企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.2
- 1:鶯色:2011/04/04(月)
16:19:48
- ここはキャラ企画つれっどにて投稿されたキャラクターを小説化しよう!というスレです
•本編とはかかわりがなく、あくまでもアナザーストーリーという扱いです
•時系列は本編(2002年のGW4月28日~)よりも前の話が主になります
•本編キャラの名前が名字無しカタカナの為、小説ではそれに合わせた呼び方が多いです
•人様のキャラクターを借りる時は、設定を良く見て矛盾が無いように敬意を持って扱いましょう
詳しい説明などは下のURLをご覧ください
•ナイアナ企画@wiki―「はじめに:企画キャラとは」
http://www22.atwiki.jp/naianakikaku/pages/27.html
前スレ
企画されたキャラを小説化してみませんか?
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1208562457/
- 851
:十字メシア:2011/08/30(火) 22:23:01
- 「あー! 胡桃のヤツ、一本余計に食いやがった!」
「いーもん! あげない!」
「そういうの、『はくじょーもの』って言うよね」
「そうやそうや! せやからあんた、もう団子なし!!」
ギャーギャー!
「もう、団子以外にも和菓子あるから喧嘩したらあかんて。眼眼子も、子供相手に大人気ないんとちゃうの?」
「子供言うけどそれ見た目だけやん!」
「いやそうなんやけど」
「お前ら、もうその辺にしとけよ」
「そうですよ」
「五月蝿いわっ! あんたらは引っ込んでて!! 胡桃! そんなんやったら金縛りに遭わしたんで!」
「やってやれ眼眼子!」
バンダナを外し、第三の目を顕にする眼眼子。
咲埜子、河童の川里、幽霊の宮重爽が慌て止めに入る。
「おやめになって下さい、眼眼子さん!」
「お前らも煽んなよ!」
「お願いやから喧嘩せんといてー!」
その時。
チリーン…
「鈴の…音?」
「…あっ、鈴彦さん!」
「全く幼稚な…しばらく寝てなさい」
と、鈴の首輪を手にする鈴彦。
その瞬間、喧嘩をしていた眼眼子らの顔がさっと青ざめた。
逃げ出し始める、が。
リィイーーン!!
『あばばばばべべぎげびあああああ!!??!』
けたたましい鈴の音が鳴り響いたと思えば、眼眼子らが奇妙な悲鳴を上げてその場に倒れ伏せた。
どうやら気絶したらしい。
「やっぱり鈴彦の『それ』はつえーな」
「ありがとうなあ、鈴彦はん」
「いえ」
因みに、この4人が目を覚ますのは今から1時間後の事である。
- 852
:十字メシア:2011/08/30(火) 22:54:48
- モエギとヤマブキの話。
『モエギ・ヤマブキ探偵隊』
某日、天河探偵所。
玩具がばら撒かれた一室で、2人の少女がすーすーと寝息を立てて眠っていた。
とその時、萌葱色の頭が動く。
「…ん」
寝ぼけ眼をこすりつつ、天河探偵所の事務員、モエギが起き上がる。
「………」
まだ眠気が覚めてないのか、今にもひっくり返そうに体がふらふらしている。
頬をぺちぺちと叩いて、何とか眠気に意識を持ってかれない様にするモエギ。
「ふあー…」
1つ欠伸をした後、近くにいる小さな少女の肩を揺する。
「ヤマブキ…ヤマブキ、起きろ」
「ふにゃー…?」
モエギに起こされ、少女―――ヤマブキがが山吹色の目を覚ます。
「…おはよー。チカ姉ちゃん」
「あたいら、遊び疲れて寝ちゃったみたいだな」
立ち上がって自室から出るモエギ。
そこで彼女はある事に気付く。
「…あれ?」
「どしたの、チカ姉ちゃん」
「皆いない」
「え?」
辺りを見回すヤマブキ。
確かにモエギの言う通り、星や月光はおろか、クランケやミサキ、果てには流也もいない。
「どこ行ったんだろー」
「…ん? テーブルに手紙があるな」
手紙の内容を見るモエギ。
そこにはこう書いてあった。
『流也がいつまで経っても帰って来ないから、皆で探しに行って来る。飯は適当に食べとけ。 星より』
「「………」」
呆れて何も言えない2人。
「もういい。突っ込むの疲れたし…飯食うか」
「うん」
キッチンをあさるモエギ。
「…カップうどん発見、ちょうど2つあるわ」
「食べよ食べよー」
「ん」
湯を沸かし、カップうどんにお湯を注ぐ。
3分経つのを待つ3人。
「…暇だな」
「だねー」
「そういや、昨日のホラー映画、まあまあ面白かったな」
「ちょっと怖かったけどねー」
「ヘルパーはちょっとどころじゃ無かったみたいだけどな…」
クランケが真っ白になっていたのを思い出すモエギ。
自分とヤマブキも笑うぐらいの3流ものでも駄目なのか、あいつは―――そう思わざるを得れずにいたモエギであった。
「おっ、3分経ったか」
「じゃあいただきまーす!」
- 853
:十字メシア:2011/08/30(火) 22:55:58
- 「ごちそうさまー!」
「とりあえず腹はいっぱいになったな…しかしあいつら、いつ帰って来るんだろ」
「流兄ちゃんが見つかったら!」
「それは分かってるよ。問題なのは、霧波が見つかるまでどれぐらいかかるのかって事だ」
「むうー」
暇をもて余す2人。
時間は刻々と流れていく。
すると、モエギが思い出した様に言った。
「なあヤマブキ、今何時だ?」
「6時前ー」
「お前、この噂知ってる?」
「どんなー?」
「このいかせのごれには、廃墟になった病院があるんだよ」
「それで?」
「なんでも、そこに幽霊が出るらしいんだって」
「ゆ、幽霊って…お化けだよね?」
「そう」
「こ、怖いなあ…」
身震いするヤマブキ。
それを宥める様にモエギが言う。
「大丈夫、あたいがついてるから。んじゃ行くぞ」
「えっ? どこに?」
「どこにって、病院に決まってるだろ」
「何で? ヤマブキ、別に風邪ひいてないよ」
「そっちの病院じゃないよ。廃墟の病院だよ」
「……え?」
間の抜けた声を出すヤマブキ。
「暇だし、どうせまだ帰って来ないだろ」
「い、嫌だあ! ホラー映画より怖いじゃん!! キ、キービィやろう、キービィ!」
「さっきやったろ。それにゲームは1日2時間までだ」
「じゃ、じゃあ剣玉教えて!」
「たまには自分だけでやらないと、上達しないぞ」
「えーと、じゃあ……えと…」
「よし、行こう」
「いーやーだー!」
ソファーにしがみつくヤマブキ。
モエギは何とかひっぺがそうとする。
「あたいがついてるから大丈夫だって!」
「やだやだやだー! チカ姉ちゃんだけで行けばいいじゃん!」
「1人で行くのはつまんねーもん」
「ええー!!」
「大丈夫! いざとなったらあたいが守ってやる!」
「…ホントに?」
「ああ」
「や…約束だよ!」
「んじゃ行くぞ」
- 854
:十字メシア:2011/08/30(火) 22:58:00
- 「よし、着いたぞ」
「こ、怖い…」
廃墟の病院に着いた2人。
窓ガラスが割れ、壁にシミやコケがついているその外見は、いかにも廃墟の様だ。
「やっぱ薄気味悪いなあ…入るぞ」
「うん…」
怪しい雰囲気に怯みつつも、病院の中へ足を踏み入れる2人。
すると突然―――。
バターン!
「わぁあああ!!?」
「落ち着けヤマブキ」
「だだだだって、ド、ド、ドアが!」
「勝手に閉まっただけだろ」
「勝手になんだよ!?」
「そんなベタな展開にわめいてたら、この後心臓もたねーぞ」
「うう…」
奥へ進む2人。
「病院っていうより診療所に似た造りだな」
「何で分かるの?」
「まず病院は受付の場所が診療所より広い。部屋だってもっと多いだろ?」
「そ、そうなの?」
「そーだよ。多分、大病院では無いんだろうな」
その時。
『ぅえーん、ぅえーん…』
「……今の、何?」
「赤ん坊の泣き声だな」
「…チカ姉ちゃん、何でそんなに冷静なの?」
「だって、ただの泣き声じゃん。それにあたい、一回『死んだ』からな。ちょっとの事じゃあ驚かないよ」
「そ、そうなんだ…」
「お前だって、ホントは存在しない筈なんだし、そんなの幽霊みたいなモンじゃん」
「ヤマブキ生きてるよ! 幽霊じゃないもん!」
「はいはい。ほら行くぞ」
奇妙な声を前に呑気な会話をしつつ、再び歩き出す2人。
『ぅえーん…』
「ちちち、近いよぉ…」
「お、こっからだな」
「あ、開けちゃうn」
「ほいっ」
「開けちゃダメだってーーーー!!!」
だが中には誰もいない。
へなへなとへたりこむヤマブキ。
「…幽霊の噂はホントかもな」
「やっぱり帰ろうよー!」
「あたいがついてるから大丈夫だよ。行こう」
「うう~」
- 855
:十字メシア:2011/08/30(火) 22:59:37
- 「…結構奥に来たな」
「もうやだあ…」
「えーとここは…霊安室か?」
錆びかけているドアを開けるモエギ。
中に足を踏み入れる。
「中は普通だな」
「……チカ姉ちゃん」
「どした?」
「後ろ…ドアの外に骨格標本が、あるけど」
「ん? あるな……え、骨格標本?」
刹那。
ガチャッ
「!?」
「きゃぁあああああああ!!!」
「う、動きやがった! マジか!!」
ガチャ…ガチャ…
「うわぁあああ!! 怖いよチカ姉ちゃーん!!」
「下がってろヤマブキ!」
突如、モエギの髪が生き物の様に動き、剣と化した。
モエギは剣の髪を振り回し、動く骨格標本をバラバラにする。
「よし、もう大丈夫だ」
「よ、良かっ…た…」
「? ヤマブキ?」
「チ、チ、チカ姉ちゃん…あそこ…」
「…!?」
モエギがヤマブキが指差した方を見ると、そこには黒い影や壁から伸びた白い手が。
「うわぁあ!」
「怖い! 怖いよーっ!!」
デテイッテ…オネガイ…
どこからかそんな声が聞こえたが、今の2人にはただ恐怖に打ちのめされるばかりだった。
「ひい…」
流石のモエギも腰を抜かしてしまっている。
ヤマブキも泣き叫ぶ。
「お星様! お月様! 助けてえ!!」
「ヘルパー…は無理か…ミサキ…霧波…チクショウ!」
モエギはふと、ヤマブキに視線を向けた。
「怖いよ…怖いよお! チカ姉ちゃん…!」
「!」
―――そうだ。あたい言ったじゃねえか! ヤマブキを守るって…そう約束しただろ! なのにたかが幽霊なんかにビビってんじゃねーよ!!
勇気を振り絞り、再び髪を剣に変えるモエギ。
その目には怯えた色はどこにも無かった。
「かかって来やがれ幽霊ヤロー! あたいは怖くなんかねーぞ!!」
「チカ…姉ちゃん…」
「ヤマブキはあたいの大事な妹みたいな奴だ! 手ェ出すってんならこの部屋もろとも切り刻んでや―――」
「きゃああああ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいー!」
「へっ?」
「ふえ?」
急に聞こえてきた少女の様な声に、2人は素っ頓狂な声を出す。
すると、霊安室に白いブラウスを着た、墨色の髪を持つ少女が現れた―――が、下半身が無く、上半身だけが浮いている。
- 856
:十字メシア:2011/08/30(火) 23:02:16
- 「ひゃあ!」
「…誰だお前」
「…怖く、無いんですか?」
「怖いもなにも、別にお前、悪い幽霊には見えねーし。つかあたい、啖呵切ったから今は何か平気」
「そう…ですか」
「んで、お前誰?」
「わ、私は、百物語組第一三話のミナです」
「百物語組って…秋山の姪がまとめてる妖怪集団か?」
「知ってるんですか?」
驚きの声を上げるミナ。
「あたいらは天河探偵所の事務員…って言えば分かるか?」
「天河探偵所? もしやミサキさんの?」
「ああ」
「そうだったんですか…脅かしてごめんなさい」
「別にいいよ、追い出そうとしただけなんだろ? ヤマブキも許すよな?」
「う、うん…怖かったけど」
「ご、ごめんなさい…」
申し訳無さそうに言うミナ。
モエギはヤマブキの言動を窘めた。
「ヤマブキ、もう根にもつなよ」
「うん、ごめん…幽霊さん」
「いえ、私の方こそ…」
「よし。そろそろ帰るか…っと、ミナだっけか」
「はい?」
「ミサキらが聞いた話じゃあ、最近人間じゃねーのを狙う奴が、うろちょろしてるらしいな」
「はい…」
「いつここに来てもおかしくない。くれぐれも気を付けろよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあな。行くぞ、ヤマブキ」
「あ、待ってチカ姉ちゃん!」
ヤマブキが、スカートのポケットから何かを取り出す。
千代紙で出来た花だ。
「これあげる!」
「え…いいんですか?」
「うん!」
「…ありがとうございます。大事にしますね」
淡い笑顔を浮かべるミナ。
ヤマブキの表情も明るい。
そんなやり取りを見て笑いつつ、モエギはヤマブキを促した。
「行くぞ」
「あ、うん! 幽霊さんばいばーい!」
「はい、さようなら」
ヤマブキの様子を見たモエギは、こう呟けずにはいられなかった。
「あんなにビビってたのになー」
「? チカ姉ちゃん何か言った?」
「別に」
- 857
:十字メシア:2011/08/30(火) 23:05:37
- 「ただい…ウェ!?」
「遅い2人共! どこ行ってた!!」
「お星様! それにお月様と怪盗さんに、美人さんに流兄ちゃんも!」
「…お前ら、いつ帰って…」
「30分前にはもう帰ってたよ!」
「30分前って…」
―――あたいらが出掛けた時間とほぼ一緒じゃねーか…
「心配したんじゃぞ? 特に星」
「え?」
「ばっ…言うなよ月光!」
顔を赤らめる星。
「「……」」
「…ったく」
項垂れるモエギとヤマブキに歩み寄る星。
そして2人に目線に合わせて座ると、2人を抱き寄せた。
「あんま心配かけさすなっての」
「…ワリぃ、天河」
「ごめんなさい、お星様…」
「…お腹空いてる?」
「まあ…まあ」
「じゃあ、飯にするか!」
「…ああ」
「うん!」
星の明るい笑顔と声を聞き、2人もまた笑った。
~後日談~
「モエギ、ヤマブキ。ミナと会ったの?」
「な、何で知ってんだ?」
「ミナから聞いたのよ。あの病院に行ったの?」
「…ごめん」
「ごめんなさい」
「もう…あまり勝手な事しないでよ?」
「「はーい…」」
「あ、それとヤマブキ」
「ん?」
「ミナがありがとうって言ってたけど…何したの?」
「ああ、そいつに千代紙で作った花をあげたんだよ」
「あら、そうなの? 優しいわね、ヤマブキ」
「えへへ…」
お借りしたキャラは、大黒屋さんから「天河 星」「秋山 月光」「秋山 春美」(名前なし)「クランケ・ヘルパー」(名前のみ)「霧波
流也」(名前のみ)「ミサキ」、スゴロクさんから「ミナ」でした!
