「ああもう…私のバカ!」
いかせのごれ中央。
賑やかな通りで、一際騒がしい声が連なっていた。
それは一人の少女を追いかける人だかりによるものだった。
そもそも事の発端は10分ぐらい前のこと――。
『カヨコさーん』
『あ、ハイ。何ですか?』
『今日はもう予定ありませんよね?』
『そうですね。あ、スイパラ通いですか?』
『えへへ…』
『別に構いませんよ。ただ…バレないように気を付けてくださいね』
『分かってまーす。じゃ!』
茶色い髪に水色の目、モテても何ら可笑しくない顔立ち、そして一般人にしては見慣れぬ服。
彼女――
雛鳥 うずらは所謂「アイドル」という人間だった。
まだデビューしてから日が浅いにも関わらず、ライブはいつも満員御礼なのは勿論、グラビア写真集を出版したり、
色んな雑誌からインタビューを申し込まれたりと、今いかせのごれで話題の少女なのだ。
容姿や人の良さも人気の秘訣だが、何よりもその「歌声」が魅力的だという。
そんな彼女の趣味は、休日や仕事終わりにスイパラへ通うことだった。
『今日は何食べようかな~…プチケーキ10個かな? それかモンブランとフルーツタルト…ううん、迷っちゃう!』
『ねえ…あの人…』
『まさか…』
『……?』
周りの人がうずらを見ては、ヒソヒソ何かを言っている。
うずらは何故なのか分からなかったが、ショーウィンドウに移っている自分を見た途端、その訳を理解した。
今の自分は普通の格好をしているが、それ以外は全く変わっていない。
つまり、それは。
『…あ』
――変装するの忘れてたぁぁああああああ!!!!!
そして今に至る。
普段ならファンの声に応える彼女だが、今は仕事終わりの時。
せめて休日やその時だけはゆっくりしてたいし、普通の女の子でいたい――それが彼女の本音。
走りまくるうずらだが、ファンの足音が止むことはない。
(どうしよ~!)
「はぁー食った食った!」
「やっぱ店長のとこの料理は美味いな」
「だな! 今度連れて行こうぜー」
「そうだな。まだ一度も行ったことない奴とかさ」
「おう! …っても、知り合いで結構行った事ある奴いるよな」
「あ、そういえば確かに…ん?」
「? どうしたシスイ」
「あれ…」
とシスイが指差した方向には、大勢の人に追われる少女が。
するとその少女を見たハヤトは――。
「えっ、ちょ、マジかよ! アレうずらちゃん!?」
「うずらちゃん?」
「シスイ知らねぇの!? 最近めっちゃ人気出てるアイドルなんだよ!!! うわ、まさかお目にかかれるとか…!」
すっかりミーハー状態のハヤト。
「…でも、何か困ってないか?」
「んー、そういや…」
「もしかしたら、ファンの人から逃げてるのかも」
「……よし、シスイ! うずらちゃんを助けに行くぞ!」
「え!?」
突然の言葉に驚くシスイ。
「だってうずらちゃん困ってんだろ? それに本人と話せるチャンスだし…!」
(結局それが目当てだろ!)
「ほら早く行くぞ!」
「あっ、ちょっと待てよ!!」
「はあ…はあ……」
未だファンを撒けずにいたうずら。
体力もあまり残っていない。
「もう最悪~…!」
万事休す、かと思ったその刹那。
「うずらちゃん!」
「ッ!?」
別の方から自分を呼ぶ声。
思わず身構えたが、追いかけてくるファンとはちょっと様子が違っている。
「こっち! ファンの人がまだ来ないうちに!」
「え…」
「早く!」
「うっ…うん!」
藁にもすがる思いで曲がり角に逃げ込むうずら。
そこにいたのは、黒髪の少年と頭にバンダナを巻いた少年の二人。
「あ、あの…」
「ついてきて!」
「え…あっはい!」
二人の少年に言われるがまま連れられるうずら。
すると次第にファンの足音が遠のいていくのが分かった。
最後に路地裏に逃げ込むと、完全にそれは無くなった。
「ふう…何とか撒けたな!」
「ああ」
「あ、の………あ、ありがとう――」
ございます、と言いかけた時。
「うっひゃあー!! ホントにホントにホントに本物だーーー!!!!」
「ふひゃっ!?」
「おいハヤト! 声が大きいって!」
「あ、わりぃ。つい興奮して…」
ハヤト、と呼ばれた少年が頭をかく。
そのやりとりを見て、うずらは思わず噴き出した。
「君、ハヤト君っていうんだね。そっちの子は?」
「ああ、シスイだよ。俺のダチ」
「へえ、友達なんだ。いいなあ…」
「?」
「周りに、同年代の子が中々いないから…ちょっと寂しくて」
「そっかぁ…」
「あ、でもアイドル活動は大好き! 特に歌!」
「ああそうそう! 俺うずらちゃんのCD持ってるぜ!!」
「え、ホント?」
「ホントホント! うずらちゃんの声大好きなんだよー!!」
「わあ…嬉しいな、ありがとう!」
ハヤトの言葉に思わず笑みが零れるうずら。
「そんなに良いのか?」
「あれ、シスイ君は聞いたことないのかな?」
「あっ、ご、ごめん。俺、ちょっとそういうの…あまり興味ないというか」
「ううん、いいよ。気にしないで」
「でもマジでうずらちゃんの声いいぜ! 今度CD貸すよ!」
「え、いや…」
「いいから聞いてみろって!」
「わ、分かったよ…あ、そうだ!」
シスイが突然声をあげた。
「折角だから、その子店長の店に連れてったら?」
「おっ、それいいな!」
「店長?」
「知り合いの人がレストランを経営してるんだ」
「料理すっげーうめぇぜ!!」
「へえ…実は私、スイパラ行くとこだったんだけど…今日はそこでスイーツ食べようかな!」
「よっしゃ! そうと決まれば行くぜー!!」
「ま、待てよハヤト! ファンに見つからないように…」
「う~ん…美味しい~!」
「だろー?」
無事店長のレストランに着いた三人。
うずらは注文したチョコレートパフェを幸せそうに頬張っていた。
「今日は最悪、と思ったけど…本当はラッキーな日だったのかも! ハヤト君、シスイ君。ありがとう!」
「いいっていいって! 俺はうずらちゃんに会えただけでもラッキーなのに、こうして話せるなんて…!」
「落ち着けってハヤト」
「まあ、あたしもラッキーといえばラッキーだよ。まさか、あの人気アイドルがうちの店に来るなんてね」
カウンターでそう言って、イタズラっぽく笑う亜音。
それにつられてうずらも笑う。
「あの、よろしければ今度ライブに来ませんか?」
「え、うずらちゃんの!?」
「うん。お礼として、特別に無料招待してあげる!」
「マジで!?」
「マジ! あ、店長さんもいかがですか? 店の人もご一緒に…」
「いや、あたしらはいいよ」
「え、いいんですか店長」
「うん、二人で楽しんできといで」
「いよっしゃあ!! 楽しみにしてるぜー!!!」
「ちょ、ハヤトはしゃぎすぎ…」
突飛に出会った、そんなハナシ
最終更新:2012年11月11日 19:39