秋山家の寺院。
この寺のある一室で、一人の少女が陰陽師修行に励んでいた。
「………」
手拭いで目隠しをしている少女の手には、何枚かの護符。
少女は平静さを保ちつつ、迫り来る標的の気配を感じ取ろうと集中する。
「……!」
―――来る!
少女は気配を感じた方に向かって護符を飛ばした。
すると何かが爆発した音が耳に入る。
だが別の標的が、少女に休む間を与えず襲ってくる。
しかし少女もまた、それに向けて護符を飛ばす。
再び爆発音が響いた。
そして最後に、少女は上に向かって護符を飛ばす。
上から襲いかかろうとした標的は、護符の爆発で消え去った。
「ふー……」
一息つき、少女は目隠しを外す。
その下から現れた瞳の色は、海を思わせる色をしていた。
「お疲れ様ー!」
「ありんとなあ(ありがとう)、ノラ。修行につきおってもらーて」
「いいよ別に。ちょうど暇だったから」
「で、どげな(どうだった)?」
「え?」
「修行の成果はどうだったって事やなか」
「ああ、ごめんごめん。廻ちゃんの言葉遣い、よく分かんなくて」
「ごますなあ(ごめんなさい)、ちいちゃい時からの癖なもんでなー」
廻、と呼ばれた少女が苦笑する。
「前より反応が早くなってたよ。多分、妖気の感度が鮮明になってきたのかも」
「ほまか(本当か)? よっしゃあ!」
廻が嬉しそうに飛び上がった。
それを見たノラの表情も明るいものだった。
その時、部屋に古傘を担いだ少年―――
ゴクオーが入ってきた。
「おお、廻にノラか。何をしてたんじゃ?」
「あ、ゴクオー」
「今ね、廻ちゃんの修行に付き合ってたの」
「そうか。しかし陰陽術は妖怪にとってはかなりの痛手の筈じゃが…」
「ノラの”黒妖犬”を的にしてんな」
「なるほど、そういう事か」
「ところでゴクオーは何してんの?」
「いや、暇潰しに適当にうろついててな、この部屋から話し声が聞こえてきて、入ってみたらお前らがいたという訳じゃ」
「そっか」
「そういや廻、昨日学校で告られたらしいの」
ゴクオーの口から出た爆弾発言に、廻の顔は真っ赤になり、ノラは目を輝かせた。
「おまい…なきにし(何で)それを…」
「昨日、
ブレラで空を飛んでたら見た」
「!!?」
「廻ちゃんすごーい! 返事はどうするの!? というかどんな子なの?」
「中々顔立ちのいい奴じゃったな」
「へええー!」
「待たんね!」
突然の事態に狼狽える廻。
「とりえず、そげの話はやむねか(やめて)! はじすね(恥ずかしい)!!」
「いいじゃん! 詳しく聞かせてよ~」
「ノラ~!」
「しかしお前みたいな変な喋り方がなあ……」
カチン
「…ゴクオー。そげはどげな(どういう)意味か?」
「どう考えてもモテる訳ないじゃろが。言葉遣いといい、ルックスといい……」
「ゴクオー、それ言い過ぎだよ」
「…ルックスはともかく、言葉遣いはゴクオーもそうやが」
「わしは普通じゃ。お前は変すぎる」
「変!? そげ言うちょうが、おまかて充分変がえ!!」
「いーや、わしより10倍変じゃ」
ブチッ
「このかすっけろ! くさまじ!! ぐさらっこがあ!!! かっぱしたんわーー!!!!(カスったれ クソったれ バカたれ 滅してやる)」
「おーおー、やってみい。…どうせ無理じゃがな」
「ぬげああぁああぁあ!! ぐさらっこ(ばかもん)閻魔なぐせに、はらくそがねぇええ(腹立つ)!」
「お、落ち着いて廻ちゃん! ゴクオーもあんまりそういう事言っちゃ駄目だって!」
「いいじゃろ。面白いし」
「も~…」
「来い廻。修行がてら相手してやるわ」
「後悔すねんなぐさらっこ閻魔!」
「誰か~! この2人を止めて~!」
『秋山家のとある門下生』
最終更新:2012年05月20日 19:31