- 858
:スゴロク:2011/08/30(火) 23:21:28
- >十字メシアさん
おおっ、ミナを使ってくれてありがとうございます! 「白波邸の邂逅」からまだあそこにいたんですねぇ。
使い方はその通りです、感謝です。(^^)
- 859
:スゴロク:2011/08/31(水) 00:28:10
- 十字メシアさんの「モエギ・ヤマブキ探偵隊」の続きです。
ミナの話です。
「………」
廃病院の地下、霊安室。遺体のないその部屋に、白いブラウスの少女がいた。
上半身だけが現れており、下半身……具体的に言うとふとももの中ほどから下は闇に溶け込むように消えている。
ミナ。「百物語組」に属する怪異、その13番目。それが彼女を表現する言葉だ。
彼女は「恐れを映す鏡」。各地の「心霊スポット」と呼ばれる場所に己を移し、そこに踏み入った他者の心象を自分自身に投影し、それを実際の現象として現す。
「疑心は暗鬼を生ず」……疑い、恐れる心を持てば、何もない闇にも鬼がいるように思える。それをそのまま現した怪異。
―――の、はずだった。
彼女に限らず「百物語組」は、「主」たる少女・秋山 春美が「実際にあった話」として語ることで現世に姿を現す。しかしミナの場合、語っている最中に何らかのアクシデントがあったらしく、半分ほどしか語られていない。そのため彼女の存在は、キリなどと比べて多分に概念的なものになってしまい、振るう力もまた半端。今の彼女は、意志を持った怪奇現象そのものでしかない。制御などほとんど効かず、また感情や心象の投影も不可能。唯一出来るのは恐怖の投影だけであり、おまけに自分がそれに共鳴してしまうという副作用つき。それに反応した防衛意識によって、周りで怪奇現象が頻発。少なからず被害者も出てしまっている。
「………」
だから彼女は、極力人を避けて過ごした。けれど、彼女が自由意志で動けるのは「心霊スポット」となっている場所とその周辺、あるいは春美のいる寺のみ。だから、逃げ回った挙句ミナはこの病院を選んだ。
この病院が廃棄された理由は経営トラブルが原因なのだが、関わった人脈が元で表ざたにはなっていない。そのためか憶測が憶測を呼び、今やいかせのごれどころか全国でも最恐クラスの心霊スポットとして名高く、「踏み入ってどうなるかはわからない。なぜなら、そこに踏み入った者は誰ひとり生きて帰っていないからだ」というありがたくない(ミナにとってはある意味ありがたい)噂までついて来ている。
そんな場所なら、迂闊に踏み入る人はいないだろう。そう考え、ミナは病院の奥、怪異である自分に親和性の高い霊安室に籠った。手術室とどちらにするか迷ったが、器具が置きっぱなしになっている上に出血の痕が残っており、怖すぎたためやめた(自分も怪異なのに、である)。
ただこんな場所だと、噂を聞いてなおやって来る人間がいた場合、その「噂」が現象として実体化したら死人が出てしまう。唯一の懸案はそれだったが、幸い何事もなく過ぎた。逢魔ヶ時は極力眠って過ごし、午前二時から十時頃にかけて動く。丑三つ時は「疑心暗鬼」にはある意味最適の時間帯なのだが、現状のミナにとっては、自分の力が影響を及ぼさない時間帯として息を抜ける数少ない時間だ。
- 860
:スゴロク:2011/08/31(水) 00:29:13
- そんな彼女に、この間訪問者があった。しかも二度。
一度目は、同じ「百物語組」の一人、「怪人赤マント」ことエトレク。
春美に挨拶するために寺に出向き、急ぎ足で病院を目指していたミナに話しかけ、「今から言う場所に『繋いでおいて』くれ」と言われた。戻ってからわけもわからずそうすると、女の子が襲われているのが見えた。「引きずり込む白い手」で捕まえていた者をこちらに引き込もうとしたが、振りほどかれて失敗。ただ、あの後どうにか収拾されたと聞いて、ほっと一安心した。
二度目は、つい昨日訪れた双子(だと思う)の少女。
妹の方が酷く怖がっていたため、それを思い切り投影して怪奇現象を久々に連発してしまった。幸いな事に姉の方が途中で立ち直ってくれたため、こちらのパニックもそれで静まった。結果として、最悪の事態にはならずに済んだ。
帰り際に「ヤマブキ」と呼ばれていた子がくれた、千代紙で折られた花。
春美や仲間以外で、初めて誰かに優しくされた証の、大切なものだ。
「………」
思い出すと、自然に笑みがこぼれた。その心の動きに対応するかのように、廃病院の中が心なしか明るくなったように思えた。感覚の鋭い人が、今ここにいたらわかったはずだ。
「ここには、何もなく、誰もいない」と。
世間で噂されているような幽霊や怨霊は、ここにはいない。ここは、ただの古ぼけた建物。それがわかったはずだ。
「よかった……」
なぜそう言ったのか、本人にもわからない。けれど、何となく、そう思った。
と、だ。
「!?」
入口の方から誰かの気配がした。馬鹿な。そんなはずはない。
例の双子が帰った後、誰かがうっかり立ち入らないように入口は念入りに閉めたはずだ。
なのに、誰かがこちらに近づいて来る、その気配だけがある。足音も、風を切る音もなく、ただ気配だけが近づいて来る。それを現す言葉を、ミナは一つだけ知っていた。
「ゆ、幽霊……!?」
途端に恐怖が込み上げて来た。……くどいようだが、ミナ自身も怪異である。
霊安室の扉は開いたままだが、閉めに行く事が出来なかった。もし、その「誰か」と鉢合わせたら、正気を保っている自信がない。それくらい、今彼女は怯えていた。
気配はどんどん近づいて来て、霊安室の直前まで到達している。
「――――ッ!!」
恐怖に耐えきれず、叫びが迸ろうとした所に、
「あ、やっぱりここにいたのね」
聞きなれた声が届き、恐怖が霧散してなくなった。
- 861
:スゴロク:2011/08/31(水) 00:30:43
- 「……琴音、さん?」
「ええ、私よ」
入口からひょこっと顔をのぞかせたのは、しばらく前から寺にいる精神体の女性。
山吹色の髪と、二児の母とは思えぬ若い、というか幼い身体が特徴の彼女は、「火波 琴音」。ミナ達「百物語組」や春美とも顔なじみの、かなりフリーダムな女性だ。
確かに彼女であれば、扉が閉まっていようが壁が立ちはだかろうが関係ない。
「よ、よかったぁ……幽霊かと思っちゃいました」
「や、幽霊って言ったら私も似たようなものだけどね……というか、何度も言ったけど、ミナちゃんだって妖怪っていうか怪異でしょ?」
「それでも怖いものは怖いんですーっ。……ところで、琴音さんはどうしてここに?」
「いや、それがね……」
「ちょっと出かけたら、戻る道がわからなくなっちゃって」
がくっ、とコケた。
「ま、迷子になっちゃったんですか」
「有体に言えばそう言うこと。というわけでミナちゃん、お寺まで送ってくれない?」
「は、はあ……いいですよ。手を繋いでください」
ミナの力で、現状制御が出来るのが、基本となる「心霊スポットへの転移」だ。これには寺が含まれているため、琴音を連れてそこまで跳んでしまおう、ということだ。人外限定だが誰かを連れて行く事も出来る。
「では、行きます」
「ん、よろしく」
言うが早いか視界が歪み、戻った時そこは、春美や「百物語組」の仲間がいる寺だった。
が、今日はお客が一人。
「あら?」
「エトレクさん……と、どなたでしょうか?」
入口から入って来たばかりの二人組……エトレクと、それに伴われた墨色の髪の女性。
活発そうな服装をした彼女は、なぜか琴音とミナがいる方をじーっと見ている。
(見える、んでしょうか?)
(……かも知れないわね)
囁き合う二人は、「彼女」が誰か、まだ知らない。
十三番目が病院にいる訳
(傷つけるのも、傷つくのも嫌だった)
(だから、誰も来ない場所に逃げ込んだ)
(少なくとも、今まではそれでよかった)
(そんな彼女が取り持った、一つの邂逅)
名前のみ十字メシアさん「ヤマブキ」「モエギ」、大黒屋さん「キリ」「エトレク」「秋山 春美」をお借りしました。微妙に「落着か、急転か」と絡んでます。
- 862
:大黒屋:2011/08/31(水) 19:31:26
- 何気ない日常…なのかこれは;
本家様より「ケイイチ」をお借りしました。
暴走する日常会話
「…なー、闊歩。」
「ん?どうした、由衣?」
「ここって、一応公道じゃないよな?」
「公道もなにも、獣道だけど。」
「…だからってさ。」
「この速度で走るの止めてくれねぇか?;」
人気の少ない山道を、一台のスクーターが行く。
ハンドルを握るのは闊歩。後部に座るのは由衣。
このスタイルも大阪にいた時から変わらない。
そして、道なき道を走るこの「スピード」も。
「今どれくらい出てるんだよ。」
「…150よりでてるんじゃない?」
「スクーターの早さじゃねぇ!;人が出てきたらふっとばすだろ!」
「ひょっとしたら気付かないかもしれない。」
「…お前、一応不良止めたんだよな?;」
普段学校では読書をして過ごし、クラスの中では地味な部類に入る闊歩。
しかし、ひとたびハンドルを握ればスピード狂と化す。
流石に現在は公道は速度規制通りに走っているが、不良時代はこうはいかなかった。
「今は大分収まった方だと思うし、私も慣れたからいいけどよ。いや、良くはないか。」
「あの時は本当に悪さばっかりだったよねー。」
「…あのな、闊歩。今も十分悪いから。」
「ところで、由衣。」
ハンドルを切りながら闊歩は話題を変えた。
「あれから『あの人たち』とは会ってないの?」
「…ああ。でも、完全にかかわってないわけじゃない。」
「あいつら、ホウオウグループって言うらしいんだ。」
「ああ、このまえケイイチ君、だっけ?が言ってたあの?」
「『おかしな人』の存在を一応知ってるんだ。お前には話しておく。」
「…それで、一応由衣はその組織と対立していると。」
「悪いな。話せてもこの件は闊歩には任せきれないんだ。」
「いいよ。でも頼むから死なないでくれよ。」
「…わかってるって。」
巻き込むつもりはないが、もしかすると闊歩も巻き込まれるかもしれない。
(喧嘩強いのは分かってるんだけど…。)
また私はこいつの保護者に成り下がるかもしれないと、由衣はため息を吐いた。
追記
「…おい、公道でてねぇか?」
「いいよ、誰もいないから。」
「よくねぇよ!!;」
- 863
:十字メシア:2011/09/01(木) 21:47:03
- サイコロさん許可の下、今後の展開の意味を含めた話を書かせていただきました。
そしてオジキさん申し訳ありませんでしたァアアアア!!!
…でもこれぐらいの天罰はあるとおm(ry
鬼英会ビル。
先日このビルで行われていた、出雲寺組と鬼英会の抗争。
鬼英会敗北の結果に終わったのち、突如謎のライダー集団が現れた。
これを期に周囲から人気は消え失せ、表では全て「大勢の人が死んだ」と言われているだけである。
しかしその凄まじい抗争の陰では、ある一人の人間が暗躍していた。
汰狩省吾らと出雲寺組が去ったエントランスでは、何着かの黒いライダースーツが脱ぎ捨てられており、黒い影の様な生き物が「ゴキッ…」「グシュッ…」と、不気味な音を立てて何かを食している。
そこへ一人の女性が入ってきた。
薄いピンクのワンレングス、セピア色の細く切れ長の目、そして―――「H」と「O」を合わせたエンブレムをあしらったバックル付きベルト。
「さて…貴方達、ちゃんと残さず食べた?」
女性の問いに、生き物は独特の鳴き声で返事する。
人間には理解できないであろうその答えを聞いて、女性はにっこりと、しかし僅かに歪ませて笑った。
「偉いわね。やっぱり貴方達は可愛くて賢いわ…BDは後で回収しておくから、私の”中”に戻りなさい」
すると生き物は女性の元へ向かったかと思うと、女性の皮膚に裂け口を作って内部に入っていく。
しかも裂け口は消え失せていき、女性の体に異常は見当たらず、普通の体格と外見を保っていた。
全ての生き物をその身の内に収容した女性は、ある部屋へと向かう。
「…あら、やっぱりここにいたのね」
向かった先は社長室。
中に入った女性は、机の下で気絶している鬼英会の最高顧問、オジキを見つける。
「………」
ガスッ
「ぐっ!?」
「何寝てるのかしら?」
「! お前は…ッ!」
「久しぶりね、最高顧問さん。ところでこの失態はどういう事?」
「失態?」
「あら知らないの? 鬼英会は敗北したのよ」
「な…んだ…と…」
目を見開き驚愕するオジキ。
女性は彼を見下す様に溜め息をついた。
「言ったわよね? 必ず出雲寺組を潰せって」
「た、頼む! もう一度、もう一度チャンスをくれ!」
「黙れ、蛇風情が」
一喝する女性。
「今回の手段は一度で成功しないと意味がないのよ。負けたのなら、何度出雲寺組に牙を向けても無駄」
「だ、だが…」
「…そんなに私が欲しいのかしら?」
「い、言ったのはお前だろう!? 鬼英会の総長になれば愛人になってくれると!」
「愛人? 貴方みたいな醜悪なんて嫌に決まってるじゃない。あんなの口約束にしか過ぎないわ」
「何だと!?」
「これ以上、何を言い訳しても無駄よ。貴方はもう不要品なんだから」
「不要…品…」
口をぱくぱくさせるオジキ。
それを見た女性は、含み笑いして言った。
「でももう一つだけ、そんな貴方でも役に立てれる事があるわ」
「ほ、本当か?」
「ええ」
思ってもみなかった女性の言葉に、オジキは喜びの表情を浮かばせる。
だがそれは一瞬にして凍りついた。
「この子の食事(エサ)になってちょうだい」
- 864
:大黒屋:2011/09/01(木) 21:47:49
- スゴロクさんより「白波 アカネ」、名前のみ「火波 琴音」「水波 ゲンブ」「ブランカ・白波」「一条寺 正人」をお借りしました。
こんなのでいいのかなぁ…;
「えっ、居らっしゃらない?;」
アカネが目覚めた翌日。エトレクは寺院にアカネを連れて来ていた。
目的はもちろん「山吹色の髪の女の子」だ。
女の「子」かどうかは甚だ疑問だったが、思いあたるのは一人しかおらず、彼女に会うために寄り道したのだが。
「今朝方から出かけてるみたいでね。多分入れ違いだと思うよ。」
「あ、こんな所で俺の運の無さが影響してくるんだな…;」
エトレクはがっくりと膝を落とした。
「と、とりあえず琴音さんには伝えておくよ。『アルマ』さんのこともゲンブさんに訊いてみるね。」
「すまねぇ、主。このところずっと頼りっぱなしだな…。」
「いいんだよ。頼られてこその主じゃないw」
外で待っていたアカネと合流し、エトレクは簡潔に次第を伝えた。
「…というわけで、彼女には直接ランカちゃんの家に赴いてもらうことにしました;」
「ありがとう。じゃあ、先に向かいましょうか。」
「そうですね。」
「それにしても、もうあれから7年経つのね。」
「俺からしてみれば「まだ」でしたよ。最初10年くらい経っていたかと思いましたから。」
時間の概念が無いから当然の事ではある。
「とはいえ、アカネさんもよく同じ部屋の中7年も耐えきりましたね…。」
「耐えるも何も、何もできないなら仕方ないじゃない。」
「…一度お会いした時も思いましたが、ずいぶんとさばさばした方ですよね、アカネさんって。」
「そうかしら?普通と思うわよ?」
いいや、少なくとも俺の知ってる中では一番さっぱりしているぞ、とエトレクは思う。
「…ランカを、守ってくれたそうね。」
唐突にそう言われ、エトレクは驚いて顔を上げた。
「えっ?」
「前に一度、黒い人たちに襲われたじゃない。あの時よ。」
「いや、あの時他の人のほうが頑張ってた、というか俺何にもやってませんし!」
「いいのよ。あとでその人たちにもお礼言おうかしら。」
「…ほんと、俺なにもできませんから…。」
エトレクはシルクハットのつばをつかみ、深く被りこんだ。
その姿を、アカネは黙って見ていた。
変な空気が二人の間に流れる。
その沈黙を破ったのは、暫く歩いてからだった。
赤の沈黙
「…ありました。あれが、ランカちゃんの家です。」
- 865
:十字メシア:2011/09/01(木) 21:47:52
- 女性の背中から、先程の黒い影の様な生き物が姿を現した。
オジキを視界に留めた生き物の口から涎が滴り、汚れた水溜まりを作る。
「ひ…ひ…」
「良かったわね。こんな人間だけど、欲の塊だから魂のエネルギーも大きいわ」
「や…やめろぉおお!!」
逆上したオジキは懐から銃を取り出し、女性に向かって銃撃しようとした。
だが―――。
スパン…ゴトッ
「…!?」
「残念ね。私の体内には武器も収納されているのよ」
綺麗に分断された銃を見て驚愕するオジキ。
その原因であるショートソードの刃が、女性の右手の平に裂け口を作って突き出していた。
「最期の足掻きはもういいのかしら?」
「れ、冷血メスブタめ…ッ!」
「冷血? ええそうよ。それ以外の感情は非合理的すぎて嫌いだわ」
オジキの元に歩み寄る女性。
オジキはただ震えるしかなかった。
「私は『クルデーレ』…即ち『冷血』。不要品を憐れむ優しさなんて、これっぽっちもないわ。ではサヨウナラ」
「ぎゃあああぁぁあぁああぁぁああ!!!!」
辺りに悲鳴と肉が裂かれる音、血飛沫の音に骨を砕く音が響いた。
女性―――クルデーレはその様を見て、歪んだせせら笑いをする。
「跡形もなく飲み込むのよ? 貴方の強さになるから」
そう言うと、クルデーレは一つ溜め息をついた。
「でも失敗したとなると、裏世界から表世界を容易に支配できない…こうなっては、私の”計画”が実行段階に移せないわね」
背後で生き物が肉片や骨や血を全て飲み込んだ音を聞くと、クルデーレは振り返る。
「食べ終わったの? …そう、では戻りなさい」
生き物はクルデーレの指示に従って彼女の体内に戻った。
「まあいいわ、まだ時間はあるもの。次の手段を考えなくては」
己の計画を達成する為、『冷血』は今宵も影に蠢く―――。
喰われた欲望、暗躍する冷血
「…おわっ!」
ドンッ
「いたた…す、すまな―――」
「っ…!」
「あ、おい!?」
「どうしましたの? 姉様」
「いや、さっきぶつかった奴に謝ろうとしたら、急に走り出して…。でもあの顔…どっかで見たような気がするんだよな…」
「……僕の『闇』が…疼く…痛い…怖い…嫌だ…」
お借りしたキャラは、名前は出ていませんが、スゴロクさんから「火波 スザク」「火波 アオイ」でした!
