アットウィキロゴ

情報屋、戦力外兵器と相対す

『ハヅルー。もう買い物はいいのかい?』
「……ああ。買うべきものは、全て買った…」

買い物メモを見ながら、ハヅルとアーサーは商店街を歩いていた。
食材や日用品の買出しが目的だ。

『ハヅル、そんなに持って重くないかい?僕ら、まだ持てるよ?』
「む………問題ない」

アーサーがそう言うのも無理はなく、ハヅルは洗剤や米、野菜などを詰め込んだ買い物袋をいくつも両腕に提げている。
それに対しアーサーは、文房具や小麦粉など、比較的軽いものばかりだった。(アーサーが子供であるのも理由かもしれないが)

『それにしても今日はたくさん買ったねー』
「…一週間分の食材、だからな…。それに、足りなくなった日用品も…」
『それだけじゃないでしょ?』
「……」
『お菓子の材料もたくさん買ってたもんねー』

アーサーの表情は変わらないが、右手の愛用のパペットがハヅルを覗き込むように見上げる。

『ハヅルのお菓子、美味しいもんね!また何か作ってよ!』
「……ああ。今度は、アーサーの好きなものを作ろうか…」
『本当!?やったぁー!!じゃあね、じゃあね、ガトーショコラ食べたい!!』
「…分かった…。…しかし、今日買ったものだけでは、材料が足りない…」
『えー!?そんなぁー…』
「………そう、拗ねるな。時間があるときに、買い足して……、……………」
『?ハヅルー?』

急にある一点を見つめて立ち止まったハヅルを、不審に思ったアーサーがパペットと共に首を傾げる。

『ハヅル、どうしたんだい?何か気になるものでも見つけたのかい?』
「………………………ああ………」
『?』
「……アーサー」
『ん?どうしたんだい?』
「………悪いが…少し用ができた……すぐ戻るから、待っていてくれ……」
『え?あ、ちょっとハヅルー!!待ってよ、どこ行くんだよー!!!』

アーサーの制止も聞こえているのかいないのか、ハヅルは買い物袋を置くと、何処かへ行ってしまった。

『……何だよもう。変なハヅル』




ハヅルはというと、脇目も振らず走っていた。
一瞬だけだが視界に映った人影が、以前紅が見せてくれた写真の人物の面影を持っている気がしたのだ。
その真偽を確かめるために追いかけたのだが、見かけによらず相手はかなり素早く、体格差もあるはずなのに見失わないようにするので精一杯だった。

狭い路地や人通りのない道を潜り抜け、ようやっと声が届く距離まで追いついたときには、郊外の森の中まで入ってしまっていた。

「………待ってくれ」
「………………」

声をかけると、相手は立ち止まって振り向く。
見開かれた目も、襤褸切れのような服も、手に持たれた鉈も、普通とは言い難い。

だが、ハヅルはその顔に面影を見出した。

「………お前、名は何だ…?」
「…カチナ、は、カチ、ナ。カ、チナシの、カチナ」
「……何をしに行く?」
「…カチナの、めいれい。かん、けいしゃ、ころす」

そう言って踏み出すその進路に、ハヅルはゆっくりと立ちふさがった。

「………ど、け」
「…そうはいかない。人を殺す、と聞いて…むざむざと行かせるわけにはいかない…」
「……じゃま、を、するな」
「……できない、相談だ……。俺は…お前に、用が……」

ある、と言いかけた言葉は、突如振り下ろされた鉈によって遮られた。
咄嗟に身を引いて避けたが、避けきれなかった腕に赤い線が滲む。

「………一緒に来ては、くれないか」
「じゃま、は、しょうが、い。しょう、がいは、てき。てき、は、はいじょ…」
「…話し合い…は、無理のようだな…」

だがしかし、このまま見逃すわけにもいかない。
最近耳にする連続殺人。おそらく目の前の少年が何かしら関係しているのだろう。
物騒な単語を耳にしてハイそうですかと放っておくほど、ハヅルは物事に無関心なわけではない。
止める事ができるなら、それに越したことはない。

それに……彼は、紅の探し人に何らかの繋がりがあるかもしれない。
是が非でも彼を紅に見てもらわなければ。

何とか捕らえて、連れていくことはできまいかと、ハヅルは考えていた。

「…なるべく怪我をさせず、怪我を負わず……か。…力を使わぬという制約では、なかなか骨が折れそうだ…」

ハヅルは少年期のいざこざの際に悪夢を発症しており、自分の体温を金属を溶かせる温度まで急上昇させることができる。
それで相手の鉈を溶かしてしまえば攻撃手段を封じる、楽に捕らえることができそうだが、いかんせんここは森の中。
下手に能力を使っては、高温発火を引き起こし大惨事になりかねない。

しかし、それでも体格差はある。
時間をかければ、捕らえることは可能だろう。

ハヅルは、己を排除対象として定めたらしい少年を、じっと見つめた。


「……カチナ、といったか。すまないが……捕らえさせて、もらう」


情報屋、戦力外兵器と相対す


(その頃、買い物袋と共に置いてけぼりをくらったアーサーは)

『もーーーーーーっ!!ハヅルの馬鹿!!ばぁーーーーーーーーーか!!!!
「すぐ戻る」って言って全然戻ってこないじゃないかぁーーーーー!!!
こんな量の買い物、僕らだけじゃ持って帰れないよーーーーーーー!!!』

(…吼えていた)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年08月26日 19:39