- 101
:akiyakan:2011/10/29(土) 18:24:19
- 「はぁ……はぁ……!」
「どうしたの、兄さん? ボロボロじゃないか」
アッシュの言うとおり、俺はズタボロもいい所だった――制服はズタズタに切り裂かれ、致命傷こそ避けてはいるが、全身切り傷だらけになっている。身体から流れ落ちた血で、足元に赤い水溜りが出来ているのが分かる。
今まで――今まで、こういう状況にならなかった訳じゃない。むしろ、多かった。しかしそんな相手でも、俺は今まで遅れを取った事などほとんど無かった。だからこそ俺は、「無手でも得物を持った相手とやり合える」と言う実感を持っていた。
しかし、目の前にいる男は別だ。アッシュはそうじゃない。この男によって強化された武器は桁外れ過ぎる。コンクリートだろうが鉄パイプだろうが、紙っぺらみたいに切り裂くナイフなんて、一体この世のどこにあるって言うんだ!? ましてや人体なんて、掠っただけでも「持っていかれる」!
「だから言っただろ、後悔するって」
「っ……!」
「主義だか信条だか知らないけれどもね――そんなんで勝てたら、苦労しないんだよ」
アッシュが「縮地」に入った――一体何度目の回避になるだろう。何にせよ、相手の攻撃を防御する手段が無い以上、俺に回避以外の選択肢は無い。だから俺も「縮地」を使った。
が、逃げた先に、既にアッシュの姿があった。
「な――先回り!?」
「兄さんの行動パターンは既に把握したよ――消耗しているとは言え、相手に自分の動きを読まれる事位考えられなかったの?」
右肩から左脇腹にかけて、まるで焼きゴテを押し付けたかのような灼熱が襲ってきた。その痛みを感じたすぐ後に、血管が切り裂かれた、その結果の現象として、傷口から勢いよく血が噴出す。
切られた、袈裟切り。クリーンヒット。誰が見ても分かる致命傷。
膝から力が抜け、俺はその場に倒れた。
「か……は……ッ!?」
死に掛けの虫のように、小刻みに身体を揺らしながら、しかしそれでも、都シスイはまだ生きていた。天子麒麟の能力は未だ有効であり、生存本能に従い、彼の治癒能力を最大値にまで高めている結果だった。動けないのは、大量出血によるショック症状を、シスイの身体が起こしているからだ。
そんなシスイの姿を、アッシュは無表情のまま見下ろしていた。
都シスイに勝った。その事実から来る勝利の喜びは無い。強いて言うなれば、その無表情の中に落胆を示していたと言える。
今まで散々ホウオウグループを妨害してきた、アースセイバーの主力戦士の一人。自分のオリジナルであり、同じ麒麟である都シスイを倒した。しかし自分は全くの無傷であり、一方的な暴力による一方的な圧勝だった。
「つまらない」、「この程度か」。アッシュの心情を代弁するなら、差し詰めそんなところだったのだろう。
しかし、感傷はすぐに止め、アッシュはアーミーナイフを振り上げる。止めを刺すつもりだ。
と、その時だった。
「……そんなにこいつの事が気になるなら、いい加減出て来たらどうだい――朱鷺子ちゃん」
「!?」
ショック状態であるが、シスイの表情に驚きが浮かぶ。そしてアッシュの言葉を受けて、もはや扉として意味を成さなくなった出入り口から、小さな人影が姿を現した。
- 102
:akiyakan:2011/10/29(土) 18:26:17
- 「ト……キコ!?」
「…………」
トキコは無表情にシスイを一瞥すると、彼の方へと歩いていき、そして、アッシュに向かって身体を向けた。それは誰が見ても、彼女がシスイを庇っているように見えた事だろう。
「やぁ、朱鷺子ちゃん。相変わらず可愛いね」
「…………」
にこりと、友好的な笑みを見せるアッシュに対し、朱鷺子は相変わらずの無表情。もしその表情をシスイに見えていたなら、彼はこう思ったに違い無い――「いつか見た朱鷺子が不機嫌だった時よりも、更に不機嫌な時の表情だ」、と。
「何、そんな怖い顔しちゃって? 可愛い顔が台無しだよ?」
「……うっさい。黙れ。一角君のパチモンの癖に」
その声を聞いた瞬間、シスイの身体がビクリと反応した。ここまで他人に敵意を露わにし、尚且つ殺意まで向けているような朱鷺子を見るのは、彼にとってこの瞬間が始めてであったからだ。
「パチモンって……非道いなぁ、朱鷺子ちゃんは。僕は兄さんの偽者じゃないよ。僕は僕だよ?」
「本音はそう思ってない癖に」
「ふ……ん……ところで、そこ退いてくれない? 兄さんが殺せないよ」
「嫌だ。一角君は殺させない。あんたには勿体無いもの」
「僕には勿体無い、ね……軽く見られたものだね、麒麟も」
ため息をつくと、アッシュはアーミーナイフを「消した」。何かしらトリックがあるのだろうが、それこそ瞬きをしている一瞬の内に、彼の手の中からアーミーナイフが姿を消したのだ。
「……ねぇ、何で朱鷺子ちゃんは、そんなに兄さんに肩入れするのさ」
「…………」
「鳥さん……だっけ? 火波スザクみたいに、君と兄さんとの間にそこまで強い因縁は無い。それなのに、そこまで彼を気にする理由は何さ?」
「……さぁ、何でだろうね? 有り触れた理由でいいなら――一角君が好きだから、かな」
「……ふーん」
「シスイが好き」、の件で、目に見えてアッシュの表情が歪むのが見えた。しかし、そんな彼の様子を気にする風でも無く、朱鷺子は言葉を続ける。
「クラスのみんな、そして鳥さんと同じ位、私は一角君が好きだよ――だから、我慢出来ない。私以外の誰かに、一角君が殺されるなんてね」
「……へぇ、大した独占欲だ、ドン引きだね。兄さんもいい迷惑だ」
「そうかもね。でも、そんなの私のしったこっちゃないし」
その時、ちらと一瞬、朱鷺子がシスイの方へと視線を向けた。シスイはそれに気付いたものの、朱鷺子が彼に対して視線を送っていたのはほんんの数秒だった。それはまるで、言葉無く朱鷺子が――「ね、迷惑?」と、シスイに向かって問いかけたかのようだった。
「……イライラするなぁ。こんなに僕は嫌われているのに、兄さんはこんなにも想われている……本当に、本当に不愉快だよ」
ガリガリと頭を掻き、表情を歪め、本当に言葉通り気持ち悪そうにアッシュは言う。
しかしその口元に、急に凶暴な笑みが浮かんだ。それは極めて異質なものであり、まるでアッシュに、「彼ではない何者か」が乗り移ってそんな表情をさせている。そんな不似合いな表情だった。
瞬間、シスイの全身の毛が逆立ち、朱鷺子の表情に今までとは別の嫌悪感が浮かぶ。なぜならアッシュの浮かべた笑みは、あまりにも、「あの男」が浮かべる表情に似ていたからだ。
「――だけど、朱鷺子ちゃん。そう想っていられるのは、あくまで兄さんが君の事をまだ知らないからだ」
「!? な、何を――」
「兄さん見習って、ちゃんと腹割って言ったらどうなのさ――自分はホウオウグループの一員でーす、ってさ」
- 103
:名無しさん:2011/10/29(土) 18:26:54
- 瞬間、朱鷺子が動いた。
「――――――ッ!!!!!!!!」
それは今まで、シスイが聞いた事の無いような、朱鷺子の声だった。吼えているのかもしれない、叫んでいるのかもしれない。喚いているのかもしれない、泣いているのかもしれない。何とも形容しがたい、奇声とも表現出来ない声を上げながら――朱鷺子は、アッシュに向かって殴りかかっていた。
「破壊衝動(ブレイクダンス)……対象を破壊する、その目的の為だけに肉体を強化・行使する特殊能力。応用力なら僕らの天子麒麟の方が上だけど、最大出力で言ったらそれさえ上回る強力な能力だ――だけど、それだけだ」
感情に任せた攻撃だったせいか、それとも、単純に朱鷺子の動きを見切ったのか。大砲のように飛び出した朱鷺子を、ひらりとアッシュは回避する。その後も立て続けに朱鷺子が攻撃を繰り出すが、その悉くをアッシュはかわしていく。
「ねぇ、止めようよ、朱鷺子ちゃん。こんな戦い不毛だ、仲間同士で争うなんて」
「煩い、煩い、煩い、煩い――!!!! お前なんか、お前なんか、仲間でも何でもないッ!!」
「本当に、僕が傷付く事を平気で言うねぇ、君は」
「煩い――!!!!」
力任せに振られた拳を、アッシュは跳躍によってかわす。そのまま、彼は朱鷺子の頭上を飛び越え、彼女の背後へと回り込んだ。
「う――!」
すぐさま朱鷺子は身を翻し、アッシュへと追撃を入れようとする――しかし、その拳は途中で止まらざる得なかった。
「ッ――!?」
「そうそう、ストップ――じゃないと、兄さんがどうなっちゃうか分かるよね?」
朱鷺子の視線の先。そこには、シスイの頭を掴んで持ち上げ、その首元にアーミーナイフを突きつけているアッシュの姿があった。
「朱鷺子、気にすんな……俺の事……なんて、放っておいて……こんな、奴……ぶちのめせ……」
「ぐ……」
「……もう、この辺で止めにしよう、朱鷺子ちゃん。僕も兄さんの事、今日は一先ず我慢しておいてあげるからさ……だから君も、矛を収めてほしい。じゃないとここから先は、『二人』死ぬ事になる」
「…………」
朱鷺子の表情に葛藤が見えたが、最終的に理性的な選択を彼女は選んでくれたらしかった。ゆっくりと、朱鷺子は構えを解いていく。
「馬鹿野郎……俺の事なんか……!」
「そう、良い子だ」
にこり、と嬉しそうにアッシュは微笑む。その表情は人当たりの良く、見ていて気持ちの良いものであるが――今の朱鷺子にしてみれば不快な、それこそ「悪魔のような天使の笑顔」でしか無かった。
「あ、そうそう……兄さん? 分かっていると思うけど」
「な……に……?」
ぐい、と髪を引っ張り、無理やりシスイの頭を引き上げる。額と額がくっつきそうな距離で、アッシュはシスイの瞳を覗き込みながら、まるで直接頭に叩きつけるかのように、次の言葉を放った。
「僕と朱鷺子ちゃんの事……他の誰かに話したりしたら、兄さんの大事な二年二組を壊滅させるから」
「ッ――!?」
「いや、二年二組だけじゃ物足りないかな……兄さんの故郷、蓬莱山も灰の山にしてあげるよ」
「て……めぇ……!」
「何怖い声出してるのさ……簡単だろ? 僕の事と、朱鷺子ちゃんの事。二人分の秘密を、自分の胸だけに閉まっておけばいいんだからさぁ?」
「……ぐ……」
そこから先、シスイは何も言えず、黙り込んでしまった。アッシュが手を離すと、自力で身を起こす力も残っていないらしく、彼の身体は地面に倒れたままだった。
「くくくっ――あはははははははははははは!!!!」
兄を――敵対するもう一人の麒麟を屈服させられた事がそんなに嬉しいのか。屋上を出て行く時、堪えきれなくなったようにアッシュは笑い声を上げていた。
※お久しぶりです。Akiyakanです。皆さんお元気でしたか。
「修行の為に、一年いないんじゃなかったんかい!」……そう思われた方、いらっしゃるでしょう、二、三人。なぜ私がここにいるかと言えば、修行中に膝ぶっ壊し、現在自宅療養の為に故郷まで帰ってきているのです、はい。
なので、短い期間ですが、負傷、じゃなかった。不肖Akiyakan。治療中の短い期間でありますが、アナザー企画を盛り立てるべく、四方八方にジングウ絡みで「イベントの種」を蒔いていこうかと思いますので、よろしくお願いいたします。
- 104
:スゴロク:2011/10/29(土) 21:04:26
- >akiyakanさん
おおーっ、お久し振りです!! 怪我をされたそうですが、大丈夫ですか?
まさかこんなに早く再会できるとは。
作品ですが、何だかいきなり不穏な雰囲気が!? 「仕事」といい今回と言い、シスイはそういう星の下に生まれてでもいるんでしょうか。
例によって、隙あらば絡ませていただきます。
- 105
:スゴロク:2011/10/29(土) 21:29:44
- 「銀角」の少し後の話です。放課後を想定。自キャラは理人のみ登場、akiyalanさんより「アッシュ」をお借りしました。
「ありーゃりゃ、こりゃりゃ、何だこれーは?」
放課後のいかせのごれ高校屋上。誰もいないそこに、おかしなイントネーションの声が響く。入口のドアを開けて突っ立っていたのは、紫のフレームの四角いメガネをかけた男。
「なーんかあったみたーいな、これーは」
妙な所で溜める変わった喋り方の男は、石畳に目を落とす……というか、腰をぐぐっと折り曲げて顔を近づける。
(薄くなってるけどこれは血の痕……なんかここも物騒なー)
内心の声は普通なのだが、表に出る声はこの通り。
「まー、そんーなことはどうーでもいいか。休憩、休ー憩」
ちっとも疲れていない様子の男は、柵によりかかると「ふぁああぁ~あ」と大きくあくびをする。
「いかせのーごれも騒がしーいけど、俺にとってここは面ー白いからなーぁ。まあ、ワイはいつーも通りにやっーっとればええか」
全く一定しない口調の裏で考えるのは、来る途中ですれ違った長髪の男。
(何かな、アイツ……変な感じがしたなぁ)
本心から笑っているのに、なぜか好意が持てない。そんな男だった。
(あんなおかしな奴、そうはいないんだがなぁ)
自分がその「そうはいない」の典型だということは、ひとまず無視しておく。
「まぁ、いーいかな。どうーせあたしには関けーいないですし」
よっ、と身を起こし、出口に向かう。出際に扉を閉めようとして、
「おぉ、そうーだ。こいつーに能力をつけーたらどーうなるかな」
言いながら屋上に戻り、扉を閉める。ノブを握ったままの手に「ぽん」と意識を投げ、そして開ける。
「さぁーてどうなーるか……あら?」
出た先は、なぜか屋上だった。
「おっかしーいなぁ? ドアを開けーて、よいしょっと……」
戻っても屋上だった。
「ありーゃー? ありゃーりゃー? どっちも屋上ー!?」
右を見て左を見て、
「ぬおーおおおーおお!?」
扉を潜り、行って戻ってを繰り返す。傍から見ると、男が物凄い勢いで出たり入ったりしているように見える。
どれだけそんなことを続けたのか、やがていい加減男の息も上がる。
「ぜーはーぜーはー……もーう、いーや!」
言うが早いか、業を煮やした男は扉を閉じると、
「うおーりゃああああ!!」
力任せに蝶番を引きちぎり、うりゃーっとグラウンドに投げ飛ばす。そして視線を戻すと、そこにはきちんと階段が見えた。
「よーし、よし。ではー帰ーろうかね」
ふらふらと去って行く男は、自分のしたことの結果など、全く省みていなかった。
迷惑千万の男
(翌日、いかせのごれ高校では)
(グラウンドに突き刺さった屋上のドアが発見されたとか)
- 106
:十字メシア:2011/10/29(土) 21:34:08
- >akiyakanさん
ほんっとーにお久しぶりです!
お怪我大丈夫ですか?;
こちらも未投下キャラで騒動起こす予定なので、良ければ絡ませていただきやす。
- 107
:大黒屋:2011/10/29(土) 21:38:50
- >akiyakanさん
お久しぶりです!戻ってこられた時驚きました!
