いかせのごれ高校、1年2組の教室。
みくは同学年の生徒であるタチから、裁縫を教わっていた。
「で…こう?」
「そうそう。みく殿は上達がお早いですな」
「そ、そんな事ないよ…」
「これなら、みく殿の夢もきっと叶いまする。
カイリ殿も信じておられますよ」
「そう、かな…」
刹那。
チョークの音が響きだした。
二人がついと、視線を向けると…。
[生意気ハリネズミ 死ね 学校来んな]
「…!」
「……」
俯くみく。
それを見た当人らがクスクスと笑い声を上げる。
それを見たタチは憤慨する。
「お主ら! みく殿に何をするでござるか!!」
「えー? あたし達別に、落書きしてただけだよ?」
「どこにもソイツの名前書いてないじゃん」
「ねー!」
握り締めた拳を震えさせながらも、タチは冷静に言葉を紡ぐ。
「…だったら、今すぐ、消して下され」
「はぁ? 何でアンタからそんな指図受けなきゃいけねーんだよ」
「ここのクラスの奴じゃない癖にさー」
「…ッ!!」
その言葉思わずカッとなったタチは、裁縫用の物差しを女子達に投げつけた。
物差しは見事、一人の女子の額にクリーンヒットした。
「ったぁ~…ちょっと、何すんのよ!!」
「当然の報いでござりまする!!」
「この、………ウゼェんだよ!」
駆け寄った女子に思い切り顔を殴られ、タチは床に倒れ伏す。
それに寄って集って別の女子が彼を蹴り出した。
「生意気!!」
「死ね!!」
「ぐ…ッ!」
「や…やめ―――」
みくもそこで思わず声を上げかけたその時。
「…!? 何してんのよ!!」
「ヒッ!」
一人の女子が、黒板の陰湿な落書きを消していた少年に気付き、声を張り上げた。
振り向いた少年は、男にしては長い金髪と可愛らしい桃色の目で、顔立ちも女の子に見えなくも無い。
その少年をみくとタチは知っていた。
「倉丸…君?」
「倉丸殿」
二人の声を無視し、倉丸にターゲットを絞ったらしい女子達が彼に近寄る。
「何アンタ、アイツの味方でもすんの?」
「え…いや、あの…その……わっ!」
「倉丸殿!」
「倉丸君…!」
廊下に突き飛ばされる倉丸。
「ねえ、ムカつくんだけど」
「何様のつもりだよ」
「ぼ、ぼくは、ただ…らく、落書き消して、た、だけ…です」
女子達の剣幕に涙を浮かべる倉丸。
と。
「どうしたー? 倉丸」
「! お姉ちゃん!」
「…え、財部先輩?」
倉丸を心配して廊下に出たみくとタチは、一応顔見知りだった希流湖の登場に驚いた。
「よっ、みくにタチ」
「どうしてここに…?」
「ちょっと倉丸の顔見に。…で、倉丸が何かしたのか?」
少し体が跳ねながらも、虚勢は未だ保ったままの女子達ははねつける様に言った。
「ソイツ、あたし達の落書き勝手に消したんだよ」
「お主ら…ッ!」
掴みかかりそうになるタチを制し、希流湖は変わらぬ風袋で続ける。
「そうか…倉丸、何で消したんだ?」
「え…っと……」
「言ってみな。お姉ちゃん怒らないから」
穏やかな笑みを浮かべる希流湖。
「……そのひ…その人達、くーちゃん、の悪口、かい、書いてたから…」
「あ? 書いてねーし」
「……後、たっちーくん、殴った、り…蹴ったり、して、た、し…」
「姉貴いるからって調子乗んなよ!!」
「ナヨ男が!」
「う……」
「まーまーまーまー」
苦笑気味に宥める希流湖。
「…倉丸、ギター持ってるか?」
「? うん」
「よし。なあお前ら、倉丸のギターと歌、聞いてみね?」
「は…?」
「何でよ」
「こいつ、オレのバンドでギター担当してんだよ。後ツインボーカルも。折角だから聞いてみろよ、スゲーから」
「どうせ下手じゃね?」
「何か似合わないしー」