- 866
:スゴロク:2011/09/01(木) 23:31:12
- >大黒屋さん
そんな感じで結構です。では、こちらも。
「……行っちゃいましたね」
「気付かなかったのかしら……」
エトレクと女性が去った後、琴音とミナは顔を見合わせた。二人が出て来た所はちょうど入口から一方的に死角になる位置だったようで、向こうは二人に気付かなかった。
それとは別に、琴音には気になることがあった。
「……うーん」
「どうしたんですか?」
「あの人……どこかで見たような気がするのよね」
必死で思い出そうとしていると、
「あれっ、琴音さん!? 帰って来てたんですか?」
「? あら、春美ちゃん」
ミナ達の「主」たる少女が顔を覗かせた。
「んー、入れ違っちゃいましたね」
「さっきの人? 何かあったの?」
「実はですね……」
春美から事の次第を聞いた琴音は、「あっ!」と顔を上げた。
「な、何ですか?」
「そっか、思い出した……アカネちゃんだ、あの人」
「え、ご存じなんですか?」
「中学時代の同級生よ。卒業してからあんまり連絡してなかったけど……そっか」
旧友の複雑な事情に、それでも琴音は安堵する。そして、
「エトレクさんが探してるのがランカちゃんじゃないかと思って、ちょっと確かめに行っただけよ。アカネちゃんに伝えておいてくれる?」
「わかりました」
「……外から家を見るの、本当に久しぶり」
「そう、ですか……」
ずっと「部屋」にいたアカネにとっては、久方ぶりに外から見る我が家だった。まさか「よかったですね」とは言えず、エトレクは曖昧な答えを返すことしか出来ない。
(って、しまった)
さっき「あれがランカちゃんの家です」と言ったが、よくよく考えれば元々アカネはここに住んでいたのだ。知っていて当然である。
「…………」
玄関口に立ったアカネは、ドアの取っ手を握る事を少し躊躇っているように見られた。何度か差し出しては引っ込め、を繰り返した後、意を決したように強く握り、ゆっくりと扉を開ける。
かすかな金属音と共に扉が開き、かつてそこにいた人をもう一度、中へ誘う。
「――――」
7年の時を経ても変わらぬ風景―――椅子が微妙に新しいくらいか―――に知らず息をのみ、ややあって、その唇が言葉を紡ぐ。
「―――――ただいま」
- 867
:スゴロク:2011/09/01(木) 23:31:45
-
万一に備えてエトレクを玄関口に残し、アカネは慣れた調子で、しかし静かに2階に向かう。そこに、「二人」の娘がいるはずだ。一人はこの腹を痛めて生んだ、愛娘。もう一人はその娘が繋げた命。
自分の部屋の前を通り過ぎる時に一瞬足が止まったものの、隣にある娘の部屋の前に立ち、ノックをする。
だが、
「……あら?」
何度かノックしたのに、返事がない。人の気配はあるので、中にいるのは確実だが。
「……入るわよー?」
呟いてそーっとドアを開け、中を見る。すると、返事がなかった理由がわかった。
「あらら……」
ベッドの上で、二人の娘―――ランカとアズールが、寄り添いあって眠っていた。よっぽど疲れたのか、たまに身動きする以外はそのまま寝息を立てている。
「ん……お母さん……」
「……私の夢を見てるの? ……起きたら、オムライス作ってあげるわ」
「いいんですか? お邪魔しちゃって」
「無理に起こすのも何だし、今の時間だと何もすることがないしね。お礼の一環よ」
玄関先で待っていたエトレクに戻って来たアカネが告げた言葉は、「上がって行かない?」だった。
誘われるままに入り、リビングで机を挟んで向かい合う。
「とりあえず、ゆっくりしてて、お茶くらい御馳走するわよ」
「は、はあ、いただきます」
だが、言葉に反してアカネは動かない。にこにこ笑ったまま、エトレクを見ている。
「……?」
ある種のプレッシャーを感じつつ、エトレクは自分が何かまずいことでもやらかしたのか、と頭を巡らせる。
が、一向に答えが出ず、思わず頭を押さえようとして、
(あ)
気付いた。シルクハットを被ったままだった。確かに、他人の家に招かれて帽子を被ったままというのは少し失礼だ。
「し、失礼しました」
「いえいえ、気にしないで」
言葉とは裏腹に、エトレクが気付いて帽子を取ったのと同時に、アカネは台所に向かった。その様子を見て、「怪人赤マント」は密かに思う。
(そうか……ああやってランカちゃんを育てたんだな。何が悪いのか、何がいけないのか、自分で気づけるように)
出された緑茶の苦さを味わいつつ、密かにエトレクは感嘆した。と、
「?」
「あら」
隣の部屋から(どこか陰鬱な)音楽が流れて来た。電子音のようなこれは、携帯の着信だ。
「私の携帯ね、これ」
「持ってたんですか?」
「ええ。私がいなくなった後は、ランカが使ってたみたいだけど」
「そうなんですか……(にしても何で「呪い」?)」
ホラーソングが着うたになっていることに首を傾げるエトレクをよそに、携帯を取ったアカネは画面を確認する。通話ではなく、メールだった。内容は、
『ヴァイスに関する進展はなし。4時頃、一度家に戻る シドウ』
「……シドウさん、帰ってくるのね」
「え、あの人が?」
白波 シドウ……エトレクはついこの間会ったばかりの、ランカの父にしてアカネの夫。その眼で見た者の能力を文字通り「封じ込めて」しまう力の持ち主。一瞬で場を制圧したあの気迫は、未だに忘れようがない。
しかし、気迫というならこの人も負けてはいない。
「今は1時過ぎか……ちょうどいいわ。ランカを放って外ばっかりほっつき歩いてたわけ、キッチリ聞かせてもらうとしましょうか」
携帯を片手で閉じてそう言うアカネの後ろ姿は、何に対してなのか闘志に燃えていた。
帰還と波乱の予感
(娘が目覚めて)
(父が帰って来る)
(その時こそ、波乱の始まりだ)
(……俺は、どうすればいいの哉)
大黒屋さんより「秋山 春美」「エトレク」をお借りしました。
- 868
:スゴロク:2011/09/01(木) 23:33:00
- 追記。(六x・)さんから「アズール」をお借りしました。
忘れててすみません。
- 869
:スゴロク:2011/09/01(木) 23:51:08
- ミスを発見したのでフォローの短編を。
「……あ、琴音さん」
「はい?」
春美から事情を聞いていつもの場所に戻ろうとした琴音は、その春美から声をかけられて振り向いた。
「何かしら?」
「すみません、うっかりしてました。あの、ブランカさんのお宅に向かっていただけますか?」
「……向こうで待ち合わせってこと? あらっ、じゃあ急がないと」
ようやく事の次第を把握した琴音は、急ぎ足で寺を後にして白波邸へ向かった。
その背を見送る春美に、一部始終を見ていたらしい「黒井さん」が声をかける。
「やっぱりあれだね。あの人、似てるわ」
「似てる?」
「うん、娘さんに。しっかりしてるようでどこか抜けてるところ、そっくり」
「……ふぅ」
「姉様、落ちつきまして?」
「ああ、何とかな」
火波邸。少し前、帰り際に誰かにぶつかられたスザクは、久しく出て来なかった「闇」―――生体兵器としての「殺戮衝動」に悩まされていた。帰ってからしばらくの間不安定な状態が続いたが、アオイが片時も離れず傍にいたおかげか、今日になってやっと元に戻った。
「今の僕は『強さ』のスザクと『弱さ』の綾音、二つの人格が統合された人格だからな。それで引っ込んでた衝動が、この間のあれで出て来たんだと思う」
ちなみに、「統合」の時にどんなことをしたのかは、スザクにとっては黒歴史扱いである。相手が自分自身とはいえ、思い出すと顔から火が出そうになる。
「……心配ですわね」
「大丈夫だよ、アオイ。昔は人格自体を衝動に依存してたけど、今はそんなことないから」
長い目で付き合っていかねばならない、腐れ縁である。
「もしまた出て来ても、一人じゃなかったら大丈夫だ。みんながいてくれれば、僕は自分を見失ったりしない」
「その言葉、信じておりますわ」
「ありがとう、アオイ」
笑いあう姉妹は、亡き母が家の前を走りぬけて行ったことを知らない。
母と娘、それぞれの事情
(昔からそうだったという)
(綾斗も琴音も綾音も綾歌も)
(しっかりしているようで、どこか抜けている)
大黒屋さんから「秋山 春美」、十字メシアさんから「黒井さん」をお借りしました。琴音さんが向かう事になってたのをすっかり忘れてました……。
- 870
:大黒屋:2011/09/02(金) 19:40:02
- 「帰還と波乱の予感」の後の話ですが、短めです。状況整理がメインとなります。
名前のみスゴロクさんより「白波 アカネ」「ブランカ・白波」「白波 シドウ」「一条寺 正人」「火波 琴音」「夜波 マナ」、(六x・)さんより「アズ―ル」をお借りしました。
…冷静に状況を把握しよう。
俺はエトレク。怪人赤マントd…って、今はどうでもいいだろ、そんなこと。
そうだ。今どうしてこうなったかをまず整理しよう。
事の初めはクランケだ。
何らかの理由で森の中で眠っていたアカネさんを保護し、探偵所に向かっていた。
それを俺がたまたま目撃し、後を追った。
侵入した際に星にフルボッコにされた件は置いておく。
彼女は気絶していたが、紛れもなくアカネさん本人だった。
その日は夜遅かったから探偵事務所で彼女は一泊。
翌日、即ち今日俺は寺院を廻ってアカネさんの家に向かった。
…よし、ここまではいいな。
中に入るとランカちゃんもアズールも眠っていた。
そこで俺はアカネさんの誘いもあって家にお邪魔し、御茶をいただいていた。
そこにメールが入った。発信者はシドウさん。
察しはしていたがランカちゃんはシドウさんとアカネさんの娘。つまりは3人は家族だ。
…扨、現在の状況を確認してみよう。
そこの椅子にはさっき起きたばかりのランカちゃんが、膝にアズ―ルを抱えて座っている。
シドウさんとアカネさんは彼女の眼の前で対峙している。
マナちゃんには俺から言っておいたから、今頃上の階だろう。
そして俺は部屋の隅の方でとりあえず正座している。
時間が時間だ。そろそろ琴音さんが来てもおかしくない。
『アルマ』さんに関しては…そう直ぐに連絡は来ないと仮定しておいても、このままではまずい。
といっても、俺にはなにもできない。
家族の事情だ。首を突っ込む気はさらさらないし、突っ込んだら突っ込んだで罵声が飛ぶに決まってる。
というか、何で俺ここで正座しているの哉…;
これこそが「嵐の前の静けさ」か。
この後なにが起こるか分かったもんじゃない。
…ここで俺自身に質問だ。
『今この不穏な空気を和ませに行くか、否か』?