お怪我大丈夫ですか?お大事に;
小説も一気にすごい展開になってきましたね!
絡んでいけたら行こうと思います!よろしくお願いします!
- 108
:えて子:2011/10/30(日) 19:51:15
- 笠村親子を動かしてみた。半端に投げた形になってすみませぬ…orz
鶯色さんより「ハヤト」さんを、名前のみ(六x・)さんより「風真」さんをお借りしました。
ハヤトさんは名前が出てませんが察してください…
「…うむ。完成じゃ」
休日。自室で最後の一針を縫い終わった夕陽は、手に持った衣装を見て満足げに頷いた。
「我ながらよい出来だの。これなら風真も気に入ってくれるだろうて」
もう一度頷くと、衣装を丁寧に畳んで置き、文机の上の携帯電話をとる。
慣れた動作でアドレスから友人の番号を選択し、通話ボタンを押した。
「…ああ、風真か?我だ、夕陽だ。…画面に出るから知っておると?はっは、それもそうか。
うん?…ご名答。頼まれていたものができたでの、報告をと思うてな。今時間はあるかえ?ならば届けに向かうが…
……ふむ、分かった。では1時間後に、公園の入り口付近で落ち合おうぞ」
通話を切ると、携帯電話を懐に、衣装を木箱に入れて立ち上がる。
一階の仕事場へ降りると、母の朝陽が布を織っている最中だった。
「おや、夕陽。どこかへ出かけるのかい?」
「うむ。友に頼まれていた衣服が出来上がったでな。届けに行くのだ」
「そうかいそうかい。気をつけて行くんだよ」
手を止めて顔を上げた朝陽は、夕陽の言葉に微笑んで頷く。
「うむ。では、母よ。行ってくるぞ」
「はいはい、いってらっしゃい。あまり遅くならないようにねぇ」
「うむ。安心せい、夕餉までには戻るでな」
笑ってそう言うと、木箱を抱え着物の裾を翻して出かけていった。
「あの、すみません」
道を歩いていると、背後から声をかけられる。
振り返ると、バンダナを巻いた少女が夕陽を見上げていた。
「む?主、我に何か用か?」
「あ、用ってほどじゃないんすけど…これ、落としました」
そう言って相手が差し出したのは、夕陽の携帯電話だった。
どうやら歩いている間に懐から落としてしまったらしい。
「おぉ、拾うてくれたのか。すまぬな、助かったぞ」
「いえ、別に…」
「はっは、助かったのは真じゃ。主は心優しい奴よの」
「い、いやぁ…(照)」
「いい嫁になれるぞ」
「…。俺男っす」
「おや、そうであったか。すまぬな、あまりにも可愛らしいから見間違うたわ」
表情を引きつらせる少女改め少年を見ても、夕陽はからからと笑っている。
「はっは、すまぬすまぬ。そう不貞腐れるな」
「…気にしてないっすよ、別に」
「そうか?ならよいのだがな」
それから少しだけ世間話をし、携帯電話で時間を確認した夕陽は「おや」と声を上げた。
「この後、友と約束をしておったのじゃ。時間をとらせてしもうて、すまぬな」
「いえ、こちらこそ」
「また何処かで会うたら、その時はよろしくな」
そう言い、軽く礼をすると、再び颯爽と歩き出した。
「…綺麗な人だったなー…ちょっと変わってたけど」
夕陽の休日・待ち合わせ
待ち合わせ時間、公園にて。
「…おや。我のほうが先に来てしまったか。さて、あとどの位で来るかのう」
- 109
:サイコロ:2011/10/31(月) 01:57:48
- 今の流れをぶった切るようで申しわけありません。
割と初期に投下させていただいた作品ですが、この度要望も御座いましたので
リメイクという形をもって書かせていただきました。
今回の話は大まかな文化祭の流れと主人公達の動きを、
前回書いた内容を元に修正をしております。
皆でこの話にどんどん絡んで便乗していただけたら幸いです。
使用させていただいたのは本家様からケイイチ、マサカズ、シゲナガ、
タカユキ、ナオヤ、コウスケ、ユウキ、マオ、コヨリ、B子、トモコ、
リアル(バンド)、マイコ、ジュンイチ、キトシ、アヤ、ジン、アキヒロ、
チャド、KEA、(アースセイバー)、バツ、セキ、アイ、サイナ、ホウオウ
でしたー。
・・・本家ばかりですね。そのうち自分も企画キャラ側文化祭を書いてみようとは思いますが。
<いかせのごれ文化祭>
―文化祭―。
オツユウ学園系列の学校では二日間大規模なイベントが行われる。
ここいかせのごれ高等学校も例外ではなく、本番二日間に向けて二日間準備日が設けられていた。
授業なし、である。
<前日>
「ちょっと男子、廊下の装飾手伝って!」
「そこ、サボってないで机並べて!」
「買出し行くけど何か買ってくるものある!?」
文化祭の実行委員である女子が、ヒステリックに叫ぶ。
少し製作が遅れている2年1組はてんやわんやの忙しさだった。
2年1組の出し物は中華レストラン。一部の男子による意見が、そのまま採用された。
もちろん本物のレストランみたいに本格的中華を生の食材から作るわけにはいかない。
食中毒にでもなったら大変だからだ。
加熱処理済みの食材を調理して客に出す、というものが、世間一般の常識である。
「ガラッ」
チャイナ服に身を包んだ数人の女子とトモコ先生が教室に入ってきた。
まだ済んでいない女子の衣装合わせをしているらしく、衣装担当の女子と話していた。
「ケイイチ、見とれてんじゃねーぞ」
「うるさいわい」
マオ達を見ていたケイイチを、ナオヤが茶化す。赤面しながらも、ケイイチは作業に戻った。
ケイイチとナオヤの担当はクラス内装飾係である。テーブルクロスを掛けたり、
中華風の飾り付けをしたりしていた。
「しかしあの先生も物好きだな。生徒と一緒にチャイナ服着るなんて。」
ケイイチが呟くと、いつの間にか隣にいたマサカズが
「祭りだからな!!」
と背中を叩いた。
そんなこんなで、6時にようやくレストランが完成したのだった。
<一日目~校内発表~>
閑古鳥、そんな言葉はどこ吹く風といわんばかりの中華レストランは繁盛していた。
昼ごろは特に腹を減らした教員やグルメを気取る生徒等様々な客で繁盛していた。
クラスは接客班、調理班、宣伝班、ゴタゴタ警戒班、そして休憩班と
班別に分かれていたはずが、今やごちゃごちゃの状態となっていた。
「モコ、しげっち、マサカズ、料理早急げ!ナオヤ、客の見廻りに行くぞ!ケイ君宣伝頼むわ!・・・ああ、だりぃ!」
そんな中、タカユキの指揮の元、皆が動いていた。
こういう時、どっしりと構える人間がいるというのは助かるものである。
中華服に身を包んだ女子と男子が、一斉に動く。ケイイチは看板を手に、
「いっちきやーす」
とクラスを出た。
(どうせ明日は缶詰だろうし・・・)
5分後、ケイイチは他クラスの出し物を楽しんでいた。
- 110
:サイコロ:2011/10/31(月) 01:58:21
- <中夜祭①>
5時。
盛大に始まったこのイベントは地域参加型のステージイベントである。
生徒だけではなく、学校周辺地域の人々もステージに上がることができ、
出し物ができる。司会は、なぜかユウキとケイイチが押し付けられていた。
第一部は一般の部で、あまり多い人数の参加ではないが、面白い出し物があった。
トップバッターは「チーム・商店街」。
その名のとおり八百屋、精肉屋、そして町内会長のオヤジが、
ディアボロ、デビルスティック、ボックスと様々な大道芸をやり、
最後に食材を使ったジャグリングをして終わった。
ユウキはいつの間にかコック帽をかぶり、町内会長がなべに集めた材料を煮込み始めていた。
その後、ナスのきぐるみを着たトリオのコントとダンス、町内の婦人会と学校のダンス部によるダンス、
最後にゲストとして本場のサーカス団「ポリトワルサーカス団」が様々な演目を行ない、第一部は終了した。
大鍋一杯に作られていたはずのユウキ特製豚汁はいつの間にか無くなっていたが、誰一人として気にする者はいなかった。
<中夜祭②>
15分後、第二部が始まった。生徒達によるものである。司会は鉢巻を締めた放送部の三年に変わり、
ピエロ(ユウキ)のパントマイム、三年生コンビの漫才、一年生トリオのショートコントと続き、
本題のバンド系に入った。
タカユキ達のバンド「リアル」。
ロック系の音楽が主で、歌ったのは3曲。
柔道部の三年生によるバンド「ロック on the world」(ロックオンザワールド)。
J-POP系の音楽で、2曲。
コヨリたちのバンド「Dark in rainbow way」。(ダークインレインボーウェイ)
女性アーティスト系音楽全般を、5曲。
そして・・・ラストとなった。鉢巻を締めた三年がコールする。
「次は一番人数と曲が多いぞ!ラストステージ!「NA'S(ナス)」!
<NA'S>
コールされると、タカユキを筆頭に、シゲナガ、マサカズ、コウスケ、ナオヤ、ケイイチの順で
舞台に出てきた。
タカユキとマサカズがギター、シゲナガがドラム、コウスケとケイイチがベース、ナオヤがキーボード
についた。
1曲目は「赤壁の空」コウスケとケイイチ、そしてナオヤが歌う。
メンバー紹介が入って、一旦アピールタイム。
2曲目は「ハヴァナイスデイ」(Have a nice day)タカユキとマサカズがうまくハモッた。
3曲目は「アメリカンイディオット」(American idiot)タカユキとコウスケがガンガン歌う。
4曲目は「ダンデライオン」シゲナガの独壇場で、方向性が少し変わった。
5曲目はラスト、「ココロオドル」ケイイチが音を外しかけたが、ラストにふさわしい盛り上がりになった。
ラストを歌い終わると、NAシャドウズは舞台から降りた。しかし、興奮した客は
「アンコール!アンコール!」
と煽っていた。
突如照明が最大光量でステージを照らし出し、30秒後に真っ暗となった。観客は戸惑った。
――ざわざわ―― ――ざわざわ――
当然である。目くらまし状態で、ほとんど何も見えなくなった。
鉢巻の三年がコールする・・・。
「聞いて驚け、野郎ども!この方達が来てくれたぞ!Elphind!」
その後大盛り上がりとなったことは言うまでも無い。
1日目はこうして過ぎていくのだった。
- 111
:サイコロ:2011/10/31(月) 02:00:29
- <2日目>
一般公開日。レストラン開店である。
午前中はまばらに人が入り、満員になるほどではないが、がらがらというわけでもなかった。
そして昼ごろ。評判を聞きつけた客が殺到して、一気に忙しくなった。
昨日の比でない忙しさに、皆無駄話もせずに働いていた。そんな中、
気力と根性で(?)接客・調理・宣伝していても、どうにもならない事態が一つ起きた。
材料不足、である。
当初の予定を大幅にオーバーして、見る見るうちに材料が減っていくのを見た誰かが
ケイイチに怒鳴った。
「誰でもいいから連れて、材料の追加してきてくれ!」
「わかった!」
ケイイチも怒鳴り返す。
「あ、じゃあ私が一緒に行くー。」
そう言ったのは他ならぬマオだった。
周囲の冷やかしに赤くなるケイイチ。急いで買い出しに出かけたのだった。
結局大した問題も起きずに買い出しから帰って来たケイイチは、さらに冷やかされながらも、
3時くらいまでは忙しく働いていた。
3時を過ぎると店は午前中よりも人が少なくなり、皆ほっとした。
<友の訪問>
6時。オツユウ学園の文化祭は、珍しく「夜間の部」がある。
昼間これない生徒の親や一般の客のためのものだが、昔からの伝統で
クレームが来ることもなく続けているものである。すでにサボりだしているクラスメートもいた。
ケイイチの知り合いもこの時間帯に来た。
というか、この時間帯にしか来なかった。
まず来たのはジュンイチとキトシ、そしてアヤとジンだった。
「いいの?こんなところでさぼってて。」
ケイイチが尋ねると、ジュンイチが答えた。
「いーのいーの。見回りっつって来たから。」
そして間髪入れずにマイコがやってきて、ジュンイチの隣に座った。
「しばらくぶりだね、署長さん?」
マイコが茶化すと、ジュンイチも
「ホントっすね、村長。」
と返した。
続いて来たのがアースセイバー組。
「同窓会みたいだな。」
アキヒロがメンバーを見ながら言った。
「ゆっくりしてってよ。この時間帯は客多くないし。」
ケイイチは調理場に行くと、いくつか注文の品を温める。
幾つかの品を持ってテーブルに行った。
「アニキ、メニュー多いッすネー、オゴリですカ?」
「そんなわけないでしょ、各自負担で。」
「所長、経費から落ちますかね?」
「無理だな。て言うかそんな事堂々と言うんじゃない。」
「もちろん私はタダなんだよな?」
「ちゃんと払え。」
「最近どうなんだ、そっちのほうは。」
「警察にも慣れたさ、ウスワイヤのほうは?」
…そんな会話が続いた。良く見ると、部屋の中には見知ったアースセイバーの面々も多かった。
――パッ――
電気が消えた。さっきまでのんびりしていたクラスメートも、慌てている。
「停電か…?」
窓の外も真っ暗になている。
「おい、ナオヤ。」
コウスケがナオヤに向かってぼそっと言う。
「俺はバッテリーじゃねえぞ。」
ナオヤはこっそりコンセントに近づくと、針金を二本突っ込んでNAを発動させた。
少し間を置いて、電気がついた。
「便利なもんやなー。」
マサカズがこっそりおだてる。
「調理器壊れちゃったよ!」
コヨリが調理場から出てきて言った。
「あー、しょうがねえ、俺が何とかするよ。」
コウスケが頭を掻きながら調理場に戻った。
- 112
:サイコロ:2011/10/31(月) 02:01:05
- <そして>
「ちょっとケイイチ、いつの間に私服に戻ってんのよ、さっさと元の服に戻って
あそこのテーブルに注文聞きに行ってよ!」
B子がKEAに向かって言った。
「俺はケイイチじゃねーよ」
KEAが睨み、コンセントの前でしゃがんでいたケイイチが答えた。
「こっちこっち!今行くよ!」
「ウソ、そっくり…」
「そりゃ、クローンだしな。」
笑いながらアキヒロが言った。
ケイイチは、いちばん隅のテーブルに行くと注文を聞いた。
「ずいぶんと注文を聞くのがおせぇーじゃねーか。」
「まったくだな、油断のしすぎじゃないかね。」
聞いたことのある声での返事に、ケイイチは顔を上げた。
ホウオウ、サイナ、セキ、バツ、アイが座っていた。
「貴様ら!」
ケイイチは戦闘態勢に入ろうとした。が、ホウオウの一言で思い留まる。
「いいのか?こんな所で。」
「注文は?」
ケイイチが切り返す。
「炒飯。」
「同じく。」
「麻姿茄子。」
「乾焼蝦仁。」
「肉饅頭。」
それぞれが注文し、ケイイチは調理場に戻ろうとした。
「一体いつの間に…」
そう呟くと、セキが言った。
「早くしてくれたまえ、それとも待たせるのが流儀かね?」
アースセイバー組も気付いていたが、場所が悪かった。
「迂闊に手が出せる状況じゃねえな。」
micro uziをコソコソと構えるチャドを止めるKEAが言った。
「oh!あのデベソヤローをブッ倒さなきゃ」
「やめとけ。一般人に被害が出る、迂闊な行動は避けろ。」
結局、ホウオウグループの連中は周囲を気にもせず、出された料理を食べて帰った。
終始2年1組の教室はピリピリとした緊張感に包まれて、息苦しい程だった。
教室を出た所をケイイチが追うと、廊下の電気が消え気配も消え、
まるで誰もいなかったかのようであった。
<後片付け>
教室が元通りになってくると、多くのごみが出た。塗装された段ボールは
廃品回収に出せないため、細かくちぎってと処理しなければならない。
シゲナガのNAで、校舎裏にこっそりまとめて落とし、マサカズのNAで刻んだ。
小物の類は、皆がそれぞれ好きなものを勝手に懐に入れた。
そして、ホウオウグループの連中の置き土産が、片付けの最後に見つかった。
テーブルクロスの下に、数枚のチラシが入っていた。
『ホウオウグループメンバー募集中!』
(・・・・・・。こんな集め方をしてるのか・・・?)
