだろうが、恐らくそれは付随要素。本命は……!!

(ダメ、綾ちゃん、逃げて……!)

警告しようにも、口が塞がれて声が出せない。
その親友は、怒りに燃えてシンを睨みつけている。

「お前……よくもここまでやってくれたな!!」
「気性の荒いことだ。成り損ないとはいえ、さすが生物兵器だ」
「何でそれを……いや、どうでもいい。僕の友達をここまでやってくれたんだ……覚悟しろ!!」

しかし、幻龍剣を喉元に突きつけられても、シン・シーは揺るがない。

「状況が見えていないようだね。後ろを見てごらん」
「何を……な、ランカッ!?」

言われて振り向いたスザクは、無二の親友が捕まっているのを目にし、ようやく事態を把握して動揺した。
あらためてシンに向き直り、睨みつける。

「ま、そういうことさ。友達が傷つくのが嫌なら、大人しくしていることだね」

そこまで言うと、ちらりとアズールに目を向け、

「君は後回しだ。まずは、『僕の妹(ボク)』が狙いを定めた火波 スザクを成敗する」

言うと、動揺するスザクに向けて右手を突き出す。白刃が煌き―――。

746スゴロク:2011/08/15(月) 23:13:43
「ぐっ!」

咄嗟に身をかわしたスザクの右肩を、ナイフが貫いていた。痛みで明らかに動きが鈍る。
生体兵器の成り損ないとはいえ、スザクが受けたのは投薬と精神操作。「龍義真精・偽」があるとはいえ、肉体的には通常の人間とほとんど変わらない。

「あれ? 思ったより脆いな……」
「所詮は出来そこないだ。火波、運が悪かったな」
「! 詠人……お前!?」
「ふん、お前に用はない」

吐き捨てる詠人の右手には、痛めつけられてボロボロのマナ。

「な、何をしてるんだ! マナを何だと……」
「黙れ。こいつは紛い物だ。何も知らないお前は黙っていろ。聞く気はない。こいつは殺す。壊して戻す。姿を、僕は、仇を」

ランカにはわかったが、詠人の様子が現れた時と比べて明らかにおかしい。言葉に脈絡がなく、同じような言葉を繰り返している。憎悪のあまりに判断力と思考力が摩耗して来ているらしい、と見えた。

(ダメ、それじゃ、そのままじゃ!)

だが、それを伝える術は、今はない。
その間にも状況は悪化の一途を辿っていた。
スザクはランカが捕まっているせいでろくに抵抗できず、シンの放つナイフに少しずつ傷を刻まれている。
壁にはりつけられたままのアズールはぐったりしており、放置しているともたないのは確定的だった。
マナはと言うと半ば意識を失っており、憎悪を振り回すかのような詠人の腕に酷く痛めつけられている。血が流れていないのは彼女が能力そのものだからか。

(私が、私が捕まってなかったら……!!)

スザクもマナもアズールも、本当ならこんな相手に負けるはずがない。自分が捕まってしまっているせいで、何も出来ずに追い詰められている。自責の念に囚われるランカをよそに、事態はますます悪化の一途をたどる。


「おやおや……何やら面白そうなことになっていますね」


『ッ!?』

この場に在るほぼ全員が、聞き覚えのある声。一斉に視線を向けたその先にいたのは、黒ずくめの狂人。

「ヴァイス=シュヴァルツ!?」
「どうも、皆さん。こんにちは」

場違いな程にこやかに、脚本家は帽子をとって挨拶した。



「ああ、君か……何だか久しぶりだね」
「これはこれは正義の味方、調子がよろしいようで」

無論皮肉だ。シンはエトレクと遭遇するまでのここ最近、どうも失敗が続いている。
しかし、それに気を咎めるでもなく、シンは言う。

「ま、今はね。あの時はちょっと不本意な戦いだったけど」
「杞憂でしたがね。ああ、ちなみに今日は見物のつもりでしたが、ちょっとばかり手を出しましょうか」

誰の意見も聞かず、介入を許さない内にヴァイスは行動する。抜く手も見せず投げ放ったナイフが、パニ・シーの抱えるランカの頬をかすめる。

747スゴロク:2011/08/15(月) 23:14:18
(ッ!?)
「おや、外しましたか。投げナイフは一応世界4位までいったんですが」
「なんだいそれは。というか、そんな大会があるのか」

呆れたようなシンはスルーし、ヴァイスはまた狙いを定める。

「今度は外しませんよ」

まるでダーツでもするかのように、黒ずくめの男はナイフを持った手を動かす。
しかし、投げ放たれた刃が向かったのは、

「っ!」

ランカを抱えるパニ・シーだった。咄嗟に身体を倒して避けたが、ヴァイスにとってはそれが狙い。
崩れた態勢に巻き込まれて転倒したランカ目掛け、次の一本を振りかぶる。
だが隣には、

