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皇帝、法王に会う

皇帝、法王に会う


事件から2日後、笙子はリビングで夫と話していた。美琴は、まだ部屋で寝ている。


「美弦さん、美琴なんだけど…明日から学校行かせた方がいいかしら?」
「いや、当分は休ませた方がいいと思う。友達に会って思い出すのもつらいからね。あの子は何も悪くないのに、ひどい奴だよ。」
「精神的ダメージが大き過ぎると、一時的に術が使えないのよね?…怒られるのを承知で言うけど、術が使えないまま一般人として暮らした方があの子のためなんじゃないかしら、って思ったの。」
「親としてはそういう考えもある、笙子さんを怒ることはできない。でも、今の美琴に『もう戦わなくていいから下がってろ』なんていったらますますふさぎ込んでしまうと思うんだ。大丈夫、僕がなんとかするから笙子さんは美琴の側にいてあげて。」

美弦は笑いながら言うと、鍵とヘルメットを持った。
「ブラックメテオは整備済みよ、美弦さん」
「さすが笙子さん、行って来るよ。」


数時間後、美弦は沖縄の地に愛機を停めた。横の建物には「崎原ガラス工房」の看板。

「…ここに帰るのも久しぶりだな。」

美弦が呟いた直後、工房から藍色の髪にタオルを巻いた青年が出てくる。美弦の父親、美琴にとっては祖父に当たる──崎原 弦正だ。

「でかい音がしたから美弦かと思ったが、やっぱりそうだったか。」
「うん。父さんってホント爺に見えないよねw」
「見た目若くても、もう何歳かもわからんボケ老人さwww…笙子さんからだいたいは聞いている、とりあえず入れ。」

弦正は工房の扉にかかったプレートを「営業中」から「準備中」に替えた。


「ごめんね、父さんも忙しいのに。」
「可愛い孫のためなら、これくらいなんくるないさー。さて、元々沖縄に住んでいた崎原一族のうちの何人かがいかせのごれに移民し、守人の一員になった事は知ってるな。」
「あぁ、でも今回の件は出身地あまり関係ない気がするよ。」
「大事なことだから何回~ってやつさ。美弦、お前が昔同胞を殺されて暴走したのは覚えているか?」
「…あまり思い出したくないけどね。あんな黒い星を出したなんて、今でも信じられない。」
「ワシらの術は、使用者の心に左右されるからな。戦意を喪失すれば術が発動しないし、勝ちたいと願えば願うほど強くなる。怒りや憎しみなど負の感情でも力は増幅されるが、それに身を任せるとただの暴走にしかならんし星弾も濁る。…哀れなものさ。」

憂いを含んだ表情で語る弦正。暴走し、道を踏み外した同胞を何人も見てきたのだろう。

「美琴も…催眠術にかかっていたとはいえ、友達や親を本気で殺そうとした。他人が傷付くことを嫌う優しいあの子のことだ、その罪悪感から禁術まで使おうとしたのも無理もないよ。」
「いつ死ぬかわからん世界に孫を送り出したこと、今でもそれでよかったかどうか悩む。でもな美弦、こういうのは周りが悩んだところでどうにもならん。最終的に自分のことを決めるのは自分さ。今回みたいに壁にぶつかったようなら、助けてやればいい。それが家族、いちゃりばちょおでぇ、だろう?」
「一度会えば皆兄弟、か。そうだな。凝った解決法なんていらなかった、普通に支えてやればいいんだ。父さん、助かったよ。ありがとう。戻って美琴を元気にしなきゃ。」
「あぁ、その事だが、ワシも行く。」
「えっ?」

タオルを外して畳み、古びたローブを羽織る弦正。

「お前が来る少し前に、笙子さんから連絡があった。美琴は監視員つきで1週間自宅謹慎、とな。」
「な、監視員って…というか父さん、何だよその格好!」
「真面目な話をするから、正装みたいなもんさ。ワシは守人は引退した身だが、監視員を送った奴の所へ行って話をするくらいはできる。心配はいらん。平和的に解決してくる。」
「ウスワイヤに美琴を連れて行ったのは僕だからね、ついて行くよ。」
「うむ。さぁ、行くとするか。」


皇帝と法王を乗せた黒き流星は、ウスワイヤを目指して飛び立つ

余談

「監視員か…美琴の行動にいちいち口出しするような人じゃないといいけど。ねぇ父さん…今気付いたけど、ノーヘルじゃない?」
「美弦は安全運転だから、なんくるないさー」
「なりません!!さっきカッコよかったのに締まらんなもう!!」

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最終更新:2012年07月28日 16:16