ホウオウの連中が停電中に入り込んだということに気付いて歯ぎしりしたのは、
教室が完全に元に戻った後だった。
だが、ホウオウグループの事である。本来の目的は他にあったのかもしれない。
そして、ケイイチの前に姿や正体を現していないだけで、実際はもっと多くの幹部がいたのかもしれない。
何にせよ、再び対峙する時は近いのかもしれない。
≪いかせのごれ文化祭:終≫
- 113
:サト:2011/10/31(月) 02:51:58
久しぶりに投下
前回の続きですが、これ覚えてる方いらっしゃるのかしら…
お借りしたのは
本家・六水条剣さんから《ジン》
サイコロさんから《シュウト》
Mzさんの《モズ子》
お名前のみ、《ケイイチ》《KEA》《ホウオウ》
鶯色さんの《ハヤト》
自キャラ《スイネ》
『…どっ、どうぞ』
『…ありがとう』
わたしにスポーツドリンクを渡すと、そそくさと彼女は逃げるようにその場を立ち去っていった
『(…怖がるわりには関わってくるのよね彼女…)』
紫色の長い後ろ髪を揺らしながら、おそらく我らが同士であるラムの元へ走っていく彼女を見つめ
スポーツドリンクに口をつけた
─────────
『あなたはわたしに殺されたいのかしら』
『っ…』
じわりと彼女からにじんだ殺意のようなオーラは、
明らかな憎しみを孕んでいて痛みさえ感じた
『わたしはあなたなんか知らないし、こうしてあなたと対峙しているのも不服極まりないのだけれど』
『け…ど!』
『普通否定は否定で覆せないでしょう。これ以上馬鹿げた事を言うなら容赦しないわよ』
彼女の瞳には嘘がない
けれど、僕の記憶だって嘘じゃない。
小さな頃
ここでない小さな街で僕は一人きりで過ごしていた
そこで出会った青い瞳の笑顔が綺麗な少女に
僕は確かに出会っているんだ
《ひとりであそんでいるの?わたしと遊びましょう》
《…きみは?》
《わたし?…わたしは…》
- 114
:サト:2011/10/31(月) 02:52:54
『スイネ。落ち着け』
『!…シュウト』
『シュウトさん』
はあ、とあきれたようなため息をついたシュウトさんが、スイネさんの横に立ち、
その細い肩にポンと手を置いた
ぞわりと波立つ、いやな感情
『お前が本気出したらいくら手負いの状態だってヤバイことになるってわかるだろ』
『…』
『ほらジンも、あんまりスイネ怒らせるな……よ……?』
シュウトさんが驚いた表情で僕をみている。
なぜだろう。なにかおかしな顔でもしているだろうか
だけれど、僕は
今ここから一分一秒でも早く離れたい
『訓練に戻ります』
『あ、おい!』
スイネさんにくるりと背を向けて、僕はハヤトさん達の元へ駆け出した
────────
『びっくりしたわ…アレ』
『何がよ。』
『ジンの顔。アイツのあんな顔見たことないわ』
『…どういうこと?』
『アイツ明らかに“嫉妬”の顔してただろ』
『(……なにが、嫉妬よ)』
くしゃ、と髪に指を絡ませて目を伏せた
この“理想”を具現化させた顔は、誰かの思い出になりやすい
彼の大切な記憶の中の少女と自分との関連性
それは時間による記憶のすり替えであると確信がもてる
『(…KEAも、ケイイチも、…そしてあの男も、あのジンとか言う子だって)』
なぜわたしではない誰かをわたしに見いだすのだろう
『(わからない、こんなとき、どうするのが正解なのか。ただ、わたしはあの男の子が憎い)』
すりきれる《想い》
(はたして)
(真実とは)
- 115
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:10:12
- 本日から手術・入院になり、一週間ほど静観の状態になってしまうので、少々突貫工事で仕上げました。
※遊び盛りの学生Lv15さんより「ゼア」、「リイ」。スゴロクさんより「クロウ」、「火波スザク」。十字メシアさんより「マキナ」、サトさんより「ファスネイ・アイズ(スイネ)」、鶯色さんより「ハヤト」本家様より「アキヒロ」をお借りしました!
千年王国の夜明け
「――馬鹿が! どうしてそんな許可を出した!?」
暗い研究室内で、物が倒れる音が響く。クロウが感情に任せ、適当に近くにある物を殴った音だ。
「止めて下さい、クロウ。後片付けが大変です」
「五月蝿い、リイ! 私はゼアと話をしている!」
「……リイに当たるのは止めて下さいよ、クロウ。むしろ、苛立ちを覚えているのは私に対して、でしょう?」
研究室の主であるゼアは、やんわりとクロウを制する。しかし一方で、その表情には言外に今置かれている状況が、彼にとっても「嬉しくない」ものである事を物語っていた。
「ああ、そうだ! 答えろ、ゼア! なぜそんな無謀な許可を出した!? トップクラスの研究員が聞いて呆れる! 貴様の脳みそは、自分の研究以外には使えないのか!?」
「……私だって、そんな許可出したくありませんでしたよ――ですが、ホウオウ様直々の命令とあっては、どうしようも無いでしょう?」
「な……に……!?」
信じられない事を聞いたように、クロウの顔が驚愕に歪んだ。それまで荒れていた事実が嘘であるかのように、彼の心は冷めていく。
「そんな……馬鹿な……ホウオウ様が?」
「ええ……あの男、最近静かにしているかと思ったら、今日の為にホウオウ様のところへ直談判に行っていたようです。全く、抜け目の無い……!」
そう言ってから、ゼアは悔しそうに歯を食いしばった。同じ研究者として、「奴」に出し抜かれた事が、彼にとって屈辱であるようだった。
「こんな許可を出して……ホウオウ様は何を考えているんだ……!?」
机の上に置かれた、一枚の令状。
そこに書かれていたのは――
『特別研究チーム「千年王国(ミレニアム)」の再結成。並びに、チームの主任はジングウとする』
それだけ。たったそれだけの事が、その紙に書かれていた。
一目見たところで、その言葉が意味するところなんて誰にも分からなかっただろう。だがしかし、ホウオウグループ内の古参であったならば、その令状がどれだけの意味を持ち、そしてどれだけ恐ろしい事実が書かれているのかが分かった事だろう。
特別研究チーム『千年王国』。その復活は事実上、ジングウに再び全盛期の力を与えるに等しい事なのだ――
- 116
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:10:43
- ウスワイヤ。
もはや説明は要らないだろう。いかせのごれの最南端に位置する、特殊能力者の保護施設であり、様々な超常現象に立ち向かう為の組織、アースセイバーも身を置く場所だ。
「何の騒ぎかしら……?」
自室へ戻る途中であったスイネは、廊下を走るキャスターの音を聞き、思わずそちらの方に意識が向いていた。音の方向を辿っていくと、そこはつい先日自分も世話になった手術室だった。どうやら珍しく、ウスワイヤ所属かアースセイバーの誰かが重症を負ったらしい。
「誰かしら……と言うか、そんな大怪我しちゃうような任務、そもそもあったかしら?」
手術室前で、思わずスイネは首を傾げる。
すると彼女の後方から、誰かが駆けてくる音が聞こえた。振り返ると、こちらに近付いて来るのはハヤトだった。何時も飄々としている彼にしては珍しく、その表情は切羽詰っている。
「ハヤト……? どうしたの、そんなに慌てて?」
「す、スイネ……! し、シスイの奴は!? 無事なのか!?」
「え? ……シスイが、どうかしたの?」
ハヤトの様子から、只ならぬ気配を察し、思わずスイネの口調も固くなる。そこで彼女はハッとなり、手術室の扉を仰ぎ見た。
「まさか――今手術受けてるの、シスイなの!?」
「ぜぇ……ぜぇ……そうだよ」
「そんな……嘘でしょう!? どんなにボロボロになっても、手術室送りになんて彼一度もなった事無いじゃない!」
「俺だって嘘だって思いてぇよ! ……けど、学校の屋上がボロボロになってて……そんでもって、あいつもそこに倒れていたらしい……ほとんど、虫の息の状態で」
「…………!?」
無茶な戦いが多いシスイであるが、その実彼らが言うように、シスイが重症状態に陥ったと言うのは数えられる位しかない。どんなに深く傷付こうとも、その身に眠る「天子麒麟」の力が肉体に眠っている「生きよう」とする力を活性化させる為だ。莉絵からは出来るだけ、そう言う事には能力を使わないように言われているものの、耐久力に関して言えばシスイのそれは(麒麟の彼に対してこの表情は少々不謹慎であるが)、ゾンビ並みであると言っていい。
――逆に言えば、そんな常人離れした耐久力を持つシスイが医者の力を必要とせざるえないと言う事は、「天子麒麟」を持ってしても回復が追い付かない、それ程の重症を負っている事を意味する。その事実は、ハヤト達を戦慄させるには十分過ぎる威力を持っていた。
(シスイ、貴方……学校で一体何と戦ってたって言うのよ……!?)
と、その時だった。
「きゃっ!?」
「う――わ!?」
突然施設が大きく揺れ、照明が明滅を繰り返した。バランスを崩しかけたスイネの身体を、咄嗟にハヤトが庇う。
「スイネ、大丈夫か!?」
「え、えぇ……だけど、今の一体……」
揺れが収まり、これで事態が収まった――かと思いきや、次に鳴り出したのはアラートであり、それに続くように、廊下のあちこちから赤色灯がせり出してくる。
「緊急事態……!? おいおい、誤報だよな、誤報に決まっているよな!?」
ハヤトが狼狽するのも無理は無い――このウスワイヤと言う施設内で緊急事態の発生を意味するアラートと赤色灯の出現は、施設が天災による大規模な破壊に襲われた時か、或いは人的な襲撃を受けるかのどちらかが起きた事を意味する。
先程、施設を揺るがす程の揺れがあったが、仮にその程度の地震が発生したからと言ってアラートが鳴る事は無い――それは即ち残る後者、何者かがこのウスワイヤを襲っている事を示していた。
ギリ、と自分でも知らず、ハヤトは奥歯を噛んでいた――このウスワイヤにはアースセイバーも存在するが、一方でそれとは無関係な、平和に暮らしたいだけの能力者も数多く抱えている。敵に襲撃されているとすれば、そんな戦いから逃げてきた人達が危険に晒されている事を意味する。
「スイネ、お前はここにいろ! 何があっても動くんじゃねぇぞ!」
「あっ! ちょっと、ハヤト!?」
言うが早いか、ハヤトは壁に付いていた防火シャッターを下ろす為のスイッチを乱暴に押し、分厚い扉を下ろし始めた。スイネがハヤトを止めようとした時にはもう遅く、シャッターは彼女の行く手を完全に遮ってしまっていた。
「そこにいれば、取り敢えずは安全だろ!」
「ハヤト、貴方どうするつもり!?」
「決まってんだろ――俺はアースセイバーだぜ? 戦いに行くに決まってるだろ!」
- 117
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:12:08
- ――その頃、ウスワイヤの各所では、組織始まって以来の防衛戦が始まっていた。
「こちら、Bブロック! 襲撃者と交戦中!」
『こちらアキヒロ! Bブロックのリーダー、敵の正体は分かるか!?』
「ああ、分かる……これだけ堂々と目印掲げられてちゃ、間違いっこないぜ、隊長……!」
Bブロックを守護するチームの目の前に立つ影は五つ。どれも、頭の先から爪先まで黒尽くめであり、尚且つその姿は、バイクスーツを着用したフルフェイスヘルメットのライダーに似ている。そしてその姿をした敵を、アースセイバーは嫌と言う程知っていた。
「バトルドレス……! それも五人だと!?」
「今まで出てきても一着着ている奴だけでしたからねー……あちらさん、量産体制でも立ったんですかね?」
「何を暢気な!?」
ロケットランチャーみたいな高火力は例外にしても、事実上、ありとあらゆる銃弾・刃を防ぐ防御力に、装着者に能力者とやり合えるだけの力を与える機能。そんな馬鹿げた魔法みたいな道具がバトルドレスだ。そんな道具の量産が可能になったのだとすれば、それがどれだけ厄介な事なのか、想像するのは難しくなかった。
「おい、有りっ丈の火器持って来い! 非殺傷とか言ってる場合じゃない! 手を抜いたら、こっちが殺されるぞ!」
標準装備である機関銃が、まるで役に立っていない。敵は豆鉄砲でも食らっているかのように、その全身に鉛玉を打ち込まれながら、しかし悠然と距離を詰めて来る。なまじ、一気に襲い掛かってこない分、その姿には不気味さと威圧感が満ちていた。
「――退いてろ!」
劣勢の中、不意に乱暴な声が「内」の方から聞こえてきた。その声を聞きつけ、Bブロックチームの面々に、希望の色が浮かぶ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!」
まるで、鬼の咆哮と聞き違えるような、裂帛の気合。そして次の瞬間には、BDを装着している敵の一人が、上半身と下半身を泣き別れにさせられていた。
身の丈ほどもある、斬馬刀と呼ぶにもでかすぎる巨大な刀を構え、機械仕掛けの鎧を纏う男。返り血を浴びながら立つ姿を形容するに、「鬼武者」という言葉がよく似合う。
ヨリミツ――アースセイバーに身を置く、異界の侍だった。
「ここは拙者に任せるでござる」
「そんな! 俺達も一緒に戦います、ヨリミツさん!」
「うつけが、戦場はここだけでは無いでござる!」
「!?」
「敵の襲撃箇所がここだけだと思うたでござるか!? ……全方位、入り口と言う入り口から攻め込んできている! ここの守護は拙者に任せ、主らは他の場所を塞ぎに行くでござるよ!」
「わ、分かりました!」
ヨリミツの指示に従い、Bブロック担当は急いで施設内に入っていく。それを追うようにBD姿の敵も侵入しようとするが、それを遮るようにヨリミツが立ちふさがった。
「待つでござるよ――ここを通りたくば、拙者を倒していくでござる」
ブン、と愛刀「童子切」を振り、染み付いた血のりを振り落とす。
BD装着者四人が相手と言う、普通の能力者ならば絶望的な状況であるが、そこはそれ、ヨリミツは物ともしない。何故なら、彼自身も能力を持たず、その装備の恩恵によって凄まじい力を得ている人間であるからだ。機械仕掛けの鎧は、その身に妖怪とさえ殴り合えるだけの力を与え、その刀は一撃で鬼の手首を落とす程の威力を持つ。
もっとも、それをズルイと言うなかれ――誰にでも等しく力を与えるバトルドレスと異なり、誰もが彼の持つ武具を扱える訳ではないのだから。
「ほらほら、見てないでかかってきたらどうでござる?」
あからさまな挑発を見せながらヨリミツは、しかし内心で全く油断していなかった。防衛戦と言う都合上、自分から動く戦い方はやりづらい。特に得物にそれなりのリーチがあるとは言え、ヨリミツには飛び道具が無い。いざと言う時の距離をカバーする手段が彼には少ないのだ。だから彼は敵を挑発し、自分から突っ込んでこさせようとしていた。
しかし挑発があからさま過ぎたのか、BD達は遠巻きにヨリミツを見ながら、しかしその射程距離内には踏み込んでこようとはしない。一撃で仲間の一人を切り倒されたせいもあるだろう、明らかに「童子切」を警戒している。
(ふむ、踏み込んでこないでござるか――まぁ、いい。こうして拙者が仁王立ちしている事で、奴らはここより先へは踏み込む事が出来ない。それはそれで良しにござる)
そう思ったヨリミツであるが、次の瞬間には、神様がそんな楽な戦場を用意してくれる訳が無く、どれだけ自分が浅はかであったかと言う事に気付かされた。
- 118
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:12:58
- 「……む?」
最初は四人だった。しかし気が付くと、ゾロゾロと数を増やし、今やヨリミツの目の前には二十人以上の群れが出来ていた。おまけに、全員が全員、ご丁寧にBDを装着している。
「…………楽、させて貰えないでござるのぉ」
押し寄せる人の津波に、ヨリミツは愛刀を振り上げた。
「はぁ……はぁ……」
ウスワイヤ施設内を、スザクは走っていた。シスイが重症を負ったと聞いて駆けつけ、その結果この襲撃に巻き込まれた形だ。
「くそ……まさか、ウスワイヤ本部を狙ってくるなんて……!」
「本部」の名は伊達ではない。ケイイチと同期であるアキヒロを初めとして、ここにはトップクラスの能力者が数多く在中しているのだ。その戦力は、ホウオウグループに勝るとも劣らない。事実、過去にこの地が戦場となった事はほとんど無い。ここはホウオウサイドにしてみれば、難攻不落の要塞に等しいのだ。
――にも関わらず、あの男は、ジングウは手を出してきた。イカれているとしか言いようが無い。
(ここを落とせる勝算が、あの男にはあるって言うのか……!?)