「おっと、僕の前で『人殺し』は許さないよ」

シン・シーがいた。放たれた直後のナイフを自分のそれで打ち落とす。

「投げナイフは君の専売特許ではないんだよ、脚本家」
「知っていますよ、そのくらいのことは」

言うが早いかそちら目掛けてヴァイスは刃を放ったが、まったく同時に動いたシンが打ち落としていた。

「『僕の妹(ボク)』にまで手を出した以上、残念だが君はこの場においては敵だ。大人しくしてもらうよ」
「『この場では』ですか……甘いですね。それがアナタらしいとも言えますが」
「……君に、僕の何がわかる?」
「さあて、ね。どうでしょうか」

知っているのか、知らないのか。それすら悟らせぬままに、ヴァイスは状況を引っかきまわす。
決して狭くはない家の中で無差別にナイフを投げ放ち、たまにシンを妨害。判断力が摩耗してヴァイスの存在にすら気付いていない詠人は、この状況にも反応を示さない。時折ナイフを受けつつも、何事かをぶつぶつと呟きながらマナを甚振る。

(どうして……なんで、こんなことに……!)

今だパニ・シーに捕まったままのランカは、何が出来るでもない己が身に歯噛みする。
と、その目線が向いた先で、

「あうっ!!」

倒れた椅子に引っ掛かり、スザクが転倒した。そして、

「今だね」

そこ目掛けてシンが渾身の一投を放った。眉間を狙ったナイフはまっすぐに飛び、

「!?」

―――スザクの後頭部の僅か上を、通過して行った。

「……なかなか悪運が強い。しかし、ここまでだ」

言うや、シンはヴァイスの刃をかわすとともにナイフを6連発で放つ。
しかし、殺到する刃は紙一重でスザクに届かず、わずかにかすめるのみに終わった。

「どういうことだ……なぜ届かない」

偶然といえばそれまでだが、シンにはスザクを覆うようにかすかな光が見えた。といっても本当に薄く、ともすれば見逃しそうになる。無論、色などわかろうはずもない。

「なら、これで!」

投げては届かないと見たシンは、いつの間にか残りが僅かになっていたナイフの一本を手に取り、直接トドメを刺そうと足に力を込めた。
が、次の瞬間だ。

「!! うわっ!!?」
「おっと」

ヒュッ、と風を斬る音が聞こえ、慌てて身を低くする。飛び出そうとしていた勢いがそのまま残ったため、派手に転んでしまったがこの際仕方がない。先ほどまで首があった場所を大きな何かが通り過ぎて行く。
一方のヴァイスは低く跳躍してかわし、ついでとばかりに詠人とマナを引っかけて窓を突き破り、ほとんど人の通らない裏通りに飛び出す。

「やれやれ、これで少しは静かになりましたね。さて」

目の前には、ボロボロの少女と正気を失いつつある少年。

「因縁もこれで終わりです。ワタシの手で壊せなかったのは残念ですが、せめてトドメくらいはもらうとしましょう」

言って、両手にナイフを持つ。

「では、さようなら」

一歩を踏み出した、その瞬間だ。


「なぁぁぁぁぁにやってんだそこぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


「!?」

気付いた時には、詠人共々横っ面を豪快に殴り飛ばされていた。

「ぐ、はっ!?」

回転する視界の中に一瞬映ったのは、ロングコートを着た男だった。

748スゴロク:2011/08/15(月) 23:14:49
「な、馬鹿、な……確かに、僕が……」
「ああ、確かに死にかけた。だけど、俺はこうしてここにいる、それが事実だ」

シン・シーは、この時明らかに動揺していた。確かにこの手で成敗したはずの人外……赤マントの男が、大鎌を携えてそこに立っていたのだから。
だが自失は一瞬。即座に己を取り戻すと、身構える。

