「……」
ぺた、ぺた、とコンクリートに足音が響く。
突然の妨害から無事(とは言いきれないが)撤退した
カチナは、人気のない裏路地にいた。
よほど奥まった場所なのだろうか、人はおろか猫やカラスも一匹もいない。
その路地を、奥へ奥へと進んでいく。
「………て、き。…あれ、は、めいれいの、しょう、がい」
カチナは、感情のない声でそう呟いた。
記憶に新しい、敵意と殺意に満ちた表情。
何故あのような顔をするのか、カチナには理解できないし、理解する気もない。
彼にとって重要なのは、命令を妨害するものであるか、否か。
そしてあれは、障害。排除すべきもの。
「……カチナは、めい、れい、を、きく。カチナ、は、ころす。
あれ、は、しょうがい。じゃ、ま。じゃま、は、はいじょ」
命令を阻害するものは、排除する。
そう認識して、もう一歩踏み出した瞬間、
「げ、ぶ、」
ごぼ、という音と共に、血を吐いた。
ぼたぼたと地面に血が滴り、体を支えきれずに膝をつく。
「………?」
己の血で真っ赤に染まった手を、虚ろな目で見つめる。
命令遂行にのみ特化した彼の思考では、目の前の現状を理解できなかった。
カチナの能力は、生命力を犠牲にして発動される。
多少の消耗ならば疲労のみでしばらく時間を置けば回復するが、あまりにも多くの生命力を一度に消耗すると、その代償はカチナの寿命を直撃する。
ラボが破壊されてから今まで、命令の為に能力を使い続けてきた彼の寿命は、少なからず―いや、相当な量を削られていた。
しかし、そのような事実をカチナが知ることはない。
知ったとしても、理解しないだろうし、行動を止めることもないだろう。
彼にとっては、命令こそ全て。
己が壊れようが、どうなろうが、知ったことではなかった。
しかし、身体はさすがに悲鳴をあげているようだ。
目の前がふらつき、満足に動けない。
痛みも苦しみも感じない体だが、こればかりはどうしようもない。
「………カチ、ナは…めいれい、を……き、く……」
消耗が激しい今の状態では、命令を完全に遂行することは難しい。
そう判断したカチナは、膝をついた姿勢から倒れるように横になる。
そして、目を閉じた。
次に目を開けたならば、この心無き兵器は再び命令を遂行しに行くだろう。
戦力外兵器、一時休眠
直後、路地に響く靴音と人の気配。
横になったままカチナは反射的に鉈を握り締めた。
最終更新:2012年08月06日 14:36