走りながら思考するが、なかなかうまくまとまらない。不測の事態過ぎる現状に、さすがのスザクも冷静ではいられないようだ。
と、その時だった。
「は――ッ!?」
曲がり角を曲がったところで、スザクは自信にブレーキをかけた。
遥か前方に、一人の少女が立っている――年齢は、九歳か十歳位であろう。薄緑色の髪に、まるで空を映したかのような青色の瞳。スザクが今まで見た事の無い子供だった。
「何だ、ウスワイヤで保護している能力者か?」
もしかしたら避難途中、この騒ぎで迷子になってしまったのかもしれない……事実、少女は辺りをキョロキョロと見回しており、何かを探しているかのようだった。
「おーい、そこの子!」
「むー?」
スザクが声をかけると、彼女はスザクの存在に気付いたようだった。ぱぁ、っと華の咲いたような笑みを浮かべると、とてとてと微笑ましい足音を立てながら、スザクの元へと駆け寄ってくる。
「――あー、スザクさん? 見た目に騙されるようじゃ貴方、その子に食われますよ?」
「ッ――!?」
突然背後から聞こえてきた声に、思わずスザクはその場から飛び退く。すると少女はスザクなど見向きもせずに、その横を駆け抜け――その先にいた、メイド服姿の女性の胸元へと飛び込んだ。
「さーちゃん!」
「全く……りーちゃん、一体どこにいたんですか?」
「おなかぐーぐーいったから、ごはんたべてたの!」
傍から見ていれば微笑ましい光景――なのに、スザクは彼女らに対して違和感を覚えずにはいられない。何せ、状況が状況だ。この戦場の真っ只中にメイドと子供など、誰が見ても場違いすぎる。
何よりも――メイド服の女の顔に、スザクは見覚えがあった。それも、こんな場所にいる筈の無い人物に。
「お前……コヨリ……か?」
「え、私ですか? 違いますよ、人違いです。私はCYR‐X002――試作型擬人兵、通称名サヨリ、です」
「擬人兵……!? お前、ホウオウグループか!?」
「ええ、そうですよ。もっとも、戦闘能力も何も持たない、ジングウさんの監視しかやる事が無い、唯の人畜無害な機械人形ですがね」
そこまで言って、なぜかサヨリはため息をついた――そのため息には、なぜだか多大な疲れが含まれているように感じられる。
「全く……私のお仕事はジングウさんの監視なのに、なんだってりーちゃんのお守りをしなくちゃいけないんですかー。ジングウさんはジングウさんで、マキナさんと一緒にどっか行っちゃうし……」
「え、えーと……?」
突然愚痴り始めたサヨリに、スザクは困惑を隠せない。普通、こういう状況で敵と出会ったならばまずバトルに入るのがお約束と言うものだが、相手が非戦闘型と分かると、問答無用に壊すのは流石に彼女には気が引けた。
「あー……私、この先に用があるから……」
思考の結果、スザクは二人を無視する事にした。ゆっくりと抜き足差し足で、二人から離れようとして――
「待ちなさい、スザクさん」
- 119
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:14:27
- 「!」
「……私達は、これから非戦闘員が避難しているシェルターへと向かおうと思います」
「何!?」
「何をしようとしているか……元々、我々の所属だった貴方なら、分かりますよね?」
「…………」
ブゥン、と言う独特の音。気が付くとスザクの体温は見る見る冷めていき、先程までの躊躇を完全に捨て去り、彼女の手には幻
龍剣があった。
「止めろ……そんな下衆な真似をするなら、私が相手になる」
「ええ……いいでしょう。貴方なら、りーちゃんにとって最高のご飯となる事でしょう」
「……何?」
サヨリの言葉を受け――そこに至って、スザクは気が付いた。サヨリがりーちゃんと呼ぶその少女。彼女が身に着けている物は
たった一枚の「焦げ茶色」の布切れに見えるが、それはどうやらしっとりと濡れているようである。現に彼女を抱き上げているサ
ヨリのメイド服は、そこから伝わる水分によって湿り――否、それどころか「赤く」汚れている。
「ッ――!?」
ぞくり、とした。
気付いてしまった、スザクは。少女の纏っている布切れ、それが「滴る程の血液」に染まっているという事実に……!
「何を……した!?」
「何も……私は何もしていませんよ――りーちゃんに餌を与えただけです」
「ッ――この、人でなしがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「ええ、だって――私、機械人形ですから」
「うおぉぉぉぉぉぉ!? どこでもかしこでも、ドンパチやっちゃってるうぅぅぅぅぅ!?」
保護能力者達の居住区画を目指しながら、ハヤトは事態の深刻さを感じずにはいられなかった。
耳を澄ませれば、そこかしこで戦闘の音が聞こえる。もはや、ウスワイヤ全域が戦場化してしまっているのは、想像に難しくな
かった。
それだけに、ハヤトは急いで居住区を目指す――戦闘と無関係な人間まで危険に晒す事を、彼は良しとしていなかった。
(痛いのも怖いのも、誰だって嫌だものな――そっから逃げてきたってのに、向こうからやってきたとか、理不尽極まりないだろ
!?)
ハヤト自身の感情として、別に逃げる事は悪い事だとは思っていなかった。「神は人に、その人がクリア出来ない試練を与えた
りしない」とか言う言葉があるものの、ハヤトはそれに対して「んな訳ねーだろ」と切って捨てる。
(そいつが真理だってんならさ――異能力を押し付けられた、俺達アナボライザーは一体なんだってんだよ!?)
前述した言葉は、苦難に直面した人間の背中を押してやる為の言葉であり、真理でも何でもなく、そこへマジレスするのもどう
かと思うが、それでも大概同じ事を考えている筈だ――今まで、自分で苦難・難題を切り抜けてきた人間達は。
しかしそれは、たまたま彼らに「直面した問題をクリアするだけの能力が備わっていた」だけの話であり、探せば彼らのように
うまくいかなかった人間は絶対にいる。そんな人達に対して、彼らは言うのだろうか――その問題がクリア出来なかったのは、君
達が真面目に取り組み、全力でかからなかったから、と。上から目線も甚だしい。全力で取り組んだ、しかし駄目だった人間だっ
て絶対いるだろうに。
神様は何時だって残酷に、しかし公平に平等だ。「この問題、こいつならクリア出来るだろう」なんて色眼鏡や選別は絶対にし
ない。ただ公平に、適当に、万人に対して千差万別な試練をバラ撒いて与えているに過ぎない。
そんな残酷な神様がいる世界で、弱者から「逃げる」という選択肢を奪ってしまうなんて、そんなのあまりにも救いが無さ過ぎ
る。「逃げるな」って言うのは、強者にだけ許された言葉なのだ。
だから――
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ハヤトは駆ける。住みにくい世俗から逃げてきた能力者達の、自分の宿命から逃げてきた能力者達の、争いから逃げてきた能力
者達の、最後の楽園、ウスワイヤ。彼らが自分に与えられた試練から最後まで「逃げ切れる」ように。
屋外へ飛び出し、居住区のある棟へと向かおうとした――その時だった。
「ッ――!?」
ハヤトはブレーキをかけ、その場に立ち止まる――目の前には、数人のフルフェイスヘルメットの人間の姿が。
「おいおい……仮面ライダー555じゃないんだぜ? 強化服こんなに作るとか、お前ら何と戦うつもりなんだよ……」
愛用の短剣を引き抜きながら、ハヤトは身構える。身体能力は常人並みでしかない彼にとって、BD装着者は正しく天敵に等し
い相手だが、そこはそれ、仮想敵にはうってつけの友人がハヤトにはいた。
(シスイ、俺は守るぜ……お前との特訓で身に着けた、この力で……!)
- 120
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:14:58
- 「――――」
その時、BD装着者相手に奮戦するハヤトを、建物の上から見下ろしている人影が一つ存在していた。
ウスワイヤを襲撃しているBD装着者達と同じく、その人影もまたバトルドレスを身に纏っていた。その為、一見すると他のB
D装着者と同じように見えるが――そのヘルメットには、なぜだか角が付いていた。
(……博士……指揮官機なら角は必須でしょうって……ミツにはさっぱり意味が理解できません……)
そのBDの中身はミツだった。「彼」は先程からずっと、この場所に立っているだけで何もしていない。
――否、それは間違いだ。そう見えるだけで、戦闘開始直後から「彼」はずっと己の作業をこなしている。
「スキルウエポン・進撃の王国(リヴァイアサン)」。それが、今回ミツに搭載されたSWの名称だった。
まず初めに、今ウスワイヤを襲撃しているBD装着者達は、すべて人間ではない。「リヴァイアサン」と言う名称の簡易量産型
バイオドロイドであり、意思も自我も持たない人形だ。与えられた指令通りに動く点は、むしろ自我を持つ以前のサヨリに近いと
言える。
「簡易」、「量産型」。機動戦士の時代より、「量産型」とは主役機に劣るやられメカと言うイメージが強いが、それは所詮主
役を盛り立てる為の製作者側のご都合に過ぎない。本当の量産型はもっと強い。何せ――リヴァイアサン達は「ドラゴンズスキル
」こそ装備していないが、それを除けばすべて彼らのオリジンであるミツと同等の性能を持っているのだから。
「SW・リヴァイアサン」は、そんなリヴァイアサン達を指揮・統括する為の「操り人形の糸」であると言っていい。現在ウス
ワイヤを襲撃しているリヴァイアサンは全部で五十機余りだが、そのすべてがミツ一人の指揮によって動いているのである。
「行け、リヴァイアサン達よ。汝は我らが王国の尖兵だ」
「一にして全、全にして一」。リヴァイアサン達は、事実上ミツの分身であると言ってよいのだ。
- 121
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:16:37
- 「…………」
各所へ指揮を飛ばしつつ、自らも戦闘に出ていたアキヒロは、その流れで「彼ら」と対峙していた。
「ジングウ……か」
「おやおや。この格好なのに、よく私だとお気付きになられましたね?」
そう言いながら、ジングウはその場でくるりと回転してみせる。包帯塗れのメイド服と言う、相変わらずのふざけた格好だ。
「分かる……どんな格好をしていようとも、お前の邪悪さは隠せん」
「邪悪、ねぇ……私も嫌われたものです」
言いながら、ジングウは肩をすくめる。
「隊長、こいつまさか――」
「ああ、そうだ。ある意味でホウオウよりもずっと邪悪で危険な男……ジングウだ」
アキヒロと共に行動していたアースセイバー所属員達に、一斉に緊張が走る。人間を怪物にしてしまうプロ・ウイルス「ジェネ
シス」を用いた、先の「生物兵器事件」。その首謀者たる男が、今目の前にいるのだから。
「……しかし、何故にメイド服? しかも包帯塗れ?」
「怪我人、はしゃぐと身体に悪いっすよ?」
「……何故に私、敵から心配されなければいけないんでしょう……」
自分も落ちたものだ、とジングウは一人ごちる。するとその隣で、なぜだかマキナが高笑いを上げた。
「はーはっはっはっは! ジングウ様がなぜこんな格好をしているのか、やはり愚民には分からないらしいね! ――なぜならジ
ングウ様は、怪人:木乃伊冥土だからさー!!」
「……あの、マキナさん? 恥ずかしいんで、ちょっと黙っててもらえます?」
マキナの奇行を収め、こほんとジングウは場を取り直そうとしたのか、一つ咳払いをする。その間アースセイバーサイドではヒ
ソヒソと、「なんかあの人、最初の頃より三下度が増したような……」と言う会話をしていた。
「――やはり、この格好では様になりませんね……日常編だけの使用に控えておきますか」
バサッ、とジングウは自らが纏っていたメイド服を投げ捨てる。するとそこには、学生服を着、その上から白衣を羽織った、「
彼スタイル」のジングウの姿があった。
「やぁ、お久しぶりです、アースセイバーのみなさ――」
「――はい、キャッチ!」
ジングウの言葉を遮ったのはマキナの声だ。見れば、彼が投げ捨てたメイド服を俊敏な動作で、ヘッドセットも忘れず、見事に
空中でキャッチしていた。
「ジングウ様ー、ちゃんと回収したよー!」
「……それ、予備に五着ぐらいあるので、一着ぐらいどうって事無かったんですがね」
『予備あるのかよ!?』
アキヒロを除くアースセイバー所属員達が、たまらず突っ込みを入れる。しかしジングウとマキナはマイペースであり、全くと
言っていいほど、突っ込みを意に介していない。
- 122
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:17:38
- 「さて――もう挨拶なんて面倒ですね。ごきげんよう、諸君。我々はホウオウグループだ」
「ホウオウグループ……だと!? お前、今ホウオウグループにいるのか!?」
「ええ、そうですよ? 元々ホウオウグループに所属していたんですから、今も何もありませんよ、全く……」
ため息をつくジングウであるが、アースセイバー側は困惑を隠しきれない。
なぜならジングウは、先の戦いでホウオウへの反逆とも取れる発言をしていた。裏切り者に容赦が無いホウオウグループにとっ
て、ジングウは許されざる存在に違い無い。にも関わらず、彼はこの場に存在し、あまつさえホウオウグループの一員として存在
する。長年ホウオウグループと戦い続けてきたアースセイバーにいるからこそ、目の前のジングウの存在が信じられなかった。
「お前の目的は何だ?」
狼狽する所属員達とは異なり、全く表情を変える事無くアキヒロが問いかけた。幼少期からホウオウグループと対峙し、いくつ
もの「有り得ない事態」に直面してきた彼にしてみれば、こんなもの「有り得ない」内には入らないのだろう。
「目的ですか……まぁ、『千年王国』を再結成したので、ちょっと我々の力を見せてやろう、と」
「我々の力……だと?」
「ええ――ホウオウグループを総動員するまでもなく、我らが王国『千年王国』の力だけでウスワイヤを壊滅させるなど容易い…
…そう言う意思表示ですよ」
「ちょっと待て――まさか、今ウスワイヤを襲撃しているのは、お前と、その仲間達しかいないって言うのか!?」
思わず聞いてしまったのだろう。所属員の一人が、気が付くとそう口走っていた。それを聞いて、ジングウの口端がニヤリと歪
んだ。
「ええ、そうですよ? そうだと言っているんですよ」
「ハッタリだ! そんな筈ある訳――」
「信じる信じないは貴方達の勝手ですがねぇ……さ、行きましょうか、マキナさん」
「はーい♪」
くるりとアキヒロ達に背を向けると、ジングウはマキナを伴って去っていこうとする。
「逃がすかっ!!」
「な――よせっ!」
- 123
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:19:38
- その時、何人かの所属員が、歩き去ろうとするジングウに向かって飛び出していった。ジングウが包帯だらけである事、加えて
護衛がマキナ一人だけと言う事から、自分達だけでも奴を抑えられる――そう踏んだのだろう。マキナの能力「狂気化(ジェノサ
イド)」は使い勝手が悪く、守るべきジングウがいるこの状況で使う訳が無いからだ。
だが、
「――おいおい、想像力足りてねぇな?」
嘲るようにジングウが言った次の瞬間、飛び出した所属員達は、一人残らずマキナの振るう鉄槌の餌食になっていた。
「がっ……はっ……!?」
「ば……かな……!? 狂気化は、自分では制御不能な能力の筈……!?」
そう。「狂気化」は「ジェノサイド」と言うもう一つの呼び名の通り、使用者が狂気状態に陥る為敵味方の識別が出来ない。と
にかく「手当たり次第、その場にいるモノに対して攻撃を仕掛ける」能力なのだ。ところがどうだろう。今の彼女は、ジングウの
傍で能力を発動したにも関わらず、彼には全く目もくれず、真っ先に所属員だけを狙っていた――まるで、誰が味方であり、誰が
敵であるかを理解出来ていたかのように。
「何をそんなに驚くんです? おかしくはないでしょう、私達のやる事なんですから」
「う……ぐ……」
「……ま、それでも何にも種明かししないって言うのも、味気がありませんね。マキナさん、見せてあげなさい?」
「はーい♪」
上機嫌そうに答えると、マキナは自分の首に着けているチョーカーを引っ張った……否、それはチョーカーと言うよりも、首輪
と呼んだ方が近しいかもしれない。それには、何かしらの機械が埋め込まれているという事が理解できた。
「マキナさんの理性が少しでも残っていれば、狂気化をコントロールする事は可能だと言う事が分かったので――外部からのアプ
ローチにより、彼女の狂気状態をセーブする事にしたんですよ。名付けて――」
「――エンゲージリング!!」
ばばん、と言う効果音が似合いそうな調子で、何やら誇らしげにマキナが言った。ぎぎぎ、とジングウの首が動き、隣に立つマ
キナを見る。
「……いえ、マキナさん。それの正式名称「狂戦士の首輪(バーサーカーリング)」です」
「いいえ、「婚約首輪(エンゲージリング)」です!!」
「……何で力一杯、そんな事言っちゃうんですか、貴方? つか、婚約首輪って、どんだけSなんですか、その亭主」
「もー、ジングウ様ったら、貴方十分にドSですよー?」
「……妻にしたい人間に首輪を付けるほど、人格倒錯してません」
「なんかもう、お互いにお互いを台無しにし合っているよな、この二人……」、「ある意味、お似合いなんじゃね?」などと言
うヒソヒソ話が聞こえ始めてきた頃、ジングウもマキナを黙らせる事が出来ていた。先程の様に、こほんと咳払いを一つする。
「……まぁ、こんなものでしょうか? 我々の篝火には、もう十分でしょう」
冷たい眼差しでこちらを睨み付けるアキヒロに向かって、ジングウはにやりと嘲笑った。
- 124
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:21:17
- 「か――!?」
横腹を殴打する強烈な一撃に、スザクは思わず床に膝をつき悶絶していた。
(何だ、この化け物は……!?)