部外者ではありますが
「…無理だろ。」
極小の声で俺はそう呟いた。
- 871
:スゴロク:2011/09/02(金) 23:23:58
- >大黒屋さん
素晴らしいパスをありがとうございます。では、「部外者ではありますが」の続きです。
白波邸の中は不穏な空気に包まれていた。
楕円を引き延ばしたようなテーブルの端に、狐の姿のアズールを膝に乗せたランカが座っている。そして側面には、腕を組んで座るアカネと、何やら神妙なのか、真剣なのかわかりづらい顔のシドウが対峙している。
部屋の隅には客人・エトレクが正座。
重たい沈黙を破ったのは、アカネの一言だった。
「さて、あなた?」
「…………」
「ランカの身体が弱いのは知っていたはずよね? この子が本質的には寂しがりってことも」
「……無論だ」
シドウのその答えに、アカネは目をす、と細め。
「なら、どうしてランカを放って飛び出したのかしら?」
「……ヴァイス=シュヴァルツ。その名を聞いたことはないか」
「『部屋』で一応はね。人間関係、社会性、あるいは精神や生命……それらを壊して回る、愉快犯」
「そうだ。俺は……」
シドウが語ったのは、飛び出してから4年間の動向と、なぜ帰って来なかったのか、というものだった。
アカネが消えてしばらく後、近所でヴァイスを見かけたのがきっかけだった。このままでは、また同じことが繰り返される。それは阻止しなければならない。その夜に起きた殺人事件が奴の仕業であることを知り、ついにシドウは飛び出した。10歳になったばかりの娘と、保護していた二人を置いて。
ウスワイヤに匿名で連絡し、3人の身の安全を図った。それから4年の間、あの道化師を追い続けた。
「………なるほどね」
一連の事情を聞き、アカネは腕を解いて大きく息をついた。弛緩した空気に安心したのか、緊張の面持ちで成り行きを見守っていたランカとエトレク、アズールも心中で安堵した。
「つまり、ウスワイヤにヴァイスの存在が知れれば、誰が能力者になるかわからないということで、内外でパニックが起きかねない……そのために一人で追っていたわけね。ランカや、あの子達を預けて」
「ああ」
「そういうことね。だったら、言う事はないわ」
アカネの言葉に、その場にいる全員が安堵した。が、
「……なんて、言うと思った?」
そのアカネは、一瞬で表情を消すと、シドウの目を真正面から見据えた。
- 872
:スゴロク:2011/09/02(金) 23:24:48
- 「ぬ……!?」
俄かに緊迫した空気に、完全に虚を突かれたランカ達は言葉を詰まらせる。その間隙を縫うように、アカネはシドウに非難を叩きつける。
「同じことを繰り返させないために? 馬鹿を言うんじゃないわよ。あなた一人で何が出来るって言うの?」
「だ、だが」
「直らないわね、その悪い癖。誰か悪い奴を見つけると、正義の味方気取りで後先考えずに飛び出して痛い目見る。それがなかったらいい親なのに」
「むぅ……」
「大体、全てを捨てて追うなんてのが言語道断よ。親としての責任はないの? ランカは10歳だったのよ? 今でも14歳。私達が守ってあげなきゃならないんでしょ!? それを放り出して、あなたは4年間も何をしてたのよ!!」
「お、お母さん、私は平気だったから、落ちついて。綾ちゃんに、大さんもいたし」
取りなそうとするランカに、アカネはやはり厳しい目を向ける。
「本当に平気だった?」
「え……」
「アズールも、シドウさんもいなくなって、本当に何も感じなかった? そうだとしたら、あなたは薄情ってことになるわね」
「は、薄情だなんて……」
「……誰かがいなくなって『寂しい』って思うのはね、その人がどんな形であれ、自分にとって大切だからなの。それとも、いなくなっても何も感じないくらい、あなたはアズールやお父さんがどうでもいい?」
「! そ、そんなことないよ! 私は……」
「なら、平気だったはずはないわ。本音を言いなさい、ランカ。あなたは、その時どう思った?」
「………」
俯いて沈黙するランカ。エトレクがはらはらしながら見守っていると、絞り出すような声が聞こえた。
「………寂し、かった……アズールは手紙だけ残して出て行っちゃったし、お父さんは何も言ってくれなかった。知らない人達が大勢やって来て、私達をどこかに連れて行って……怖かった……お母さん、怖かったよぅ……!」
「ぅう……マスター、ほんまにすみません」
「……頑張ったわね、ランカ」
「うん……やっぱり、お母さんに隠し事は出来ないや」
「そりゃそうでしょ? あなたのお母さんなんだから」
全く以ってその通りだな、とエトレクは思った。
(あの洞察力の高さは母親譲りだったのか……凄いな)
「さて、シドウさん? ランカの気持ちは聞いての通りだけど……まだ何か?」
「…………」
完全に詰まったシドウだったが、まだ何か言おうとしている風ではなかった。今考えていることをどう言葉にすべき、考えているように見受けられた。そして、
「……すまん、お前の言うとおりだ、アカネ」
「全く……いい加減直しなさいよ、その性格。それに、謝る相手が違うんじゃない?」
「お母さん、お父さんはもう謝ってくれたよ?」
「あら、そうなの?」
「うん。前に一度帰って来た時に」
「……ま、まあ、それならいいわ」
どうやらアカネにも想定外だったらしい。
空気が若干緩んだ所で、シドウが再び口を開く。
「まあ、しかし、その……なんだ」
「? まだ何かあるの?」
「いや、あると言えばそうなんだが……あれだ」
「……よく、帰って来てくれた。アカネ」
「ぁ……うん。お帰りなさい、お母さん」
「ほんまに、ようご無事で……」
「……ええ。ただいま、みんな」
- 873
:スゴロク:2011/09/02(金) 23:25:33
- ようやく、3人に笑顔が戻った(アズールはランカの膝の上にいるため、エトレクの位置からだと椅子が邪魔で見えないのだ)。
ほっと一息ついたエトレクに、アカネが声をかける。
「そういえば……エトレクさん、いつまでそうしてるの?」
「へ? あ、はい」
慌てて立ち上がろうとしたエトレクだったが、
「うおっ」
足が痺れてしまい、思いっきり転んでしまった。
「あたたた……」
「大丈夫? ほら、座って」
「す、すみません」
何とか椅子に座ったところで、アズールが口を開く。
「……そういえば、シドウさん」
「何だ?」
「シドウさんの仕事って、何を?」
「む……」
「私と結婚した頃は建設会社にいたけど、転職したのよね。……ちょうどいいわ、話してちょうだい。私がいる以上、言い逃れは効かないわよ?」
エトレクを含め4人分の視線にさらされ、やや怯んだようだったが、シドウは「……仕方がない」と不承不承ながら明かした。
「―――フリーの探偵だ」
「えぇ!? ほな、なんであの時『知らない方がいい』って……」
「いや、あの状況で言うと少々間抜けに見えるかと……」
「またそんな見栄を張る……ホントにどうしようかしら」
肘をついた方の手で頭を抱えるアカネであった。
「えーっと……お邪魔しちゃっていいかしら?」
不意に響いた声に、全員が振り向く。
エトレクも振り向いたそこにいたのは、山吹色の髪をした、少女と見まがうような女性。
「琴音さん!」
「……人間では、ない?」
「琴音……ああ、やっぱりヒナちゃんかぁ! うわぁ、久しぶりね」
「おぉ、琴音さんやないですか」
「え? どこ、どこにいるの?」
どうもランカだけ見えないらしく、皆の反応を見て一人狼狽えている。
それを見て取った琴音は、
「あ、そっか、このままだと普通の人には見えないのよね。んー、どうしようかしら」
「あ、それならウチが。マスター、ちょっとウチの手ぇ握ってください」
一瞬で人の姿になったアズールが、ランカの隣に立って手を差し出す。言われるがままランカがその手を取ると、
「あ、見える!」
「ウチに限らず、妖怪には割とようある能力の一つです。見えないものを見られるようになるんですわ」
「特殊能力なの?」
「いえ、種族……と言うてええのかわかりませんけど、固有の力なんです」
ともかく、これで全員がお互いを知覚した。
あらためて、話を再会する。
「ヒナちゃん、ちょっと聞くけど……」
「この間のことね? あれは……」
エトレクがある少女と再会するために探しており、本当にその子がランカなのか確かめるために訪れたのだということを話すと、アカネは「何だ、そうだったのね」と安心したようだった。
「後ろ姿しか見えなかったし、ランカに何かしたとしかわからなかったから……」
「ううん、親としては当然よ」
「……ええ、当然よ。ね?」
「う、うむ……」
視線を向けられて口ごもるシドウである。
その横から、席を移ったランカが言う。
「お母さん、その人を知ってるの?」
「中学生の時の同級生よ。卒業してから疎遠だったんだけど……」
「へー……ほな、そのあだ名は何で?」
「苗字が『火波』でしょ? だから『ヒナちゃん』なのよ」
和気あいあいと和む一同を見て、エトレクは恐れていたような修羅場がなかったことに心底から安堵していた。
(よ、よかった……何事もなくて……)
- 874
:スゴロク:2011/09/02(金) 23:26:48
- 彼の心象など知らず、一同は話をする。
「お父さん、今度はいつまでこっちにいられるの?」
「実は、4日後には発たねばならん。別の依頼が入っているのでな」
「自由業は……ま、いいわ。その代わり、きっちり連絡は入れること。いいわね? これが守れないなら、地の果てまでも連れ戻しにいくわよ」
アカネならやりかねない、とその場に在る誰もが思った。
「でも、今日明日と明後日は一緒にいられるんだよね?」
「場合によってはもう少し延びる。情報集めはここでも在る程度は出来るからな」
そう言ったシドウがふと外を見ると、既にとっぷり日が暮れていた。
時計に目を移せば、7時を回っていた。
「こんな時間か……客人、エトレクと言ったか? せっかくだ、泊まってゆくといい」
「え? でも、いいんですか?」
「構わん。今日はめでたい日だ。それに、夜とは言え、シン・シーが動く危険も捨てきれん」
よく見ると、表情が薄いシドウの口元に、僅かながら笑みが浮かんでいた。
「……わかりました。それじゃ、今日は厄介になります」
「OK。それじゃ、春美ちゃんには私から伝えておくわね」
「え、ヒナちゃんもう帰っちゃうの?」
アカネの言葉に、入口に向かった琴音は振り向く。
「私はこんな身体だし……やっぱり、ね」
その笑みは、少しだけ寂しそうだった。
「じゃあね」
「ヒナちゃん!」
出て行こうとする琴音の背に、アカネは言葉を投げかける。
「私は……いつまで立っても、ヒナちゃんの友達でいるからね」
「……ありがとう、アカネちゃん」
そして、今度こそ琴音は白波邸を後にした。
残った4人はというと、
「さ……遅くなっちゃったけど、晩御飯にしましょうか。ランカ、アズール、今日は特製のオムライスよ! シドウさんには、きゅうりとわかめの和え物で、お酒は大吟醸ね」
「わぁぁーい!」
「おおきにー! いやぁ、アカネさんの料理も久しぶりですわぁ」
「フ、すまんなアカネ」
「二本目はなしですからね?」
「………ああ」
そして、
「エトレクさんは?」
「え? えーと、その、同じものを」
「お酒?」
「ではなくて……」
「オムライスね、了解!」
―――その夜の白波邸には、久しぶりに家族の灯が灯った。
「今まで」と「これから」
(帰って来た人)
(思いがけない再会)
(家族は、これからだ)
「おいしい……やっぱり、お母さんの料理が一番だよ」
「ん~~~~!! ほんまほんま、まったくですわ」
「……変わらんな。昔のままだ」
「う、旨い……」
「作った方としては最高の褒め言葉ね。遠慮なく、どうぞ」
大黒屋さんから「エトレク」名前のみ「秋山 春美」「シン・シー」、(六x・)さんから「アズール」をお借りしました。やっとここまで来た……。
- 875
:光機:2011/09/02(金) 23:45:26
- 「ソウヤ」過去話です。スタンドプレーのくせにクッソ長くて申し訳ない。
***
人間とはあっけなく死んでしまうものだな、と、ソウヤは二回ほど感じたことがある。
十八年前、父親が死んだ。交通事故だった。今から帰るよ、と母親に連絡したのを最後、居眠り運転のトラックに撥ねられた。即死だったらしい。
ソウヤは父を失った事実を全く実感しないまま、粛々と進んでいく葬儀の中にいた。肉親の死とはいえ古い出来事であるため、彼には端々の記憶しかない。ただ、棺桶にしがみついて声を上げるあの姿が、最後に見た優しい母だった、それだけは忘れられないでいる。
幼心にも、両親の仲がとても良いことは感じていた。実際、母は父を、父は母を愛していただろう。父は仕事に忙しい日々を送っていて、少なくとも、毎日の食事は十分すぎるほどだった。色々な場所に連れて行ってもらったし、欲すれば与えられた。母は専業主婦だったので、父親の仕事ぶりが如何であったかは、今では想像に難くない。それに男前な容貌であったし、汚い言葉を吐いたり母に暴力をふるったことも一切無かったと記憶している。だから母も、毎日家の中を美しく、平穏に保っていたのだ。
ソウヤの幸せは、父と母が存在することによって成り立っていた。そして、その片方が欠ければ、幻と消えてしまうものだった。
「どうしてあなたは!」
その叫びを聞く度、脳が凍りついた。直後の痛みに備えて、身体も強張る。襟首を掴まれ、床に叩きつけられて、丸めた雑誌やスリッパで、虫のように殴られた。その間は何も言わず、ただ丸まって、涙を見せないようにするのだ。痛い、やめて、などと訴えれば、母はますます激昂して彼を足蹴にした。
埃まみれの床に伏して、この家はこんなに汚くない、と思う。我が家はいつだって、床がきらきらと輝いて滑らかで、窓ガラスは一点の曇りもなく空を映していた。ベランダには季節の花が虹色に咲いていて、部屋の中で嫌なにおいがしたこともない。常に片付いて、広々としていて、そこにおもちゃをばらまいて世界を作るのは、とても楽しいことだった。
ソウヤの持っていたおもちゃは、この間、ゴミ袋に詰められてどこかへ売られた。おもちゃだけではない。本も、ゲームも、父親が買い与えてくれたものは全て。
彼はその時期、体中が痣だらけだったから、自然と入浴が苦痛になった。髪がぼさぼさで、服も薄汚れていたのは、母が自分の分しか家事をしなくなったからだった。
今までの友人が、悪いからかいのように自分を遠ざけ、見てみぬふりをするのを感じた。だが、ソウヤには何も出来なかった。彼は物言えぬままに翅と脚をもがれた、一匹の虫だった。
ある日、帰宅すると見知らぬ男が夕飯を作っていた。中肉中背で、その他には強いて述べるほどの特徴の無い、言ってしまえば冴えない風体だった。男はソウヤに気が付くと、非常に驚いた顔をして、まずは彼を風呂に入れた。それから、伸びに伸びて後ろで結んでいた髪を切って、制服をきれいに洗ってくれた。見かけからして特に警戒もしていなかったが、この男が悪人ではないことはすぐに分かった。
男はヨウイチと名乗った。母の知り合いらしい。
その日は二人で麻婆豆腐を作って食べた。母は帰ってこなかった。訊ねると、買い物にでも行ったんじゃないか、と言う。思えば母親は、父の死以来まともな外出をしていなかったから、もしかすると次に会える母親はあの優しい顔をしているんじゃないか、と期待した。
そして翌朝、母は家にいた。いつぶりかも分からない明るい笑顔で、ヨウイチと話をしていた。食卓には、三人分の朝食。ソウヤはうれしくてうれしくて、胃が重くなるほどの速さで朝食を平らげて学校へ向かった。我が家が戻ってきたのだ。ようやく長い悪夢が終わったと、彼は信じて疑わなかった。
だが、自分の席にあった食事の盛り付けだけが妙に不慣れで、卵焼きも形が崩れていたことには気付いていなかった。
もしもその意味を考えていれば、彼はもう一度、転落しなくて済んだだろう。
- 876
:(六x・):2011/09/02(金) 23:45:51
- >>スゴロクさん
ランカちゃんよかったねえ!そしてアズールがいちいちかわいいです。モフモフしたいお
そういえば、ランカちゃんは凪とも仲良しですがその辺は何かエピソードがあったりするんでしょうか?
