ほんの一瞬の出来事だった。
ずたずたになった相手の左腕、飛び散る赤い液体。
飛んできたそれが佑の顔を染めた瞬間、
――――世界が、色を変えた。
「――――――!!」
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
意識には靄がかかったようだが、やけにクリアに感じる。
佑は、この感覚を前にも味わったことがあった。
調理実習で、怪我をした
コトムの手を取ったときにだ。
自分が自分ではなくなっていくような、そんな感覚。
その感覚が何なのか、佑には分からない。
しかし、戸惑っている暇はなかった。
「………っ!!」
何かに突き動かされるように、足元の小さな瓦礫を拾い上げる。
そして、理人の背後から思い切り投げつけた。
「………なっ!?」
石は機械兵に直撃して弾けた。
欠片が関節部に入ったのか、機械兵の動きがさらに鈍くなる。
理人が驚いたのも、見えた。
目の前の出来事に一瞬呆気に取られたが、色の変わった世界が体に馴染むにつれて、佑の心の奥底にある本能は唐突に理解した。
これが、理人が説明してくれた“性質付加”という特殊能力なのだろうと。
何故彼の力を自分が使えるのかは分からないが、そんなことを考えている暇はない。
まだ機械兵は動いている。倒さなければ。
何か奴を倒すために使えるものはないかと辺りを見回し、
「………これだ!!」
突然大声で叫ぶと、佑はいきなり持っていた鞄をひっくり返して、中身をぶちまけ始めた。
教科書やノート、筆箱、裁縫道具などがばらばらと地面に散らばる。
「………?」
まったく何の脈絡もない行為に理人は驚いたように佑を見ているが、佑はそんなことお構いなしだ。
「………これでいい」
中身をぶちまけ、空になった鞄を手に構える。
先程の理人の攻撃で、機械兵はかなりのダメージを負っているようだ。
佑でも動きが読め、先回りできる。
ゆっくりと息を吸い、吐く。
強く、強く、頭にイメージを描き出す。
「………っ……」
じりじりと少しずつ間合いを詰めていき、
「……わああああああああっ!!!!!」
自らを奮い立たせるように大声を上げ、走り出す。
動きの鈍った機械兵の背後へと回ると、その頭から思い切り鞄をかぶせた。
すると、明らかに入るはずのない鞄の中に、機械兵が吸い込まれるように消えていく。
完全に入りきったところで、すかさず鞄を閉めた。
鞄から音沙汰は、ない。
「はぁ……はぁ…」
助かった。
その安堵の思いが心を満たし、深く息を吐いた。
その思いに応えるかのように世界の色が元へと戻り、
「………う、っ!!」
―――同時に、 酷い頭痛に襲われた。
激しい頭の痛みに、思わず呻き声を上げて膝をつく。
ガンガンと脳を揺さぶられているような、金槌で何度も叩かれているような、そんな衝撃。
「……いた、い……あたま、が…割れる……!」
あの時は気持ち悪さもあったが、今回はそれがない。
その代わりに、頭の痛みがひどかった。
歯を食い縛って耐えなければ、すぐにでも意識を持っていかれそうだ。
正直、耐えるのも辛い。痛みで涙が出そうになる。
「……はやく……逃げ、ないと……」
そうだ。あの機械兵は量産型だと言っていた。もしかしたらまだいるのかもしれない。
何故そんな大事なことを忘れていたのか。こんな所で倒れたら、それこそ格好の的だ。
早く、この場から離れなければ。
しかし、佑の体は、限界だった。
「――!―――!!」
「…………」
理人の声も、遠くに聞こえる。
佑はぐったりと倒れこむと、そのまま意識を手放した。
覚醒
(知ってしまった、出会ってしまった)
(もはや夢では済まされない)
最終更新:2012年03月07日 18:40