脇腹を押さえながら、スザクは顔を上げる。
そこには、確かに「化け物」がいた。
ウネウネと、無数の触手が蠢いている。数にして十は下らなく、しかも一本一本が人間の胴体ほどもある。その触手の基点にい
るのは一人の少女であり、触手は彼女の腕に当たる場所から生えていた。
「りーちゃんが持つ二十三の技能の一つ――「イソギンチャク」の力はいかがですか?」
戦闘範囲から遠く離れた場所に、サヨリの姿がある。彼女は終始この戦闘が始まってから、戦闘には加わらず、遠巻きに二人の
戦い振りを見ているだけだった。だが、それはそれで正直スザクは有難いと思う。こんな化け物を相手に、更にもう一人の相手を
するなど、どう考えても無理がある。
「質量保存の法則無視し過ぎだろ……一体、あの小さな身体のどこにこんなにたくさんの触手が入ってるんだ!?」
「見た目で判断しない方が身の為ですよ。先にも言いましたが、りーちゃん、生物兵器を二十三体融合して生まれたスーパー生物
兵器なので」
「あはははははー!!」
子供らしく笑いながら、しかし冗談みたいな数の触手をレリックはスザク目掛けて放つ。自分に向かって突っ込んできた触手を
幻龍剣で切り裂くが、すぐに再生してしまうのでラチが開かない。
「く……接近して、本体に叩き込めれば別なんだろうけど……」
しかし、それを相手は許してくれない。四方八方にうねる触手が行く手を阻み、スザクがレリック本体へと近付く事を妨害して
いる。無謀な接近の仕方をすれば最後、あの太い触手に絞め殺されるに違いない。
ならば龍精落――だが、それも駄目だ。放ったとしても、今度は触手を盾にして威力を削ぎ落とされてしまい、レリック本体を
倒すには至らないだろう。
――思えば、これ程の相手との戦闘を、たった一人で行う事が今まで無かった。気が付けば仲間の姿があり、何時もフォローし
てくれていた。その事実を、よりによってこのタイミングで気付かされる。
「あーもう……怪物退治はヨリミツの仕事だろー!!」
「むー! りーはかいぶつじゃないー!! いちにんまえのれでぃーなのー!!」
「……りーちゃん? 一体誰から習ったんです、そんな言葉?」
ノリは軽いが、振るう力が大きい分性質が悪い。既に周辺一体は、レリックが触手を振り回した事による破壊でボロボロになっ
てしまっている。もしレリックがシリアスと言うものを理解し、大真面目に襲ってきたら、今頃スザクはひとたまりも無い事にな
っていたのだろう。
と、その時だった。
- 125
:akiyakan:2011/10/31(月) 09:21:54
- 「あ、はい、サヨリです――ジングウさん? あ、はい、分かりました……りーちゃんー? 帰りますよー」
携帯電話に応答したかと思えば、サヨリがレリックに向かってそう呼びかけた。するとレリックは不満そうに、サヨリの方へと
振り返る。
「いーやー。しゅざくともっとあそぶー」
「駄々捏ねないで下さい。ジングウさんに晩御飯、抜きにされちゃいますよ?」
「それもいやー」
ズルズルと触手が収縮し、レリックの腕に戻っていく。これだけの大質量が見た目十歳程度にしか見えない少女の一体どこに納
まっているのか、本当に不思議でならない光景だ。
「……待て」
「はい?」
「お前ら、一体何しに来たんだ。これじゃまるで、適当に襲って、適当に帰ろうとしているようにしか――」
「……ええ、その通りですが、何か?」
「!?」
スザクの瞳が、信じられないものでも見たように大きく見開かれる。そんな彼女を見て、サヨリは苦笑を浮かべた。
「おかしいと思います? ……私も思います。けど、それが今回出したジングウさんの作戦なんですよ」
「作戦って……一体これの、どこが作戦なんだ……」
「強いて言うなら、旗揚げですよ」
「旗揚げ……?」
「『千年王国』の再結成、それをアースセイバーの方達に知って頂くため……そして、我々にはこれだけの力があるのだ、と言う
自己顕示ですね。ほら、ジングウさん、あの通り自己顕示欲全開な方なので……」
それにしたって、やる事が滅茶苦茶だとスザクは思う。振り返ってみれば、たかがそれだけの目的の為に、ウスワイヤをここま
でめちゃめちゃにしているのだから――
「さて――私達はこれから帰りますが、スザクさんは見逃してくれますよね?」
「……ああ。本当は見逃したくなんかないけど、その子は私一人じゃ太刀打ち出来そうにないからね」
「賢明な判断です――それでは」
「ばいばーい」
歩き去っていく二人に、警戒心は欠片も感じられない。スザクが不意打ちを仕掛けてくるとは全く考えていないようで、しかし
実際スザクには不意打ちのしようが無かった。
強過ぎる。あのレリックと言う子供は、あまりにも出鱈目に強過ぎる。二十三個存在すると言う力の一つを相手にしてこの様だ
。二十三個、すべての能力をあの少女が開放した時一体どんな事になるのか、全く想像したくもない。そして、そんな化け物を生
み出したのは他でもないホウオウグループであり、『千年王国』の主導者ジングウなのだ。
二人の後ろ姿を見つめながら、スザクは、ホウオウグループの、そして『千年王国』の計り知れなさを噛み締めていた。
(さぁ、始めようか、諸君)
(私と、私達の王国による――戦争を)
- 126
:スゴロク:2011/10/31(月) 10:30:17
- 「千年王国の夜明け」に続きます。
ジングウ一派によるウスワイヤ襲撃。その場に居合わせたスザクは、事実上の敗戦にうなだれていた。
未知の敵だったというのもあるが、実力で圧倒的に上を行かれていた。
(まただ……また僕は何も出来なかった)
半ば暴走に近い「白化」……あえて人格にヒビを入れ、生物兵器としての部分を露わにする負の切り札。それを切ってなお、この様だ。
身体を引きずるようにして外に出ると、そのままとぼとぼと自宅に向かう。
「………」
帰り道で考えるのは、襲撃現場にいなかったあの男。
(お前はどこで何をしてるんだよ、ゲンブ……こういう時に役に立たないでどうするんだ)
自分をこの立場に引き込んだ男。脱走からの付き合いの仲間。
最近はホウオウグループを敵視する方に思考が飛び、半ば自分達から浮きつつあるあの男。特殊調査員だというあの男が、こんな時に限って現れない。招集がかからなかったのならそれでいいのだが。
そしてもう一つ、
(グループどころか、奴らだけでもウスワイヤに乗り込み、潰せる……)
推測ではない、事実だった。自分は出会わなかったが、ジングウ一派がいたということは間違いなくバトルドレス装着者がいたはずだ。そして兵器である以上は量産が利くはず。
(……もう、ダメかもな)
自分の力ではどうにもならない。それを痛感し、自然と足取りも重くなる。それでもどうにか、家まで辿りつくことは出来た。
「ただいま……」
「お帰りなさいませ……? 姉様、どうされましたの?」
「……そうでしたの」
スザクから一部始終を聞いたアオイは、ふう、とため息をついた。
「肝心な時に限って僕は何も出来ない……守らないと、倒さないとならなかったのに」
自責の念に苛まれる姉を、アオイは不思議そうな表情で一瞥する。そして、
「思うのですが、姉様」
「……?」
「ウスワイヤのために、そこまでする必要はないのではありませんか?」
そんなことを、言ってのけた。
「!? 何をいきなり……」
「姉様は単なる外部協力者でしょう? 内部の問題にまで首を突っ込む必要はないのでは?」
「そうは言っても、あそこにはシスイ達が……」
「かもしれませんが、それに関しては任せておける方がいらっしゃるでしょう? 姉様のお友達は、そんなに信用が置けない方たちですの?」
衝撃だった。確かにアオイの言うとおりだ。だが、
「……あの場に居合わせたんだから、戦わないわけにはいかなかった」
スザクがウスワイヤにいたのは、シスイが重傷で担ぎ込まれたと言う話を聞いたからだ。その最中に襲撃が起きたのだから、彼女はどちらかといえば巻き込まれた形だ。
だが、それでもアオイは言う。
「ええ、存じております。ですから、自分からこの件に関わるのはもうおやめになってはいかがですか?
- 127
:スゴロク:2011/10/31(月) 10:31:04
- 「だからって……」
「同じことが起きた場合、姉様にはどうにか出来ますの?」
いっそ冷たいくらいの眼差しで、アオイはスザクを見据える。
「それは……!」
「出来ないとわかったからこそ、そこまで落ち込んでいらっしゃるのでしょう?」
こう言う時のアオイは本当に容赦がない。逃げることも、目を逸らす事も許さず、現実を突きつけて、否叩きつけて来る。
「正直な事を言わせてもらえば、姉様とわたくしは、アースセイバーの皆さまから見れば弱者もいいところですわ。精神状態がフラットなら、2人がかりでもゲンブさんすら倒せません」
何気に酷いことを言ったのはスルーし、アオイは続ける。
「強くなりたいのでしたら当てもあります。皆さまが心配なら、姉様が行かずともやり様はあります。……ですから、これ以上危険に踏み込むのはやめてくださいませ。姉様に万が一のことがありましたら、わたくし、今度こそ本当に一人ぼっちになってしまいますわ……」
「アオイ……」
―――頭に血が上り過ぎて忘れていた。確かにアースセイバーの彼らも大事だが、もっと他に、何を措いても守らねばならないものが、すぐ近くにあったことを。
火波 アオイ。島根から自分を慕ってやって来た、たった一人の妹。
ブランカ・白波。行き倒れた自分を助けてくれた、無二の親友。
(トキコは……大切だけど、守ってやらなきゃならないほど弱い女でもないか)
少なくとも彼女には居場所があり、仲間がいて友達がいる。とはいえ黙っているわけにも行くまい、折を見て話をしておくとしよう。
「……そうだな、わかった。必要以上に首を突っ込むのはやめとくよ」
「姉様……わかっていただけましたのね」
「ああ。ウスワイヤは確かに心配だけど、僕がいないくらいでどうにかなるとは思えないから。僕の戦う場所は、他にある」
逃げ出したのだと笑わば笑え。臆病者だと言わば言え。弱くなったと嘲らば嘲れ。それでも、
(今の僕に、守れるものは少ない)
なら、一番大切なものを守ろうとして何が悪い?
(……そういえば)
決意した瞬間、唐突に妙な方向に思考が飛んだ。ウスワイヤで会ったサヨリという擬人兵は、何と言っていた?
(「もともと我々の所属だったあなたなら」……けど、僕は別にグループにいたわけじゃないぞ?)
