「あァー!遅かったー!!」
一人の青年が、被っていたフードを脱ぎながら闇夜の中で叫びにも近い声を上げた。
その青年の目前には真っ赤に染まった古びた壁、血溜まり、地面に横たわる一人の男。
「もぉー、でっかい悲鳴が聞こえたから来てみたらーくやしー!」
彼は口を尖らせオーバーリアクションを取りぐちぐちと文句をいいながらも
服のポケットから手帳とペンを取り出し何かを書き込み始めた。
地面に倒れている男と手帳を交互に見つめる青年。ペンが異常なスピードで手帳の上で走り回る。
「っひゃー、壁真っ赤だ。なんかやけに叩きつけられた跡があるし…。
―――あぁ!もしかして殺人犯に追い詰められてココを壊して逃げようとしたとか?このオッサン。はは、かわいそうにー。
だいぶ「ハンニン」は無慈悲なんだねぇ、是非会ってみたい。死体…は触らない方が良いよなぁ、おれが犯人扱いされたら困っちゃう」
変死体が自分の足元に転がっているというのに余裕の表情。さらにはその死体を手帳にスケッチし始めた。
その彼の横顔は、とてもとても楽しそうだ。
「……おい、
フミヤ」
「なぁに?今忙しいんだけど」
今にも崩れそうな塀の上から「青年」の名を呼んだのは警察でも、人間でもなかった。一匹の黒猫。
猫が、ヒトの言葉を、話している。
血のような赤い眼を持った猫はくぁっと伸びをした後その双眸をすっと細めた。
「……お前も、よく飽きないな」
「飽きないよー!飽きるはずがないじゃん、こんな「非日常」がぐるぐるしている世界…やめられない…!」
猫の言葉に笑いながら返事を返す。ペンは相変わらず彼の手の中と手帳の上で踊り狂い、瞳は「好奇心」によって見開かれている。
はぁ、と一つ、切なげな吐息を零した後、手帳とペンを服の中へ無造作に突っ込んだ。
と、同時に死体の前でおおはしゃぎしていた彼の姿が消えた。なんの物音もなく、だ。
その青年は―――いつの間にか、塀の上にいる猫の隣へと移動していた。暗闇の中で輝く琥珀と赤の四つの瞳。
そしてにやにやと笑みを浮かべながら猫をひょいと抱え上げ、
「さ、帰るか!「犯人」が見れなかったのは残念だけど良いネタが手に入ったしね。
ここ数日の連続無差別殺人事件と、何らかの関係があるかもしれない…これは…もっと外に出る時間を増やすべきかな…」
「……漫画の方は?」
「だぁーいじょうぶ!もう出来てるから、ネッ!」
「「あ、」」
猫を抱え右足でこん、と一度塀を叩いた瞬間、とうとう足場が崩れた。瓦礫と共に猫を抱えたまま宙へと放り投げだされる青年。
―――しかしその後、この場所で物音が響くことはなかった。ただ、風の吹き抜ける音が聞こえるのみ。
危険な好奇心
(くらくらする、やめられない、とまらない)
(あぁ、たのしいったら、ありゃしない!)
最終更新:2012年08月23日 23:33