凪ちゃん脱ぼっち(高校入学してしばらくは怖がられたりしてた)にも一役かってそうです。
- 877
:スゴロク:2011/09/02(金) 23:48:13
- >(六x・)さん
実は、ランカの設定は家族とその回りくらいで、アズール&凪との関係については真っ白です。
ですから、お任せしてしまってもよろしいでしょうか? ちなみにランカの話は「家族」系列と「火波スザクと恋心のお話」系列の一部として整理してあります。
- 878
:光機:2011/09/02(金) 23:52:02
- ヨウイチの頬に、青い痣が出来ていた。
その日、ソウヤは帰ってくるなりそれを見てしまい、部屋に篭って宿題を始めた。
この時間であれば空腹に鳴るはずの胃が、きりきりと痛むばかりで動かない。
無理やり、自分を鞭打つように数式を解く。算数は得意だ。得意だからすぐ終わる。楽しい。
言い聞かせて、宿題に出されていない範囲まで。ドアの外から届く、罵声と騒音が消えるまで。
母の足音に体を強張らせる。だが自分の部屋には訪れなかった。
それもそうだ。母は、ヨウイチが来てから、自分を見てはいなかったのだから。
食事の時も、それ以外でも、母はヨウイチを介さないと、ソウヤと話をしなかった。
まるで存在を信じないかのように、目線を合わせず、声をかけず。
彼女は二人分の食事しか用意しなかった。
そのだいぶ後でヨウイチが、もう一人分を作って持ってくるのだ。
当然だ。父がいたから成り立っていた我が家を、父以外の人間に直せるわけはない。
突然、視界が真っ白に滲んで、宿題が手に着かなくなった。
ソウヤは布団に潜り込んで、声を殺した。
辛くて、痛くて、悲しくて、汚くて。明日が怖くて。
何度眠って何度起きても、彼が安らげたあの家には帰れなくて。
自分がいなければ、ヨウイチと母は、二人で幸せに暮らすだろうかとも考えた。
だから、母が寝静まったと思った頃、台所へ包丁を取りに行った。
だがヨウイチが起きていた。
彼は駆け寄ってくるなり、「駄目だ」とうわごとのように呟きながら抱き締めた。
随分泣いたはずなのに、また涙が溢れてきて、その場に崩れ落ちる。
声を上げることはやはり出来ないのだった。
まるで絞り出したような、呻くような嗚咽だけがソウヤの口から漏れていた。
ヨウイチは彼の涙を受け止める間にもずっと、ごめんな、ごめんな、と言い続けていた。
ああ、この人はいなくなってしまうんだ。何を考えるでもなく、そんな予感がしていた。
引き留める術など、無い。
程なくヨウイチは、帰ってこなくなった。
それから一つ季節が巡り、ソウヤはまた母に暴力をふるわれるようになったが、
日常が戻ってきただけのように思えた。
凍える寒さの中を、ソウヤは買い物に行って、麻婆豆腐の材料を買ってきた。
最近では、母は自分の食事だけを買ってきて、その余りしか与えてくれなくなっていた。
貯金箱の中身も、もうすぐ底をつきそうだった。
家の中は暗くて、外と同じくらい寒い。母が既に就寝しているからだ。
暖房を勝手につけるとまた殴られる。
電気をつけても薄暗くて、黴臭い台所で、踏み台の上に立って調理をする。
ほんの一年ほど前、ヨウイチが作ってくれた麻婆豆腐を思い出した。
辛くて、ご飯のおかずになる、ただそれだけ。
平凡な味だったろうが、あの時の自分には至福のごちそうだった。
久しぶりに与えられた、「自分のための」食事だったからだろう。
だから、これもきっと――。
出来上がった麻婆豆腐を皿に盛り付けて、暗いダイニングへと移る。
凍える指が、皿の感覚を見失った。
体の芯が凍りつく心地がして、静寂を砕く皿の音。
たった今まで湯気を立てていたおいしい料理は、床の上にぶちまけられた汚物と化していた。
慌てて拭き取ろうと動いた彼の耳に物音が届く。
家庭という空間にあるべきでない淀んだ暗闇の中に、母の姿を見た。
髪を振り乱して、肌は荒れ、赤い目をした、まるでたちの悪い心霊映像のような。
最早、何の言葉も意味は持たない。
彼は襟首を掴まれると、冷蔵庫まで引きずられた。
何をするのかと思うと、母は数少ない中身を雪崩のように掻き出して、
仕切りの板を外し放り投げる。
呆然とその場に立ち尽くしていると、母親はまた同じ場所を掴んで引き寄せた。
- 879
:光機:2011/09/02(金) 23:55:35
- ここで寝ていろ、と言われた。
殆ど反射だった。
ソウヤは自分で考える暇の無いまま、人一人が入れる広さにはなった冷蔵庫に入り込んで、
体を縮めていた。
そうすれば、母にぶたれずに済む、母を怒らせずに済む。
自分も痛みを感じずに済む。
今考えれば抵抗することも出来ただろうに、しかし心が動くよりも強く、
脳が、体が、それを憶えていたのだろう。
ばたん、と冷酷な音がして、軽い衝撃とともに視界が消える。
やがて、じわりと肌を蝕む冷気と、冷蔵庫特有のにおいに包まれた。
ソウヤは当時、それほど背が高くはなかったが、やはりその中は窮屈だった。
息苦しくて、程なく吐き気がした。
外では、冷蔵庫の中にあったものを野菜室に放り込む音がして、足音が遠のいていく。
それを確かに聞き届けたはずなのに、彼はドアを開けるのが恐怖だった。
母がまだ見ているのではないかと。
いや、あれはもう母ではない。
あの女が、まだ自分を痛めつける機会を窺っているのではないかと思えて、
暗く冷たい地獄から逃れようとはしなかった。
目を閉じる。皮膚が、内臓が、少しずつ軋んでいくような気がしていた。
彼は恐ろしい妄想をかき消そうと、昔読んだ楽しい本の印象を、
遊んだ友人のことを思い出した。
しかし何もかもが、途中で手元を離れていく。
目を潰してしまいたいくらい、恐ろしい。
そこに現れたのは懐かしい父の笑顔だった。
隣では、彼の知る優しい母が、柔らかく手を招いている。
体温が上がったような気がした。
いつのまにか閉じられていた瞼には、明るい幻が映っている。
意識がふわりと離れ、流石に危ないと思ったが、もう遅い。
大丈夫だ。冷蔵庫の温度など、高が知れている。このまま、何も感じないで眠ればいい。
そう囁いたのは、或いは死神のような、死や運命を司る何かだっただろうか。
夢を見た。
そこは、見知った我が家の台所だ。自分は仰向けに倒れている。
色合いは陰影の無い白と黒だけなのに、何故かそうと分かった。
まもなく、空気の擦れる音さえも、どこか別の世界に吸い込まれたように消える。景色の中の白が無数の糸になって、闇の彼方にぼんやりと灯る光の中へ消え行く。
そして――覚醒した。
明かりのついた、台所の天井。
空きっぱなしの冷蔵庫と、傍らの気配。
夢から覚めたのか、それとも夢が始まったのか分からないでいると、
覗き込んだ顔があった。
ソウヤは驚かなかった。あの女だ、と認識したときには、既に手に力を込めていて。
顔は突然、焦ったように歪んで、何事かを叫んだ。
尚も握り締めたままでいると、まずはその瞳から光が消え、瞼が閉じた。
どさり、と横たわる音がして、冷たい感触が左手に残る。
しばらく、彼は天井を仰いだままだった。
体が急激に熱っぽくなって、起き上がることが出来なかったのだ。
その間に、途切れた記憶が息を吹き返して、彼は自分が冷蔵庫の外にいると気が付いた。
生きている。
自分で抜け出した記憶は無い。
あの女が、母親が、出したのか。
ならば母はここにいるはずだ。自分の知る唯一の母が。
隣に、倒れている。
起き上がり、彼は左手に握っているものをようやく知覚した。
母の右手だった。
それは彼が憶えているよりも骨ばって、爪は伸びて色褪せ、血管が浮き出ている。
何よりも、冷たい。そして、白い。
冷蔵庫から出てきたばかりの自分が、こんなに暖かいというのに。
まるで、自分が体温を奪ったみたいだ。
- 880
:光機:2011/09/03(土) 00:00:02
- 恐る恐る、首に手を添える。
急に目を覚まして、また自分を怒鳴りつけるのではないか、とは思った。
それでも良かった。首にあるはずの脈や、鼻を覆えば見つかるはずの呼吸が無いことを、
否定してくれるのなら。
例えそれが骨を傷つけるほどの拳でも構わない。
あれほど恐怖だった暴力を、彼は願っていた。
母の手を両手で包んで、奪ってしまった温もりが戻るように念じていた。
母を救えなかった自分なら死んでもよかったのに。
ソウヤは夜が明けるまで、力なく座り込んでいた。
母は二度と動かなかった。自分の手を強く握り締めたまま、死んでいた。
よく分からない。それもそうだ。自分は気を失っていたのだから。
麻婆豆腐をこぼしてしまって、母親がそれを怒って、
冷蔵庫に自分を閉じ込めて。
自分は眠ってしまって。それを――それを、母親が出して。
まるで立体感の無い照明に照らされた、色の無い母の頬を眺める。
一筋の干上がった川が見えたと思った。
どうして泣いているのだろう。殺してしまったと思ったのだろうか。
死んだのは自分なのに。
外が明るくなって、いつも起きてくる時間になると、ソウヤは家を飛び出した。
それから、どこかの公衆電話に駆け込んで、以前教えてもらったヨウイチの電話番号にかけた。
きっと近所だっただろうが、その時は全ての景色が、夢の中の見知らぬ土地に見えていた。
ヨウイチが車で迎えに来ると、後部座席に乗せられて、彼の家まで連れて行かれた。
窓の外を全く見ていなかったから、町のどの辺りなのかは全く分からなかった。
だが、随分と長く走った気がする。
ヨウイチは時折こちらを振り向いては話しかけた。
彼の頬から、いつかの青痣はすっかり消えていた。
彼の家はアパートだった。
リビングに通されて、朝食を振舞われたが、食欲というものがなんだったか思い出せなかった。
ソウヤは何も聞かれなかった。
それからしばらく、ソウヤは学校にも行けなかった。
家から勉強道具を何も持ってきていなかったから、当然といえば当然であったのだが。
ただ、ヨウイチはたまにパズル雑誌や問題集を買ってきては与えてくれたから、
それを解いている時間もあった。
いつだったか、警察の人間が来て、自分にいくつか質問をしていった。
分かる範囲のことを答えた。
嘘も、ついたかもしれない。
ヨウイチは、話を聞くと、この子がそんなことをするわけがないと主張していた。
それを聞いても、心は麻痺して痛まない。
あの出来事が本当だったのかどうかを知る術が、もう彼には無かったのだから。
ソウヤがヨウイチの家に匿われてから、三年が経った。
母の死から数週間後に、ソウヤの勉強道具や制服は引き渡されて、
彼は再び登校しはじめた。
勉強は、持ち前の真面目さや、ヨウイチが与えてくれた本のおかげですぐ追いつくことが出来た。
だが、相変わらずかつての友人は他人のままだった。
中学校に上がっても、顔見知りのはずの人間は誰も、ソウヤに関わろうとはしなかった。
いじめという形すら取らなかった。
誰も、彼が見えていないようであった。
母親の件について、既に噂が回っているのだろう。
だが遠ざけられるのには慣れた。
ソウヤはどことなく、自分が母親の死を他人事のように思っていると感じた。
あの記憶は、重荷というにはあまりにも曖昧過ぎていた。
全てが悪い夢だったと言われれば、信じてしまうほど。
それは、願望だったかもしれない。
真実しか見せない現実から逃れるための、
たった一つの、卑怯な言い訳だったかもしれない。
ともかく、彼はあの日以来、夢を見ているような気分で過ごした。
確かに名前を呼ばれた。人に触れることもあった。
話すことも、笑うことも、泣くことも出来ていた。
それなのに、どこか自分が自分ではなくて。
ひょっとして、あの時自分は死んでいて、
別の誰かに乗り移ったのかもしれないなどとも考えた。
もしくは――ようやく自分は、幸せな幻から決別できたのだ、とも。
- 881
:光機:2011/09/03(土) 00:03:40
- 別の体に乗り移った、という案は、あながち間違いでも無いかもしれないと思った。
あれ以来、ソウヤはある能力を身につけていた。
ヨウイチが作っていった朝食を、電子レンジで十分に温め直す。
席につき、湯気の立つ白飯を眺めていると、
何を思ったのかその中に指を突っ込んでいた。
火傷するに決まっているのに、何故か指先を引き抜くことが出来なかった。
体はその動作が必要ないと判断していたのだ。
どれだけ長くそうしていても、指先が全く熱くない。
その代わり、全身が温まってくる。
やがて、頭がぼんやりと熱くなって、眩暈がしたのでその行為をやめた。
すると、数秒前まで湯気を立てていた米が、まるで数時間を経たかのように冷えている。
彼はヨウイチのいないところで、食べ物以外にもそれを試した。
金属、植物、蝋燭。
手で触れた、或いは手の平を向けたものが、冷えて、萎れて、火が消える。
直接触れれば即座に、離れていればゆっくりと。
何度か繰り返すうち、触れたときには体中が熱っぽくなること、
触れなければあまり熱が回らないことを発見した。
どうやら、自分は別の人間になったというより、
冷蔵庫に入ったせいで冷蔵庫の能力を身につけたのだ。
彼はそう解釈していた。
もう一度、この能力を使う機会はあるだろうか。
今度は、後悔がないようにしたい。
人が殺せると言うことは、人を守ることも出来るはずなのだ。
その日こそが、ソウヤがこの家に来た三年後。
深夜、物音に目を覚ます。
ヨウイチだろうか、と思ったが、違う。彼の立てる音にしてはがさつすぎる。
眠い目をこすりながら部屋を出、居間の電気をつける。
黒い服をまとった、見知らぬ男。
目が合った、と思うより先に相手が動き、こちらへ向かってくる。
殺される、と思った。脚が竦んで、力のない叫び声を上げる。
腕を掴まれ、無我夢中で振り払おうとするが、細い少年の力では叶わなかった。
背後で物音がする。ヨウイチが起きたのだ。
強盗もそれに気付いたのか、ソウヤの首に腕を回して、何か冷たいものを喉に押し当てる。
自分がどんな状況になったのか理解するのに、時間はかからなかった。
部屋から出てくるなり、ヨウイチは顔を青くする。
そして何か交渉を始めた――
どうやらヨウイチが金目のものを全て渡せば、自分は無事に解放されるのだそうだ。
ヨウイチが部屋へ戻り、カバンの中をひっくり返すのを、強盗と自分は背後から見つめている。
ソウヤは強盗の腕に、無意識に手をかけていたことに気付いた。
今思えば、そのまま大人しくしていた方がよかった。
だが、ソウヤは自分が何かをすることでヨウイチを助けたいと、その思い一つだったのだ。
だから他の選択肢は、最初から見えていなかった。
母のとは違う、不快な熱を手の中に捕らえる。
思い出す。握っているのが母の手と分からずに、温もりを奪ってしまったあの時を。
体を巡る血が熱い。
あっという間に冷たくなった強盗の腕が、程なく緩み、その場に崩れ落ちる。
何とか平静を保とうとしたソウヤも、目を開けられぬほどの熱に耐えかねて、ほぼ同時に倒れた。
ヨウイチが自分の名を呼んで駆け寄って、抱き起こしてくれたことまでは憶えている。
- 882
:光機:2011/09/03(土) 00:08:07
- それから次に目を覚ますまでの記憶が、ソウヤにはない。
彼は部屋にいて、ベッドに横たわっていた。
家の中はどこもかしこも消灯していたが、外は昼のようで、カーテンを通る光は明るかった。
部屋を出る。
声をかけてもみるが、返事らしい物音はしなかった。
まるで、世界から切り離されたような静けさが耳を押さえつける。
荒らされた部屋の形跡はそのままに、昨日自分の手で殺したはずの強盗の体も消えていた。
外に出る。
まだ覚束ない、回復しきらない体で、彼の車を探しに行ったのだ。
駐車場が見えてくると、彼は愕然として、その場に膝をつかんばかりだった。
ヨウイチの車が見当たらない。
彼がどんな行動に踏み切ったのか、予想するのは簡単だった。
ソウヤは部屋へ駆け戻って、震えて力の入らない体を何とかもたせて、紙と鉛筆を取り出した。
どうして。
殺したのは自分なのに、どうしてあなたが罪を被るのだ。
大体あなたは自分の何だというのだ。
突然現れ、まるで父親のようなことをしたくせに、母を救えなかった。
それどころか逃げ出して。なのに、自分をまだ助けようとするのか。
あなたがそこまでする理由がどこにある。
言いたい事は山と積もった。
だが、それをメモ用紙の、たった一枚に収めることが出来なかった。
ソウヤは骨を砕くほど強く打っている心臓を、上から押さえつけて、
子供が書いたような字で記すのが精一杯だった。
「ごめんなさい」。
彼は、その日のうちにヨウイチの家を出た。
持っていたものは、ヨウイチから分けられた小遣いの残りと、
パズル雑誌や本。
電車に乗って、聞いたこともない遠くの街を目指した。
うとうととしながら揺られ、目を覚ましたとき、
広がるのが見知らぬ風景であるのを確認して電車を降りる。
果たしてそこにあったのは、生まれ変わったような心地のする夕空だった。
もう、自分を結びつけるものはない。
寂しさが、不安が彼の足を括りつけるが、引き返そうとした電車は無情にもホームを過ぎていく。
これでよかったのだ、とソウヤは言い聞かせた。
濃い橙の光に染まる街は、何故か自分を拒まなかった。
むしろ、暖かな空気を伴って、自分を迎え入れるように微笑んでいると見えた。
全ては夢だ。
遠い昔、幸せそのものの生活も。
父親の死も、変わってしまった母親も、死んでしまった母親も。
殺してしまった強盗も、罪を隠しに行ったであろうあの男も。
全て、悪い夢だったのだ。
踏み出す足は、景色が現実であることを、せめて楽しい夢であることを願っていた。
しばらくして、彼はこの賑やかな世界の一人になった。
***
以上です。しかししんどいですね。
現在はここまでアレじゃないので、現在のソウヤもこの先書けたらいいなぁ。
- 883
:(六x・):2011/09/03(土) 00:36:02
- >スゴロクさん
了解です。
アズールは凪を見て「なにこの子かっこいい」と思っただけで実際に面識はありません。
ランカとは「冬也が入院したのでお見舞いに行ったら出会った」でもよろしいでしょうか?