スザクがいたのはグループから弾かれた研究者の集団「UHラボ」の施設。そこは他ならぬホウオウグループの襲撃で壊滅している。情報くらいは行っているだろうが、それにしてもあの言いようはおかしい。
(情報に齟齬でもあったのかな)
思うが、グループ内部のことまでは頭が回らない。答えの出ない思考をとりあえず打ち消し、椅子から立ち上がる。
「姉様?」
「……ご飯にしよう、アオイ。何だか今日は疲れちゃった」
「ですわね」
ピン、ポーン……。
「ん?」
「あら? お客様ですの?」
玄関に向かい、扉を開ける。そこにいたのは、
「っーや、こんーばんわ」
「……どうも」
眼鏡をかけたおかしなテンションの男と、白い髪で無表情、生気の全くない少女だった。
梧桐の想い、朱雀の想い
(そしておかしな訪問者)
akiyakanさんより名前のみ「ジングウ」「サヨリ」「都シスイ」しらにゅいさんより名前のみ「トキコ」十字メシアさんより「壬道 外芽」をお借りしました。自キャラは「火波 スザク」「火波 アオイ」「赤銅 理人」名前のみ「ブランカ・白波」「水波 ゲンブ」です。
- 128
:大黒屋:2011/10/31(月) 17:44:28
- 暫く書いてなかったせいで頭が混乱してます。整理もかねて。
全て某日にしていますので、時系列はずれない限りどこに突っ込んでもかまいません。
スゴロクさんより「白波 シドウ」「水波 ゲンブ」「ヴァイス」「赤銅 理人」、(六x・)さんより「冬也」をお借りしました。
ノルンの様子がおかしくなってから、もう1週間がたつだろうか。
変化のないこの部屋では、時間の感覚も狂いだしそうだった。
ノルンといえば様子がおかしいのは相変わらずで。
時々ベッドから起き上がったと思えば少しご飯を食べるだけで、後はずっと寝たきりだ。
姉さんから預かった眼鏡はずっとノルンの傍らに置いてあるばかりで。
朝から晩まで同じ景色しか映さないそれは、もう景色が焼き付いてしまったのではないかと思うほどだ。
俺は鏡映しのようにそっくりになってしまった片割れの隣に座り、ふっと溜め息をついた。
その姿こそが俺の片割れの本当の姿だというのに、俺は素直に馴染めなかった。異和感すら感じていた。
いつまでこんな日が続くのだろう。
いつ俺の知っているノルンは戻ってくるのだろう。
答えの無い問いに翻弄され、頭を抱えながら、また陽は落ちていく。
(某日、ノア)
闊歩が目覚めたのはいい。
だが、あの出来事をどう説明しようかと私は悩んでいた。
だっていきなり変な機械に襲われて石にされてぶっ壊されて。
とおもったら生き返ってその機械を逆に石にしてしまったなんて幾ら闊歩でも信じるまい。
そう葛藤する私の横で、闊歩は首をかしげている。
臨死体験をしたところまでは闊歩は覚えている。
ってことは、ごまかしもすぐにばれるだろう。
頭のいい闊歩の事だ。放っておいても恐らく自分で気づく。
私は腹をくくった。
獏也さんにはごまかせと言われたが、あとでなんとか言い訳をしよう。
私は闊歩に向き直り、口を開いた。
(某日、夏香 由衣)
最近、店長さんが怖い。
普通に接してくれるんだけど、どこかぴりぴりしてるみたいで。
最近物騒だからかな?
それとも、能力者絡みでなにかあったのかしら。
よくわからないけど、このまま平穏な時間を満喫することは許されなさそう。
やっと手に入れた平穏なんだけどね。
私は自分の手をじっと見た。
使う必要のない私のこの力も、もしかしたらもう一度使うときが来るかもしれない。
その時は、店を守りきれるようにならなきゃいけない。
ひそかに決意しながら、私は中学の鞄を手にとった。
(某日、夏香 奏)
シドウさんからそんな相談が持ちかけられるなんて思ってもみなかった。
だから一重に返事を返すことができなかった。
何処に居るかも分からなかった男が、不意に姿を現し、アースセイバーに入ると言ってるようなもんだ。
入れば確かにメリットはある。
世間を騒がせている能力者の情報は手に入りやすくなるし、協力も仰げる。
そして家族を守ることにもつながるだろう。
だが、自分は考えもしなかったが、それ相応のデメリットも生じるだろう。
独立隊員でもなければ自由行動は難しいはずだ。
昔から身をゆだねていた私では答えを出せない。
だから私はシドウさんに、参考にはならないだろうが、自分の見解をいってみた。
(某日、天河 星)
神通力が少しずつ強くなっていくのは、あし自身でも分かった。
眼の前の大木は、あしの木刀一振りで消しとばされとった。
呪印の刻まれた布を木刀から取り払い、あしはつい数分前までそこになかった空を見上げた。
いい加減一般人として通すわけにもいかんじゃろう。
春美殿もアースセイバーに加盟し、秋山家はウスワイヤと結んどる。
特殊能力…とはまた別なんじゃろうが、人知を超えるのは間違いなかろう。
能力者とかかわってきて、奥底で何かが目覚めとるんじゃろう。
とはいえ今の力じゃまだまだぜよ。
今一度、寺院に向かうべきじゃろうな。
師範にもう一度、この力の使い方を教わるべきじゃ。
(某日、秋山 月光)
- 129
:大黒屋:2011/10/31(月) 17:45:05
- シン・シーについての動向がぱったりと聞こえなくなった。
それだけでも私にとっては大きな不安。
また何時人外さんが…妖怪さんが、彼らに襲われるかわからないから。
一度だけ会った彼は、とっても怖かった。
足がすくんで動けなくなって、助けてもらえなかったら今頃私は死んでたと思う。
私は死ねないの。百物語組の皆の為にも。
だから今、私はキリ君と一緒にアースセイバーに向かっていた。
今日はゲンブさんと約束していた、シフトを組む日だから。
一人でも多くの皆の幸せのために…。
(某日、秋山 春美)
彼は違う。
何度私はそう言い聞かせたことだろう。
それでも肩書が邪魔をして、私は彼を平等な目で見ることができない。
おかしな話よね。
彼は(映画とかは駄目だけど)少しずつ妖怪に慣れてきてるのに。
妖怪主治医としての自覚が出てきているのに。
自分の命は、二の次に置いて。
もしも私が人間だったら、こんな思いをせずに済んだのかしら。
パスケースの中の笑っている私は、私とは別人なのかしら。
そんな疑問に悩まされながら、私は歩を進めた。
(某日、ミサキ)
妙だ、と呟いたのはアカノミの方だった。
しばしば彼のもとで休憩していたという「白い闇」が、ここ数日きていないというのだ。
そう、それはかの黒ずくめの男が死んだと報道された時と同じだった。
俺は直接逢ってはいないが、相当のやり手だったと聞く。
そんなに簡単に死んだものかと疑問に思ったが、情報がそれきり途絶えてるのだから恐らく事実だろう。
なにはともあれ、心配の種が一つ消えたと俺は解釈していた。
でも、アカノミはまだ不安で仕方ないらしい。
あれほどの男が簡単に死ぬわけないと主張してやまないのだ。
いささか生きているか疑問だったが、後で調べるよとアカノミをなだめながら、先に進んだ。
(某日、幹久朗)
屋上のフェンスが消えとった。
コンクリートが向きだした足場には僅かに血が染みを作っとった。
そしてなにより、そこにあるはずのドアが、蝶番を引きちぎられて消えとった。
後からノラにきいたが、グラウンドのど真ん中に突きささっとったらしい。
かの1年生を気にして2,3日屋上におらんかった間に何があったんじゃ。
流血沙汰とはただごとではなかろう。
今までいくらか平和だったせいで甘く見過ぎとったとは不覚じゃった。
このままでは一度にいくつかの問題をまとめて相手取らなければならんかもしれん。
わしにはシン・シーの件もあるが、他にもやらねばならんことがあるはずじゃ。
今日は集合がかかっとる。アースセイバーに向かうはずじゃ。
丁度いい。冬也に預かってもらった鉄槌を、この際返してもらうとするかの…。
(某日、ゴクオー)
ある日、ある時
…尚、一日の大半を屋上で過ごすゴクオーは、
必然的にかの人物と出会うことになるのだが、
それはまた、別の噺。
- 130
:しらにゅい:2011/11/01(火) 12:51:27
「・・・ふぅ・・・」
(資料室にて、女一人。)
「まったく、ジングウという方もなかなか大胆なことをするものです。
もっとも、それは総帥の意志の元にあり、許されたからこその行為であると思いますが・・・
仮にも公的施設なのですから、明るみにならないわけがない。
それにジングウとて阿呆ではない、この行動の後の事も彼の想定内である、ハズ。」
(机の前には書類が数枚。)
「しかし情報を『改竄』するも、『偽造』するも限度があることを知って欲しいものです。
そういう能力に特化したものを此処に置くべきかとは思いますが、残念ながらこの場に置いて私しか適任がいません。
ロゼはロゼの役割があるから、彼女に無理強いをするわけにもいきません。」
(まったく同じものが隣に置いてあるが、文章の内容が変わっている。)
「一度、誰かを通して総帥に訴訟すべきか?要望が通る確立は?可能性は50にも満たないでしょう。
無謀、この提案は却下。」
(クリップを外し、手早く入れ替える。)
「次、」
(別の書類が机の上に置かれると、同じような動作を繰り返す。)
「・・・まぁ、こんなものでしょう。」
(出来上がった資料を棚に戻し、今度は元々あったものをビリビリと破り始める。)
「さて、次はどんな無茶をしでかすのか。そして、現実との改竄にどれほど私が悩まされるか。
ねぇ、どう思います?」
(机の上にはマスコットサイズの羊が一匹、破かれた資料を食べている。)
「・・・今は、ジングウという男の築き上げる千年王国の行く末を、見届けさせて頂きましょう。」
~♪
(机の上に置かれていた携帯が光り、音を鳴らして震えている。)
「・・・はい、もしもし?・・・はい、今資料室です。・・・分かりました、すぐ行きます。
アヤセさん。」
ピッ
「・・・」
(首を傾げる羊。)
「どうやら、急な用件だそうです。行きましょうか。」
(立ち上がり、羊を携帯につけると、資料室を出る。)
(残されたのは、改竄された偽りの捜査資料。)
資料室にて。
- 131
:しらにゅい:2011/11/01(火) 12:58:18
- >>130 お借りしたのはジングウ(akiyakanさん)、ロゼ(びすたさん)、アヤセラン(鶯色さん)でした。
こちらからは現です。
ホウオウグループに敵らしい敵がいないなぁ、ということで急遽作りました!
だってジングウ絡みになるとトキコが・・・ねぇ・・・。
ホウオウグループ絡みの事件を捜査する課があるように、グループ側で正体が
バレないように手を回す奴等もいるんじゃないかと思い、ウツツが出来上がりました。
これから暗躍する・・・かも?
さぁどうなるアースセイバー!今後どうなるか非常に楽しみですw
- 132
:大黒屋:2011/11/01(火) 15:45:41
- >>128-129
わーっ!;
すみません、しらにゅいさんより名前はあがってませんが「張間 みく」もお借りしておりました!;
というか完全に流れをぶった切ってました…。ごめんなさいoyz
- 133
:えて子:2011/11/02(水) 13:47:55
- 前回笠村のおばあちゃんをあまり動かせなかったので動かしてみた。
時系列「夕陽の休日・待ち合わせ」とほぼ同じです。
しらにゅいさんより「千鶴」さんをお借りしました。
夕陽を見送った朝陽は、再び機織り機に向かい、作業の続きを始めた。
「ほっほ…お友達がいるのはいいことだねぇ。
さて、わたしは何をしようかしら…」
外は静かで、すぐにお客が来るような気配はない。
仕事で頼まれたものもない。
要するに、この作業が終われば暇なのだ。
「今日は天気もいいし、ちょっとお散歩でもしてこようかねえ…あら?」
そう一人呟いていると、玄関から、みぃ、と小さな声が聞こえた。
不思議に思い、作業の手を止めて向かってみると、小さな黒猫がいる。
「おやおや。どうしたんだい、こんな所で?道に迷ったのかい?」
玄関の前にしゃがみこむと、そっと黒猫を撫でる。
人に馴れているのか、黒猫は逃げる様子もなく、ごろごろと喉を鳴らした。
「あ、可愛い猫ちゃんですね」
ふと、頭上から声が聞こえる。
朝陽が顔を上げると、茶髪の女性が黒猫を見下ろしていた。
「おばあちゃんの猫ですか?」
「いいや。さっきここで知り合ったんだよ。首輪もないし野良かねぇ」
軽く首を振ると、黒猫を抱き上げる。
「ここじゃあ通行の邪魔になってしまうねぇ。こっちで一緒に日向ぼっこしようじゃないか。
お嬢ちゃんも、時間があるならお茶でも飲んでいかないかい?」
「いいんですか?」
「ああ。ついでにおばーちゃんの話し相手になってくれると嬉しいねえ」
そう微笑み、手招きをした。
日があたり暖かな縁側。朝陽は女性と二人でお茶を飲んでいた。
女性は「千鶴」と名乗った。フリーのジャーナリストをしているらしい。
「へえ、そうなのかい。若いのに大したもんだねぇ」
「いえいえ、私なんてまだまだですよ」
湯飲みのお茶をすすりながら、千鶴は照れたように苦笑する。
その様子を見て、朝陽も微笑ましそうに笑みを深めた。
「それにしても朝陽さん。この子たち、みんな拾ってきちゃったんですか?」
「ああ、そうだよ。みんな雨に打たれてたり捨てられて寒さで震えてたり…わたしには放っておけなくてねぇ」
穏やかに微笑みながら、庭を見る。
そこには10匹ほどの子犬や子猫が仲良く遊んでいた。
その手のものが見える人物であれば、さらに数匹、その遊びの輪の中に入っているのが分かるだろう。
それらも含めて、全て朝陽が拾ってきた犬猫たちである。
「…お世話、大変じゃないですか?」
「ほっほっほ。大変だねぇ。でも、それ以上に楽しいからね。わたしにとっては、みんな孫みたいな存在なんだよ」
「そうですか…」
縁側の二人に、子猫や子犬が数匹擦り寄る。
皺だらけの手でゆっくりとその頭を撫で、朝陽は微笑んだ。
「この子達も、千鶴ちゃんが好きみたいだねぇ。
よかったら、たまにでいいから遊びにおいでよ」
「…そうですね。時間ができたら遊びに来ますよ」
「ああ、そうしておくれ。この子達もきっと喜ぶよ」
空は快晴、風は微風。
時間はのんびり過ぎそうだ。
朝陽の休日・縁側にて
- 134
:しらにゅい:2011/11/02(水) 15:13:33
- 汰狩省吾が窓から飛び出して数分後のことであった。
「何してんの?」
「あ・・・!」
「…?」
野次馬の人だかりが出来ているその中から凪達の元へと現れたのは、一人の女子生徒だった。
女子にしては比較的長身、ストレートの黒の長髪。外見の個性も多いいかせのごれ高校ならば普通に値する姿であったが、
唯一特徴的だったのは、氷のように冷たいその双眸と両手に巻かれた白い包帯であった。
彼女の姿を見るなり、いじめっ子である女子の一人が声を上げた。
「サヤカ!」
「…サヤカ?」
サヤカ、と呼ばれた女子生徒は駆け寄ってくる友人に対し、心配するような素振りも見せず、
むしろ見下すような視線を遣った。友人はすっかり萎縮し、助けを求めるように彼女に訴えた。
「聞いてよサヤカ!あいつ、ハリマに加担して…!」
「私のいないとこで何やってんの?」
「へ…?」
女子生徒は一瞬唖然としたが、サヤカは構わず叱責した。
「関係ない奴にゴミふっかけて、火で燃やそうとするなんて殺人じゃない。」
「で、でも私たち、サヤカの為に…!」
「私の為?…ふざけんな。」
「ひっ」
サヤカが彼女を睨むと、周りにいた友人らも竦み上がった。
「私と違って、あんた達はただいじめるのを楽しみたいだけでしょ?