「だよねー」
明らかに嘗めた様な笑みを浮かべる女子達。
「いやいや、マジ上手いから。自慢の弟だぜー」
「お、お姉ちゃん…あた、頭撫で…ないでよ…恥ずか、しい…」
顔を赤らめながらも嬉しそうにする倉丸。
「ブッ、やっぱシスコンじゃん」
「ダッサー」
「うう…」
「はいはい。音楽室に行くぞー…っと、みく」
「は、はい?」
「悪いけど、お前は教室に戻ってくれねーか?」
「え…で、でも…」
「ごめんな。気持ちは分かるけど…でも聞いたらビックリすると思うし…な?」
「…わ、分かりました……」
「サンキュ。悪いな」
「…で」
「ん?」
「何で他の上級生もいんの?」
小声で尋ねる女子。
ちらりと見た方には、希流湖のクラスメイトの紀伊、そしてスザクとその妹であるアオイの姿があった。
というのも、アオイが見る者を凍りつかせる様な笑顔を浮かべていたからである。
実は希流湖が事の顛末を話したからなのだが。
「観客多い方がいいじゃん。ほら座れ座れー」
手をひらひらさせ、女子達に着席を促す希流湖。
当の彼女はアオイの隣に座る。
「倉丸さん、最近どうですの?」
「相変わらず上手いぜー。楽しみにしときな」
「はい!」
「…どーせミスするよね」
「間違えたらお姉ちゃーんって泣きそう」
「あーそれありえr」
「ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
『!!?!??』
不意討ちの如く、音楽室に鳴り響いた咆哮。
音楽に詳しい人間、特にその分野を好む者はその声を……『デスボイス』と言う。
そしてその声を発しているのは紛れもない。
倉丸だった。
…倉丸だった。
「………」
「ほら姉様素敵でしょう!?」
「アオイ先輩、スザク先輩放心しておりまする……」
「いやーマジスゲーなお前の弟」
「だろー?」
驚愕のリアクションをする中、希流湖はただ一人自慢気に笑っていた。
因みに女子達は。
『…………』
震えていた。
「♪闇夜の帳に這いつくばる!!! 蠢く枯れた腕になりて!!! 今宵血肉を…喰らい尽くすゥァアアアアアアアアアアア!!!」
すっかりトランス状態の倉丸。
その時希流湖は。
「…あーもう我慢出来ねえ! オレも一緒に歌うぜ倉丸!」
「えっ」
「キャー! 益々素敵ですわー!!」
「アオイ…」
「…生き生きしてんな」
最早怖いもの無し状態である。
そして女子達は遂に。
『…………』
気絶に至った。
Death voice And Guitar
―翌日―
「おはよー」
『ヒィッ!?』
バタバタバタバタ…
「? 何だアイツら。何でお前にビビってんだ?」
「あは…あははは…」
「そういや、昨日の昼休みに音楽室から凄い声聞こえてきたな…」
「そっ……それ、って…」
「あ? 何だよ。何かあるんならはっきり言えよ」
「ひぃッご、ごめん…そ、れ…ぼく、です…」
「…は?」
「だ、だから、ぼく、です…うぅぅ」
「マジで?お前あんな声出せんの!?すげー!うわー、アレお前だったのか!」
「あ、あの…」
「ライブかなんかやるんだろ!?今度呼べって!な!」
「え、あ………うん…」
「昨日のやつ、センコーに怒られちゃったよ」
「まあ当たり前だわな」
「ははっ。でもあのいじめっ子ら、倉丸を見る度に逃げてるらしいぜ。やっぱ聞かせて正解だったよ」
「最初からそれ狙いだったのか…」
「こちらも素敵なギターと歌声、聞かせて頂いて嬉しかったです!」
「そりゃ良かった。またライヴ来いよ、昨日の曲やるからさ」
「はい! 是非とも!」
「…………」
最終更新:2012年08月06日 14:27