- 884
:スゴロク:2011/09/03(土) 00:39:16
- >(六x・)さん
それで構いません。それだと、アースセイバー繋がりでゲンブあたりと鉢合わせてるかもしれませんね。
- 885
:大黒屋:2011/09/03(土) 14:17:05
- 探偵と聞いて黙っていられなかった。反省はしていない。
「「今まで」と「これから」」の最後と時系列はほぼ同じです。余談程度に扱ってくだされば。
名前のみ十字メシアさんより「ミユカ」、スゴロクさんより「白波 シドウ」「霧波 流也」、名前はあがってませんが「ヴァイス」をお借りしました。
赤い星の思事
「星殿、ご飯ぜよ…?」
月光はそういいながらドアを開けた。
しかし中は暗く、眼の前に机に星が突っ伏していた。
月明かりだけが照らす部屋の中には、資料が散乱している。ミユカ達の依頼の調査だと星は言っていた。
どうやら調査していてそのまま眠ってしまったらしい。
このところ色々あったから当然だろう。
このまま寝かせておくか、と月光は扉を閉めようとした。
が、その時。
不意に、背中側から見えない力を月光は感じた。
と思うや否や向かい側の壁にその力によって叩きつけられていた。
正面から壁にぶつかった月光はずるずると伏せる。
「ったく、まだお前の実力、こんなもんか?」
鼻を抑えながら振り返ると、今まで寝ていたはずの星がそこに立っていた。
「へ?寝ていたはずじゃ…;」
「あほか。ちょっとした抜き打ち試験だ。クランケは引っかからなかったぞ。」
「考えてみろ。調査しながら寝ていたのなら、部屋の明かりが消えているのはおかしいだろ?」
「あ…。」
「月明かりだけじゃ資料の文字も読めねぇ。そこに気付くかどうかだったんだよ。」
はぁ、と星はため息を吐いたが直ぐに月光を起こした。
「ほら、飯なんだろ?行こうぜ。」
「…そういえば星殿。事務所は変わったが、シドウ殿は相変わらずきとるんがか?」
思い出したように月光は訊く。星はすぐに頷いた。
「場所は教えたんだ。旅行の時以来、相変わらず週一ペースでこっちにくるぜ。」
「いつも自分の部屋に居るけ、気付かなかったぜよ…。」
「ま、同業者だし、打ち解けるのは早かったしな。」
「…は?」
一瞬言葉の意味を理解できず、月光は星を見た。
「あれ、言ってなかったっけ。…って、シドウさんも自分からは言ってないな、そういえば。」
「ちょ、一寸待つぜよ。シドウ殿が同業者って、どうして分かったがか…;」
「所謂『職業病』だよ。ずっとその仕事をしてたおかげで起こる障害、物腰、考え方。シドウさんと話してると、私と被る所がいろいろ見受けられてな。」
勿論確認のつもりでシドウさんには話のノリで訊いたけど。と星は笑う。
「そうだったんがか。」
「人間観察眼は亜音さんのほうがずっと上だ。多分亜音さんは私より早く気がついてるだろうな。」
「シドウさんは暫く家に居るらしいから、ミユカ達の調査を優先しようと思ってるんだ。」
「あれ、他になんか調べる事あったがか?」
月光は首をかしげる。星はふっと上を向いたが、直ぐに答えた。
「…いや、なんもねーよ。」
(…といっても、放ってはおけないんだよなぁ…。)
夕食を取り再び部屋に籠った星は資料を広げながら考えていた。
(人を壊す愉快犯…。シドウさんや流也がすくなくとも関わってるわけだ。)
だが、行動パターンがつかめない以上動きようが無い。おまけに星に直接かかわってくる「正義の味方」もいる。
「…仕事が無いのにこんなに忙しいもんか?」
その事実に、世間から隔離された彼女は素直に喜べなかった。
- 886
:十字メシア:2011/09/03(土) 23:11:46
- トキコちゃんとうちのモブ子を会話させてみる。
しらにゅいさんから「トキコ」、スゴロクさんから「クロウ」(名前のみ)をお借りしました。
「あー」「退屈」「だけど」「平和だー」
途切れ途切れに呟く一節の言葉。
色んな変わり者がいるホウオウグループの中でも、こんな喋り方をするのは彼女しかいない。
モブ子―――本名、最文 鈴子―――である。
「雑用」「終わってるし」「何か」「する事」「無いかなー」
暇だ暇だと独り言を言うモブ子。
そこへ赤い髪の小柄な少女が近寄ってきた。
「モブ子ちゃん」
同じ末端構成員のトキコだ。
「おや」「誰かと思えば」「トキコちゃん」「じゃないか」
「相変わらず変な話し方するねー」
「そうかな?」「モブ子ちゃんは」「普通だと」「思うけどなあ」「ところで」「何の用」「かな?」
「暇みたいだから、お話でもしようかなって」
「あー」「聞こえてたんだ」「でも」「ありがたい」「お誘いだから」「そうしよう」
「えへへー。隣いい?」
「うん」「構わないよ」
モブ子の隣に座るトキコ。
「さて」「何話そうか」「トキコちゃん」
「えっとねー、前から聞きたかった事があるんだけど」
「何?」
「モブ子ちゃんって結構強いし、仕事もキッチリするよね」
「まあ」「そうだね」
「でも私と同じ末端だから、何でかなーって」
「そりゃあ」「モブ子ちゃん」「モブキャラだから」「ほら」「通行人Aみたいな(笑)」
けらけらと笑うモブ子。
「そういやモブ子ちゃん、特に目立たないよね」
「ね?」「モブキャラに」「スポットライトなんて」「必要ないんだよ」
「でも目立ちたいなって思わないの?」
トキコの問いにモブ子は「うーん」と悩むフリをする。
少しして、彼女はニカッと笑って言った。
「まあ」「モブキャラだから」「そういう欲は」「あったりするよ」「けど」「エリート気取りな強者を」「殺すときは」「モブキャラ」「つまり」「弱者のままで殺したいね☆」
表情とは真逆な言葉が口から出た。
「ふーん…」
「じゃあ逆に聞くけど」「トキコちゃんは」「どうして」「それほど強者に」「なりたいの?」
「私? だって弱いのはあんまり好きじゃないし」
「そっか」「でも弱いのも」「悪くないよ」「現にモブ子ちゃん」「弱いし(笑)」
「…何でそんなに笑ってられるの?」
訝しげに聞くトキコに対して、モブ子は笑ったままこう答えた。
「えー」「決まってんじゃん」「モブ子ちゃん」「生まれながらの」「弱者だし?」「それに」「弱いって」「素晴らしいと思うんだ」
「素晴らしい?」
「だって」「皆弱かったら」「差別も」「侮蔑も」「嫉妬も」「ぜーんぶ!」「この世界から」「消えるんだよ?」「それって」「とっても素敵でしょ☆」
両腕を広げ、『弱者の弱者による弱者の為の理想論』を語り出すモブ子。
「それらが消えれば」「誰も傷つかない」「誰も悲しまない」「誰も蔑まされない」「だから」「平和な世界になる」
「なるほどー」
「その為」「モブ子ちゃんは」「いつも頑張ってまーす!」「みたいな(笑)」
「でも鴉さんは、そんなものは地獄に過ぎないって言ってるよ」
するとモブ子の表情が『あの』笑顔に変貌した。
「地獄?」「んな訳ねーだろ」「もしそれが」「地獄だってんなら」「あのクソガラスの言う世界は」「強者だけが支配する」「本当の地獄だよ」「あはっ☆」
「何で?」
トキコの疑問に、モブ子はこう答えた。
「だって」「弱者の」「逃げ場も」「安らぎも」「日常も」「何にもないから」「だから」「強者は弱者の為に」
「滅ぶべき」
朱鷺と弱者
(モブ子ちゃんは強者が嫌い)
(特にクロウ君が一番嫌い)
(弱者の心を)(弱さを)(生き方を)
(知らないのだから)
- 887
:スゴロク:2011/09/04(日) 00:14:57
- クロウの過去話です。
「………」
夜の街を、クロウは一人歩く。思い返すのは、グループに入る以前の自分。
―――元々、「彼」はさほどいい暮らしをしていたわけではない。
子供の時から、折り合いの悪い両親のあおりを受ける形で傷つけられて育った。だから、彼は親の愛情を知らない。
頑健な方ではなかった。だから、学校では陰湿なイジメを受けていた。漫画や小説でよくある、理不尽だけれども乾いたイジメは、現実には皆無だ。鋭く、残忍に、容赦なく、心をえぐって来る。
そんな日々が続き、いつしか諦観とともに過ごしていた、ある日。決定的な出来事が、起きた。
父が、人を殺した。
些細なトラブルが原因だった。問題は、被害者がその土地の有力者だったこと。
坂道を転がり落ちるように、ただでさえ悪かった状況がますます悪くなっていった。気付けば母も消え、「彼」の周りには誰もいなくなっていた。味方などいない。敵ですらない。悪意の第三者。それだけだった。
家もなく、家族もなく、友も仲間もない。たった一人、「彼」はどん底で生きて行かなければならなかった。
倫理観などと言うものは消え失せていた。殺人。強盗。窃盗。脅迫。誘拐。まるで悪魔に魂を売り渡すかのように、生きるために何にでも手を出した。信用させて近づき、利用するだけ利用して裏切る。これも、当たり前のことだった。他人の身を案じていては生きられない。生き延びたければ強くなれ。「彼」がいたのは、そう言う世界だった。
ゴミを漁り、泥水をすすったこともざらにあった。およそ人とは思えぬ日々を過ごしていた「彼」は、その内警察から追われるようになった。当然の成り行きだったが、「彼」は捕まる気はなかった。罪の意識を覚える余裕などなかったし、償ったところで行き場所はない。出会う全てを利用し、裏切り、手を組み、離反し、逃げて逃げ続けた。
逃避行の中、暴力団に関わって襲われたことがあった。銃撃を受けて死を意識した時、その軌道が不自然に曲がった。相手を返り討ちにして難を逃れ、なおも逃げ続けた。
その力を使いこなすのに、時間はいらなかった。生への執着が、時間をかけることを許さなかった。
何年経ったかもわからぬある時、いつもの如く襲った相手に返り討ちにされた。スキュアロウ・バルカンチ……ある任務の帰りだったその男に、ボロボロにされたのだ。しかし、そいつは「彼」にトドメを刺さなかった。
瀕死の「彼」を引きずって戻った先……そこで「彼」は、ホウオウと名乗る男から勧誘を受けた。
何と返事をしたかは覚えていない。だが、肯定だったのは確かだ。
「………」
意識が現在に戻る。
ホウオウグループに入ってからは、生活ががらりと変わった。一番大きな変化は、人を信用するリスクがなくなったということだった。仲間、という概念を初めて知った。今までの名前は捨てた。代わりに名乗った名が、「クロウ」。由来はない。目に付いた言葉を、そのまま名前にしただけだ。―――もしかすると、まるであの掃除屋のようだった生き方への、自嘲があったのかも知れない。
生物兵器の試作である女性と組んで、任務を行うようになった。彼女はUHラボの襲撃任務で姿を消し、以来それっきりだ。
あれから時が流れ、少年から青年になった。それでも、まだ心の中に空白がある。それが、クロウに安堵を与えない。万事から一歩引いたような立ち位置で、物を見ることを要求する。
「………」
だからと言って、別に困ってはいない。今までに比べれば恵まれている。それだけだ。
「………」
何となく夜空を見上げ、タバコをふかす。月明かりを眼鏡のレンズが通し、グループのマークを一瞬だけ映す。
全てから興味を失ったかのように、男は夜の街を往く。
「鴉」の足跡
(何もなかった)
(誰もいなかった)
(自分だけだった)
(生きるために、強くなった)
(何を言われようと知った事ではない)
(生きなければ、何も出来なかった)
アルファルグ・フォーデスさんから名前のみ「スキュアロウ・バルカンチ」をお借りしました。クロウがどこか虚無ってるのはこういうわけです。
- 888
:えて子:2011/09/04(日) 16:27:34
- アオギリのお勉強・実技編。
*ここから先、残酷・グロ表現有。
『いちにんまえ』になるために
…アオは、何も知らない。何も覚えていない。
だから、アオはたくさんのことを覚えないといけない。
いかせのごれのこと、ホウオウグループのこと、ウスワイヤとアースセイバーのこと。
たくさん、勉強した。
でも、アオはまだみじゅく。
まだ覚えなければならないことが、たくさんある。
だから、アオはお勉強をしないといけない。
今日もお勉強。知らない人に知らない部屋に連れて行かれた。
…今。アオの目の前には、変な生き物がいる。
図鑑で見た、はちゅーるいのような、りょーせーるいのような、ヒトのような…
それが全部混ざったような感じ。
『せーぶつへーきのナリソコナイ』なんだって。
よく分からないけど、いらないものだ、って聞いた。
アオの今日のお勉強は、この変な生き物を倒すこと。
まだアオはみじゅくだから、これで練習するって聞いた。
知らない人は、アオにナイフを持たせると、部屋の外へ行ってしまった。
変な生き物は、ぎゅうぎゅうに縛られている。
…これなら、きっとアオにもできる。
ナイフを振り上げて、突き刺す。
ぶしゅっ、と音がして、液体が飛び散る。
変な生き物は、大きな鳴き声をあげて、じたばたしている。
でも、縛ってるものは、切れない。
アオのお勉強は、まだ終わってない。
この変な生き物が、動かなくなるまでやらないといけない。
鳴き声をあげ続けている変な生き物の上に足をかけると、上に乗る。
縄を切って、逃げられないように。お勉強を、続けられるように。
そうしてから、もう一度、ナイフを振り上げて、突き刺す。
それを繰り返す。
どすっ。 どすっ。 どすっ。 ぶしゅっ。
ナイフが刺さるたびに、そこから液体が流れる。
抜くと、それがアオにもかかるけど、気にしない。
どすっ。 どすっ。 どすっ。 びしゃっ。
…何回刺したかは、分からない。
そのうち、変な生き物は動かなくなっていた。
刺したところが繋がって、大きな傷になってる。
そこから、何か出ている。ないぞう…っていうんだっけ。
上からどけても、全然動かない。ないぞうを引っ張ったら、ずるずると出てきて、びちゃっと音を立てて床に落ちた。
アオが倒した。これは、アオが倒したしょうこ。
アオは、いちにんまえに少し近づいた。
…でも、アオはまだみじゅく。
変な生き物は、ぎゅうぎゅうに縛られていた。
だから、アオでも倒すことができた。
動いているものを倒さないと、いちにんまえじゃない。
アオはまだ、お勉強が必要だ。
今日のお勉強は、終わった。
明日は、どんなお勉強だろうか。
どんな内容でも、アオはお勉強を続ける。
「早くいちにんまえになりなさい」って、言われたから。
…アオの部屋に戻ろうとしたら、クロウに注意された。
たくさん、よごしてるって。
振り返ると、お勉強をした部屋からここまで、アオの足跡がついていた。
服も、変な生き物から出てきた液体でよごれている。
…よごさないお勉強も、必要かな。
名前のみ、スゴロクさんから「クロウ」さんをお借りしました。
- 889
:鶯色:2011/09/04(日) 16:59:23
- なんとなくフラグを置いてみる
時系列的には「黒井さんと百物語」よりも前のお話
十字メシアさんより「黒井さん」お借りしました
途中に出てくるのはうちのモブキャラです
―――――
今日も黒井さんは人をみている
いかせのごれのはずれにある、さびれた駅の前
さて、今日は誰と遊べるかな
あれ、あそこに居るのは…
忙しなく行き来する人の波、その中でただひとり立ち尽くしている一人の青年
皆時間に追われている中で、彼だけが置いていかれているようだ
その違和感を気にする人はいない
…正確に言えば、彼に気付く人はいない
ああ、彼は浮遊霊だ
あの様子だと、自分が死んだ事に気付いてないタイプかな?