その為だけに私を理由に持ってこないでよ。…反吐が出る。」
「サ、サヤカぁ…」
涙目を浮かべる彼女達を他所に、サヤカは座り込んでいる冬也に視線を向けると、
しゃがんで、彼の頭や肩に付いている屑や埃を払った。
戸惑う冬也に対し、彼女は声をかけたのであった。
- 135
:しらにゅい:2011/11/02(水) 15:14:23
「大丈夫?」
「え?あ、はい…」
「連れが、悪いことしたわね。…ごめん、手ぇ使えないから自力で立って。」
「?」
冬也がその言葉に首を傾げていると、凪はサヤカの腕を掴み無理矢理立たせるや否や、
威嚇するかのように彼女を睨みつけた。
「おい、今更善人気取りか?」
「………誰?あんた。」
「そいつの姉みたいなもんだ。」
「へぇー、あっそ。それで?」
「それで、って…!」
「ブロント。」
慇懃無礼な態度を取るサヤカに対し、ブロントが声を張り上げたが凪がそれを制する。
彼は「…Sorry…」と呟き、一歩後ろへと下がった。
「お前だろ、一年生のいじめの主犯は。」
「………」
サヤカは表情を変えず、小首を傾げ、「そうだけど?」と答えた。
その態度に冬也が腹を立てないわけがなかった。
「謝れよ、ハリマさんに!!彼女がどれほど傷付いたか分かってるのか!?」
「…謝る?何で?必要あんの?」
「自分が悪いことをしてるっていう自覚が、ないのか。」
「あるけど。」
「は?」
凪は予想外の返答に唖然とした。それはつまり、彼女は悪いという意識を持っていても尚、
イジメを行っているのだと言うのだ。ならば何故止めようとしない?
その疑問は冬也もブロントも同様であった。
「でも、今回のことはこいつらがやったことで、うちは一切関係無い。
あいつみたいに、他の奴等がやったことに対して心痛める余裕なんてないし…
説教したいならこいつらにどうぞ。それで満足するなら。」
「サ、サヤカ!」
「…じゃ。」
サヤカはそのまま立ち去ろうとしたが、ふと、足を止めて凪達の方を振り向いた。
「…あんたらさぁ、『力』があるからってよってたかってこいつら脅したわけ?
サイテー。」
「なっ!」
そう言って、今度こそ彼女は立ち去っていったのであった。
一瞥もされなかった彼女の取り巻き達は逃げるようにしてサヤカの後を追い、
後に残されたのは凪、冬也、ブロントの三名だった。
「・・・どうやら、あちら側にも譲れない何かがあるみたいですね。」
「許せないことには変わりないけどな。」
凪が腕を組んで溜め息をつく。
しかし冬也が一人、晴れない表情のままでいたのであった。
「冬也?」
「・・・」
主犯現る?
(その手に巻かれた白い布が意味することは?)
- 136
:しらにゅい:2011/11/02(水) 15:24:09
- >>134-135 お借りしたのは凪、冬也、ブロント・ビショップ((六x・)さん)、
名前のみ汰狩省吾(サイコロさん)でした!
こちらからは張間みく、サヤカです。
サヤカに関してはその他キャラ扱いですのでこちら側に詳細載せさせて頂きます。
サヤカ
いかせのごれ高校1-1の女子生徒。張間みくとは元々友人関係にあったが、
とある事件を機に交流が途絶える。元々ピアニストを志していたが、
両手に大怪我を負ってしまったらしい。
時系列的には「氷騎士の守るもの」→【汰狩省吾と臆病。】直後の凪さんサイドの
お話になります。
張間サイドではお二方ありがとうございました!啓介くんらしい見解、
そしてタガリ先輩らしいアドバイスだなぁと思いながら読ませて頂きました。
二人の先輩のアドバイスによって、これから張間が少しでも変わっていけるように
動かしていきますので、もう少しお付き合い願いますw
大黒屋さんのカイム先生もゴクオーくんも、鶯色さんのアズマ先生も
もうしばらくお付き合いしてくださいな!
複数サイドって意外に疲れますね!←
- 137
:十字メシア:2011/11/02(水) 15:55:09
- 乱入させちゃいました。
しらにゅいさんから「張間みく」、サイコロさんから「汰狩省吾」、スゴロクさんから「蒼崎 啓介」をお借りしました。
みく、省吾、啓介の三人が会話していた頃、公園の入り口の影で偶然にもそれを聞いて唖然としていた少女がいた。
モエギである。
(張間…お前も…)
「一度死んだ」と聞いた瞬間、モエギは開いた口が中々塞がらなかった。
まさかクラスメイトも自分と同じ能力を持っていたとは、微塵にも思わなかったからだ。
(張間…)
とにかく気弱で、悪いことしてないのにすぐ謝る。
でもそのぶん優しくて、我慢強い。
それを知っていたから、自分はみくを助けていた。
そして知っていたからこそ、自分が余計にちっぽけに思えてきた。
(あたいは悪夢に目覚めた途端、いつも通り学校に通って、いつも通り振る舞うのが怖くなって…自分がやっている事が正しいのか分からなくなって、だから学校をやめた)
「でも」とモエギは思う。
(張間は違う。あいつは悪夢に目覚めても学校に通い続けた、自分らしく振る舞った。どんな事をされても我慢し続けた。それにひきかえあたいは…)
「…おい」
「!」
「どうした? 蒼崎」
「…入り口の影に人がいる」
「何?」
「出てこい」」
(…しょうがねえか)
おとなしく姿を現すモエギ。
すると啓介は少し驚いた様な表情を浮かばせた。
「お前は…」
「チカちゃん!」
声を上げるみく。
モエギはばつの悪そうな顔をした。
「知り合いか?」
「元クラスメイト…です」
「元?」
「…中退したんだよ。1ヶ月前に」
みくの代わりに省吾の疑問に答えるモエギ。
「それで? お前もあいつらの仲間なのか?」
「あいつら? ふざけんな、あんな連中と一緒にすんじゃねーよ。あたいは張間のダチだ」
啖呵を切るようにモエギは返した。
「それより張間、お前…能力者って…」
「…本当だよ」
「……そうか」
「ご、ごめんなさい…」
「なーんで謝んだよ」
「あ、えと、ごめんなさ―――」
と、みくの言葉を遮る様に、モエギの手がみくの頭に乗せられた。
「だーかーら。お前はなんも悪くねーんだから、謝る必要ないんだよ。分かったか?」
「でも…」
「お前の事はあたいもよく知ってる。あたいだけじゃない、冬也も緑音もユウトも優池も、みーんな知ってる」
「チカちゃん…」
俯くみく。
モエギはそのみくの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ほら泣くな。お前は一人じゃないんだから、全部一人で抱え込むなよ」
「あ、ありがとう…チカちゃん…」
そこでモエギの目に力が入った。
「…張間」
「何?」
「お前さっき、『一度死んだ』つったよな?」
「う…うん」
「…実は、あたいもなんだ」
「え?」
刹那。
モエギに変化が起こった。
萌葱色の髪がまるで剣の様な鋭さを帯び―――否。
剣そのものと化したのだ。
みくと省吾はその光景に、そして次の言葉に驚愕する。
「あたいも、『死んだ』。そして生き返った…この力を身に付けてな」
- 138
:十字メシア:2011/11/02(水) 15:55:57
- 髪の剣を動かして見せるモエギ。
二人は唖然としていたが、啓介は至って冷静だった。
モエギはそれを見て言う。
「ま、蒼崎はアレだから知ってるけど」
「そうなのか?」
「まあ…な」
やや言葉を濁す啓介。
「チカちゃん…」
「…あたい、知っての通り正義感が強いからさ、つい困ってる奴や辛い思いしてる奴ほっとけねーんだよ」
「うん、知ってる…いつも助けてくれたよね」
「…そんで、いつも通り虐められてる奴助けて…そしたらその日の放課後…殺された」
「え…」
「…まさか、虐めをやってた奴か?」
省吾が言った。
「そうだ。『ヒーロー気取りウザい』とか『偽善者は死ね』とか、明らかに逆恨みの言葉を口走って、鋏で髪ごとあたいを斬ったり刺したりしてな」
「それで髪が剣みたいに…」
「ああ。…っと、そいつが虐めてた奴ってのは、張間じゃないからな。気にするなよ」
「う、うん…」
剣になっていた髪が急にはらりと揺れる。
元の普通の髪に戻ったのだ。
「だけどそれで、自分がやってきた事が正しかったのか分からなくなって…自分に自信が持てなくなって、学校やめたんだ…それからずっと、人を助ける事に迷ってて…」
「そうだったんだ…」
「…でも、やっぱり間違ってた」
モエギの目に強い光が宿る。
「そんな奴らなんか関係ない。助けた奴にとって不幸じゃなきゃ、あたいがやった事は正義に代わり無いんだ。それに、学校をやめた時点でそいつらを見捨てた事になった」
「チカちゃん…」
「今更行動しても、報いになるか分かんねえし、なるとも思わない。でもそいつらを二度と見捨てたくない―――その中にいるお前も。だから」
「また、助けてやるよ。張間」
萌葱色の剣士の決意
(その言葉に泣く臆病の頭を)
(剣士は優しく撫でる)
(優しく 優しく撫でた)
- 139
:スゴロク:2011/11/02(水) 19:53:48
- ちょっと動かして見ます。
モエギを交えた4人でしばらく話した後、啓介はふと思い立って省吾を振り向いた。
「汰狩先輩」
「ん?」
「いや、ちょっと思ったんですが」
啓介が考えていたのは、みくがいじめを受ける原因。アナボリズムが原因のようだが、果たしてそれだけか?
いや、それが原因なのは間違いないだろう。だが、それに伴う噂が原因となれば、その噂のもとがある。
「火のない所に煙は立たず」。そう、
「張間は能力を制御できず、人を傷つけ、それがために『触ると怪我をする』と噂が立った。それが原因でしたよね」
「ああ、そう言ったな」
「……本当にそれだけでしょうか? いじめにしろ何にしろ、最初にやりだした奴はいるはずです、絶対」
「まあ……そうだよな」
続けてモエギに視線を投げ、
「お前も聞いておけ。重要なことだ」
「ああ、そうするよ」
改めて、話を続ける。
「俺達が知る限り、張間をいじめていた連中はその噂に乗っかっていた。……汰狩先輩がシメた奴らがそうでしたよね?」
「シメたって……そこまではしてねぇよ。脅しかけただけだ」
「ですか? とにかくそいつらはそうです、と。けど、よく考えてみてください」
「制御できない張間の能力。髪を針とする力。それによって、実際に怪我をした、被害を受けた者が絶対にいるはずです。しかも噂からして、校内に」
「なるほど……」
「そいつが全ての元凶……ってことはないですかね?」
省吾もその考えには賛成だった。なるほど、始めた者に乗っかっていじめがエスカレートした、というわけか。
だが、
「……問題は」
「そいつを叩いて万事解決、とはいかねえことだな」
モエギに言いたい事を先取りされて若干落ち込む省吾だったが、彼女はそんなことを気にしない。
「そうだ。そういうことならば、そいつにも『理由』がある」
「やって来たことが許されるわけではない……だが、その理由を解決しない限り、事態は好転しない」
永遠に好転しない事もありますがね、と心の中で省吾に補足する啓介。事実、自分の周りではそういうケースが多かった。
(だからと言って、それを受け入れるわけではないがな)
そんなことを思う端で、啓介はもう一つ考えていたことがあった。
それは、真衣を探している中の、たった一日の出来事。今とは明らかに違う、現実。
学校が崩壊した。電車の様な、虫のような機械(以前の事件で出て来た「ダルセノン」とかいう兵器らしい)と戦う同級生。特殊能力を使う者たち。
全く説明のつかない、おかしな一日だった。その日の午後にコロネとハヤトに出会い、喫茶店で昼を過ごした。
だが、翌日目覚めると全てが戻っていた。学校は健在だったし、戦いの痕もなかった。
(あれは一体何だったんだ……?)
アースセイバーに入ってから、シノや獏也、ゲンブやアキヒロに色々と尋ねたり、自分でも調べて見たりしたが、類似の現象はみつからなかった。結局、あの一日の正体は謎のままだ。
(何だ……あれは一体何だったんだ?)
「あの……先輩?」
みくに呼びかけられ、啓介はようやく現実に戻ってきた。
「あ、ああ、すまない……何だ?」
「い、いえ、何だか上の空だったので……」
「ああ……少し考え事をしていた」
曖昧に返しつつ、話は続く。
(今考えるべきはそこじゃあない……目の前の、この問題だ)
見つからない道筋
(原因は何か)
(どうするべきか)
(未だ何も、見つからない)
しらにゅいさんより「張間 みく」サイコロさんより「汰狩 省吾」十字メシアさんより「モエギ」名前のみ「シノ」ネモさんより名前のみ「七篠 獏也」akiyakanさんより名前のみ「コロネ」鶯色さんより名前のみ「ハヤト」本家様より名前のみ「アキヒロ」をお借りしました。後半部分は「蒼崎 啓介の能力」のことです。展開と時間軸を盛大に勘違いしていたものですから……。
- 140
:えて子:2011/11/02(水) 20:45:02
- 流れをぶった切るような形で申し訳ない。
「堕落した怪盗の娘」の後のような感じです。
名前も出ていませんが、大黒屋さんより「エス・ユー・エヌ(日出 太陽)」さんをお借りしました。
「…参ったな。どうしたらいいだろ」
放課後、図書室で一人佑は首を傾げて悩んでいた。
内容は、先日自分が引き受けた頼みのこと。
(…引き受けたはいいんだけど…何て聞けばいいんだろう?)
まさか「怪盗の娘探しているんですが知りませんか」などと聞くわけにもいかず、いきなりの壁に頭を抱える。
少し安請け合いしすぎたかな、とこぼした。
「…悩んでいても仕方ないや。とりあえず仕事しないと」
小さくため息をつくと、山積みにされた本を見てから立ち上がる。
今日は返却された本が多い。今は図書室に人もあまりいないし、今のうちに早くやってしまおう。
そう考え、本を抱えられるだけ抱えて本棚へ向かった。
「………」
黙々と本を棚に戻していく間も、時折手を止めては誰に聞くか、どうやって聞くかを考えた。
その合間にふと思い出すのは、まだ自分が小さかった時のこと。
(小さい頃は、なかなか家にいてくれない二人に駄々こねて、よく困らせてたっけ…)
―お父さん、お母さん。
―寂しいよ。いかないで。一人にしないで。
―ねえ、どこに行くの?どのぐらいいるの?いつ帰ってくるの?