「……まあ、何度来ても結果は同じだ」
「確かに。それに、あの子が人質では、こっちも迂闊に手が出せない哉」

語る男の姿を、シンは訝しげに見る。それが本当なら、なぜこうも動揺せずにいられるのか。
だがその答えは、すぐに明らかとなった。

「!? う、うわぁっ!?」

突然パニ・シーが転倒し、ランカがたたらを踏んで前によろめいた。男―――エトレクはそれを見逃さず、素早く駆け寄って片手で抱き止める。

「助かったよ、ミナ」

転倒したパニ・シーの足を、部屋の陰から延びる無数の白い手が掴んでいた。



郊外のとある廃病院。霊安室だったと思しきそこに、白いブラウスの少女が一人佇む。

「んっ……!」

何かを堪えるようにして拳を握り、目をつむる。が、程なくしてそれは解かれた。

「……エトレクさん、ごめんなさい。また失敗しちゃいました」



「っ、何だよ、今のは……」
「……新しい人外らしいね。ここまで事態が動いたのはさすがに驚きだ」

優勢劣勢含めて、である。

「だけどあの程度なら問題はない。さて、もう一度覚悟はしたかい?」
「正直言えばまだ敵わないだろうな。だけど」

ぐるりと鎌を一回転させ、構える。

「まだやれることはある哉」

仮面の裏からシンを見据え、「問う」。

「『赤い色と青い色、貴方はどちらが好きですか?』」
「最初に言ったはずだけどね。赤だ」

言うや、金属音が響く。シンのナイフとエトレクの鎌がぶつかり合う。
放たれたナイフを鎌で弾き、間を詰めて振りかぶり、空いている方の手で小さい鎌を投げ、シンがそれを弾く。
そしてそれをエトレクが拾い上げ、シンの首を挟みこむ。

「「…………」」

まるでいつかの再現のようなその状況。やはり、動いたのは赤い影だった。
いつの間にか握っていたナイフを鳩尾目掛けて突き出し、

「っと!」

エトレクが後退してかわす。

「そうそう何度も同じ手は喰らえない哉」
「……さすがに馬鹿ではないか」

やや場が膠着した所で、シンは視界の端に映る青い狐のオーラが微妙に動いているのを見つけた。

(ん?)

トドメを差す寸前まで追い詰めた、自力では動けないはず。だが、少しずつその場から移動している。

「『君(ボク)』、どうなってるんだ?」
「ごめん『君』、逃がした……!」

シンはこの時点では知る由もないが、ランカの能力「異能耐性」は彼の力に対しても十全に機能している。つまり、彼の視界にはランカのオーラは映らないのである。
一方パニ・シーの方はまだ余力を残していたが、事態が二転三転するにつれ、何を「なかったこと」にするか一瞬判断を迷った。
ここまで圧倒的に有利に進めていたこともあるし、一番厄介な「波動化」のマナは自前で無効に出来る詠人が相手取っていたため、ランカを抑えておくことに専念していたのだ。
だがここに来て状況が少し向こう側に傾いた。さっきの謎の手の妨害でランカに逃げられてしまい、おまけにシンが追い詰めた狐の人外まで逃がそうとしている。

(さしあたり、あの子の手足の感覚をなくせばいいかな)

とりあえずの見当をつけたパニ・シーは、疲労を圧して狐を動かしているランカに能力を使おうとして、

「う、わっ!?」

突然響いたシンの声に、思わずそちらを振り向いた。

749スゴロク:2011/08/15(月) 23:15:19
「な、何だ……見えない!?」

そのシンは、突然視界から一切のオーラが消えた事に戸惑っていた。瞬間移動したにしてもこれはあり得ない。視界の端にあった妹のオーラまでもが、忽然と消え失せたのである。
しかし、当惑しているのはエトレクも同じだった。先ほどまでシンに対して使っていたはずの「絶対選択」が、唐突に解除されてしまったのだ。

「な、何でこんな時に……!!」



「そこまでにしてもらおう。俺の家でこれ以上、勝手は許さん」



玄関から突如声が響く。重厚なバリトンに見合わない、20代としか見えない男が、玄関口で内部を見据えている。
隣に伴うは、黒いジャケットを着た「北」の男。

「アースセイバー、水波 ゲンブだ。お前達、大人しくしてもらおうか」

その隣で、口を真一文字に結び、「異能殺し」―――白波 シドウが、仁王立ちしていた。



(……ここまで、か)

撤退すべきだ。不本意ながら、シンはそれを決めた。人外を成敗して回る中で噂は聞いていた。
全ての能力者の天敵。視界に入る能力者から特殊能力を奪う力。
元々彼とパニ・シーは二人でそれぞれ行動しており、今まで戦った人外は大体一人か、多くて三人。ここまでの大人数をまともに相手取るには、さすがに不利過ぎた。ましてや、作戦の根幹に在る能力が使えなくては。
パニ・シーの能力ならシドウの力も無効化出来るのだが、その場合先手合戦になる。そして、今回はシドウに先手を打たれた。
こうなった以上、次の機会を待つしかない。ここまで追い込んで諦めるのはいささか以上に不本意だが、ここで動きを封じられては使命に差し障る。

(まあ、それに)

チャンスはまだある。この場に拘るよりも、一度退いて対策を立てるとしよう。

「『君』、ここは退くよ」
「わかった……」
「逃さん!!」

瞬時に反応したゲンブが床を蹴って襲い掛かる。気配だけで察したシンはそちらにナイフを投げつける。
さすがに当たりはしなかったが、ゲンブの足を一時止めることは出来た。
そして、その隙にパニ・シーがシドウの視界から外れる場所……つまり奥の扉の裏にシンを引っ張って滑り込み、白波邸内部の「光」を消す。

「うおっ!!」
「く、しまった!!」

突然の真っ暗闇に狼狽するシドウとゲンブ。視界が閉ざされたことで「スキルシール」の効果が消え、シンの視界が戻る。

(どうする)

すぐ近くに例の狐の人外のオーラが見えた。トドメを刺そうかとも思ったが、その間に視界から消える。
これ以上手を出すのはさすがに無理と判断したシンは、妹を伴って裏通りへ抜け、姿を消した。
去り際、

(ん?)