ぼんやりと考えながら、彼女は少しだけ気配を強くした
「お兄さん、お兄さん」
呼びかけに気付くのは、彼だけ
振り向いた彼は、思っていたよりも少し若いようで
高校生くらいかな?
目が合うと、黒井さんはにっこりとほほ笑んだ
彼の虚ろだった目は徐々に生気が宿り、驚きの色に染まる
そして、黒井さんが逃げて、青年が追いかける。いつもの鬼ごっこをした
- 890
:鶯色:2011/09/04(日) 16:59:55
「この辺でいいかな?」
彼女はぴょん、と跳ねて、着地点でつま先を起点にくるりと半回転
楽しげに青年へと向き直り、鬼ごっこの終わりを示し笑う
はっと我に返る青年
ここは、さびれたロッカールームだ
駅のものだろうか、でも、階段を使った覚えも扉をくぐった記憶もない
「あの、ここは…」
「私は黒井さん、ねえ、お兄さんの名前を教えてよ」
状況確認をしたかったのに名乗られて、半ば反射的に返事をする
「俺は……、向井、だけど」
「下の名前は?」
「ちょっと呼ばれたくない、てのは無し?」
困ったように、でも初めて笑顔を見せた彼
その様子に満足して、黒井さんは目を輝かせた
「向井くんだね。よろしく!」
「それで、えっと、黒井さんで良いのかな」
「そうだよー」
「ここはどこなのかな、どうしてここにいるんだろう」
「んー、その前に、向井くんは今の自分がどんな状態かわかる?」
「え、っと…」
「別に責めてる訳じゃないよ、何でもいいの」
「もしかして、死んでる?」
「ご名答。自覚はあった?」
「……正直言うと、まだ生きてるんじゃないかなって」
「そうだよねえ、向井くんはきっと浮遊霊なんだね」
「そっか、やっぱりなあ」
「向井くんみたいなひとは多いよ、特にこういう場所では」
「…黒井さんは、霊感とかあるひとなの?」
「その考え方面白いな、でもぶっぶー」
「黒井さんは、妖怪なんだよ」
「えっ」
「向井くんをここに呼んだのも私、付き合ってくれる?」
「何に?」
「向井くんとはね、ここでゲームをしてほしいの」
「ゲーム?」
「ルールは簡単、このロッカールームの中から赤ちゃんを探し出してもらいます!」
「制限時間以内に出来れば向井くんの勝ち、出来なければ黒井さんの勝ち」
「もし向井くんが勝てば、お願い事をなんでも叶えてあげる」
「……なんでも?」
「そう、なんでも」
明らかに彼の眼の色が変わる
「それじゃ制限時間は一分。よーい…」
「え、マジ?わっ」
「ドン!」
- 891
:鶯色:2011/09/04(日) 17:00:31
とたんに、赤子の泣き声が響く
探し始めるも、開く扉は全く見当外れな場所ばかり
藁にすがるように扉を開ける、開ける、開ける
刻々と時間が迫る中、一向に見つかる気配は無い
(これは、ちょおっと無理かな)
「10秒前ー、9、8…」
カウントダウンに肩を跳ねさせ、また扉を開く
「5、4、3、2」
こんな様子でゲームをする人ははじめてだ
「1」
「0」の合図と共に開けたその先に赤子は、いない
「はい、タイムアウト。残念だったね」
放心したように扉の向こう側を見つめた後、向井はがっくりとうなだれた
「そんなに頑張っちゃって、どうしたの?」
「……未練があるから」
「何に対して?」
「それ言ったら、黒井さんは俺の事軽蔑するだろうさ」
軽蔑?そんなことないかもしれないのに
「向井さんは、人間なのかなあ」
「え、どういう意味?」
「んーん?それより、向井さん負けちゃったから」
「あ、もしかして死んじゃう?」
「そんなことしないよー、ただ元の場所に戻るだけ」
「そっか」
「そんなに叶えたいなら、また遊びに来ると良いよ」
「会えるのか?」
「うん、いつもはいかせのごれ駅にいるから、待ってるよ」
「それじゃあ、またね」
「うん、ばいばい」
向井は光に包まれて、ロッカールームから姿を消した
「またね、か」
「黒井さんは、いつ死んじゃっても良い存在なのになあ」
ロッカールームは声をあちこちに反響させて、彼女にこだました
『黒井さんと向井くん』
- 892
:大黒屋:2011/09/04(日) 20:06:47
- 「「今まで」と「これから」」の後になります。久しぶりの同時系列3人視点です。
名前のみスゴロクさんより「白波 アカネ」「白波 シドウ」「水波 ゲンブ」「一条寺 正人」、しらにゅいさんより「ロビン」をお借りしました。
フラグっぽいものがありますがスルーのつもりで書いてます。自分でも拾いません(笑)
短針は一番上をとうに通り過ぎた。
一人居間の椅子に体を預ける男は、窓越しに霞んだ空を見上げた。
時間の概念を持たない彼は睡魔に襲われることはない。
一家は既に上の階で寝ている。自分が迷惑をかけるわけにいかなかったのだ。
「…はぁ、今日は…いや、昨日哉?とにかく疲れる日だったな…。」
アカネを送り届けてから今までの経緯を思いかえし、彼はまた溜め息を吐いていた。
なんだかんだ自分はこの一家なしじゃ過去も今も語れない。その気持ちがあって付き添ったのもある。
月明かりだけを頼りに読み進めていた本を閉じ、しかしまぁ、と彼は呟く。
「なんとか無事におさまってよかったぜ。一時はどうなるかとひやひやしたが。」
夕刻頃のアカネの無言の重圧に耐えかねていた彼(しかも部屋の隅で正座である)。
ここでトラブルを起こそうものならただではすまないことは重々承知のつもりだったが、此処までとは思わなかった。
(流石のシンももうここには乗りこめまい…。)
(って、その考えが甘いんだよ、俺。)
彼は自らの両頬をはたいた。
そうだ、あのシンのことだ。なにをやらかしてくるかわからない。
(なにはともあれ主とゲンブさんの対策が早くできる事、『アルマ』さんとの連絡が取れる事。それを待つことしか今の俺にはできないからな。)
それまで体力充電だ、と彼は大きく伸びをし再び本を開いた。
「…それにしても遅いわね、カルーアトラズの皆さんが…。」
ウスワイヤの一室で彼女は腕組をしながら呟いた。
彼女の後ろでぎしぎしと物音がなる。
「…いや、まぁそうよね。貴方にとっちゃありがたいことよね。心の準備があるし。」
どうしたものかなぁ、と彼女は外を見た。
仕事が最優先なのか、ロビンから連絡が入ってないのか、はたまた何処かで事故ったか。
いずれにせよ、待つ側の「彼ら」は手の打ちようが無い。
背後の彼も未だそれ関連の未来が見えないという。都合の悪い能力と言えばそれまでだが。
「…今日も待っても無理ね。来間、今日は寝ましょ。」
彼女は踵を返し、扉を開けた。
扉が閉まる頃には、物音は一切消え去っていた。
ストラウルの奥地。
どさりと何かが落とされる音がした。
黒い人のような物体。しかしそれは跡形もなく消え去っていた。
暫く構えていた彼はゆっくりと周りを見回し、やがて警戒を解いて本を下ろした。
「…何なんだ、今のは?また「おかしな人」に襲われでもしたのかな、僕は。」
こんな夜中に外に出ている僕も悪いけど、と彼は言う。
周りに散乱するのはコンクリートの破片ばかり。
廃ビルにはその一部と思われる破片と(何故か)栞が突き刺さって大きく罅入っていた。
「…変わってないなぁ、僕…。」
その壁を見ながら彼はため息を吐くと、栞だけを抜き取ってその場を後にした。
…尚、彼は一枚だけ突き刺さった栞を忘れていた。
変わらぬ月夜の時間
ソノシズケサハ アラシノマエカ ソレトモアトカ
- 893
:スゴロク:2011/09/04(日) 23:26:56
- 翌日です。
「もう帰ってしまうんですか?」
「はい。名残惜しいですけど、俺は他にやることがあるので」
昼前になって積もり積もった話に区切りをつけたエトレクは、白波邸を辞していた。春美とゲンブによる対策と「アルマ」なる人物との連絡。それについての進展を確認する必要があったためだ。
アカネやランカは残念そうだったが(シドウは買い物)、「仕方がないですよね」「無理には止めないけど、また来てください」と送り出してくれた。心配ではあったが、いつまでもここにいるわけにもいかない。
「では、またいずれ」
寂寥を振り切るように、怪人赤マントは旧友の家を後にした。
「エトレクさーん、通報されないようにねー!」
「こら、ランカ!」
一言、ちょっと傷つく言葉を背に受けて。
「気持ちはわかるけど、大きな声で言っちゃダメでしょ」
「小さい声ならいいの?」
「そういうことじゃなくて、言われた方がどう思うかを考えなさい」
エトレクが帰った後の白波邸では、早速アカネのお説教が始まっていた。彼女はあくまで「叱る」ということに重点を置いており、怒鳴りつけることで恐怖を元にわからせるのではなく、理路整然と、わかりやすく諭し、なぜそれがいけないのかを自分で理解させる、という形だ。
この教育の賜物か、ランカは他人の心の機微に聡く、それでいて思いやりのある女の子に育った。そしてそれは、アズールに対しても同様。
「それとアズール、起こされるまで寝てちゃダメよ」
「す、すみません。アカネさんが帰って来たのが嬉しゅうて、なかなか寝付けへんかったもんで」
狐の姿のまま縮こまるアズールに、アカネはあくまでも正面から言う。
「そうだとしても、一度は起きて顔を見せなきゃダメ。でないと、心配になるでしょ? 起こしに行く方も手がいつも空いてるわけじゃないんだから、他人任せにするのも感心できないわね」
「面目ないです……でも」
「眠って目を覚ましたら、ほんまは全部夢やったんやないか……そう思うたら、怖うて眠れんかったんです」
「アズール……」
ランカにも、その気持ちは痛いほどよくわかった。今の今まで死んだものと思っていた母が、突然無事で帰って来たのである。ランカは喜んだが、アズールが感じたのは恐怖。今自分が見ているのがただの幻ではないのか、そう思ったのだ。
「………」
アズールの心象をようやく知ったアカネが取った行動は、彼女を撫でることだった。
「ふぇ……?」
「わかるでしょ? 私はここにいるわよ、アズール」
その暖かさが、何よりの証だった。
- 894
:スゴロク:2011/09/04(日) 23:28:32
- 「そういえば、あの子……マナちゃんはどうしたの?」
「あ、それなんですが」
アズールが言うには、昨日エトレクが事情を説明した後上にあがったのだが、それっきり姿が消えてしまったらしい。彼女は「ウェーブリンク」という波動を操る能力そのものらしいので、自分を散らばせてどこかにいるのは確かなのだが。
「……一度、その子とも話をしておかないとね」
「? お母さん、マナちゃんに用事があるの?」
「ん……ちょっとね」
昼過ぎになって来客があった。
何度もチャイムを鳴らす音がし、「誰かな?」と思ったランカが玄関に出る。
「はーい?」
「あ、ランカ! お母さんが帰って来たって本当なのか!?」
開口一番まくし立てたのはスザクだった。やたら慌てている。
「ど、どうしたの?」
「いや、来る途中でシドウさんに会って、それで聞いて」
どうも、買い物帰りのシドウと鉢合わせた際に話を聞いて、それでゲンブ共々飛んで来たらしい。
そのゲンブは、あまり驚いてはいない。
「俺は、昨日話をした時に春美から聞いた」
「昨日? じゃあ、エトレクさんとはすれ違っちゃったのかな」
「かも知れん。肝心の話の内容だが、これはアースセイバー全体の問題だろう、ということになってな。シノさんや聖、七篠教官とも協議し、ひとまず、学生メンバーを中心に警戒シフトを組むことで一致した。その中に『百物語組』が一名ずつ、交代で入る予定だが、これは後日当人たちと協議する」
「つまりは警戒を強くするってことかぁ……ところで綾ちゃん」
「っと、何?」
「用事ってそのこと? お母さん呼んで来ようか?」
ランカが奥を指差すと、スザクは「ああ、そうじゃないよ」と首を振る。
「『訪問』だよ。これから探偵事務所に流也さんを迎えに行くところなんだ」
「あれ、待ち合わせるんじゃなかったの?」
「マスター、マスター。霧波さんはえらい方向音痴やと聞いとりますが」
「あ、そうだったっけ……」
彼を一人で外に出すと、連れ戻すのに事務所のメインメンバーが一日出払う程の手間が必要となる。ならば、迎えに行った方が誰のためにもなる。その点は、ランカも同意せざるを得なかった。
「それで、迎えに来てくれたの?」
「ああ。さ、行こう。アズールも一緒にな」
と、そこへ。
「あら、出掛けるの?」
「あっ、お母さん」
家の奥からアカネが顔を出した。その眼がスザクを捉え、口元に笑みが浮かぶ。
「そう……あなた達ね、ランカの友達っていうのは。私は白波 アカネ、ランカの母親よ。よろしくね」
「は、はい。火波 スザクって言います、よろしく」
「水波 ゲンブです。どうぞよろしく」
簡単に自己紹介が済んだところで、改めてとアカネが尋ねる。
「どこに行くの?」
「えぇと、この間の大騒ぎの時……」
シン・シーの一件の後、「アカノミ」という巨木の妖怪の許を尋ねることにした旨を伝えると、アカネは「ふむ」と考え込んだ後、いきなり、
「よし、それなら私も行くわ」
なんてことを言いだした。
「え?」
「お母さんも来るの!?」
「ほ、本気ですか?」
「ええ、もちろん。ランカと一緒に出かけるの、これが初めてだもの」
(あ……)
思い返せば、ランカは最近退院するまでの間身体が非常に弱く、外出などまともに出来る状態ではなかった。アズールを拾った日、エトレクと会う日はたまたま調子のいい時だった。
そんな彼女だから、両親とどこかに出かけた記憶はない。アカネにしても、この機会はチャンスだった。
「それなら、いいですよ。流也さんがなんていうかわからないですけど……」
「大丈夫だよ、私が何も言わせないから」
言い切るランカの姿に、スザクとゲンブは彼女に頭が上がらない自分達を幻視した。
(……僕らの中だと、一番ヒエラルキーが高いのってランカだよな)
(認めたくはないが、そうだな)
かくて舞台は巨木のもとへ
(とりあえずの段落はついた)
(後は訪問を残すだけ)
(そう、当面は)
(六x・)さんより「アズール」、大黒屋さんより「エトレク」名前のみ「秋山 春美」「アカノミ」、十字メシアさんより名前のみ「シノ」、ネモさんより名前のみ「七篠 獏也」をお借りしました。
- 895
:十字メシア:2011/09/04(日) 23:43:49
- スゴロクさんの「強者の強者による強者の為の現実論」の後の話。
お借りしたキャラは、スゴロクさんから「クロウ」「ヴァイス」、びすたさんから名前のみで「ロゼ」です。
「全く」「ロゼちゃんは」「脆いくせに」「強者ぶるんだから」
先程までロゼのバーにいたモブ子は、呑気そうにストラウル跡地をてくてくと歩いていた。
彼女がここに来た目的は、「ストラウルでの異変の有無と内容を報告する」という任務。
因みにバーは寄り道である。
「でも」「飲み物は」「美味しいね」「特にさくらんぼのカクテル」「…未成年だけど(笑)」
ポロッと爆弾発言したが本人はあまり気にとめない。