―私、いい子にするから。早く帰ってきてよ。早く会いたいよ。
―ねえ、お父さん、お母さん…
―― ヒ ト リ ボ ッ チ ハ イ ヤ ダ ヨ ――
「…………」
彼の子供がどんな子で、どのような生活をしているか、佑には分からない。
親がいないことを、親を知らないことをどう思っているのかも分からない。
ただ、もしも自分と同じ思いをしているなら。もしも寂しいと思っているのなら。
少しでも早く、会わせてあげたいと。そう思っただけだった。
「………」
そっと、自分の手を見る。人より少し小さな手。
自分は非力で、微々たることしかできない。それは事実で自覚はある。
だからこそ、非力な自分に腹が立つ。
私にもっと力があれば。彼を助けられるぐらいの力があればよかったのに。
そう思わずにはいられない。
「…私にも、もっと力があればよかったのにな…」
どうにもならないことを呟いて、ぎゅっと拳を握る。
少しの間立ち尽くすと、やがて顔を上げ、図書整理の続きを始める。
その表情に、もう迷いはなかった。
自分にないもの、自分にあるもの
(無いものねだりはここまで)
(私は自分にできることをやる、それでいい)
(――それ以上は望まない)
- 141
:十字メシア:2011/11/03(木) 22:25:15
- 「千年王国の夜明け」の後です。
akiyakanさんから「ジングウ」「サヨリ」「レリック」(名前のみ)、スゴロクさんから「クロウ」、あそもりさんから「ゼア」をお借りしました。
「あれ」「二人共お揃いで」「どしたの?」
掃除用具を手にクロウとゼアの元に近寄るモブ子。
二人の表情はどこか不機嫌だった。
「鈴子か…」
「クロウ君にゼア君」「何やら不機嫌」「みたいだけど」「ジングウ君と」「喧嘩したの?」
「…そのジングウのせいだ」
首を傾げるモブ子。
「あいつの研究チーム…『千年王国(ミレニアム)』が再結成された。しかも総帥の命令の下…!」
「……」「ホウオウ様が?」「…何か考えでも」「あるんだろうけど」「理解出来ないよ」
「それはこっちのセリフですよ」
苛立ち気に言うゼア。
「いくらあの方の意向とは言え…何故あの男の研究チームの再結成など!」
「全く…総帥は一体何を―――」
そこでクロウはハッとした。
ほぼ同時にゼアも気付く。
モブ子があの、『気味の悪いぐらいにニコニコした』笑顔を浮かべていた事に。
「まーホウオウ様は」「利用とか」「そういうつもりで」「許可」「したんだろうけどー」
「あいつ」「マジ死ねばいいのに(笑)」
「……ジングウが強者に見えるのか」
「あはっ☆」「これは」「比喩なんだけど」「すげえムカつく」「強者の血からは」「腐った気持ち悪い匂いが」「するんだよねー(笑)」
「…そうか」
「そもそも」「あいつが」「弱者とか」「ありえねーだろ(笑)」「いやマジで☆(笑)」
けたけたと笑うモブ子。
これが『破綻最弱者』の姿である。
「だからさ」「あいつ」「もう殺しても」「いーんじゃない?☆」
「それはやめておけ」
「えー」「あんな奴」「置いといたってさあ」「害虫にしか」「ならねーだろ(笑)」「つーかさ」「気に食わねえんだよ!」
モブ子が急に声音を荒げた。
それを聞いたゼアは小さく溜め息をついて言う。
「貴方の言い分は分かりますが、千年王国を再結成できたのは、ホウオウ様の許可があるからなのですよ?
それを無視してあの男を殺せば…どうなるか、貴方も分かる筈」
「……」「チッ」
明らかに怒った表情で舌打ちし、モブ子はそのまま掃除用具を持ってその場から去ろうとする。
「害虫は」「駆除しねーと」「いけねえのによー」「さっさと」「死に果てろよ」「クソ害虫が!」「マジウゼェし!!」「何様のつもりなんだよ!!!」「目玉引きずり出されて」「脳味噌損傷して」「心臓バラバラにぶちまけられて」「視界から消えろ!!」「害虫野郎!!!!」
怒号が終わったと同時に、モブ子の左拳が壁に叩き付けられ、派手な破壊音が響く。
そのせいで壁に大きくヒビが入り、粉砕しかけた。
「…貴方より過激ですね、クロウ」
「元からああいう奴だからな」
モブ子が殴った壁を一瞥するクロウ。
その後もモブ子が歩いて行った方から、破壊音が響いたのは言うまでもない。
- 142
:十字メシア:2011/11/03(木) 22:31:34
- 「ジングウ様、怪我は無い?」
「ええ、包帯の下にある物以外は」
「良かった」
とある研究室。
ウスワイアから戻って来たジングウとマキナ、サヨリとレリックがいた。
「レリックちゃんの成長も、順調みたい」
「そのようですね。まさかあの火波 スザクを追い詰めるとは…」
と、ジングウは積み木で遊ぶレリックを見やる。
「それにしてもこの婚約首輪! 中々の性能だね!」
「…狂戦士の首輪だと、何度言えば分かるんですか…まあ私が製造した物ですし」
「やっぱりジングウ様は天才だ! 何故あいつらに負けたのか分からないよ!!」
「…確かに負けたのは予想外でした。しかし―――」
ニヤリ、と不敵に笑うジングウ。
「今回のゲームでは、絶対に負けませんよ」
「ボクも、アナタ以外に殺されないからね!」
「…相変わらず愛に溺れてますねえ。そんなに私を愛してるのですか?」
「うん! なら今すぐ殺してみる?」
「…いえ、今はまだ貴方の力が必要なので」
「ふーん…じゃあ、殺したくなったら言ってね! 刺殺も絞殺も格殺も銃殺も撲殺も毒殺も飢殺も斬殺も圧殺もなーんでも! ボクは受け入れるから!」
「…分かりました」
呆れた様に言うジングウ。
とそこへ。
「本当にその首輪、ちゃんと効いてるのかしら? ジングウ主任」
一斉に声の方へ視線を向ける4人。
そこにいたのは、ピンクのワンレングスとセピア色の細い目をし、黒のチュニックワンピースの上に白衣を着た女性。
腰にはホウオウグループのエンブレムを型どったバックルがついた、白いベルトが巻かれていた。
「おや、”クルデーレ”副主任ではありませんか」
微笑する女性―――クルデーレ。
「狂気を抑えるどころか、増長させてる様に見えるわ。不良品じゃないの?」
「いえ、マキナさんはこれが『普通』なんですよ。それに能力さえ制御出来れば、いつもみたいに暴走する事はありません」
「…そう、ならいいわ」
「ところで何か御用で?」
「『あの子達』の成果、どうだったかしら?」
「ああ、『魔物』ですか。とても助かりましたよ。しかし物体に取り憑くとは…」
「それが一番の特徴であり、長所なのよ」
誇らしげにクルデーレが言う。
「因みに人間や動物にも取り憑けるわ」
「ほう。洗脳ですか」
「そうね。本当にいい子なのよ…人間と違って。特に貴方みたいな人とは」
刹那。
- 143
:十字メシア:2011/11/03(木) 22:32:17
- ヒュンッ
「……」
「……」
クルデーレは顔のすぐ隣にある物体を見る。
マキナが大きな憤怒と僅かな狂気を秘めた表情で、クルデーレの頭にすぐ当たるようにハンマーを握りしめていた。
「…ジングウ様をそんな風に貶すな、雌豚が」
「あら…堪に障ったかしら?」
「副主任になったからって、ジングウ様を悪いように言って良い訳がないよ」
「貴方こそチームの一員になったからって、いい気にならないで欲しいわね。いつもジングウに相手されない癖に」
するとその言葉が引き金になったのか、マキナの髪と目に、亡き兄カルラの色が宿り始めた。
と。
「やめなさい、マキナさん」
「ジングウ様。でも…」
「クルデーレさんにはまだいてもらわなくてはなりません。それにこの非情人に何言っても無駄ですよ」
「…そうだね」
ハンマーを降ろすマキナ。
「あら、分かってるじゃない」
「その名は只のお飾りでは無いのでしょう?」
それを聞くと、クルデーレの笑みが微笑から歪んだそれへと変貌する。
「ふふっ、流石ね」
「貴方が自身の目的の為に、副主任として私に協力している事は薄々分かっておりますよ?」
「そこまで感付いているとは。伊達にあの戦いで生き残れた訳では無いという事か……」
「そういう事です。貴方が何をしようが自由ですが、私の邪魔をするならすぐに消えてもらいますからね。クルデーレ副主任」
「その台詞、そのままそっくりお返しするわ。私の目的の障害になる意思を見せたら、直ちにこの子達の糧(エサ)になってもらうわ。ジングウ主任」
クルデーレの体から数匹の黒い影の様な生き物―――魔物が現れ、ジングウに威嚇する。
だがジングウはそれを気に留めず、話を続けた。
「…まあ余談はさておき。次もまた魔物を戦力に加えさせてもらいますが、構いませんね?」
「ええ、いいわよ。それがあの子達の力となるのなら」
「ありがとうございます」
「さ、貴方達。戻りなさい」
魔物達は素直に徐々にクルデーレの体内に消えていく。
「では私はそろそろ自室に戻るわね。ご機嫌よう」
最後にいつもの微笑を浮かべ、クルデーレは白衣をはためかせて去っていった。
そこでサヨリがジングウに声をかける。
「…ジングウさん」
「何ですか?」
「あのクルデーレさんという人は、一体どんな人物なんですか?
アーカイヴにある情報では、1998年から1999年の間にグループに加入、生物兵器製造及び研究担当としか無いので…」
「まあ、彼女もそれほど人と関わってませんからねえ」
「ただ」と、ジングウは続ける。
「その複雑で狡猾な頭脳と研究者にそぐわない戦闘能力を持ち、研究の為なら己の体でさえ実験材料と見なす…正に”冷血”と呼ばれるに相応しい逸材ですよ。特に彼女は今の様な、新種とも言える生物兵器の製造が得意でしてね」
「魔物…でしたっけ。一体何なんですかあれは」
「何でも『闇』を凝縮して造っているとか」
「闇…を」
「因みに彼女は私と違って、ホウオウグループの思想に賛同、忠誠を誓っています。それには周りも信頼しています…しかし私が言える事ではありませんが」
「彼女はその名の通り、人間嫌いの冷血なので、どうも信用できませんね」
千年王国に潜む冷血
同時刻、ウスワイアのとある部屋。
「僕は何の為に生まれたんだろ……『あの人』に捨てられたのに……何で?」
- 144
:akiyakan:2011/11/03(木) 22:33:52
- >>141
流石、強者を許さぬモブ子! ジングウ、方々から嫌われてんなー……いいぞ、もっと嫌われろ! それでこその悪だ!
- 145
:akiyakan:2011/11/03(木) 22:41:22
- >>143
そして、副主任に美人さんが就任!(冷血だけど) ジングウよ、お前の周囲の女子はそんなんばっかだな!
- 146
:十字メシア:2011/11/03(木) 22:42:47
- >akiyakanさん
まさかの生みの親様がww
ありがとうございます、また罵倒させます!(ぇ
- 147
:スゴロク:2011/11/03(木) 23:10:23
- 十字メシアさんに続きます。
「最弱破綻者」が去って行ったあと、苦々しくため息をついてゼアが言う。
「内にも外にも……問題が多いですね」
「ある種仕方がないな。俺達は元々そういう集まりだ。『ホウオウ』という一人の男に賛同して集まった連中の集まりなわけだが……」
そう、とゼアが応じる。
「裏を返せば一致しているのはそこだけ。あの弱者やチネンのように、明らかに行動律が違う者や……ええと、何と言いましたかね? あの連絡員……まあいいでしょう、その者のように、なし崩しに属している者」
「俺のように仕事としている者、ジングウのような叛意が明らかな者、あるいはスパイとして送り込まれた者」
「……待って下さい。そんな者がいるのですか?」
ゼアが不審な目を向けて来たが、クロウは動じない。確証があるわけではないのだ。
「いても不思議はない、というだけの話だ。まあ他にも、トキコのようなグループが居場所というもの、リオトのように個人的目的が先行している者、色々いる。一枚岩では、決してない」
「それがために、あの救世主気取りに幾度も幾度もしてやられているわけですがねぇ……」
ゼアが頭を抱えるが、こればかりはどうしようもない。ホウオウグループ自体がそういう側面を持っている以上、この弱点は避けて通れない。
「ホウオウ様さえご無事ならば、幾度でも立て直しは効きますが……」
「お前やバツなどと違い、現状のメンバーの大半は『姿を成す』ことが出来ん。死ねばそこで終わりだ」
問題が多いのはアースセイバーも同じだろうが、向こうはこちらに比べて規律がしっかりしているため、自壊の危機はこちらより大きい。まあ、さておき。
「それよりも、ジングウがこの先、大っぴらに動きだすのは間違いないだろうな」
「ホウオウ様は利用できるところまで利用されるつもりのようですが……彼女を放っておいてはその内殺されますよ、ジングウは。抑えが効きそうなタイプには見えませんし」
「そうなったら、そうなっただ」
「俺達は組織の一部だ。ただ、上の命令を忠実にまっとうするのみ」
「……まあ、それもそうですが」
斯く言うクロウは現在いかせのごれ高校に非常勤の教師として潜入しているのだが、その仕事の機会が少ないため、結局状況があまり変わっていない。
「何かあれば総帥が動くはずだ。獅子身中の虫をあえて抱え込んだということは、何かしらの狙いがあるとみていいだろう」
「……大丈夫でしょうかね」
「考えなしに動く程愚かな人でないのは、お前も知っているはずだ。でなければただのバカだ」
「……酷い言い様ですね。まあ、言い得て妙ですが……」
- 148
:スゴロク:2011/11/03(木) 23:11:32
- 同刻、ロゼのバー。いつもの如く休息に来ていたホウオウに、ロゼが尋ねる。
「……ホウオウ様」
「なんだ」
「ジングウの研究チームに、再結成の許可を出したとのことですが」
「そうだ。それがどうかしたのか」
淡々とした物言いに、ロゼは思わず噛みついていた。
「あの男がかつて何をしたのか、あなたもご存じのはずです!! グループに戻すだけでも危険だと言うのに、さらなる力を与えるなど……一体何を」
言っている途中で自分の行動に気が付き、慌てて調子を戻す。
「も、申し訳ありません」
「……そうだな」
だが、ホウオウは全く意に介さず、ただ言う。
「……?」
「奴を利用するため、というのも確かにある。その力が有用だという理由でもある。だが、理由はもう一つある」
「結局の所、奴は私の目的に手出しは出来ん。そのようになっている」
ホウオウの言う意味がわからず、ロゼは怪訝な表情をする。
「それは……」
「いや、奴だけではない。クロウ、ゼア、チネン、ファスネイ、ウツロ、そしてお前。私に力を貸すことはあっても、私の目的の進行には、大局的な影響を齎さない」
それは「役に立たない」と言われているのか?
「だが、お前達が私の下にいることには、意味がある。……ジングウの話だったな」
「!」
「奴は先日、独断でウスワイヤに仕掛けたらしいな。だが、この先奴がウスワイヤを倒しても、ウスワイヤが奴を倒しても、結果は変わらない」
「この世界は、我々の手によって合理化されるのだ。その時、我々は真の意味で……」
言いかけたホウオウだが、そこで不意に口をつぐんだ。
「? ホウオウ様……?」
「……この話は忘れろ。どの道、最終的にお前達には関係がなくなる」
それだけ言うと、絶対者を名乗る男は席を立ち、店を出て行ってしまった。
鴉と鳳凰、それぞれの見るもの
(その意味は……)
あそもりさんより「ゼア」びすたさんより「ロゼ」本家様より「ホウオウ」名前のみヘルシンキさんより「チネン」akiyakanさんより「ジングウ」しらにゅいさんより「トキコ」紅麗さんより「高嶺 利央兎」樹アキさんより「ウツロ」をお借りしました。
後半の会話については、「企画小説は本編に影響しない」ということをホウオウ的に言い変えただけです。
- 149
:akiyakan:2011/11/04(金) 11:45:54
- >>147
やっぱり、クロウやロゼなんかは大問題にしてますねー。出戻りに何優遇してやがる、と。しかし組織の危機と周囲が感じている一方、ホウオウが全くそれを意に介していないのは、「ジングウが怖いか否か」の違いですね。ホウオウから見れば、ジングウは恐れるほどの存在じゃない、と言う訳で。
- 150
:スゴロク:2011/11/04(金) 14:11:25
- >>147
サトさんより名前のみ「スイネ」をお借りしてました。書き忘れ……。
最終更新:2012年08月26日 09:40