誰のものともつかない、「白いオーラ」を目の端に過ぎらせて。

750スゴロク:2011/08/15(月) 23:15:53
「っく、逃したか……」

裏通りにいた男は、ようやく出会った仇敵を逃したことに舌打ちしていた。
送ってもらう途中で案の定迷ってしまい、昔馴染みを探している内に「奴」を見つけ、襲い掛かったのだ。
しかし、そいつはその一撃のみを受けて逃げてしまい、もう一人いた少年の方は殴り飛ばされた先で何やらハッとした後、悔しげにこちらを一瞥してからどこかに行ってしまった。

「せっかくのチャンスだったんだが……っと、それより!!」

だが今は、目の前で倒れているこの少女を、恐らく中にいただろう家に連れて行くのが先決と見えた。



「おいおいおい、何だこりゃあ!?」

パニ・シーが去ってしばらく後。ようやく光を取り戻した白波邸に、裏通りの方からコートの男が入って来た。
その腕には、傷つきボロボロになったマナを抱えている。

「だ、誰だあんたは」

身を起こしたスザクが問う。男は、何を隠すでもなく答えた。

「天河探偵事務所の霧波 流也だ。こりゃ一体どういう事態だ?」
「何? そうか、星さんの所の方向音痴の助手というのはお前か」
「……姐さんは俺をどういう風に説明してるんだよ」

ゲンブの言葉に不機嫌な顔をする流也。ちなみに星はそのまま説明していた。

「それよか、この子がやばいぜ。見ての通りボロボロだ」

言って、流也は腕の中のマナを示す。

「! ま、マナ!!」
「こ、これは……」

一方、シドウの方も切羽詰まっていた。

「ブランカ、無事か!!」
「お、お父さん……アズールが、アズールが……」

半泣きのランカは、瀕死で狐の姿に戻ったアズールを抱えていた。全身に傷を負い、浅い息をしていた。このままでは命が危ない。

「いかん、このままでは……だが、エダの所に連れていくにも時間が足りん……」


『なら、私に任せてくれない?』


突然頭の中に響いた声。気がつくと、部屋の中に女性が立っていた。白ずくめの服装に、桜色の髪。

「っと、サクヤ姉さん? 何でここに」
『何でも何も、坊やを送って来たからに決まってるでしょ。それより』

女性―――サクヤは、瀕死のアズールと傷ついたマナに手をかざす。
と、その手にほのかな光が灯る。それが二人を照らすと、傷が少しずつ、少しずつ治っていくのが目に見えてわかった。

『……自己治癒力を高めておいたわ。私に出来るのはこれくらいね。しばらく大人しくしてれば、元気になるわよ』

状況を理解しかねる一同をよそに、サクヤは軽く手を振るとすーっ、と姿を薄れさせて消えてしまった。

「な、何だったんだ、あの人は……」
「……まあ、それよりも」

呆然とするスザクの隣で、エトレクが立ちあがって言う。

「まず、優先してすべきことがある哉」

意味を掴みかねる一同に、「怪人赤マント」は仮面の下から言う。


「……とりあえず、片付けた方がよくない哉」



……なお。
一同が片付けと掃除を終わらせ、もろもろの情報を交換したのは、日が暮れて逢魔ヶ時を迎えてからのからのことだったそうな。


白波邸の邂逅

(正義の味方と人外)
(異能殺しと異能の盾)
(東・西・南・北)
(一同に会したは、果たして偶然か)



同時刻、寺。

「あれ、琴音さん? 何してるんですか、こんなところで座り込んで」
「あぁ、春美ちゃん。ちょっと無理しちゃったから、疲れただけよ」



というわけで、かなり強引ですが白波邸の大騒ぎでした。
お借りしたのは大黒屋さん「シン・シー」「パニ・シー」「エトレク」「秋山 春美」名前のみ「アカノミ」「天河 星」、(六x・)「アズ―ル」、ヨシダサン名前のみ「エダ タカシ」をお借りしました。自キャラは「ブランカ・白波」「夜波 マナ」「火波 スザク」「白波 シドウ」「霧波 流也」「水波ゲンブ」「サクヤ」「夜波 詠人」「火波 琴音」「ミナ」です。

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最終更新:2012年02月29日 13:46