学校に通わないホウオウグループの末端構成員だからか。
刹那。
「……」「そこ?」
と、地面に落ちていたコンクリの塊を、建物の陰に向かって投げつけた。
建物の一部ごと塊が粉砕すると同時に、黒い人影がその場を離れ、モブ子の目の前に降り立つ。
「あはっ☆」「当たった」
「…まさか気付かれるとは」
髪の白さが目立つほどの黒ずくめの人物が立ち上がる。
その表情には微かな狂気が。
「君」「誰?」
「ワタシはヴァイス=シュヴァルツ…アナタを壊しにきました」
「君が?」「噂の?」「狂気の脚本家」「ヴァイス=シュヴァルツ?」
「ええ」
するとモブ子はぱあっと明るい表情を浮かばせた。
「そうなんだ!」「いやー嬉しいな!」「噂のヴァイス君に」「出会えるなんて☆」「握手してくれるかな?」
とヴァイスに歩み寄り、手を差し出した、瞬間。
ヴァイスがナイフを投げつけ、モブ子の差し出した手に―――否、袖口から出てきたスタンガンに突き刺さった。
使い物にならなくなったスタンガンが、ゴトッと地面に落ちる。
「…あはっ☆」「ざーんねん」「バレちゃった(笑)」
「ワタシと握手したい人間なんて、いる訳がありませんからね。…これはホウオウグループ製ですか?」
スタンガンを見下ろすヴァイス。
スタンガンにはホウオウグループのエンブレムが刻まれていた。
「そう!」「このスタンガンは」「普通の物の」「30倍ぐらい」「つまり」「雷に打たれた時と」「同じぐらいの電流が流れるんだよ☆」
「雷ですか…相変わらず危なっかしいものを…」
「危なっかしい?」「君が言うセリフじゃ」「ないなあ(笑)」
「そうですか…まあそんな事はどうでもいい。アナタを壊させてもらいますよ」
「へえ」「どんな風に?」
「アナタが守っている”弱者”とやらを、アナタの手で殺すのです。これほど愉快な方法は他にない」
それを聞いたモブ子は。
「…やっぱ」 「オメーの事嫌いだわ(笑)」
- 896
:十字メシア:2011/09/04(日) 23:45:38
- 当然、気味の悪い笑顔を浮かばせて暴言を吐き出し始めた。
「人を壊して」「楽しむ」「明らか強者のやり方だよな」「モブ子ちゃん」「今すぐオメーの内蔵をみじん切りにしたい☆」
「アナタみたいな弱い人間には無理ですよ」
「あはっ☆」「弱者を見下すか」「三流脚本家(笑)」「いや」「五流脚本家?(笑)」「廃業しろ白髪カス☆」
「お断りします。こんな楽しい職業をやめる気なんて更々ありませんから」
「ふーん」「じゃあ」
「死に果てろ(笑)」
と背中から鉄パイプを取り出し、恐ろしい速さでヴァイスに殴りかかる。
ヴァイスは素早い身のこなしでそれをかわした。
「やれやれ…これのどこが”弱者”なんです?」
「あははっ☆」「勝利を貪欲に得ようとする」「それが弱者でしょ?」
「まあ間違ってはいませんがね…おっと!」
再び殴りかかってきた所をまたかわすヴァイス。
鉄パイプに叩き付けられた場所には、大きな地割れが走っていた。
モブ子の動きを見極めつつ、ヴァイスは何本かのナイフを投げる。
ドスッドスッ
「ありゃ」「刺さっちゃった☆」
「…化け物ですかアナタは」
「化け物?」「ひどいなあ」「モブ子ちゃんはただ」「勝利に貪欲なだけだよ」
「つまり、死のうが生きまいがどうでもいいと?」
「うん☆」
「…呆れた弱者ですねえ」
ナイフを投げ続けるヴァイス。
モブ子はそれを時にはかわし、時にはわざと受ける。
最初は鉄パイプを使っていたが―――。
「んー」「鉄パイプだけは」「飽きたなあ」「あ」「そっか」
おもむろに刺さったナイフを数本抜くモブ子。
傷から更に血が流れ出す。
「ナイフが」「あったんだ」「ラッキー☆」
ニカッと笑って、モブ子はヴァイスに向かってナイフを投げた。
しかしヴァイスは容易くそれをかわしていった。
ついに体に刺さったナイフを全て使いきってしまう。
「あーあ」「しょうがないや」「もうめんどくさいから」「こうしよ」
と、ヴァイスの方に向かうように、半壊している建物に鉄パイプを振り回す。
すると鉄パイプに薙がれた建物のコンクリが、ヴァイスへと飛んでいった。
「ッ!」
「あはっ☆」「驚いた?」「モブ子ちゃんは」「勝つためなら」「何でもするし」「何でも出来るんだよ☆」
「…これだから異常者は…」
「嫌いってか?」「モブ子ちゃんはオメーの事」「大嫌いだけどな(笑)」
けらけらと笑いながら建物を壊すモブ子。
ヴァイスに向かって次々とコンクリが飛んでいく。
ナイフを投げるものの、勝利の為なら生死を無視するモブ子にはあまり意味を成さなかった。
最早ヴァイスには打つ手が無い。
(…しかし)
と、ナイフを投げるのをやめる。
それを見たモブ子はニヤリと笑った。
「あ」「もう攻撃しないんだ」「じゃあ」「死ね(笑)」
鉄パイプを振り上げながら、ヴァイスに突進するモブ子。
が。
「!?」
モブ子の動きが突然止まった。
想定外の行動に、モブ子は驚きを隠せずにいる。
刹那。
「…ったぁあああ!!?」
膝に鋭い痛みが走った。
その瞬間、モブ子の顔から血の気が引く。
鉄パイプがモブ子の膝を突き刺していた。
それも、自分の手で。
- 897
:十字メシア:2011/09/04(日) 23:47:45
- 「!」「?」「え…」「どう」「いう…?」
「ワタシの能力ですよ」
「能力?」「まさか」「マニピュレイト!?」
「その通り。アナタの意思は今、ワタシの手の中…だから自分の手で自分を痛めつける事はおろか、アナタ自身の意思で”弱者”を殺すことも容易い」
「!!」
ヴァイスの言葉にモブ子は凍りつく。
「嫌だ!」「やめろ!」「モブ子ちゃんの敵に」「弱い人はいない!!」
「ククク…アナタにとって、これほど屈辱的な敗北は無いでしょう?」
「嫌だ!」「嫌だ!」「怖い!」「やめろ!」「そんなの」「認めない!」「やめろ!」「モブ子ちゃんは」「弱者だ!」「弱い人の味方だ!!」「殺したくない!」
いつも以上に狼狽するモブ子。
彼女のそんな悲痛の声を無視し、ヴァイスは言った。
「終わりです…無敗の弱者」
その瞬間、モブ子の脳裏にある記憶が甦る。
冷たい視線、侮蔑の罵声、毎日背負う傷と痛み、不幸の渦中、そして―――目の前に広がる赤い世界。
「やめろ!」「やめろ!!」「やめろ!!!」「やめろ!!!!」「やめろ!!!!!」
「強者風情が!」「弱者の上に立つなんざ!」「モブ子ちゃんが!」「許すわけねーだろ!!」
「お前みたいな!」「強者に!」「弱い人の!」「苦しみが!」「痛みが!」「傷が!」「悲しみが!」「心が!」「生き方が!」「分かんねーのかぁあああああ!!!!」
大粒の涙を流すモブ子。
揺れる視界に映るヴァイスが、歩み寄る。
その時だった。
「!?」
突然、ヴァイスが後退した。
と同時に、彼がいた場所に数本の氷柱が刺さった。
ヴァイスが視線を上に向けると、そこには―――。
「アナタは…雪女」
「白奈だけじゃないぞ」
「!!」
背後から聞こえた声に、ヴァイスは思わず横へ飛んだ。
血色の髪、金色の目、そしてあのエンブレムが浮かぶ眼鏡が特徴的なその男を、ヴァイスは知っていた。
「…クロウ、ですか」
「そうだ。総帥の命令により、お前には死んでもらうぞ」
唖然とするモブ子の元に、白奈が降り立つ。
「モブ子ちゃん、大丈夫?」
「白奈ちゃん…」
「あっ、ひどい傷! ちょっと痛むから我慢してねっ」
モブ子の膝の傷に向かって、加減して冷気を吐く白奈。
すると傷が氷に覆われ、血も固まった。
「応急処置。帰ったらちゃんと手当てするから」
「ありがとう」
白奈がヴァイスの方に向き直る。
辺りを見回し、ヴァイスは溜め池をついた。
「…とんだ邪魔者が入りましたね…今日はここまでにしておきますか」
「あっ、こら! 待てえっ!」
駆け出す白奈。
しかしヴァイスは得意の素早い逃げ足で去ってしまった。
「あーあ…折角見つけたのに」
「次見つけたら殺せばいい。それにモブ子の傷の手当てが先決だ」
「あー、そうですねっ。モブ子ちゃん帰ろう」
「う、うん」
-数日後-
「クロウ君」
「…なんだ鈴子」
「この前は」「ありがとうね」
「抹殺対象を見つけたからだ。お前が他の敵相手に死にかけても、別に助けるつもりはない」
「ありゃ」「酷いね」「まあ」「モブ子ちゃんも」「お前だったら」「そうするけどな(笑)」
軽めの暴言を吐き捨てるモブ子。
「じゃあ」「モブ子ちゃん」「仕事してくるよ」「ばいばーい」
手をぶんぶん振って去るモブ子の背中を、クロウは見送った。
「…弱者の心か」
ヴァイスにやられかけていたモブ子が叫びながら言った言葉を、ぽつりと呟く。
「…やはり俺には理解できんな」
弱さを知る弱者
(強さを嫌う弱者)
(弱さを知らぬ強者)
(相容れない二人)
- 898
:大黒屋:2011/09/05(月) 21:35:43
- 前作の最後のフラグ、結局自分で拾いました;「かくて舞台は巨木のもとへ」とほぼ同時になります。
スゴロクさんより「水波 ゲンブ」「霧波 流也」をお借りしました。
歓迎執行
「ストラウルでまた騒ぎが…?」
休日のある日。自宅で新聞を開いていた幹久朗は、地域面の記事に眼をつけた。
「まだ定期報告が来る前だから知らなくて当然なんだろうが…。」
小さな写真がついた記事を読む。
今迄に起こった大騒ぎほどではないが、ストラウルの一角がまた荒れているという。
写真は見なれた灰色。建物に大きくひびが入り、コンクリの塊やら血やらが散乱していた。
「…たく、これだから人工物は好きになれな…ん?」
ふと、幹久朗は写真の中央に妙なものを見た。
建物の罅から何かが出ている。青い小さな何かのようだが、それが何なのかは小さすぎて分からない。
(…が、ナイフとかそういう類じゃなさそうだな…。)
だとするとどうして、と彼は疑問に思った。
これだ小さいのだ。ナイフはおろか、所謂凶器にしては小さすぎる。
これは一体何なのだろう。どうして壁にめり込んでいるのだろう。
「…新手の能力者の可能性もあるな。ウスワイヤに相談して一度現場を見にいった方がよさそうだ。」
彼は立ち上がり、電話に手を伸ばした。その時。
『…もしもし、幹久朗さん?』
行き成り頭の中に声が響いた。彼は顔を上げ、声の主の名をよんだ。
「主?どうしたんだ急に?」
『報告だよ。昨日ゲンブさんがこっちに来て…。』
「つまり、シフト組むから予定を開けておてくれと。」
『ごめんね。でもできるだけ全員そろった方がいいんじゃないかなと思って。』
「了解した。アカノミにも伝えておく。」
『あ、それで今日、ゲンブさん達がアカノミのもとに向かうって!』
「そうなのか!了解、ありがとう!」
通信を切るなり彼は鞄をひっつかんで外に飛び出した。
(ゲンブさんが来るならそのついでにストラウルの件は話すことにするか…。)
深い森を抜け東の平原に出るなり、『友人』は嬉しそうに枝葉を僅かに揺らした。
「アカノミ!今日、流也さんが皆を連れてくるぞ!」
『本当!?わぁ…!』
人の姿へと変化したアカノミはもどかしそうに手袋をはめた両手を見る。
「『東』にこの姿見せるの初めてだからなぁ…。驚かないかな?」
「大丈夫だろ。それに、そのほうが意志疎通しやすいだろ?」
さぁもうすぐだ、と幹久朗は遠くを見ながら言った。
- 899
:十字メシア:2011/09/05(月) 22:32:57
- 「弱い人の味方」という点に着目したらこうなった。
ウスワイアに入ってないエミール君が出入りしてるから大丈夫かな…;
某日、ホウオウグループ。
ジャージを着た、乱れた茶髪と金色の目の少女がせわしなく動き回っていた。
モブ子である。
「ゼア君」「過去に造られた」「生物兵器のデータ」「持ってきたよ」
「ああ、ありがとうございます。そこに置いといて下さい」
「うん」
バサッと、積み上げられた書類を置く。
「じゃあ」「他の雑務を」「やってくるから」
「ええ」
と、ゼアの元から離れた次は、箒と水入りバケツ、雑巾を持って生物兵器の保管室に入る。
箒を壁に立て掛け、雑巾をバケツに入った水に浸して絞り、机やら器具やらガラスケースを拭き始めた。
かなりのスピードで。
「~♪」「~♪」
鼻歌を歌っている。
「…よし」「次は床」
拭き終わると一旦雑巾をバケツの中に入れ、箒を手に取って床を掃く。
「空をなーがる♪」「雲のよーうに♪」
今度は「赤碧の空」を歌い出した。
一通り掃き終わると、仕上げとして再び絞った雑巾を手に床を拭く。
「あなたがもし♪」「泣くのなーらば♪」「雨のそーらを♪」「虹にかーえよう♪」
…結構ノリノリに歌っている。
「よーっし!」「掃除完了!」
背伸びした後、箒とバケツと雑巾を手に保管室から出た。
「ようやく」「終わっt」
「モブ子ー、お茶くれー」
「……」「はーい」
このパシリ振りも、「モブ子」呼ばわりされる一因でもあったりする。
- 900
:十字メシア:2011/09/05(月) 22:36:26
- 「やっと」「解放された…」「皆」「元気かなー」
街道を歩くモブ子。
やがてある建物が見えてきた。
能力者の孤児を引き取るリリス孤児院と、それを経営する修道女が暮らすリリス修道院である。
彼女は暇を見つけては、ここの子供の遊び相手をしていた。
「皆ー」「こんにちはー」
「あっ、リン姉ちゃんだ!」
「お姉ちゃんー!」
子供が一斉に集まってくる。
モブ子は思わず顔を綻ばせた。
奥からマザーのリリスが出てくる。
「リンさん、今日も来てくれたんですね」
「リンちゃんの」「楽しみだから」
「いつもありがとうございます。子供達もリンさんと遊ぶの、楽しみにしてるんですよ」
「ありゃ」「それは」「嬉しいなあ」「リンちゃんも」「皆と遊ぶの」「好きですから」
「姉ちゃん! 俺とヒーローごっこしよー!」
「やだ! 私とおままごとするのー!」
「こらこら」「皆で一緒に」「遊ばないと」「楽しくないでしょ?」「大縄とび」「しよう」
しかしモブ子の提案が気に入らないのか、子供達からブーイングが起こった。
「つまんなーい!」
「他のがいい!」
「まあまあ」「やってみようよ」「結構」「楽しいから」
渋々賛成する子供達。
モブ子は縄を用意する。
「すいません」「リリスさん」「そっちを」「持ってくれませんか?」
「はい」
にっこり笑って縄の片方を持つリリス。
「じゃあ」「行くよー」
縄を回し始める二人。
だが列の最初にいる男の子が中々入ろうとしない。
「ほら」「頑張って」「大丈夫だよ」
「う…うん」
思い切って縄に入る男の子。
すると、上手く引っ掛からずに入ることが出来た。
「おおっ」「出来たじゃん」
「へへっ…」
「はい」「次の子ー」
並んでいた子供達が次々と縄に入っていく。
「…七回」「八回」「九回」「十回!」「凄い!」「十回も飛べたじゃん!」
満面の笑みで褒めるモブ子。
褒められた子供達は皆、照れ笑いをしていた。
「次は」「何したいー?」
「鬼ごっこ!」
「かくれんぼしよー!」
「じゃあ」「鬼ごっこに」「しようか!」
-
最終更新:2012年02月29日 13:49