夜のように真っ暗になった空。
その真下にあるそこは、いかせのごれ高校。
屋上に寝ころぶ彼は、嘗て「閻魔」と呼ばれた男。
普段はぼんやりと空を仰ぎ見る彼だが、その日は違った。
手に握られていたのは、数枚の紙。
彼は寝転がったままその紙を透かすように持ち上げ、眺めていた。
「…これも神の思し召し、かの。」
ふと、彼の口はそう動いた。
そして彼はゆっくりと体を起こすと、紙の一枚を抜き取り、引き裂いた。
小さくなった紙は風に巻き込まれて舞い上がる。
「誰がどこにおろうと、神には逆らえん。」
嘗て、神を見下したことさえある男は言う。
「たとえそれが、己の破滅でも。」
余韻を残したままあげられた右腕が、風に吹かれる。
「いつもならわしも関わろうとするじゃろう。」
ぽつり、と小さな音がした。
「じゃが、今回はわしは人間にかけてみることにしようか。」
黒いしみが、少しずつコンクリートに広がっていく。
「すべては神の、思し召すままに。」
彼方へと消えた紙は、どこかで雨に溶けだしたろう。
彼は滝のように打ちつける雨をも気にせずに、ただただ空ばかりを見上げていた。
どうしてこんなことになったんだ。
何で僕は動けなかったんだ。
今になってそんな言葉ばかりが自分の頭を駆け巡る。
灰色の建物が並ぶ跡地。
足元に散らばる幾本ものメス。
その上から、滝のような雨は容赦なく襲いかかる。
否、仮面の下の彼の頬を濡らすのは雨だけではなかった。
白銀の髪が輝きを失っても、彼はその場から動けなかった。
その眼は虚ろに、しかしはっきりと一点を見ていた。
その視線の先には。
一本の、錆びた裁縫鋏があった。
終末の序章
――今、僕の目の前で――
――キリ君が、死んだ――
最終更新:2012年10月09日 22:09