アットウィキロゴ

ヤクザと魔女とパリジャン

―ウスワイヤ―

「お母さん、何焼いてるの?」
「パリジャンよ。この前、レシピ知ったから作ろうと思って」
「へー」

ウスワイヤでの侵入者騒ぎから数日。
シグマの母親、エマは自室に特別に造らせてもらった竈でパンを焼いていた。

「焼けたらミユカ呼んでいい?」
「勿論。でもたまには他の子も呼んだら?」
「うー…でもミユカ以外友達いないもん」
「あらあら…もっと友達作らなきゃ。ミユカちゃんも毎日暇じゃないのよ?」
「うん…」

俯く息子の頭を撫でるエマ。

「ミユカちゃんに、他の子と仲良くなれる様に協力してもらいなさい。ね?」
「分かった!」
「いい子ね。さ、パンが焼けるまで何しましょうか?」
「絵本呼んで!」
「はいはい。何にしようかしら…」


「…あっ、良い匂いするー!」
「あら本当、焼けたみたいね」

ガタン

「わあ…美味しそー!」
「上手く出来て良かったわ」
「じゃあミユカ呼んでくる!」
「あ、ちょっと待って」
「?」

エマは焼けたパリジャンを3つほど、小さいバスケットの中に入れる。

「? それどうするの?」
「聖さんにお裾分け」
「えー! 何でアイツにー!?」

不平を口にするシグマ。
エマは苦笑気味に彼の頭を撫でる。

「この間、聖さんが守ってくれたでしょう? ちゃんとお礼をしなきゃ」
「でも…アイツ、皆の悪口言ってるし、嫌いだ!」
「ふふっ。確かにあの人はいつもそんな態度だけど、私と貴方を守ってくれたのは事実よ」
「うー…」
「それじゃあ渡してくるから、ミユカちゃんと先に食べてなさい」
「はーい」





「…ここね!」

張り切った様な笑みで聖の自室前に立つエマ。
一呼吸すると、ドアを二回ノックした。

「エマです。聖さん…いますか?」

…反応が無い。
と思いきや。

ガチャ

「…何だ」

仏頂面で聖が顔を出した。
その様子でエマの笑みが明るくなる。

「あっあの! これ、この前守ってくれたお礼です! パリジャンって言うパンなんですけど…あっ、甘くないので大丈夫です!」
「…いらん」
「えっ、でも…」
「いらん」

たった一言残し、聖はドアを閉めた。
茫然とするエマ。
だが意外にも、彼女はここで諦めようとはしない。
床に手をつけると―――。

「……えいっ!」

ドゴォオッ!

「…………」

一本の太い茨のツルがドアを破壊した。
突然の事に聖は一瞬固まるも、すぐ怒鳴り声を上げる。

「何しやがんだテメェ!!」
「パンを受け取っていたら、こうなりませんでしたよ?」
「だからって何もドアを壊す事なんざ―――」
「という訳で、はいっ。どうぞ♪」

満面の笑みと共にパンの入ったバスケットを差し出すエマ。
言葉の先を遮られたのもあってか、聖は唖然とするしか無かった。

「お願いですから、受け取って下さい」
「…………はあ、分かったよ」
「ありがとうございます! あ、ドアの修理については、所長さんに言っておきますので…ではまた」

駆け足で自室を出る…と思いきや。

「あっ、そうだ!」
「!?」
「また食べたかったら言って下さいね。焼いてあげますから!」
「………」

今度こそその場を去るエマ。
聖はバスケットを手にしばらく固まっていたが、とりあえず中のパンを食べてみた。

「………まあまあ美味いな」


ヤクザと魔女とパリジャン

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年08月06日 14:29