「……オーナー、はよっす」
「あら、長久くん。いらっしゃい」
「アーサーとハヅルは?」
「お買い物に行ったわ。食材の買出しですって」
「そうっすか」
ここのアルバイトである長久は慣れた所定の場所に鞄を置くと、いつものように店の掃除と資料整理を始める。
1時間ほど経った所で、ふと手を止め、紅のほうを向いた。
「……なあ、オーナー。ちょっと聞きたい事があるんすけど」
「?」
「……オーナーは、何で情報屋なんてやってんです?」
「ああ、そのこと?…そういえば、長久くんには教えていなかったわね」
ぱしっ、とキーボードを叩く手を止めると、紅は顔を上げる。
「……私ね。人を探しているのよ」
「……人?」
「ええ。昔行方不明になって、それっきりの」
「………はあ。恋人か何かっすか?」
長久の言葉には、くすっと笑って軽く首を振る。
「違うわ。甥よ、甥。生きていれば今は高校生ぐらいかしらね」
「甥ですか…」
「…歳の離れた兄がいてね。その人の子なの」
「……はあ。何でまた行方不明に…」
「……それがよく分からないの。襲われたのだと思うのだけど…」
「は?」
「……甥が生まれたのは、私が小学生の頃だったの。
私もよく学校帰りに遊びに行っていたのだけれど……ある日いつものように遊びに行ったら、兄の家は何者かに荒らされていた」
「……………」
「酷いものだったわ。まるで手当たりしだいといった感じ。……その中で、兄も義姉も変わり果てた姿で横たわっていた。つかまり立ちができるようになったばかりの甥は、姿すら見当たらなかったわ」
「……それは……」
「…結局、犯人は分からずじまい。甥も行方不明のまま。家族の皆はもう死んだんじゃないかって言うけど……私はきちんと子の目で確かめたい。諦めたくないの」
「………」
「でも、私は体が弱いから…旅をして行方を捜すというのは難しい。だから、こうして情報屋になったの。もしかしたら、ひょっこりと甥の情報が舞い込んでくるかもしれないと思ってね。……分かった?」
微笑む紅を横目に、長久は軽く息をついて頬杖をついた。
「……なるほど。よく分かりました」
「ふふっ、分かってくれて何より。…そうだ、写真を見る?可愛いのよ」
そう言うと、引き出しの中から一枚の写真を取り出すと、長久に差し出す。
長久はそれを手にすると、日の光にかざすようにして眺めた。
「……色、薄いですね」
「昔の写真だから、少し色褪せちゃってるのね」
「これ、オーナーですか?」
「ええ。たまたま遊びに来ていたときに撮ったものなの」
「……………オーナー」
「ん?何かしら?」
「……見つかるといいですね、甥っ子さん」
「……………。ありがとう、長久くん」
情報屋の理由
(写真の中でこちらへ向かって笑いかける幼い紅と、微笑む一組の男女)
(女性の腕に抱かれた小さな小さな“甥”は)
(――心を失った、あの生物兵器に、よく似ていた)
最終更新:2012年08月21日 23:19